第543話

さて、待合室に戻って来たんだが。イルセアの奴は係の人に呼ばれて何処かに行ってしまった。次の試合について説明が在るというので、俺も一緒に聞こうとしたんだが。


「ルド様は次の試合が在りますのでこのままここでお待ちください。」


と言われてしまった次第。そう言われたらまぁ仕方ないな。参加せずに不戦勝なんかになったら後が怖いし。イルセアからもしっかりと参加する様に釘を刺されている。


とは言っても次の試合のパートナーがまだ来ていない訳だが?これ俺が待合室に居なくても不戦勝になったんじゃないか?


ポーンッ!「試合開始時刻になりました。参加者のルド様・シチート様は会場までお越しください。繰り返します。試合開始時刻になりました。参加者のルド様・シチート様は会場まで速やかに移動をお願いします。」


うん、さっきから何度かこのアナウンスが流れている訳だ。でも一向に師匠は姿を見せない。これは完全に遅刻だなぁ。いやぁ、残念残念。


「何が残念なのかしら?」

「どわっ!?いつの間に背後に!!」

「ふふふ。さっきからずっと居たのよ?」


俺の背中に抱き着く形で姿を見せたのが俺の師匠であるシチートである。彼女は悪魔だ。しかも色欲という、まぁ異性を魅了する事に特化した奴だな。


師匠も見た目がちょっと変わってるか?白いボブカットの髪に赤い瞳。ちらりと口から覗く小さな牙が印象的だ。体つきは出ている所は出ていて括れている所はしっかりと括れている。胸はデカいな。後腰の部分から大きな悪魔の羽が生えている。服装は黒のボンテージにブーツだ。爪には真っ赤なネイルを塗っている。


「もうちょっとルドきゅんの体温を感じて居たかったのだけど。このままだと本当に失格になっちゃいそうだし急いで行きましょう?」

「腕を組む必要は在るのか?」

「もちろんあるわよ?私達のラブラブっぷりを皆に見せつけないとね♪」


うん、長い付き合いで解っている。この提案を拒否すると要求がエスカレートする奴だ。師匠ってば頑固だからなぁ。


「はいはい、じゃあエスコートさせて頂きますよ。御姫様?」

「しっかりと頼みますわ。騎士様?」


会場の入り口にはまたもや係の人が待っていてくれていた。


「あぁやっと来た!お早く移動して下さい!もう試合開始時刻ですよ!」

「もう野暮な事は言わないの。ちょっと試合前に愛を深め合っていただけなのよ?」

「えっ?はっ?」

「そんな事してたっけ?」

「ずっと体を重ねていたじゃないの。」


性格には師匠が気配を消してずっと背中に張り付いていただけですよね?


「そう言う事は全ての試合が終わってからにして下さい!はぁ、とりあえずすぐに会場入りをお願いします。本当に失格になりますよ?待合室に清掃員を派遣しないと・・・・。」

「ふふふ、御免なさいね?ほら行きましょう。」

「これ絶対係の人誤解してるだろう。誤解を解いてから「そんな時間は無いわ。ほら行くわよ。」おっおうふ。」


はい、強制的に舞台まで連れて来られてしまいました。さて、今回の対戦相手は・・・・。両方共女性?


片方は両刃の斧を担いだ筋骨隆々の女性。もう片方は俺と同じ様に盾を2つ担いだ同じ体系の女性だ。顔が似てるって事はもしかして姉妹?いやキャラクリは自由だから中の良い友人とかか?残念ながらビキニアーマーではなく、しっかりとした西洋鎧を着ているぞ。


ドォンッ!「遅い!一体何をしていた!!」

「あら失礼。2人で愛を確かめ合っていたのよ。」

「ああああああ、愛だと!?しょしょしょしょれってやっぱり・・・。」

「もう、カナちゃんはむっつり何だから。そんなに動揺してたら試合に勝てないよ?」

「うううう、うるしゃいナナ!!」


うむ、どうも友人同士らしい。そして地面を斧で叩き遅いと言い放った方はかなり初心なようだ。というか2人共成人してすぐなんじゃ無いか?斧の方は箱入り娘だと見た!!いやそれよりも・・・・。


