第551話
光りの中で俺はずっと幻を見ていた。
仲間と共に穏やかに過ごす森で光景を見た。
大勢の黒い鎧に身を包んだ兵士に突然連れ去られ、檻の中から見ず知らず土地に行く光景を見た。
同じ場所で捕まった仲間達が、目の前で無残に殺されて行き、必死でそれを止めてくれと叫ぶ光景を見た。
怪しい雰囲気の部屋で、醜い者の欲望の捌け口になり涙する光景を見た。
逃げ出す事に成功し、周りに助けを求めたが嘲笑され連れ戻される光景を見た。
多分これは精霊達の記憶だ。そしてこの子達を爆弾に変える為の手法だったのだと思う。樹人種ではない人に化け、精霊達の心を折る為に様々な事を行っているのだ。中には目を逸らしたくなるような光景も在った。
そして最後には、樹人種の人が出て来て彼女達に優しい言葉を掛ける。彼女達の体を癒し、食事を与えていた。
他種族を知っている俺なら細かな違和感に気がつけるが、彼女達は森から出たことが無かった。だから気付く事が出来なかったのだろう。自分達を痛めつける人々が、実は偽者で在る事等。
だから絶望に染まった彼女達は次第に樹人種以外を、世界を呪って行った。優しくしてくれるのは樹人種だけで、その他の種族は敵だと教え込まれた。
そして最後に裏切られた。優しかった樹人種が実は今まで自分達を苦しめていた元凶だと教えたのだ。それも、世話を焼いてくれた人に頼まれて体の中に必要以上の魔素を蓄えている最中に。困惑し、嘘だと拒絶し、突き付けられた事実に絶望し、最後に空虚な目をしていた。
信じていた人達が実は自分達の敵だったと知って、彼女達の心はそこで壊れてしまった。そして、樹人種を呪う爆弾になった。
奴等は、主人を巻き込み大爆発を起こす彼女達を死ぬ事の無い旅人に渡した。彼女達が従順な人形となった事を確認して。だから彼女達は主人である旅人の言う事を聞いたんだ。
とても、とても苦しかったろうに。辛かったろうに。この子達が受けた仕打ちは本当に酷く、非情だった。俺はその光景を見て泣いた。
体を焼く光りが彼女達の絶望なら、全部受け止めてやりたい。もしこのまま消滅するなら、少しでも成仏できるようにしてやりたい。その思いで必死に受け止め続けた。だけど、俺の力はそこまで強く無く・・・・。
体力が底を尽きかけた時、外から暖かい光りが流れ込んで来た。それは、シーラの回復魔法だった。
シーラが回復し、俺が耐える。彼女達の受けた仕打ちを何度も幻視しながら、俺はずっと、ずっと手の中に居るかどうか解らなくなってしまった彼女達を抱き締めた。
そして、外からの光りが届かなくなり。俺のHPが0になってしまった瞬間。彼女達が見せた幻に最後のシーンが映る。それは、俺が彼女達を抱き締め、泣いている場面だった。
『ありがとう。おじさんのお陰で私達は救われました。』
『もう、大丈夫!私達恨んでないよ!優しい人が居るって最後に知れたから!だから、大丈夫!!』
『私達の絶望を受け止めてくれてありがとう。私達の為に泣いてくれてありがとう。』
『もし、もし生まれ変われたら!そしたらおじちゃんの近くに行くね!絶対行くね!だから、だから待っててね!!』
最後に、2人の言葉を聞いたように思う。だから俺は、本当に生まれ変わりが在るのかも解らない状態で、それでも彼女達の力になりたくて、最後に残った力を振り絞って彼女達を守ろうとした。彼女達の残っている痛みを受け止めようとした。
『最後まで、ありがとう。』
『おじちゃんの事、忘れないからね!』
その言葉を最後に俺の意識はブラックアウトを起こし、気がつけば待合室のベットで横になっていた。
「死に戻りしたか・・・・。」
最後に聞こえた言葉は、俺に都合の良い様に聞こえた幻聴だったのだろうか?
バタンッ!!
「パパ大丈夫!?」
「。・゚・(ノД`。)・゚・。」
「ルドさん無事ですの!?」
「大丈夫ですか!?」
「ルド兄!!」
「ルド兄様!」
「る、ルドさん!」
「落ち着けお前等。俺はまぁ、復活出来たから。」
俺の事を心配してか、シアとアイギスを連れて観客席に行ったメンバーが来てくれた。俺は、頭を掻きながら皆に大丈夫だと告げる。だが、やはり考えてしまうのはあの精霊達の事で・・・・。
これで彼女達は無事に逝けただろうか?もし俺に聞こえた幻聴が本物だったら、彼女達は救われたんだろうか?救われていて、欲しいな。
「パパ?どこか痛いの?」
「(´・ω・`)」
「いや、死に戻りした割には元気だぞ。まるでデスペナが無かったみたいにな。」
バンッ!!
