第549話

「ぐぐぞぅ!ごんなばがなぁ!!」

「ぐすっ!嘘だぁ!絶対に嘘だぁ!!」

「嘘じゃないしゲーム内だけど事実だぞ?後何も泣かんでも・・・・。」


あの後シーラに手出ししない様に言ってから、一方的に相手に攻撃させ続けて見た。最初は手を抜いていたからとか、今日は魔力の調子が悪いからとか言い訳をしていた樹人種の2人。だがまぁ、そんな事で事態が変わる事も無く。最後にはMP切れを引き起こして気持ち悪さと情けなさで顔面崩壊しているという訳だ。


「無駄にプライドが高いばかりにそうなるのです。樹人種と言えどこの世界の一種族に過ぎません。なのになぜあれほど高圧的になれるのか、理解に苦しみますね。」

「だからあれはロールプレイだから。」

「あの大号泣を見てもそう言えますか?私にはそうは見えませんが?」

「・・・・・・。」


シーラに指摘されて相手の顔を見る。本当に自分が選ばれた人種で在ると信じ切っている人の反応だよなぁあれ。どうなってんだ?


【残念でしたねぇ。まぁ我々からしたら順当な結果ですけど。】

【うーん、あの反応は気になるねぇ。ちょっと失礼して・・・・・。あー、成程。彼等引き籠ってる老人たちの元で生まれちゃったのかぁ。】

【えーっと、生まれたとは?】

【彼ら旅人はほら、こことは別の世界から来てるでしょ?で、この世界に降り立てるように僕達が体を作ってあげてるんだよ。その事を生まれるって言ってるんだけど。彼等は故意か偶然かは解らないけど、森の奥に引っ込んだ樹人種の元に生まれちゃったみたいだね。まぁその所為で樹人種に生まれるという事が特別だと勘違いしちゃったみたい。】

【それであれだけ傲慢な態度が取れたんですねぇ。】

【これはある種の老人達からの侵略行為だねぇ。あっだからって報復に動いちゃ駄目だよ!戦争になっちゃうからね。ってこらこら言ってる傍から移動しようとしない!!】

【さぁ会場の人達を抑えるのは空神様に任せて、私は実況に戻りますよぉー!MPも枯渇し攻撃も全て無傷で受けられて打つ手がない樹人種ペア!審判はまだルドペアに勝利宣言していませんから、まだ何か戦う方法を持っている模様!さぁどう出る!!】


「ずびっ!こうなったら奥の手だ!」

「我等には長老様方より授かった神のお力が在る!おいでませ精霊様!聖なる力で不敬なる輩を消し飛ばし給え!!」


チリリ~ン♪


【おーっと!これは違反行為だぁ!!両名とも友魔の召喚を行いましたぁ!!】

【ふぅ・・・。何とか落ち着いて貰えた。この後大変だろうけど、引き金を引いたのは向こうだし仕方ないよね?・・・・・さて、今大会は友魔の使用は原則禁止だからね。友魔が居なければ戦えない職業以外での使用は即刻反則負けになるよ。】


「ズーク・ワクメイ両名とも失格!よって勝者ルド・シーラペア!」

「そんなの知るかぁ!」

「我々を侮辱した数々の行為!ここで償えぇぇぇぇぇぇぇ!!」


審判が試合終了を宣言したのにこいつ等構わず攻撃して来やがった!まぁだからってスキル全開の俺にダメージは無いけどな。だけどあいつらが呼び出したこの精霊。様子が妙じゃないか?なんか体が消えかかっているというか、存在感が希薄だ。だけどその眼だけは真っ赤に輝いて存在感を放っている。


「っ!?あなた達はなんという事を!ルド様早くその子達を隔離して下さい!」

「ん?こいつ等に何か在るのか?妙に纏わりついて来るが。」

「その子達は酷使され過ぎて闇を抱えたまま消えかかっています!“最後の輝き”が来る!」

「最後の輝き?」


【おや?シーラ選手の様子がおかしいですね?空神様?最後の輝きとは?】

【・・・・・やってくれたな老害共。それは禁忌だと忠告した筈だ。滅ぼされたいか?】

【空神様?】

【おっとごめんごめん。最後の輝きについてだね。精霊は酷使され続けると消えると試合前に話をしたのは覚えてる?】

【はい、私が言いましたから。何人かの旅人が引き起こして、精霊から報復された上で捕まってますよね。それがどうしました?】

【一緒に居ればずっと力を貸してくれて、かなり有益な精霊をなぜ消失させると思う?何で友魔である精霊を消失するまで酷使すると、厳罰に処されると思う?】

【えっと?そう言えばそうですね。ステータスシステムも別ですから、MPや体力なんかも別扱い。HPが無くなっても復活するわけですし、消失するメリットは無いですよね?】

