第450話

空の暴君は混乱していた。自身の体に触れた者は全て腐食し崩れ落ちる。自身の吐息を受けた者は病に侵され死ぬ。自身の羽ばたきを受けた者は何も感じぬまま死ぬ。今まではずっとそうだった。


だからこそ空を自分の物に出来た。空の上は自分の空間。ここに居る者の生殺与奪は全て自分が握っている。はずだった。


最初の異変は空に浮かんでいる大陸だった。目覚めた暴君は目障りな大陸をまず堕とそうとした。だが霧の巨人に邪魔をされてしまった。


だが霧の巨人は弱かった。暴君はすぐに霧の巨人を排除して、まずは大陸に居る生き物を全て取り除こうと考えた。あわよくば大陸を自分の寝床にしようとしたのだ。


だがその攻撃は小さな猫に邪魔された。一度の攻撃済むだろうと考えていた暴君は、意外にも自分の攻撃に抵抗する猫にいら立ちを覚え、すぐに2回目の攻撃を行った。


猫の抵抗はあっさりと打ち破れた。さぁこれから多くの命を喰らおうとした時、先の霧の巨人にそっくりな大男が自身の前に飛び出して来た。


その大男はさっきとは違い、自身の攻撃を完璧に防いだ。それ所か、他への被害を完璧に抑えて見せた。


さらに苛立ちを募らせた暴君は何度も何度も大男に攻撃をした。だがそれら全ては大男がまとう不思議な光に無効化されてしまった。


そうこうしていると、男の背後に嫌な気配が高まって行くのを感じた。光りの玉がこちらを狙っているのを見た暴君は、そちらを攻撃しようとする。


だがなぜか大男から目が離せなかった。そして、嫌な予感が急速に強くなり暴君の体を貫いた。


その時暴君は思い出した。この光は自信を眠りにつかせた光りと同じ物だという事に。光りに包まれる中、暴君が身に纏っていた光りが引き剥がされて行く。自身の身を守る為に神から奪った光りは、塔からの攻撃で全て失ってしまった。


無敵ではなくなった暴君はもう巣は要らないと大陸事小さな者達を鎮める事を決める。自身の最大の攻撃をする為に、攻撃の届かない遥か上空に飛び上がり力を貯める。だがあの大男がまた自身の攻撃を防ぐかもしれない。暴君は慎重に様子を見守った。すると男が身に纏っていた光りが消え、なんの脅威も感じなくなった。


ここだ!


