第550話


ドグワァァァァァァァァァァボォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!


地面と闘技場を激しく揺らす爆発が続いています。揺れは激しいですが、建物や地面にダメージらしいダメージは見えません。ルド兄様がずっと、抑え込んでくれている為です。


「る、ルドさん・・・・・。」

「もうすぐ5分を超えますわ。ルドさんの無敵時間が切れますわね。」

「どれだけ、どれだけ恨みを貯めてたんだろうね・・・・。どれ程酷い事をしたら、ここまで世界に絶望できるのだろうね?」

「許せへんなぁ。あぁ許せへんよ。あんなに可愛らしい精霊ちゃん達にこんな仕打ちして!樹人種は何を考えとるんや!!」

「すまない。これは我々の落ち度だ。」

「引き籠っているからと放置し過ぎてしまっていた。どんなに謝罪しても足りぬ。だが謝罪させてくれ、すまない。」

「あっいや、あんたらは違うって知っとるし・・・。」

「お姉ちゃん、今は結構ピリピリしてるから発言には気を付けてね?こちらこそ姉が不用意な発言をしてすみませんでした。」


私達の傍に座っていた樹人種の住人の人達が、お姉ちゃんの言葉を聞いて謝ってくれました。でもこの人達は悪くない。悪いのは森の奥にコソコソと隠れている方です。


樹人種の人達の謝罪は会場のあらゆる所で見られました。樹人種の人はやり返す事も無く、ただひたすらに頭を下げるだけ。その姿に引き下がる人も多いですが、たまに逆上して殴り掛かろうとする人も居ます。そういう時は旅人の樹人種の人がかばって、一緒に頭を下げています。彼らには本来関係のない話なのに、です。


「精霊は私達のパートナーでも在るから。あんな風にした奴等には腸煮えくり返ってるからな。そいつらに思い知らせる為にも、ここで他種族と争いを起こす訳には行かないさ。」

「逆に助けて欲しいのよね。こんな事する奴は狡猾で逃げ足が速いわ。だから包囲網を敷きたいの。」

「ったく、楽しいイベントに水差しやがって。それだけでも許しがたいっていうのにあの可愛らしい精霊を爆弾にするだぁ?頭湧いてんのかそいつら。あぁぶん殴ってやりてぇ!」


感情を乗せた言葉に他の種族の旅人達も加わって、すでに敵勢樹人種の討伐隊が組まれつつあります。何組かのクランはイベント会場を後にして攻めに行こうとしましたが、イベント用NPCに止められています。曰く、必ず力を借りるから待って欲しいと。それで何とか踏み留まっている状態ですね。


「時間ですわ。」

「ルドさんの無敵時間が・・・・切れた。」

「どどど、どうするんです!?まだ爆発の威力が収まってませんよ!?」

「舞台の上でシーラさんが回復を掛けてくれているのでまだしばらく持ちますわ。でもシーラさんのMPが切れたら・・・・。」

「くっ!私達も舞台に降りられたら!」

「ここに来て観客と選手を隔てる結界が邪魔になるなんてねぇ。」


そうなのです。この闘技場は観客の安全確保の為に強力な結界を装備していて、舞台と観客席は物理的にその結界で隔たれています。解除して貰えば良いのでしょうが、一度発動すると指定時間が経つまで解除できない仕様だそうです。何とか結界を破壊しようと攻撃してみましたが、ビクともしませんでした。私の必殺コンボでも、です。


「神代に作られた結界装置らしいからね。」

「その結界を破壊してなお、街を吹き飛ばす威力を持っているのが最後の輝き。本当に、どれだけ恨まれたんだか。」

「住人の樹人種の人達も避難しとらんしな。」

「自分達の罪だからここで死ぬならそれまでだと言ってましたね。」

「全く!そこまで覚悟を決めたのでしたら、生きてこの事態を引き起こした奴等を打倒すっれば良いですのに!!」

「今後の他種族との関係悪化も見越してるんだと思うよ。少しでもここで他の人達を守る動きをして、犯人と自分達は考えが違うと知らしめたいんだと思う。」

「それにしてもやり方が在るでしょうに。」

「あっリダ姉達が出て来たで!」

「これでしばらくは時間が稼げるね。」

「し、シーラさんが蔓で皆の体を繋ぎました。多分MPを吸ってるんでしょうか?光が蔓の中を動いてます。」

「恐らくそうやろうな。でもそれでも足りるかどうか・・・。」

「パパ・・・・・。」

「(´・ω・`)」

「あぁ堪忍やで!大丈夫や!あのルド兄やから絶対無事に戻って来るって!なっ?ベニ?」

「もう、お姉ちゃんはデリカシー無いんだから・・・。大丈夫だよ2人共、ルド兄様は強いでしょ?だから、大丈夫。」

「うん・・・・・。」

「(´Д⊂ヽ」


そうです、ここにはシアちゃんとアイギスちゃんが居ます。2人は私達と一緒に観戦していました。今は上空に噴き上げ続ける光りをじっと見ながら、ルド兄様の無事を祈っています。


「どうか、どうかルド兄様が無事で皆を守ってくれますように・・・。」


私達にはもう、祈る事しか出来ませんでした。


【皆さん避難の時間は在りますので落ち着いて避難して下さーい。樹人種の方々も贖罪とかは必要ありませんので早く非難をして下さーい!・・・はぁ。こういっても避難はしないんでしょうけどねぇ。全く、やっかいな事をしてくれましたよ本当。それにしてもやはり彼は凄いですね。もう10分も爆発を抑え込んで居ます。】

