第383話

シェフが持ってきた料理はトマトが入ったブイヤベースだった。具材は海老に白身魚とブロッコリーにジャガイモ。とても美味しそうな匂いが辺りに広がり、油物でダメージを受けた胃が動き出すのを感じる。


「そこの馬鹿とは違い、あっさりとそれでいて食べたという満足感を得られる料理となっているはずです。」

『さぁ後攻のシェフはスープで勝負だ!!これはイタチョウの出す料理を予想してカウンターとして用意していたように思います!というかいつもいつも料理対決してて相手の手の内は知り尽くしているお2人です!!確実に揚げ物で疲れた胃にやさしい料理を仕込んで来たのでしょう!!果たして審査員の評価は!』

「ナレーションさんの話はともかく、とりあえず食べるか。」

「「「「「「「頂きます!」」」」」」」イタダキマス (*^∇^)o<■~~


うむ、海鮮素材は丁寧に下ごしらえされてるな。下手な処理をしていると、魚や甲殻類独特の臭みが目立ってかなり不味くなる。このスープからはそれが一切感じられない。それに合わせられたブイヨンのうまみも生きている。これは酒を飲んだ次の日に飲みたくなるタイプのスープだ。


「エビもプリプリで美味しいですねルドさん。」

「野菜もほくほくしてますわね。」

「あー、さっきの油でもたれていた胃が生き返って行くのを感じる・・・。」

「クリンさんの言う通りホッとする味ですねぇ・・・。」

「猫舌の僕にはちょっと辛いかな?」

「鮫やのに猫舌なん?」

「種族は関係ないと思うよお姉ちゃん?」

「美味しい!!おかわり!!」

「オカワリ(^-^)_□」

「そうでしょうそうでしょう。今お代わりを用意しますので。」

『おーっとシェフの料理を食べた審査員が高評価を叩きだしている!!』

「ぐぎぎぎぎ。」

『果たして結果は!?』


結果はと言われてもなぁ。俺の中じゃもう決まってるんだよなぁ。


『さぁ両者の料理1品目が終わりました!!果たしてここで決着はついてしまうのか!!』

「皆さん正直におっしゃって下さい。私の料理で『満腹』になったでしょう?」

「いや?なってないが?」

「はい、生き返りはしましたが。」

「それだけですわね。」

「食べ続けたいとは思わない・・・かな?」

「クリンさんの言う通り一心不乱に食べたいとは思いませんねぇ。」

「両者と同じ意見かなぁ。一杯だけでもういらないかな?」

「皆もういらないの?なら残りはシアが食べるね!!」

「┐(´д`)┌ヤレヤレ」

「そっそんな馬鹿な!!」

『おーっと!!勝負が決まるかと思われた矢先、審査員からフルボッコにされるシェフ!!正直ざまぁみろと思っています!!』

「ふはははは!!お前の料理なんて所詮その程度なんだよ!!」

『あなたも人の事を言えないんですよ?』

「いっ一体どうして!!何が悪かったというのですか!!」

「うーん、しいて言えば仕込みの時間?おまえこれ、ブイヨンはもうちょい煮込まないと駄目だし、スープを完成させるときも味の微調整しなかっただろ?だからだよ。」

「なっ!なんですと!!」


確かに美味しいスープだった。下処理も完璧でうまみも引き出している。だけどそれだけ、簡単に言えば素材の味そのままです!!って感じだったんだよな。


スープって簡単に見えてかなり複雑な料理何だよ。塩1匙でも間違ったら味のバランスが崩れちまう。それを野菜と魚介両方のうまみを引き立てるように作るなんて簡単にそれも短時間に出来る物じゃない。


今回は料理勝負だからな、板長の料理が想定より早く完成したから慌てたんだろう。細かい部分を端折って完成させてしまったこの料理は、絶対に食べたい!!と思わせる物では無くなっている。


「という訳だな。」

「くっ!私とした事が、まんまと相手にペースを乱されてしまいました・・・・。」

「ぶはははは!!だから言ってんだろうが!!お前はまだまだ未熟なんだよ!!」

「くぅ!!」

『この時点で勝敗は決まらず!!決着は次の料理に持ち越されました!!さぁ私はいつもの通り残った料理を・・・って無い!?』

「あっすまん。全部シアが食べちまった。」

「美味しかったよ?」

『私の唯一の楽しみが!!』


あー、うん。ごめんなナレーターさん?お詫びと言っちゃなんだがこのフルーツタルトを召し上がれ。ってどうやって渡せばいいんだ?あっ、ひとりでにタルトの乗った皿が浮き上がって天井に消えて行ったぞ。


