第553話

「負けました。」

「私達に追いつけるとはお前すげぇな!」

「正々堂々と戦ってくれたからな。」

「そうね。だからこちらも妨害はしなかったわよ?」


ルールに在るのに妨害しないのは変だと思っただろ?それはレース中一切妨害行為をせずに、ただ先にゴールする事を目指していた2人に敬意を表したからだ。俺達はその正々堂々とした姿勢を評価し、同じ土俵で戦った訳だな。そうじゃ無かったら開幕でイルセアが魔法ぶっ放してるよ。


「妨害されてもどうにか出来ると思って居ましたから。」

「最後の魔法を喰らったらやばかったけどな!」

「そう言って貰えて嬉しいわ。」

「じゃあ約束通り連中を攻める時には連絡を入れる。参戦してくれるんだろう?」

「えぇ、その時までは他の場所でポイントを貯めて自己強化をしておきます。」

「今度会った時は一緒に胸糞悪い奴等をぶっ飛ばそうぜ!」

「そうだな。」

「では連絡先を交換しましょうか。」


【はい、気持ちのいい試合でしたね。双方一切の妨害行為をせずに戦ってくれました!】

【そうだね。ニャーゴ選手もトラジ選手も妨害出来る方法を持っていたのに使わなかったからね。その事をレース開始直後に感じ取ったルドペアも凄いよ。】

【さぁお互いの友好を温め合っている所で恐縮なのですが、次の選手の番が迫っていますので舞台からの退場をお願いします。観客の皆さんは健闘した両者に惜しみない拍手を!】

【ごめんねぇ。もう少し時間を取ってあげたかったんだけど、例のトラブルで思ったよりも時間が押しちゃってさ。本当にごめんね?】

【さぁ巻きで行きますよ!次の競技の準備をお願いしまーす!】

「競技が終った選手は退場して下さい。お疲れさまでした。」


係の人に促され、俺達は解散した。バッチリ2人とフレンドコードの交換はしたぞ。


清々しい気持ちで待合室に戻って来ると、すでに師匠が中で待っていた。優雅に紅茶を飲みながらソファーに横になっている。その物品は何処から持って来た?


「そんなの自分で用意したに決まってるじゃない。それよりもお疲れ様ルドきゅん。イルセアもね。」

「それ程疲れてないわよ。あっ私も紅茶貰うわね。」

「俺も全然疲れてないな。唯走っただけだし。お茶請けにスコーン在るが食べるか?」

「「食べる。」」


師匠が用意したテーブルにインベントリから手作りのスコーンとイチゴとブルーベリー(に似た果物)のジャムを出す。どっちも手作りだから楽しんでくれ。


「それにしてもこんなにゆったりしてても良いのかしら?」

「次の競技の準備で時間が掛かるから、これくらいは大丈夫よ。」


そうなのか?ってそう言えば前の試合が終わった後、イルセア達は次の競技の説明が在るからと待合室を出て行ってたよな?って事は競技の内容を事前に聞いてたはずだ。なんで教えてくれなかったんだ?


「時間が無かったから伝えられなかったのよ。勝てたから良いでしょう?」

「普通に忘れてただけじゃない。私は面白そうだから黙ってるだけよ。」

「どちらにしても質が悪いと思うんだが?」


知ってるなら教えてくれても良いんじゃないか?


「ふふふ、次の競技も面白いから楽しみにしててね?」


ポーン♪「ルド様・シチート様。次の試合の準備が整いました。会場までお越しください。」


いざ師匠から次の内容を聞き出そうとした所で放送で呼び出しが掛かってしまった。


「出番みたいね。それじゃあ行って来るわ。」

「負けても良いのよ?その分私達がルド君を勝たせて上げる。」

「ルドきゅんを勝たせるのは私よ。さっ、行きましょう?」

「次の試合についてちょっとでも情報が欲しいんだが?」

「ルドきゅんの驚く顔が見たいからダーメ。大丈夫よ、私が居れば勝てるから。」


そう言って俺は待合室から連れ出されてしまった。本当に次の勝負は何なんだ?全く解らんぞ?俺はハテナマークを頭に浮かべたまま、会場に向かうのだった。


【さぁ選手が入場して来ました!空神様?今回の勝負の内容は何でしょう?】

【今回もレースで勝つことが目標になるよ。でもね、今回は自分の足で走るのは禁止!会場に用意された生き物の中から選んで乗って貰うよ!ここに居る生き物は人の内面をよく見る種族ばかりだからね。どれだけ好かれるか、走ってくれるかが勝負になると思うよ。】