「ふむふむ、両手に盾を持つとはいい趣味をしている。しかも取り回しの良いバックラーとは又通だな。」

「あらありがとう。双盾使いの始祖さんにそう言われたら嬉しいわ。」

「双盾使いの始祖?誰が?」

「馬鹿ねぇ。そんなのルドきゅんに決まってるじゃない。旅人で初めて双盾使いになったのは貴方なのよ?」

「そう言う事ですよ。」


む、なんかこう始祖とか言われたらむず痒い物が在るな。なりたくてなった訳じゃ無いし。


「それで?あなた達はどうして戦うのかしら?」

「そりゃ面白そうだからだな!」

「私は憧れた人が出ていたので参加しました。」

「あら?彼はあげないわよ?」

「えぇ譲って貰う必要は在りません。奪いますので。」

「まさかナナがこんなゴリラを好きだなんてなぁ。」

「容姿はどうでも良いのよ。大事なのは中身。そんなだからカナちゃんは彼氏の1人も出来ないのよ?」


えっと?俺一人を置いて女性陣だけで話が進んでいるみたいなんですが?後盾持ちの子が奪うとか言っていたのは気のせいか?


「私達が勝ったらその妻の座。譲って頂きます。」

「ふふふ、小娘にこの座を渡すわけにはいかないわ。掛かってらっしゃい?」

「しゃーっ!絶対壊せない盾をぶち壊してやるぜー!!」


舌戦は終わったらしい。というか勝手に俺が景品扱いになってないか?斧の子は盾をぶち壊す気満々らしいし。


「今回の試合も私が審判を務めます。双方準備はよろしいですね?」

「良いです。」

「バッチ来い!」

「構わないわよ。」

「あー、いつでも良いぞ?」

「では、試合開始!!」


【さぁ次の試合が始まりましたね空神様。】

【そうだね。今回も実況はヘルプさんと僕でお送りするよ。】

【今回の対戦空神様はどう見ます?】

【うーん、斧の子は多分防御無効化攻撃持ってるね。相方の子と良く模擬戦していたみたいだし、今回はいい勝負するんじゃないかな?】

【あのバックラーの子はどう見ます?】

【さすがルド君に憧れてるだけあってしっかりとスキルを取得して来てるね。しかも後追いをするんじゃなくてしっかりと自分のスタイルを確立してる。彼女、拳闘系スキルも持っているから攻撃も出来るからね。バックラーで攻撃を受け流し、カウンターで強烈な一撃を入れる!何て事が出来る子だよ。】

【ふむふむ、これは期待が持てる試合ですね!】

【そうそう、会場の皆さんに説明しておくと。ルド君のパートナーであるシチートさんね。彼女元男だから。】

【そう言えばそうでしたね。性別変換薬で女性になったんでしたっけ?】

【そうだね。盾職の師範としての輝かしい未来が約束されていたのに、盾職の人気が無かった為に王都を追補されてね。今まで交流の在った人達からも縁を切られて絶望してたんだよね。そんな彼女の元に現れたのが盾しか使えないルド君なんだ。否定された存在意義を再確認して、彼に全てを捧げる覚悟を決めちゃった彼女はすぐに女性に姿を変えたんだよ。しかも、しかもだよ?彼女は旅人が居なくなった世界で彼が戻って来る事を信じて。そしていつか帰ってくる彼を待つ為に人の身迄捨てたんだ。そんな事出来る人がこの世界にどれだけ居るだろうね?これこそ僕は愛だと思う訳だよ。】

【並大抵の覚悟ではそこまで出来ませんもんねぇ。人の身を捨てる事で知人達は先に居なくなってしまう訳ですし。】

【だからさ。痴女みたいな見た目だけで判断して、自分の声を掛けたら抱けるんじゃないか!早速声を掛けてみよう!何て思っている諸君。残念だけど彼女の瞳にはルド君しか映ってないからね。とっても一途で、別の人に抱かれるなら死ぬ!!とまで考えてるから今の内に諦めなさい。無駄だから。】

【あー、空神様の言葉で何人か膝をついてますねぇ。何を期待していたんでしょうかね?】

【さぁ、僕には分からいなぁ。あぁ早々、実力でどうにかしようと思っている人はこの後の試合をちゃんと見ておくと良いよ。たぶん、絶望するから。】

【そんなに彼女は強いんですか?】

【あぁ見えて100年近く生きている人だよ?しかも自力で不死になったんだよ?弱いと思う?】

【あー、成程です。あっ!試合が動きますよ!】



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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