第468話
タンケはずっと後悔していた。
タンケのリアルは旅好きだった。見た事の無い景色、味わった事の無い味。それらを求めて昔から世界各地を旅行する程の人物だった。
表の観光地だけではなく、現地の人も寄り付かないディープな場所に足を運んだ事も在る。暴力、脅迫、誘拐、強盗。人の悪意にも数多く触れてきた。
そんなタンケも旅行資金の不足と寄る年波には勝てず。日本に戻る事になった。
だが、ずっと日本に居るとどうしても見慣れた景色しか見れない。数年越しに各地を巡ってみても、少しの変化が在るだけで代り映えもしない。
次第に焦燥感と、喪失感に苛まれるタンケ。この閉塞感をどうにか出来ないかと思っていた時、その広告が目に入った。
『もう1つの人生をあなたに。』
広告の後に映し出されたPVは、タンケが見た事も無い風景を映し出し。現実ではありえないグルメを味わう様子も流れた。たった15秒ほどの短い広告だったが、タンケの心をがっちりと掴んで離さない。
これだ!
そう思ったタンケはすぐに広告のゲームに応募し、見事初期ロットにてゲットする事が出来た。それこそが『Another Life Online』だった。
出来るだけ遠くに、見た事の無い景色を見に!
その思いを胸に色々な所を歩き回った。仲間は作らず、己を鍛え遠くに行く事だけを考えた。途中知り合ったウケンとは、似たような趣味を持っていた為に仲良くなったが、もっぱら住人との交流ばかりをして旅人とはあまり関わらなかった。
時折人助けをしながら、己の身を研鑽する毎日。新しい景色、新しい味、新しい世界にドンドンのめり込んでいった。たった1人で。
だからこそ、あの場所に居られなかった。あの神々が争ったと言われるその時に。
後にウケンから絶対に見て置いた方が良かったと言わしめた神々の衝突。その時タンケは深い森の中に居て、騒動に気が付いて居なかった。デスゲーム等、現実と変わらないと放置していた。だからこそ、自身が一度助けた相手が世界を救う瞬間を見逃した。
その時にしか見れない景色が在る。
そう考えるタンケは、ウケンの誘いを受けなかった事を、あの騒動の時にどこかの街に居なかった事を非常に後悔した。現実では絶対にありえない、旅人と神の衝突を見逃したのだ。街を守ったという黄金の巨人を一目見る事も出来なかったのだ。
タンケは、己だけで探検を続けてしまった事を後悔した。同じ旅人とも、見た事の無い景色が見えるという事を忘れていた己を恥じた。
だからこそ、新しく始まった『Another Life Online2』では仲間を作り、共に冒険するという事をしてみたくなった。その先に見える景色は又違った物になるだろうからだ。
仲間を募る為に引き継いだキャラクターを鍛えた。強さは在っても荷物にならない。この先危険地帯に行く為にも、仲間を守る為にも必須だった。
ある程度己を鍛え上げ、さぁこれから仲間を作ろうかというまさにその時だった。探検家として住人達の間で有名になったタンケにグルンジャ大陸調査の話が来たのは。
最初は参加するかどうか悩んだ。探検仲間を作る為にウケンと連絡を取り始めた所だったからだ。だが、参加メンバーの1人の名前を見て調査に加わる事を決心した。
そう、ルドが調査隊に参加していたのだ。
神々と争い世界を守ったたった一人の旅人(プレイヤー)。もし一緒に行動出来れば、だれも見た事の無い景色が見えるのではないか?調査の目的が世界に影響を与える厄災だという。ならば、世界が変わる瞬間を見る事が出来るのではないか?