【今選手たちも同じ説明を受けていますね。おーっと?対戦相手が喚きだした!一体これはどういう事だ!?】

【いや、どういう事だも何も見たまんまでしょうに・・・。用意した生き物が全部ルド君の所に行って離れないんだから。】


いつもの係の人に挨拶して会場に入ったら、さっきレースをしたコースは片付けられていた。その代わりに会場の中央には人を乗せる事が出来そうな生き物が沢山集まっている。よく見ると会場の外周が陸上競技場の様になっているな。つまりこの生き物に乗ってレースしろって事らしい。


そして困ったことに俺はその生き物達に囲まれてしまった。鹿や牛の様な草食動物の姿の物から、虎やライオンの様なネコ科の姿の者。狼や犬系の姿をしてる奴も居るな。うん、総じてモフモフなので感触が幸せです。


「あら、私の力を使うまでも無かったわね。皆ルドきゅんに寄って来ちゃったわ。」

「こいつ等なんで俺の所に集まったんだろうな?」

「それはルドきゅんなら自分達を絶対に守ってくれるからじゃない?」

「おいおいおい!これは無いだろうよ!」

「不正だ!チート使ったんだろう!じゃないとおかしいだろうが!」


そして俺がこの状態になってから対戦相手がずっと騒いでいる。怪しい薬を使っただの、チートを使っただの、俺が不正をしていると大声で叫んでいる訳だ。いや、俺運営と寝たりはしてないぞ?


あっ!無理矢理鹿を引っ張って行こうとして、逆に角で突かれながら追い回され始めた。無理矢理はいかんぞ無理矢理は。野生動物なんだから怒らせたら怖いぞ?まぁ俺には可愛い動物にしか見えないが。


「レイド選手・トイチ選手。それ以上騒ぐなら棄権と見なしますよ?」

「だからってこれじゃレースにならないだろうが!」

「そうだそうだ!」


そうだよなぁ、俺の周りに集まった奴等は俺にずっと乗れ乗れとアピールしていて向こうの事完全に無視してるしな。パンシーンさんこれどうするよ?


「ルド選手は乗る相棒を早く選んで下さい。そうすれば諦めてくれる筈ですので。」

「本当?この様子じゃ後ろにくっ付いて一緒に走りそうよ?」

「その時は私が止めますので。」


そう言って笑ったパンシーンさんの笑顔には影が出来ているように見えた。こらこら君達?早速俺を盾にしようとするんじゃないよ。


「それでどうするのルドきゅん?」

「んじゃ俺はこの子にするかな。」

「選んだ根拠は?」

「一番気合入ってるから、だな。」


俺が選んだのは牛型の生き物だ。立派な角を持ち、全身が茶色い毛で覆われている。少し毛が長いか?バイソンみたいな見た目の奴だな。さっきからずっと俺の足を踏んでアピールしてきている奴だ。


「そう、この子なら2人で乗れそうね。良いかしら?」

「2人乗りは構いませんよ。ですが良いのですか?勝てる確率が下がりますが?」

「大丈夫よ。ルドきゅんと一緒に居る方が私は強いから。」


えっ?一緒に乗るの?少ないけど師匠に乗って欲しそうだった子も居るぞ?特にほら、そこの鹿の奴とか。師匠の言葉を聞いてあからさまにガッカリしてるし乗ってやれば?


「私はルドきゅんの後ろに乗れればそれで良いのよ。それに2人乗っても勝てるでしょ?」

「ブルルルッ!!」

「勝つ気満々だなこいつは。」

「意思は固い様ですね。ではレイド選手、トイチ選手は乗る相棒を選んで下さい。」

「なら俺はこいつだな!強そうだしな!」

「俺はこいつだな。速そうだ。」


相手選手が選んだのは恐竜の様に発達した後ろ足で2足歩行する蜥蜴と、すらっとしたボディを持つ鼬の様な生き物だった。


【さぁやっと相棒を選び終えた様子です!】

【ここに集まっている生き物は僕が用意した者達だから大事にしてね?競技が終ったら元の住処に戻すからね。】

【選んだ生き物の説明をお願いできますか?】

【ルド君達が選んだのはラニングビオストっていう牛だね。武闘家気質の牛で自分を鍛える事を生きる目的としているよ。何をどれだけ鍛えているかは見た目で解らないから、走れるかどうかは運次第だね。】

【相手選手の選んだ生き物はどうでしょう?】

【ハイランキュリアと刀鼬だね。どっちも好戦的な種族で、走りながら戦う事が好きな生き物だよ。速さと強さの両方を求めてるから、今回のレースには打って付けじゃないかな?】

【これはルド選手の勝利は苦しくなったか?さぁいよいよレースの開始です!】

【今回はレース途中で障害物が現れる様になってるからね。どんな仕掛けが出て来るかはお楽しみに!先に10週した方が勝ちだよ!頑張ってね!】


「双方準備はよろしいか?」

「大丈夫だ。」

「いつでも行けるわよ。」

「俺達も大丈夫だ。」

「いつでも良いぞ。」

「では、レース開始!!」



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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