第501話
ドンエ帝国の王城。城に在る謁見の間。そこで笑と影が鏡と対面していた。
『作戦は順調ですか?』
「がはははは!順調に奴等を引き込んでおーる!!」
『ふんっ、あの旅人とかいう連中に押されているだけでは無いのか?』
「黙れ愚図が。これも作戦の内よ。」
相も変わらず鏡の男性には厳しい笑。一方影はルドそっくりの姿で自身の事を報告していた。
「僕も大分この体に馴れて来たよー。体の大きさもやっと自在に変えられる様になったし。」
『いい子ね影ちゃん。その調子で頑張るのよ。』
「うん母上!僕頑張るね!!」
笑顔を浮かべて鏡を見つめる影。その影の様子を横目に見ながらどこか寂しそうな顔をする笑。その時、謁見の間に1人の兵士が飛び込んで来た。
「ご、ご報告します!」
「ぶはははは!何事だぁ?」
スッと、玉座に在る鏡を自分の体で隠す笑。兵士は鏡の事には気が付かず、そのまま報告を始める。
「お、王国の奴等がこの帝都迄攻めて来ました!すでに帝都の外は包囲されています!」
「ぶはははは!貴様等は何をやっていたのだ?」
「は、はっ!王国の奴等を妨害しようとあらゆる手を尽くしましたが効果が無く。逆に王国からの妨害工作により兵の3分の1が行方知れずに。新兵器により3分の1が戦死致しました。逃亡者も多数出ております。」
「がははははは!なんとも情けない話だなぁ?」
笑のトーンの下がった声にだらだらと冷汗を流す兵士。
「だがまぁ安心しろ。これも俺の策よ。ぶはははは!王国の奴等はまんまと罠に掛った訳だ!こりゃ傑作だ!がはははははは!」
ほっ「そ、そうなのですね!では我々は今後どのように動けば?」
「そのまま王国兵を帝都に入れぬように足止めしろ。時間が来ればこの影が奴等を倒してくれる。くくくくく、出来るな影?」
「うん!僕頑張るよ笑!」
「おぉ!これは頼もしい。では我々は王国兵の足止めに出ます!では失礼!」
謁見の間から走り去っていく兵士。それを見送った笑の眼は何かに燃えているようにも見えた。
「がははは!敵がここまで来たようですな。では我々も迎撃に出ます。」
『えぇ、頼みましたよ。』
『ふん、無様を晒すで無いぞ?』
「どの口が言うか。では失礼。」
「行って来まーす!!」
兵士達を連れた笑と影は謁見の間を出る。誰も居なくなったその場所で、鏡は“1人”呟いた。
『あぁ、やっと。やっとです。やっと神となってあの人の元に行ける。あぁ待ち遠しい、待っていてくださいまし、私の愛しい君・・・・。』
鏡の中に男の姿は無い。唯一人、黒い長髪を床まで伸ばした1人の女性が映っているだけだった。
やっとここまで来れた・・・・。ルドさんの力を取り戻す為に戦い続けてきましたが、やっと取り返す事が出来そうです・・・・。
「待っていてくださいルドさん。私が必ずあなたの力を取り戻して見せます!!」
「とうの本人は後方で生産職として大変楽しそうに活動していますわよ?」
「今は街の復興にその腕を振るってるもんね。あっという間に家が建つから王国兵の人がビックリしてたよ。」
「きぃぃぃぃぃっ!!ルドきゅんの力を奪った奴なんて放っておいて、あの魔女娘みたいにルドきゅんの傍に居れば良かったわ!!そうすれば傷心のルドきゅんを慰めてあんなことやこんな事も・・・デュフフフフ。」
「うわキモッ!!決戦前やって言うのにシチートはんは相変わらずやなぁ・・・。」
「そういうお姉ちゃんも相変わらずだね。ルドさんに鍛冶を教え終ったの?」
「もううちが教える事はあらへん。うちの知っとる事は3日で全部習得されてしもうたから・・・・。」
「落ち込まないでお姉ちゃん。よしよし・・・・。」
私達の他にもずっと戦ってくれていた旅人の方々が帝都包囲網に参加してくれています。空には飛行船部隊の姿も見えますね。飛行船団の中央を飛んでいるウィンドラから、帝都に向けて降伏勧告が出されました。
【帝国の諸君。君達は完全に包囲されている。大人しく投降すれば悪い様にはしない。大人しく武器を捨てて、両手を上に上げて城門を開けろ。】
「アインさんノリノリですわねぇ。」
「クインさんもやりたいって言ってましたけどね。ウィンドラの艦長は私だから私がやる!って言って聞かなかったんですよ。」
「あら?私はウィンドラ本人がアイン以外に使われるのを嫌がったからだって聞いたわよ?」
「真相はどっちなんでしょうね?」
「どっちでもええんちゃう?」
「だよね。」
さて、敵さんに動きは在りますかね?本当に降伏してくれたら話は早いのですが・・・。
「ぶはははははは!!投降なぞする訳が無かろう!!やれ影!」
「えぇーーーーい!!」
城壁の上にいつの間にかあの笑と呼ばれている人が立っていました。そしてその後ろには巨大化したルドさんそっくりな影の姿が。あの影には何度も何度も進軍を邪魔されました!ルドさんの姿で敵を守る姿には何度も怒りを覚えた物です!