『モグモグモグ・・・・・・。うまーーーーい!!優勝!!この人優勝!!異論は認めない!!』

「「なっなんだってぇーー!?」」

『サクサクのタルト生地に濃厚なのにしつこくないカスタード。そこに乗せられた宝石の様な果物は食感を崩さないように果物それぞれに合わせてカッティング!!物によっては不足する甘さを補うように飴を使ってコーティングまでしてあります!!横に添えられたホイップクリームも憎い演出です!こんなの優勝するに決まってるでしょう!!あぁ紅茶が飲みたい・・・・。』

「あるぞ?」

『下さい!!』


紅茶の入ったポットとカップがまた天井に昇って行って消えた。食器だけは後で返してくれよ?


『という事で審査員の皆さんは下の階層にお進みくださーい。』

「横暴だ!!ちゃんと決着を付けさせろ!!」

「そうですそうです!!それにこの料理対決は私とイタチョウの雌雄を決する物。それ以外の勝敗が在ってはいけません!!」

『だまらっしゃい!!毎度毎度お互いいがみ合ってやれそっちの料理は品が無いだの、相手の事を考えてないだの五月蠅いのよ!!料理なんて好き嫌いは千差万別。何が美味しいか何てその人次第なんだからそれで良いの!!くだらない争いなんかしてないでそれぞれで料理屋でもすればいいのよ!!』

「「うっ!?」」


あらら、相当鬱憤が溜まってたんだなぁ。ナレーションさんがぶち切れてらっしゃる。まぁ旅人が帰ってからずっとこのダンジョンで同じように料理勝負してたんだったら、50年分は鬱憤が溜まってる訳だ。これぐらい言いたくなるよなぁ。


「それじゃあ俺達は通って良いのか?」

『はいはいどうぞ。この馬鹿2人は放っておいて先に進んでくださいな。あっ!!他にもデザートって在ったりします?』

「プリンなら在るぞ?」

『欲しいです!!』

「食器だけ後で返してくれな。」

『はい!!ちゃんと洗ってお返しします!!』

「ルドさんが見えない相手を餌付けしちゃいました・・・・。」

「ルド兄も素人のハズなのに凄いやん。」

「リアルでもルドさんの作った料理を食べたくなってきました。」

「今度またオフ会でも計画するかい?」

「そうですわねクリン。今度は広い会場を押さえますわよ。シェフはルドさんに任せますわ。」

「おいおい、何人前作らせる気だよ・・・・。言っとくけどリアルじゃそこまでうまくないからな!!」


スキルの補正が効いてるだけなんだから期待するなよ!!


「皆さん嘘ですからね?ルドさんは自分の料理の腕に気が付いて無いだけなんです。リアルルドさんの料理かなり美味しいですからね?お店が出来るくらいに。」

「ゴクリッ・・・・それは気合を入れて計画しないと行けませんわね。」

「それとなくルドさんに材料を買って来て貰わないとね。目利きも任せて良いんでしょ?」

「えぇ、それはもう。」

「うちらも行ける範囲にしてぇな。あんまり遠くやったら食べられへんもん。」

「それは寂しいです!!」

「僕とテッタさんもぜひ参加したいです。」

「はい!!会場が決まったら連絡下さい!」

「パパ!!シアもプリン!!」

「σ(゚∀゚ )」

「はいはい、2人にも今出すよ。」


シアとアイギスがプリンを強請って来たから皆が何を話しているのか全然聞き取れなかったな。まぁ俺に内緒にしたい話なんだろう。こういう時年長者である俺は知らない振りをして気を使ってやるのだ!!という訳でさっさと下に降りるぞー。


「ちょっ!!待ってや兄ちゃん!!俺達の決着!!」

「待って下さい!!せめてどっちが美味しかっただけでも!!」

「「待ってぇぇぇぇぇぇ!!」」

『この馬鹿2人は私が押さえておくのでお気遣いなく~。あっ!!次来られた時お土産に期待しておきますね。』


こうして無事(?)俺達は次の階層に進むのだった。あそこで立ち止まったらどれだけ料理を食わされるか分かったもんじゃないからな。さっさと逃げるに限るわ。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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