第630話

拠点襲撃の報と一緒に前線に居るルドさんから逃げて来た樹精霊の保護の報告が上がって来ました。


拠点に居て作戦指示をしているメガネさんから、敵拠点に居る樹精霊達の危機を知らされた私達は、一足先に本拠地に潜入して精霊達の保護を優先する事になりました。


「ですがどうやって侵入しましょう?あの場所は敵方の旅人のリスポーン地点です。樹を登っていたらバレてしまいますよ?」

「それは大丈夫ですよモッフルさん。航空支援を受けられるみたいですから。」


上空では制空権を巡って今も空中戦が繰り広げられていると言います。それなのに地上支援なんて出来るんでしょうか?


「ルドさんの秘蔵っ子達がやる気になってくれたみたいですよ。」

「シアちゃんとアイギスちゃんが?」

「えぇ、ほら来ますよ!姿勢を低く耳を塞いで!」


タンケさんの指示で私達は防御姿勢を取ります。丁度その時、空から一匹の飛竜が低空飛行をしてきました!


「<古代暴食狼 フェンリル>!」

『ガウガァァァァァァ!!』

「( ・_<)┏━ バキューン」

『34連装誘導物魔弾並びに多段連装砲12連全問斉射や!おまけに波動追尾光線も付けたる!ミンチになれ!』


飛竜の背中から大きく真っ黒な一匹の狼が降りて来ました。そして、リスポーンして来た旅人達をその場で喰らい始めます。


リスポーン地点の異変に気が付き、狼を排除しようとした旅人達は続いて放たれたアイギスちゃんの攻撃により半壊。それでも自分達の復活地点を確保しようと狼に攻撃をしようとしますが・・・・。


『ウォォォォォォン!!』


フェンリルが体から衝撃波を放ちその旅人達を消し炭にしてしまいました。そして繰り返されるリスポーン狩り。食べたエネルギーを使って攻撃するフェンリルに、敵は手も足も出ません。


そんな怪物を落として行った飛竜は、すでに上空に戻っていて敵の飛行船を撃落としていました。


「さぁ相手が混乱している内に登りますよ。」

「進入路は・・・あれですね。」

「下の騒ぎに敵ももちろん気が付いて居る事でしょう。ここからはスピード勝負です。急ぎますよ!」


拠点へ侵入するには大樹に在る洞の中に入れば良いと、ルドさんが保護した樹精霊が教えてくれました。


「全身侵入しました!」

「報告は要りません!敵本拠地への侵攻を優先!」


私達は洞の中にある道をどんどん進んできます。もちろんそこには樹人や旅人達が立ち塞がりますが、私には突破力に秀でたお友達が沢山居ます!


「ゴリさん!ホーさん!モサちゃん!」

「ウッホホホー!」

「ホーッ!」

「ガァァァァァァァ!!」

「なっ何でこんな所に森の暴君である阿修羅ゴリラが!?」

「ぐあっ!後ろに何か居るぞ!」

「何で龍が居るんだよぉぉぉぉぉぉ!?」


ゴリさんが拳で道を塞ぐ物を殴り飛ばし、ホーさんが隠密を使い敵の後ろに回って意識を逸らしてくれます。最後のモサちゃんがブレスを吐いて道を開いてくれました。


部隊の皆も負けじと壁の樹木に擬態していた樹人達をこう檄しています。


「上に報告しろ!敵が攻めて来てるぞ!」

「させませんよ。<ミボシ><アカボシ>」

「グアッ!」

「素早く全滅させなさい。旅人から情報が漏れるのは仕方ありませんが、下ではフェンリルが暴れています。リスポーン地点に送れば時間は稼げます。」


タンケさんは冷静に、ミラージュウェポンで生み出した銃で連絡をしようとしている人から潰してくれています。


「にゃ~!」

「最上階が見えたみたいです!」

「精霊達が捕まって居るのは西側です。樹精霊は北側に。皆さんはまず西側の精霊を保護して下さい。樹精霊の方は私とモッフルさんで行きます。」

「2人だけで大丈夫でしょうか?」

「問題在りません。行動は指示通りに、このまま行きますよ!」


最上階の風景は綺麗な物でした。咲き誇る花々に青々とした樹々。その間を流れる清流。まさに絵に描いたような美しさでした。


『主よ。ここは変だ。』

「モサちゃん?」

「どうしましたモッフルさん?先を急ぎますよ?」

「ちょっと待ってください、モサちゃんが何かを感じ取ったみたいです!」


いざ精霊の元にと脚を勧めようとすると、モサちゃんが念話で私に話しかけてきました。私はタンケさんと、解れて行動しようとしていた部隊の人を止めてモサちゃんに問い掛けます。