その影が、手に持った何かを空高く投げ上げました。投げた物は空中でバラバラになって、キラキラとした物をばら撒きます。あれは一体?
「あれは羽の様ですね・・・・。」
「もしかして精霊の羽ですの?でも一体何故今?」
「ぶはははは!教えてやる!帝国が精霊を狩っていたのは世界のエネルギーを抽出する為。この羽は全て使用済みのゴミだ!だがゴミと言ってもまだたっぷりと魔素が中に入っている。そんな物が降り注げばどうなる?」
「まずいです!全員退避を!!」
タンケさんが撤退の指示を出すのと、1枚の羽根が地面に着くのは同時でした。
チリッ、ドゴォーン!!
地面に着いた羽が火花を散らし、大爆発を起こします。その衝撃で周囲に居た人は吹き飛ばされ、地面にはクレーターが出来ました。
「ぶはははは!集めた羽はまだまだあるぞ!兵士達も投げろ!」
「撤退!急いで撤退して下さいまし!防御できる人は周りの人を守りながら下がって!急いで!!」
クインさんが口調が乱れる程焦りながら指示を出してくれています。私達も何とか羽を空中で迎撃できないか試みますが、それでも全てを退ける事は出来ません。
ドゴーン!バゴーン!!
爆発の中逃げ惑う王国側の人達。その様子を見て城壁の上に居る笑は文字通り、高笑いを上げていました。
「ぐぅわはははははは!さぁどんどん攻撃しろ!この地にもっと血を流すのだ!!」
ドンドン投げ込まれる精霊の羽。一度崩れた体制を立て直すには撤退するしかなく、私達は帝都を前に逃げ出すしか在りませんでした。
「ですが手の内は見ました!次こそは攻め落とします!」
「さっさとあいつ等を倒してルドきゅんの力を取り戻すのよ!」
「ぶははははは!何度でも掛かって来るが良い!ぶはははははは!!」
翌日。体制を整え直した私達は再度帝都に向けて進軍しました。今度は風魔法を使える人が中心になって風の防壁を作り上げています。これならあの羽の爆撃は怖くありません!
「そう思っていたのですが、城壁に近づいても何の反応も在りませんね?」
「上空からは何か見えますか?」
【・・・・なんだこれは。どうしてこんな事を!!】
「何が在りましたの?状況を報告して下さいまし。」
【帝都内は死体だらけだ!兵士達も全員死んでいる!】
これは一体どういう事でしょう?内乱でも起こったのでしょうか?
「ぶははははは!時が満ちた。ただそれだけよ!」
「あっあそこや!城の上!」
「笑って人ですよ!」
帝都の中央に聳え立つ城。底に笑と影が2人で立っていました。笑が持っている青い光りを放つ筒は・・・・。もしや昨日言っていた世界のエネルギーと言う奴ですか!?
「さぁ、見るが良い!神の復活だ!」
「頂きまーす。」
影が笑から受け取った筒を飲み込みます。それと同時に地面が激しく揺れ出しました。そして、地面に赤い血の様な線が引かれて行きます。
その線は中央の城に居る影に向かって突き進み。影の体を登って行きます。赤く鳴動する光りは次第に禍々しさを増し、影の姿を黒い靄の中に隠してしまいました。
『じゃんじゃじゃーん!これで僕は神様になったよ!』
「嘘、そんな・・・・。」
そして靄が晴れた時に現れた影の姿は、世界を守った時のルドさんそのままの姿になっていました。
「ぶはははは!これで貴様等に勝ち目はない!この力を使って、我々はこの世界を奪うのだ!ぶははははははは!!」
『ふははははははははは!』
勝利を確信したのか笑い声を上げる2人。これは本当に私達が勝つのが難しくなってしまいました・・・・・。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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