第449話
あれはファンティルに吹き飛ばされてウィンドラが落下している最中だったやん。何とか態勢を立て直そうと乗組員がそれぞれ出来る事に全力で取り組んでたやん。
私も機関部やエネルギー配管の損傷を見直して、最後の作業をしにブリッジに行ったんやん・・・・・。
「まだ体制は立て直せないのか!!」
「浮遊機関に十分なエネルギーが回せて無いんです!今クイナさんがマジックドールに指示を出して修繕してくれています!」
「このまま私の飛行船が負けているのは我慢ならん!早く立て直すのだ!!」
どこかの悪徳貴族みたいな事を言っている艦長は都市の守備隊長をしてるなんて聞いていたやん。けど今はそんな事微塵も信じられないやん。どう見ても空賊の女頭領やん。今も目を血走らせて右手に持った遠距離武器(銃とか言ったやん?)を振り回してるやん。
「えぇい!貴様等には任せておれん!操舵を私に変われ!!」
「ちょっ!!あんた作り直したこの船の操船した事無いだろうが!結構難しいんだぞ!」
「ゲームなんだから私でも出来る筈だろう!さぁ変われ!!」
「いま隊長に舵を奪われたらこのまま墜落しちまう!?皆隊長を止めろ!!」
ブリッジに居た人達がアインという暴君を止める為に体を張り始めたやん。だけどそれだけじゃ、この人は止まらなかったやん。
「えぇい邪魔だ!!」
「「「「ぐわぁーっ!!」」」」
冗談の様に止めようとした人達が吹き飛ばされて行ったやん。そしてアインは悠々と舵を握ろうと歩みを進めたやん。
「さぁここから反撃開始だ!」
アインの手がまさに今、舵を握ろうとしたその時。私は見たやん。どこからともなく突然“バナナの皮”が床に現れたやん。皮の一部にあっかんベーをしているマークが描かれているそれにアインは全く気が付く事無く、思いっきり踏みつぶしたやん
つるんっ!
そこから世界の時間が凄くゆっくりに流れたように錯覚したやん。バナナの皮に足を取られ大きく足を天に投げ出すアイン。彼女はそこから無理矢理体制を整えようと体を捻り始めたやん。勢いに逆らうん事無く、地面に着いていた足を蹴り、逆に滑った足を地面に着けて姿勢を安定させようとして・・・・。2枚目のバナナの皮で滑ったやん。そのバナナの皮には【反省しろby守備隊一同】と書かれていたやん。
捻った体でさらに滑ったアインは、そのまま高速でスピン回転をした後に操舵輪に後頭部をしたたかに打ち付けて倒れたやん。一瞬操舵輪の取っ手部分が頭から突き出した幻覚まで見えたやん。
「だっ、大丈夫やん?」
私は心配になってアインに近づいたやん。そしたら頭の上でなぜかヒヨコがピヨピヨ鳴きながら回っていたやん。アインの眼もグルグル回っていてどう見ても普通の状態じゃなかったやん。
「しっかり、しっかりするやん!衛生兵!衛生兵―――!」
「はっ!?私は一体何を!!」
アインの体を揺すりながら治療できる人を呼んでいると、アインが目を覚ましたやん。その眼はさっきまでと違って、どこか理性の光りを宿していたやん。
「こうしては居られん!早くウィンドルの体制を立て直さねば!」
どうやら理性の光りを感じたのは気のせいだったみたいやん。そんな考えは次の言葉で吹き飛んだやん。
「恐らくあいつの相手はウィンドルにしか出来ん!一度は厄災を倒したルド達でさえも奴には絶対に勝てないだろう。だからこそこのウィンドルを失ったとしても絶対に奴を倒す!この世界の人々の為に!」
あれだけウィンドルウィンドルと言っていたアインが、船が無くなっても良いなんて言い始めたやん!今度この船が落ちたら、修理何て絶対無理だと知っているのにやん!
「隊長が・・・・隊長が正気に戻ったぞーーーー!!」
「お前等起きろ!隊長が隊長してるぞ!」
「あぁ、やっと私達の隊長が帰って来た・・・・。」
「これは夢か?誰か俺の頬を抓ってくれ。」
「痛覚設定弄ってたら意味無いだろそれ。まぁ私も信じられないけど。」
さっき吹き飛ばされた乗組員が起き上がってアインの変化に驚いているやん。だけどその大半が歓喜に包まれているやん。正気に戻ったって事はこっちが本当のアインやん?