「どう変なのですか?」

『見えている物と感じている気配が違い過ぎる。このまま進むのは危険ぞ?』

「それはどうにか出来るような物ですか?」

『ふむ、少し待て・・・・・。こうだな?があああああああああああっ!!』


モサちゃんが雄叫びを上げると、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めます。そして、今見ていた美しい風景が消え、捻じれた禍々しい樹木と黒く淀んだ水が現れました。地面も真っ黒に染まり、手の様な何かが無数に生えています。


『先ほどの風景は幻影だ。我の叫びで真実を炙り出した。』

「これって呪いですか?」

『呪いではないが、長く触れていて良い物でもない。この場に居る物には我が防護の魔法をう掛けよう。』

「ありがとうですモサちゃん!」


モサちゃんがこの場に居る全員に守りの魔法を使ってくれました。これでこの場所に侵入しても平気ですね。


そう思っていたらタンケさんがモサちゃんに質問をしていました。


「ちなみにこの黒い物に触れ続けるとどうなりますか?」

『精神の変質から始まり肉体が異形になって行く。奴等が樹人となったのもこの力の所為で在ろう。これ以上放って置けば、樹の化け物になっていたに違いない。』

「それは魔物では無いのですか?」

『この力で生まれるのは魔物ではない。全く違う異形だ。』

「この場所の浄化は可能ですか?」

『大本を断たねば無理だ。』

「そうですか。私達だけではそれは難しいでしょう。最初の作戦通り先に精霊を保護しましょう。全員魔法は掛かっていますね?よろしい。作戦開始!」


ちゃんと全員に魔法が掛かっている事を確認してから、私達は行動を開始しました。他の方々は樹精霊以外の保護を。私達は樹人に囲われている樹精霊の元に向かいます。


怪しい森の中を進んでいくと、全体が黒い樹木で出来た村の様な物が見えてきました。そして、その村の中央で樹精霊達が樹人に持て成されています。樹精霊達は30人程。かなりの人数が居ますね。


「さぁ神様方。楽しい催しが在りますので移動しましょう。」

「楽しい催しって何?それに下の方が騒がしいけど何かあったの?」

「あぁ、外から来た者共が騒いでいるだけですよ。ささ、こちらです。」

「そう。まぁ退屈だし行ってみようかな?」


樹人の1人で、黒色のローブと捻じれた杖を持った髭の長い人が精霊達をどこかに連れて行こうとします。精霊達はその老人について移動を始めてしまいました。


「まずいですね。恐らくあの精霊達が最後の生き残り。早く助けないと。」

「いえ、少し待ちましょう。」

「えっ!?一体どうして!?」


私が助ける為に動こうとすると、タンケさんがその動きを止めました。このままではあの樹精霊達が怪しい“樹”の餌になってしまうというのに何故止めるのですか!


「奴等の護っている“樹”の場所を突き止めましょう。大丈夫です。精霊達を餌にするような事はさせませんから。」

「ですがこのままじゃ!」

「解っています。ですが必要な事なのです。このクエストのボスであり、この環境を生み出した大本の居場所を知るというのは。私を信じて下さい。」


今すぐ精霊を助けたい私と、敵の大本を調べたいタンケさん。私達はしばらくにらみ合っていましたが、私のお友達とタンケさんのスキルを考えれば大本に辿り着く前に止める事も可能でしょう。だから私は1つ溜息を吐きました。


「解りました。ですが精霊達に何か在ったら、すぐに助けに入ります。それで良いですか?」

「えぇ、もとより私もそのつもりですから。」


私達は気配を消して、樹人達の後を追いかけるのでした。



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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