【そのカギが最後の輝きという訳なんだけどね。主を決めた精霊は主人に負の感情を向けたまま消失するまで酷使されると、最後の報復として急速に周りの魔素を取り込んで周囲事吹き飛ぶんだよ。それはもう凄い爆発力でね?過去には1つの街を吹き飛ばした記録も在るよ。】

【ひえっ!?そんな事が在ったんですか!?】

【そうなんだよね。精霊はそもそもこの世界の魔素を調律する役目が在るのだけど、その力を復讐に使っちゃうんだよね。だから精霊を友魔にしたら消失するまでの酷使と虐待を禁止している訳だね。まぁ今の所旅人でその爆発を起こした人は居ないみたいだけど。危うかった場合は2度とその人物が精霊を友魔にしない様に恐怖を植え付けるんだ。それが精霊の報復だね。】

【それで厳しい罰則も在るんですねぇ。ではあの精霊達も?】

【あれはさらに質が悪いよ。無理矢理精霊の中に力を詰め込んで爆弾にしている。多分樹人種優位派の老人たちが仕込んだんだろうね。彼らが崇めるのは樹属性の精霊だけだから、他の精霊は眷属みたいな扱いで信仰対象じゃ無いし。まったくやってくれるよ、こんな事をしたら樹人種と他種族の戦争になると解っててやってるんだから。】

【それで怖い顔してたんですねぇ。あれ?それじゃあここに居る私達は危険じゃ在りませんか?】

【かなり危険だね。復活する旅人はともかく、住人の人達は全員死んじゃうね。】

【あぁ!会場中がパニックに!皆さん落ち着いて!落ち着いて下さーい!】

【うん、落ち着くと良いよ。もうあの精霊達が爆発するのは止められない。召喚された時点で起爆スイッチが押された状態だからね。けどここには彼が居る。だからまぁ、安心して見てて欲しいかな?後僕はちょっとやる事が在るから少し黙るね。】

【彼とはルドさんの事で良いのですか?空神様?空神様ぁ?あぁ駄目ですね。集中状態に入っちゃいました。係官!念の為に避難を開始して下さい!皆さんは落ち着いて係の人の誘導に従って下さい!後そこの樹人種2人は厳罰だ!即刻捕らえろ!!】


「ぐぅ!我々は悪くない!そこに居る下等種族が悪いのだ!」

「ふへへへへ!全部吹き飛んじゃえぇ~。いひひひひひひひ!!」

「度し難い程の屑ですわね。」

「ふぅ、引き剥がせねぇなこりゃ。お前等もこんな風になりたかった訳じゃないのになぁ・・・。」


俺の体に抱き着き、体が徐々に膨れていく精霊達。薄緑色の髪の子と、青い髪の子だ。多分だけど風と水の精霊かな?可愛らしい顔が苦し気に、そして憎々し気に歪んでいる。その顔が何故かシアと被っちまうんだよなぁ。だから俺は2人の頭を優しく撫でてやる。謝罪の思いを籠めて。


「シーラ。ここからこの子達を助ける術は?」

「・・・・在りません。その状態になってしまったら、すでに世界の理から外されております。後は苦しまずに消失させるか、その憎しみを解き放つのみ。すみません・・・・。」

「シーラが謝る事じゃないだろう?まっ、このイベントが終ったらやる事は決まったけどな。」


他の旅人達も思いは一緒なのか、会場に溢れる怒気を感じる。大人しく引き籠ってりゃ良かったのに、お前等は俺達を敵に回したぞ?


「まぁ先にこっちを何とかするのが先だがな。」

「どうにか、出来ますか?」

「消失させる、って言うのはこいつ等の苦しみを無視するやり方だ。だから俺は全部受け止める。だからまぁ、シーラは鈴に戻ってくれ。」

「いえ、最後まで見届けます。私も彼女達の仲間ですので。」

「目覚めてすぐまた長い事眠る事になるかもよ?」

「ふふふ、あなたが居ればそうはならないでしょう?」

「まっ、確約は出来ないがな。」


さて、障壁の効果範囲を変更。俺を中心に空に抜けるように形を変えてっと。後は巨神鎧も発動だな。


「【数多を守れ】<巨神鎧>。すまないな、お前達も守ってやりたかった・・・。」


ボコボコに膨れ上がり、すでに原型を留めていない精霊達を抱きしめる。俺の肩に冷たい感触が伝わったかと思った瞬間、俺は彼女達と共に光りに包まれた。



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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