第631話

モッフルさんを何とか説得して樹人達の行方を追います。なぜここに来たのが私とモッフルさんだけなのかですが、保護された精霊からの情報で樹人達に従っている樹精霊達は他者と他種族を見下す傾向にあると聞いたからです。


もし大勢の旅人が助けに来たと申し出ても、彼女達は答えてくれないでしょう。樹人達の言う事を信じ、こちらを攻撃してくる可能性まで在ります。


そこで部隊の中で最高戦力であるモッフルさんと、遠隔で罠を設置して相手の妨害が出来る私だけで来る事にしたのです。


まぁその作戦は失敗だったかなと今は思っています。まさか敵の隠している重要情報が得られる機会が在るとは思いませんでしたから。


「あんな所に入り口が・・・。」

「あの黒い水が湧き出る場所が入り口だったのですね。」


樹人達が精霊を連れて入って行ったのは、まるで重油の様な真っ黒い水が湧き出す地面に空いた穴の中でした。見つからない様に近づいてみると、黒い水は壁を伝って登って来ていてその横に下に降りる為の階段が在ります。まるで水というより意思を持ったスライムの様ですね。


「さぁ追い駆けましょう。モッフルさんは友魔を一度鈴に戻してください。あっ、ホーさんは出していても構いませんよ。」

「隠密を持っているからですね?」

「ええ、情報を得る為にも彼が居ると心強いですから。」


ホーさんとモッフルさんをお供に階段を下りて行きます。保護した精霊の情報が正しいなら、この下には奴等にとっての神が居る筈。当然見張りや門番が居ると考えていましたが、そのような存在は見当たりません。


「つまり誰かを常駐させると不都合が起こる場合が在るか、本当に精霊達を持て成す為の場所に行くかですね。」

「どうしたんですかタンケさん?」

「いえ。彼らの行先の事を考えていただけですよ。まぁ答えはこの先に在るのです。進みましょう。」


先を行く樹人と精霊達の姿は私の<射手の眼>にバッチリと映っています。しばらく後を付いて降りていましたが、彼等の行く先が下ではなく横に変わりました。


「どうやら最下層に到着したみたいですね。」

「少し薄暗いですね・・・・。。」

「私には十分見えていますがモッフルさんは大丈夫ですか?」

「大丈夫です。ホーさんが危ない所を教えてくれるので。」

「ホー。」


ホーさんはこの薄闇の中でもしっかりと見えている様ですね。ではモッフルさんの事は彼に任せて先に進みましょう。


精霊達を連れた樹人達は黒い水が流れる道を真っ直ぐ進んでいきます。進む先には薄っすらと青い光りが降り注ぐ場所が見えました。あれは日の光り・・・では在りませんね。何かが輝いている様な光です。


慎重に、見つからない様に先を行く樹人達の後を着けて行きます。そして彼らが入って行った部屋の入口迄来て中を確認した所で、私達は即座に撤退を決めました。


「捕獲用の檻を展開しろ<狩猟王>!!」


ガガガガギンッ!!


「「「「「キャーーーーーーッ!!」」」」


私が<狩猟王>スキルで作りだした檻に黒い樹の枝の様な物が降り注ぎます。その檻の中で、目の前の光景が信じられず固まっている精霊達が叫び声を上げました。


「モッフルさんこの鎖を!」

「ゴリさんお願い!」チリーンッ♪

「うっほ・・・。SAN値ピンチ!?」

「早く引っ張りなさい!すぐに!」

「うっほーーーっ!!」


精霊達を“保護”した檻の天辺からは鎖を伸ばしています。突然の事に樹人達が驚いている間にゴリさんにその鎖を引っ張って頂き、精霊達を私達の居る入り口迄連れて来る事が出来ました。


「モッフルさんモサちゃんを!」

「ゴリさんありがとう。来てモサちゃん!」チリーンッ♪

『どうした主?グッ!?何だあれは!?あんな物が存在していても良いのか!?』

「ゴリさん檻を担いで急いでモサさんの背中に!ホーさんはモサちゃんを先導して危険が在ったら知らせて下さい!モッフルさんも急いで背中に!」

「乗りました!タンケさんも早く乗って下さい!」

「残念ですが獲物を取られて相手が怒っています。誰かが足止めしないと行けません。外に出たら別動隊にも即時避難を呼びかけて下さい。余り、時間は稼げません!<狩猟王>!!」


ガヂンガヂンガヂンガヂン!


