第465話

ルド達が地下に潜って準備を進めている頃・・・・・。


スートタ王国の城に在る尖塔に1人の女性が閉じ込められていた。石材がむき出しの壁に、雨水が滴る天上。コケが生え、ネズミや虫が徘徊する床の中でその女性は・・・・。


バシッ!


「ふむ、今日も生き延びましたね。あなたの命は有難く頂きます。」


床を走っていた虫を捕まえて食べていた。傍らには小動物の骨も転がっている。


バリバリバリ「私は」むちゃむちゃむちゃ「必ず」ごくんっ!「厄災を止めねばならないのです。その為にも生きねば。おっと、病で倒れても行けません。<浄化>」


女性は自身に浄化を掛け、今食べた虫が保持してるであろう病原菌を消滅させた。ついでに汚れた体や服を綺麗にしてしまう。


「政務の最中に入浴など出来ませんでしたからね。覚えていて良かったです<浄化>を。」


食事も出されず、処刑迄の時間を閉じ込められる事しか出来ない彼女は強かに生き延びようとしていた。


「あの人もあの人です!私の偽物を見分ける事が出来ないなんて!これは私の愛が伝わっていなかった証拠ですね。厄災を仕留めた後は、しっかりと私がどれほどあの人を思っているか知らしめねば!」


気合を入れてそんな事をいう女性。そう、この女性こそがスートタ王国王妃のシリッカだった。


コンコンコン。


誰も訪れる事の出来ない、罪を犯した王族専用の尖塔。そんな場所のドアにノックの音が響く。シリッカは、ノックの音に反応せずじっと扉の方を静かに見つめ続けた。


コンコンコン。『母上。私です。』


ノックの音と共に声が響く。だがシリッカはそれでもじっと扉を見つめるだけだ。


・・・・・・・。【母上。私ですよ。】

【最初から念話を使いなさい。厄災がどこに居るのかも分からないのですよ?】

【だからこその声掛けですよ。私はすでに扉の前に居ませんので。】


扉をノックしていたのはこの国の王族、それもシリッカの子供の誰かだった。


【ここに来ることは危険だと言ったでしょう?なぜ来たのですか。】

【母上の処刑が3日後に決まりました。】

【・・・・・・そうですか。あの人はやはり?】

【母上に裏切られた事がショックで、頭がおかしくなってしまっています・・・。今では見目麗しい女性に声を掛けまくって寂しさを紛らわそうとしてますよ。】

【それは全て偽物がやった事です!!】

【父上もそう信じたかったでしょう。ですが不義の子が出て来てしまいましたから。】

【あんな子は知りません!】

【それはそうでしょう。確実に偽物なのですから。】


厄災の工作により、国王は誰も信じる事が出来なくなってしまった。今すぐにでも誤解を解いて慰めたい。だが状況がそれを許さない。


【奴は確実に母上を亡き者にするつもりです。】

【それはそうでしょうね。私の力が在れば奴は逃げられなくなるのですから。】

【母上が力を発揮する前に幽閉されてしまったのが悔やまれます。】

【“眼”を授けられたのがイオクだけ。本来であればもっと“眼”を増やすつもりでしたのに。】


厄災の被害が増加し、このままではいけない!と政務の間に修行を重ね、神の啓示を受けてやっと習得した神の眼を授ける秘法。だがその秘法をイオクに施した所で突然幽閉され、誰とも接触できない様にされてしまった。眼を授けるには直接触れなければならないというのに。