暴君は貯めた力を解放する。一直線に進む“死”という概念を多量に含んだ光線は、目標に達する事無く再度ドラゴンに似た何かに邪魔をされた。


何とか拘束から逃れようと腐食を発動するが、黄色に輝く爪には腐食が通用せずにそのまま目障りな大陸から引き離されてしまった。


そして、突然ドラゴンが腕を引きちぎったかと思えばその腕が爆発。自身の右目と右の翼を持って行かれた。


「ケェェェェェェッ!!」


久しく感じた事の無かった痛みに叫ぶ暴君。だが暴君の受難は始まったばかりだった・・・・。


アイン視点


「ファンティル体制を立て直しました。」

「こちらに対して攻撃姿勢を取っています。」

「いつでも動けるように準備しておけ!ログも見逃すなよ!」

「敵の攻撃来ます!!」


ファンティルの攻撃

疫病・絶望ノ嵐・空ノ暴君・死ヲ齎ス者・収束スキルが発動

スキルコンボ!疫病・絶望ノ嵐・空ノ暴君・死ヲ齎ス者・収束発動により<死滅光線>スキルが発動

特殊状態異常 即死 付与


「回避!」

「ヨーソロー!!」


ウィンドラの回避

緊急噴射装置起動

回避成功


「回避成功しました!」

「続いて第2・第3射来ます!」

「行けるか操舵長?」

「誰に物言ってんです?俺はずっとこの船の操舵をしてきたんですよ?こんなの楽勝ですわ!」


操舵長はそう言って軽々とファンティルの光線を回避して行く。だが敵もこちらが回避するのを見て攻撃頻度を上げて来た!何度か至近距離を敵の攻撃が霞めていく。


『緊急用の推進装置の噴射タイミングを合わせるやん!各装置に魔道人形は配置済みやん!』

「指示はこちらから出しやす!」

「一発も貰うんじゃないっすよ!あの光線を喰らえばウィンドラは落ちますぜ!」

「総員聞いたな?なんとしても攻撃を回避しろ!各種砲塔はどうなっている?」

『お互いの動きが速すぎて照準が間に合いません。』

『1秒、いや0.5秒制止する時間を下さい!そうすれば攻撃が集中できます!』

「今それだけの時間制止したら堕とされっちまうよ!」


だがこのままでは攻撃する事も出来ない。近づいて攻撃しようにも、ファンティルは掴まれた事に警戒を強めたのか一定の距離を取ったまま遠距離攻撃をし続けている。


『・・・・ドラゴニックロアを使うやん。相手の光線と拮抗状態を作れば、攻撃手段の多いこっちが勝つやん。』

「だがロアを撃つには機関部のエネルギーの大半を使ってしまうぞ?他の武装にエネルギーを回せるのか?」

『使いたく無かったけど、方法は在るやん。』


クイナ技師が覚悟を決めた声で方法が在ると告げて来る。もしやその方法とは・・・。


『機関部に在るコアを過稼働状態に持って行くやん。それでロアと他の武装が両立できるやん。』

「その結果コアが破損して2度と空を飛べなくなるんだな?」

『・・・・・そうやん。この方法を使えばコアに使っている賢者の石が粉々に砕け散って2度と復元できないやん。』


それはウィンドラの死を意味する。だがこのままではジリ貧な事に変わりはない。ならば私も覚悟を決め【止めよ。】


気が付けば私は辺り一帯が真っ暗な空間の中に立っていた。


グルルルルル


頭上から響く唸り声、私はその声の主を見る為に視線を頭上に向ける。そこには巨大なドラゴンの頭が存在していた。


「お前が私の意識に干渉していた者か。」

【左様。我はグレートドラゴン。空の王者である。】


グルルルと唸り声しか聞こえない筈なのに、相手の言葉が強制的に意識の中に送り込まれてくる。


「なぜ私を呼んだ?」

【貴様が本意でなはい選択をしようとした為。】


本意では無い選択だと?


【貴様は我と同じ、空に焦がれ、空に生きる者】

「確かに私は空が好きだが・・・。」

【なればこそ、自身の翼を捥ぐような行為を容認できぬ。】


思念の中に私に対する親愛と怒り、そして恐怖を感じ取った。そして、空を自由に飛び回るかつて生きていた時代のグレートドラゴンの姿も見えた。


【ずっと空で生き続けたいのであろう?優雅に空を舞い、空を己の物としたいのだろう?ならば奴の言う事を聞いてはならぬ。】

「ではどうしろと言うのだ。」

【我に生贄を捧げろ。心臓に乗組員全員を注げば何とかしてやろう。】


それは悪魔の誘い。私以外を捧げればウィンドラを失わくても良いという提案。


【さぁ我に贄を!】

「断る!」

【なぜだ!!】


何故も何も考えるまでも無い!ウィンドラは1人で動かしている訳では無いのだ。私が居て、乗組員が居て、それでやっと艦は動いて居る。私達はいわばウィンドラの内蔵であり血液なのだ!


「だから生贄に捧げる事等出来るわけが無い!そんな事をすればお前も動けなくなるのだぞ!」

【だがそうせねば全員が死ぬぞ?我も再び堕ちる事となる。】

「そうならぬ為に足掻いているのだ!」


クルー全員が今、必死で私が引き起こしてしまったこの事態を収束しようとして手を貸してくれている。1人では不可能であっても、大勢の人の手を借りればこの窮地は脱する事が出来る筈だ。


「その為にもドラゴンよ。お前も力を貸せ。」

【その結果我が堕ちる事になってもか?】

「堕ちたとしても、又復活させてやる。今こうして飛んでいるようにな。」


もし今回の戦闘でコアが失われたとしても、新たにコアを作るなり代わりの物を探すなりすれば良いだけだ。その為ならば私は1人でも方法を探すだろう。あいつ等は・・・・、今回沢山迷惑を掛けてしまったからな。私の元から離れて行ってしまっても仕方ない。


【その言葉に嘘は無いな?】

「ある訳無いだろう。この飛行船は私の半身だぞ?どんな手を使ってでも、又空を一緒に飛んで見せるさ。」

【・・・・・・。その言葉、信じよう。】


頭上のドラゴンの頭から、光りの玉が私に向かって飛んでくる。そしてその光は私の中に溶けて消えていった。


【これで汝は我の契約者となった。我に名前を付けよ。】

「そんな物、最初から言っているだろう?お前の名前はウィンドラだ。」

【ウィンドラ。それが我の名か。では空の王者を奪還しに向かうとしよう。】

「頼りにしているぞ。」


まばゆい光りに包まれ、私の意識は戻って行く。その光の奥に多くのドラゴンと一緒に、澄み渡った空を楽し気に飛ぶ巨大なドラゴンを見た。そして、多くの隕石に守ろうとした仲間を落とされ、最後には自身も落とされて行く姿も・・・・。これはウィンドラの弔い合戦でも在るのだな。ならば気合を入れて行くとしよう!!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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