「何を寝ているお前達!早く配置に着け!ん?クイナ技師はどうしてそこにいる?」
「エネルギー配管の修繕が終ったやん。最後はブリッジの配管を見直せば終わりやん。」
「そうかご苦労。だがこの後も激戦が予想される。艦を万全にしておいてくれ。報酬の件は後で話すとしよう。急ぎの仕事になるがよろしく頼む!」
本当にさっきまでと同じ人やん?何か凄い気迫の様な物を感じるやん。うちは気が付いたら敬礼しながらその言葉に返答していたやん。
「了解やん!」
この状態のアインなら、本当にあの化け物を倒してくれると確信したやん!!空中大陸を、私達の故郷を頼むやん!
アイン視点
私はずっと悪い夢を見ていたような気がする。ウィンドルが、飛行船が堕ちたあの日。まるで自身の半身を失ったかの様な喪失感を受けた。今までも同僚と永遠に別れる事等数多く経験してきたが、それを遥かに超える衝撃が、自分の命を削られる感覚が私を襲ったのだ。
だがここはゲームの世界。どうにかすれば飛行船は復活するのではないか?あの飛行船と一緒に飛び発った時の高揚感をまた味わえるのではないか?そう考えた私は四方を駆けずり回り、何とか飛行船を修理する事が出来た。
飛行船が修理出来、いざ試験飛行となった時。私の中に何かの意思が流れ込んで来た。それはまるで私を襲ったあの喪失感を、あの不安を掻き立てるような意思。そして自身でも気が付かぬままいつの間にか暴走していた心情を、飛行船を誰にも渡したくない、誰にも壊されたくないという気持ちをさらに加速させる起爆剤となった。
“再度堕ちればもう2度と飛ぶことは叶わない。”
“ならば堕ちぬ程に強くなれば良い。何モノも我々を止める事が出来ない様に。”
“堕とされた。その恨みは晴らさねば。でなければ自由に空は飛べぬ。”
“邪魔する元には報復を。道を邪魔する物には厄災を。我”等“を邪魔する物には死を!!”
私の意識の中に黄色く光る眼を持ったドラゴンがずっと居た。あれは素材となったドラゴンの残留思念だったのではないか?今考えると飛行船に使われたドラゴン素材がどのような経歴で私達の元に来たのかを全く知らなかった。
素材となったドラゴンは何らかの理由で殺され、空から追放された。だからこそ、同じ運命を辿ったウィンドルの素材となった事で思念が増幅され、飛行船に並々ならぬ思いを持った私の意識に干渉したのでは・・・・・。
私が思考の海に沈んでいる間にウィンドラはファンティルを掴んだまま、空中大陸の上空から離脱する事に成功していた。
「隊長!両腕部のエーテルジェネレーターが限界値っす!!」
『ここまで何とか持たせたけどもう限界やん!!』
「乗員両腕部より退避急げ!」
ブリッジに表示されたウィンドルの状態を表すモニターにも、両腕部が真っ赤に染まり今にも爆発しそうだという警告表示が出ていた。私は即座に全員に退避命令を出す。
『避難完了したやん!!』
「切り離し用の爆発ボルトを起動しろ!その勢いに乗って一旦距離を取るぞ!」
「聞いたか!総員衝撃に備えろよ!」
ボカンッ!
ファンティルを掴んでいた両手の付け根が爆発し、ウィンドラはそのまま敵から離れる。乗員は・・・・・全員無事だな。
「被害報告。」
「両腕部全損。ドラゴニッククローはもう使えませんぜ。」
「そのほかには被害は見当たりません。乗員全員無事です。」
『緊急装甲を分離部分に展開したやん。これで爆破した場所に攻撃を受けても大丈夫やん。』
ドガァァァァァンッ!!
報告を受けている途中でファンティルの頭と右の翼を掴んでいた両腕が爆発した。エーテルジェネレーターが限界を迎えて起こった爆発だ。かなりの威力を含んだ爆発は、少なくないダメージをファンティルに与えた。
空の暴君 ファンティル HP556790
「奴の片目が潰れてます。右翼の羽も6割の損失を確認。」
「再生の可能性は?ルド達の報告で上がっていた筈だ。」
「現在経過観察中。ですが現状ダメージ回復の兆候在りません!」
それは朗報だ。なればこそ、今ここでこいつを仕留める!【2度と我等の邪魔をされぬ為に】違う!この世界に住む空が好きな者達の元にこの空を取り戻す為にだ!!
「総員戦闘配置!ファンティルを今度こそ仕留めるぞ!!」
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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