「ルドさん!!」
「良かった、目が覚めてるのね。空神様が気を失っているって脅すから心配したわ。」
「おう、リダとイルセアか。心配かけたな、割と元気だぞ。」
「もう、ルドきゅんったら無茶し過ぎよ。まぁそこが貴方らしいんだけど。」
「あの子達は空神様の元に行きました。大丈夫ですよ。転生の約束をして頂けましたから。」
「あなたの死の後遺症。今回は空神様が無かった事にしてくれました。後でお礼を言っておきましょうね?」
試合に一緒に出ていたメンバーが扉を吹き飛ばす勢いで待合室に飛び込んで来た。こっちにも心配かけちまったな。
そうか。あの子達は消滅しなかったか。うん、神様が転生の約束をしてくれたならいつかまた会えるだろう。その時は、今回の様な目に遭わない幸せな生を謳歌して欲しいな。
ふむ、デスペナは住人から言わせたら死の後遺症か。空神様が無かった事にしてくれたんだな、確かにシーラの言う通り後でお礼言わないとな。おっとその前に。
「俺の我儘に付き合ってくれてありがとう。回復も助かった。」
「いえ、夫のやりたいことを支えるのも妻の役目ですから。」
にこやかにそういうシーラ。その言葉に同調して頷いている他のメンバー。ったく、俺は本当にいい仲間を持ったよ。
「それでこの後どうします?すぐに殴り込みに行きますか?」
「いや、イベントにこのまま参加する。」
「どうして?もうイベントを楽しむ気分じゃないでしょ?」
「楽しむ気分じゃないから尚更だ。俺はこのイベントでポイントを貯めて、スキルをいくつか習得しようと思う。その後は師匠。例の奥義を教えてくれ。」
「はいはい、準備は万全にって事ね?でもルドきゅんが覚えたスキルが想定と違うから、習得できるかは微妙よ?それでもやるの?」
「やる。俺は力を付けなきゃいけない。同じような目に遭っている子を助ける為に。」
今回は俺は何も出来なかった。ただ、爆弾と化した彼女達の思いを受け止めるだけ。それも1人で受け止めきれず周りに助けて貰ったのに、受け止めきれなかった。俺はまだまだ弱い。もっと守れるようにならねば。
「まったく、せっかく攻撃出来る様になったのにそっちは良いのかしら?」
「そりゃ後回しだな。それに俺はほら、攻撃に向いて無いからな。」
「確かに。もしルド兄が武器を装備出来る様になっても、戦っている所が想像出来へんわ。」
「ルド兄様は私達の前でどっしりと構えている印象です!」
「ではその分私達がルドさんの剣となり魔法となり拳となります!」
「僕達もいつまでも呪いに縛られている場合じゃないね?」
「攻める時に全力を出せるようにしておかないといけませんわね。」
「シアも手伝う!」
「( `,_・・´)フンッ」
「しょうがないわねぇ。それじゃ、地獄の特訓メニューを用意しておくわ。他の連中に先を越されたくは無いでしょう?」
「やはりルド様には盾が似合ってますから。私も協力しますよ!」
「あなたは何もかもを守ろうとするんですね?では、そのあなたを私達が守りましょう。」
「ふふふ、やはりルドさんの傍に居ると飽きませんね?もちろん僕も一緒に行くよ。連中のやり方は気に食わないからね。」
いつの間にかタンケの奴が合流してる!?気配消して近づくなよ、ビックリするだろうが!!
「・・・。皆が俺と同じ気持ちで嬉しいよ。それじゃクラン『ティーターン』の次の目標は、森の奥に引き籠りながら世界を敵に回した奴等を一発殴りに行く事だ!失敗する気は無いが、絶対にぶん殴って今回の行いの償いをさせてやるぞ!」
「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」(`Д´)ゞラジャー!!
ポーン♪「ルド様、イルセア様。次の試合の準備が整いましたので会場までお越しください。繰り返します。ルド様・イルセア様。次の試合の準備が整いましたので会場までお越しください。」
「うっし!じゃあ行って来る!」
「私達の本気を見せる時よ!」
「パパ頑張って!!」
「ファイトーー!( ゚д゚)乂(゚д゚ )イッパーーツ!!」
目標が定まったのならば突き進むのみ!!さぁ次の相手は誰だ!!
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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