【・・・・・。周りの人の手助けが在って、だけどね。】

【あっ空神様お帰りなさい。どうです?どうにかなりそうです?】

【そこは彼の努力次第かなぁ。僕の役目はその後だね。】

【どれくらいで収まりますかねぇ。】

【多分もうすぐだと思うよ?でもその前に彼女達のMPが尽きるね。】

【それじゃ爆発が街を襲いませんか?】

【大分彼が受け止めてくれたから大丈夫。舞台が吹き飛ぶくらいで済むよ。まぁその所為でルド君と彼女達が一緒に吹き飛んでしまうけどね。】

【では彼女達だけでも避難させましょう。ここまで協力してくれたのに何か在っては申し訳無いですから。】

【素直に言う事聞いてくれれば良いけどね。彼女達はほら、奥さんだから。】

【そこはどうとでもしますよ。】


「くっ!そろそろ私達のMPも限界です。」

「枯渇しても構いません!ルドさんの回復を優先で!」

「ルドきゅんは私達が支えるのよ!」

「全部持って行って良いわ!だから回復魔法を切らさないで!」

「解っております!」


私達は精霊さんの怨念を一身に受け止めるルドさんを必死になって回復しています。シーラさんが魔力以外にも気力や悪魔の力を使ってずっとルドさんを回復してくれているおかげで、ルドさんのHPは半分を割りません。ですが、ダメージの減り方が尋常ではなく、先に私達の魔力と気力がそこを尽きました。


「そんな、まだ終わっていないのに・・・。」

【皆さん舞台傍に魔力回復薬を用意しました!そちらで回復を!】

「今の声は実況の?」

「それより急ぐわよ!ルド君が持たないわ!」


私達は慌てて舞台を降り、用意されているという魔力回復薬を探しました。その時なぜか、シチートさんとシーラさんだけは解説席の方を睨みつけていましたが。


「在りました!」

「急いで回復してルド君のフォローに戻るわよ!」

「伏せなさい!ローズ!結界をお願い!」

「私も助勢します。」

「わ、解りました!」

「なんで!」


イルセアさんの何故の言葉に、シチートさんはゆっくりと首を横に振りました。そして、その後ろでルドさんのHPが0になるのが見えました。


「時間切れよ。」


ドォオオン!!


爆発の衝撃で舞台ははじけ飛び、破片が周囲に飛び散ります。私達の方に飛んで来た破片は、ローズさんとシーラさんの結界により阻まれ無事でした。ですが、爆心地に居たルドさんは・・・・。


「スキルで復活、出来るのよね?」

「本来だったらそうね。でも彼、最後にやらかしちゃったから。」

「ルド様は恐らく復活地点に居ます。」

「無茶し過ぎです。全く彼は変わりませんね。」

「シチートさん達には何が、何が見えたんですか?」

「ルドきゅんはね。最後にあの子達も助けようとしたのよ。最後の最後、彼女達が消滅するエネルギーを引き受けたの。生命力が無い状態でね。」


シチートさんの話では、負の感情を爆発させ発散した精霊達は、そのまま今まで受け続けたダメージで消滅する筈でした。ですがルドさんは、そのダメージを肩代わりする事で彼女達を助けようとしたそうです。たとえそれが無駄で在ったとしても・・・・。


「あの状態になった精霊はどうあがいても助からない。たとえ消滅ダメージを引き受けたとしても、理から外れたら消えるのよ。それが精霊。」

「ですが彼女達は救われたと思います。最後の最後で諦めずに自分達を助けようとした人に会えたのですから。」

【そうだね。だからこそ、彼女達は助かったんだよ。】


私達が頭上を見上げると、小さな鯨が空を飛んでいました。白く輝く体に青いラインの入った鯨は、その傍に青と赤の小さな光りの玉を連れています。


【いやぁ、もともと8割方助けられると思ったけど。彼のお陰で確実に救う事が出来たよ。】

「空神様?もしやその2人は。」

【うん、ルド君が助けた精霊達だよ。まぁ体は吹き飛んでしまったけど、魂は残った。この子達は僕が責任もって転生させるよ。言ったでしょ?最悪の事態にはならないって。】

「ありがとう・・・・ございます・・・・。」

【お礼なら最後まで彼女達を助けようとしたルド君に言ってね。そうそう、今回に関してはペナルティは無しにしたから。まぁ爆発の衝撃で気を失ってる筈だし、今すぐ迎えに行ってあげて。】

「はいっ!」

「急ぐわよ!今の復活ポイントは待合室よ!」


涙を流して空神様に感謝するシーラさん。その後空神様の言葉を聞いて急いでルドさんの元に向かいます!


「まったく、神なら爆発する前に何とか出来なかったのかしら?」

【すまないね。昔と比べて干渉する事を極力避けて欲しいとお願いされてるから。ルド君とローズは昔からの繋がりだから例外なんだよ。まっ、その例外のおかげでペナルティを無くせたんだけどね。】

「干渉する力を失くしているからでしょう?まったく・・・。まぁ良いわ、お礼は言っておいて上げる。ルドきゅんを助けてくれてありがとう。後はやっちゃっても良いのよね?」

【うん、このお祭りが終ったら神託を降ろすよ。久しぶりに神からの直接依頼だ。君達も参加してくれるかい?】

「ルドきゅんが参加するなら私は行くわよ。」

「同胞をこのような目に合わせた者達には、制裁が必要です。」

「ルド様をこのような目に合わせた者には罰が必要です。」

【頼りにしてるよ。奴等、結構強力な結界張ってるから。さてそろそろ彼の元に行ってあげな。君達も会いたいだろうしね。】

「言われなくても行くわよ。今行くわルドきゅん!!」

「私が癒して上げますよあなた!!」

「待っててくださいルド様!!あなたのローズが今行きます!!」

【やれやれ、祭りが終ったあとが怖いなぁ。まっ、僕も許す気は無いけど。さて、次の準備しますか、祭りはまだまだ続くしね。】



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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