【眼を増やされないように私を排除するのが厄災の目的なのでしょう。自分達が暗躍するのに私の力は邪魔ですから。】

【私にもその眼が在れば・・・。】

【こうして会いに来てくれるだけでも十分ですよ。皆は元気ですか?】

【えぇ、皆元気です。後は母上が戻ってきて下されば・・・。】

【その為にもイオクに頑張って貰わねば。旅人なる人達と接触はしたのでしょう?】

【はい。彼らはスラムの地下教会に身を寄せ、母上を救出する算段をしています。】

【あの人には申し訳ないですが、これも私の身の潔白を証明する為。しばらく我慢して頂きましょう。】

【私の方でも準備をしておきます。】

【頼みましたよ。】


ここで話し相手が念話の有効範囲外に出たのか、繋がっていた感覚が無くなる。又1人になった塔の中で王妃は・・・・。


「さぁ!負けられませんよ!絶対に厄災は仕留めます!その為にもトレーニングです!ふんっふんっふんっふんっ!」


筋トレをして来る決戦に備えるのだった。


一方、国王の傍に居るクインはと言えば。


ベットに横たわるぽっちゃりとした体の男。その傍にクインの姿が在った。男の体に手をかざし、その手はうっすらと光りを放っている。次第にその光りは消えていった。


「・・・・毒は完全に抜けましたわ。もう大丈夫です。」

「ありがとうクインちゃん。わしもう君が居ないと生きていけない・・・。」


ふぅと息を吐きながら立ち上がるクイン。だが男はそんなクインの手を握り、反対の手で握ったクインの手を撫で回しながら上目遣いでそんな事を言う。40歳は超えているであろう、少し白髪の混じった茶髪に濁った銀色の瞳をした男にそんな事を言われても気持ち悪いだけである。


「はいはい、そう言って何人の女性を城に軟禁しているのです?早く私達を開放して下さいまし。」

「嫌じゃい嫌じゃい!全員わしの側室にするんじゃい!」


クインの言葉に駄々を捏ねる男。この男がスートタ王国国王、ダレタである。


「出来る訳無いでしょう?ダレタ様はすでに魔法契約しているんですから。」

「これが在るんじゃもん!この指輪が在れば何人とでも結婚出来るんじゃもん!」


そう言ってダレタが枕の下から取り出したのは、赤く輝く目玉が嵌った真っ黒い指輪だった。指輪に嵌った眼がギョロギョロと動き周りを見渡している。


「何度も言いましたわよ?その指輪は使っては駄目ですと。」

「あの女が使ったんじゃからわしが使ってもいいじゃろう?」

「駄目ですわ。そもそも王妃様はそんな指輪使ってませんわよ。あれは真っ赤な偽物だと言いましたでしょう?」

「嘘じゃもん!あの者は全部本物じゃと言っておった!この指輪を使っていたとも言ってたんじゃもん!」

「だぁーかぁーらぁー!貴方に毒を盛った料理人が逃げた時になぜか部屋に在った指輪!それを見て魔法契約を解除する指輪だと言える方が怪しいと何度も言ってるでしょうに!」

「嫌じゃい嫌じゃい!わしはハーレムを作るんじゃい!」


まったく話を聞かない国王にふかーい溜息を吐くクイン。真実を話しているというのにずっとこの調子で、指輪を大事そうに抱える姿は完全に幼児の様だった。


全く。どうして私がこんな目に!城に潜入しようとして、国王に毒が盛られたと聞いた時はこれは使える!等と思いましたがとんだ思い違いでしたわ。こうなるのでしたら他の方と一緒に動いて居れば良かったですわ・・・・・。


「なぁ良いじゃろう?わしの嫁になってくれぇ。」

「なりませんわ!」

「前の奥が居るから拗ねてるんじゃろう?クインちゃんはツンデレという奴じゃな。安心してくれい。前の奥はきっちりと処分して独身に戻るからの!」

「そう言う事ではありませんわ!私は失礼します!」

「あぁ!クインちゃん待ってぇ!」


あまりの気持ち悪さに部屋を飛び出したクイン。だが彼女は今城に軟禁中。しっかりと逃げ出さないように兵士が後ろを着いて来ていた。


助けが来る前に相談役の男の鑑定だけはしておきたいですわね。


国王がこうなってしまった原因は今の相談役に在るという。城に潜入してから地道に行ってきた調査の結果だ。クインは今の国王の状態と、得られた情報をチャットで報告しつつ相談役の影を追うのだった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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