地面を這いながらこちらに向かって進んでいた“根”を虎ばさみで足止めします。こちらに来る根が少ない。これは完全に遊ばれていますね。


「モサさんモッフルさん達をお願いします。全速力でルドさん達の元へ!」

『心得た!』

「タンケさん!タンケさーーーーん!!」


モッフルさんがこちらに手を伸ばしていますが、その手は取れません。モサさんがホーさん先導の元、その長い身をくねらせて今しがた私達が居りて来た階段を急上昇していきます。


この空洞を流れている黒い水も恐らくあいつの一部でしょうから、妨害が在ると思って間違いないでしょう。このまま無事に逃げてくれれば良いのですが・・・・。


「き、貴様!いつの間にこの神域に入って来た!」

「絶対に生きては帰さんぞ!ここを知ったからにはなぁ!!」

「もとより生きて帰れるとは思っても居ませんよ!」


私達の襲撃から立ち直った樹人達がこちらに向かって叫びます。ですが私が警戒しているのはこの人達では在りません。その奥に居る存在です。


全身が黒く捻じれた樹の様な形をしていて、その枝の先には葉っぱの代わりに目玉が無数に生えています。


幹には人間の口の様な物が無数に開いていて、そこから絶えず黒い水を垂れ流しています。


根の様な鼻が伸び縮みを繰り返し、周囲に手の形の草を生やしています。


そして樹の中央から青く光る脳髄が聳え立っていました。


その姿はまさに異形。この世の物とは思えない、まるで出来損ないの絵画の様な存在が鎮座していました。


「貴様は我等の神の贄としてくれる!」

「さぁ神よ!あの物を喰らいたまえ!」

「「「「「「げげぎゃーーーっ!?」」」」」」

「頼みますよミラージュウェポン。<狩猟王><アルコル><アカボシ><ミボシ>!!」


影のライフルを生み出し、あの怪物に対して攻撃を繰り出します。<ミボシ>の効果で必ず攻撃が急所に当たり。<アカボシ>の効果で相手に猛毒を付与。<アルコル>で寿命分のダメージを与える事で引き起こされる即死の効果を狙いましたが・・・・。


「「「「「「うぼあぁぁ。」」」」」」」

「やはり効果は在りませんか。まぁそれ程簡単に倒せるとは思っていませんでしたが。」

「そんな攻撃は神には通用しない!」

「己の無力さを噛み締めながら死ぬが良い!」


ぐちゅり。


「っ!?」


いつの間にか伸びて来ていた枝。その幹の部分にある口に左足が食べられました。突然の事に対応出来ず、バランスを崩して転倒する私。その光景を見た怪物は、枝の先にある目を愉快そうに歪めました。


そして、私の体に異変が生じたのです。


「強制状態異常<部位欠損>?なっ!?回復不可ですか!?」

「貴様の脚は我等の神の供物となった。」

「いかに旅人と言え2度と復活はせぬぞ!さぁ大人しくその身を全て喰われてしまうが良い!」

「そうですか。こいつに喰われれば身体情報事食われるという事なのですね?良い情報が聞けました。これ以上は戦えなくなりそうなので、これで失礼しますね。」


悠長に樹人達が説明をしてくれましたが、確かにそのような事が情報として書いて在ります。この状態異常についてはリスポーンしてからしっかりと調べる事にしましょう。


「貴様?何を言っている?」

「我等から逃げられる訳が無いだろう?」

「いいえ。逃げますよ。彼女達もそろそろ外に出た頃でしょうしね。では、ミラージュウェポンでダイナマイトを生成!<狩猟王>でクレイモア地雷を生成!」

「なっ!貴様!」

「自爆する気か!」

「これで少しでもダメージを受けてくれれば幸いです。ではさらば!」


ぐぢゅり。ボボーンッ!!


ダイナマイトを起爆して、周りを火の海に変えながら私は死にました。最後の最後にあの樹に右手を持っていかれてしまいましたがね。自身が傷付くより、食欲を優先しましたか。私の体が喰われた事で不都合が起きなければ良いのですが・・・。


まぁそれは今更ですね。リスポーンしたらこの情報をしっかりと共有させて頂きましょう。モッフルさん達が無事だと良いのですが・・・・。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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