そう考えたタンケは国の使者に了承の返事を返す。
その時の決断をタンケは間違いでは無かったと確信した。
乗り物に姿を変えるメイド
子供サイズの精霊
自立稼働するアンドロイド
彼が連れていた友魔は個性的な友ばかりだった。特に乗り物に姿を変えるメイドは自分も是非仲間にしたいと思う程に魅力的だった。
飛行中に見た大陸の全体像。透き通るような真っ青な空。流れる雲に輝く太陽。すぐそばを飛ぶ渡り鳥。遠くに影だけが見える巨大な生物と、空飛ぶ大陸。
飛行機にでも乗って窓越しにしか見れない景色を、ゲームとは言え直接見ることが出来た。現実ではありえない光景を数多く見る事が出来た。
木々が生い茂るジャングルの様な大陸。襲い掛かる敵。その攻撃を全て涼しい顔で受け流す巨人族の彼。
まるで、映画の中に入り込んだかのような景色に年甲斐も無くワクワクした。たとえ自分が脇役だとしても、同じ景色を見る事が出来る事を喜んだ。
やはり彼に着いて来て良かった!
そう持っていた矢先に、ルドが投獄され離れ離れになってしまう。彼の元に居れば、だれも見た事の無い景色が見えると思っていたタンケは落胆する。
自分は主人公になれる様な人物ではない。
そう考えているタンケは、捕まってしまったルドのフォローをしようと精霊郷破壊の事を調査しようと行動を開始した。調査依頼の達成と、もしかしたら彼が連れている様な精霊と仲良くなれるかもしれないと考えて。
そして現在に至る。
「まさか私が主人公の様な事をするとは。人生とは分からない物ですね?」
探検服のポケットから、ワイヤーや四角い箱の様な物を取り出しながらそう呟くタンケ。彼の足元には、山の様に積まれたアイテムが見える。
「今度こそ、世界が動く瞬間を見たいのです。その為の一助になって頂きますよ?他人を不幸にしようとする人は許せないというのも在りますが。」
モッフルたちが精霊を救出している洞窟の周りに、取り出したアイテムを設置して行く。周りに在る木々や、茂みの中にまで出来うる限りアイテムを置ききったタンケは。遠くに見えた男達の姿を確認して身を隠す。
「さぁ、狩りの始まりだ。」
殺気までの温和な雰囲気は成りを潜め。ただただ冷たい視線を男達に向けるタンケ。彼は今、探検家ではなく悪人を狩る狩人となった。かつて、世界を回っていた時の様に。
「た、タンケさん!精霊さんの救出終わりました!」
「あぁ、ありがとうございます。こちらも助け出せましたよ。」
洞窟の中から沢山の精霊を連れて出てきたモッフル。彼女に優しく微笑みながら迎えたタンケの足元には、あの男達が捕まえていた精霊の檻が積まれていた。
「申し訳ありませんモッフルさん。この檻を開ける事が出来ませんでした。」
「だ、大丈夫です。ゴリさんなら開けられます。」
「ではお願いします。」
「あの子達を助けてあげてゴリさん。」
ウホォッ!!
ゴリさんが檻を力尽くでこじ開けている間、モッフルはタンケに疑問に思った事を聞いた。
「あ、あの人達は何処に居ますか?」
「私の実力不足ですね。精霊さん達を助けた所で逃げられてしまいました。」
「な、なら早く追わないと!」
「大丈夫ですよ。奴等が根城にしている国の情報も得ましたし。もう2度とここに来ることは無いと思います。」
「そ、それはどうしてですか?」
「これがこちらに在りますから。」
タンケが取り出したのはあの髑髏の杖とアイテムが沢山入っていると思われる茶色い袋だった。
「アイテムが無ければ奴等は何も出来ませんよ。」
「そ、それでも心配です。しばらく精霊さん達と一緒に行動した方が良いと思うんですけど・・・・。」
「えぇ、私も同じことを考えていました。とりあえずこの場所は埋めてしまって、精霊郷に向かいましょう。」
タンケ達は精霊達と一緒に精霊郷跡地に向かう。その途中、モッフルの友魔達が茂みに向かって視線を向けたが、一瞬の事だったのでモッフルは気が付かなかった。
その茂みの中に、4人分の肉塊が転がっている事に気が付かないまま。モッフル達は先を急ぐのだった。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited
タンケさんの戦い方やスキル等は後々公開予定。ちなみに精霊誘拐は立派な犯罪行為なので男達は赤落ち(レッドネーム)でしたので、処理したタンケさんにペナルティは在りません。大人しいキャラのハズがキャラ立ってしまった・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます