第322話

あの後ファランは兵士を下がらせて、すぐに3人を霊廟の中に案内した。まぁこれ以上隠している事はアニス嬢にはなさそうだし、通しても問題無いって判断したんだろうな。シルを守る為に実力者が守ってるしね。


俺達はというと、話し合いの席に同席するつもり満々だったんだがシルがそれを拒んだ。何やら色々と聞きたい事が在るそうで?それは今回の件には関係ないからと、まぁあのシルが聞かなくて良いっていうなら今の所聞かなくて良いんだろ。いやぁ本当に残念だなぁ。(棒読み)


シル達の事前の話し合いが終るのを待っている間にリダ達はウィンドル修理の応援に行って貰った。全員が話を聞きたがったが、飛行戦艦の修理が終わっていないとイベントに間に合わないと言ったら双子が慌てて皆を連れて行ってたよ。俺は一応シルの元に3人を案内した責任者って事で霊廟に残っている。1人いればチャットでどんな話になったか報告出来るしな。


ドンッ!!


待っていると部屋の中から何かが衝突するような音が聞えて来た。あー、当たって欲しくない予測が当たったか?シアとルゼダの見立てだから間違いないとは思ってたが、当たって欲しくなかったなぁ・・・・。後でシルに謝らないとな。


「ルド様、お部屋にお入りください。」

「もう良いのか?」

「はい、ここからはヒュマニアの件についての話し合いになります。」


ファランに案内されて部屋に入ると、なぜかブラド君が壁際に座り込んで気絶していて、シーンさんとアニス嬢がそれを見ながら呆然とした表情で固まっている。落ちたナイフを拾いながら、ランスがブラド君を拘束しているって事はやっぱりか。


「間者で合ってた?」

「えぇ、兄様の連絡のお陰で助かりましたわ。」

「怪我無かったか?」

「大丈夫です。ランスが居ましたから。」

「変なの連れ込んでごめんなぁ。」

「いえいえ、ずいぶんと手の込んだ仕込みでしたから。犯人は長男、どうやら小さい頃に一緒に育った人物だったそうですよ?目的はアニスさんの妨害とあわよくば私の殺害。どうやらその罪を彼女に着せるつもりだったみたいですね。他にも色々と貴重な情報が聞けました。」


ブラド君が腹に何か抱えてるってのはシアが見抜いてた。だからスピークバードで伝言を伝える時に、念の為に用心するように言っておいて正解だったな。最初から3人の逃避行なのに戦えない彼が居るのはおかしいってルゼダも言ってたし。戦えない振りしてたんだな。


それとシルがこう言うって事は後継者問題以外にも国政に関わる事で聞きたいことが聞けたかな?あぁ~やだやだ、関わらないようにしておこうっと。


「ふふふ、でも私が助けを求めたら助けてくれるのでしょう?」

「まぁな、兄妹だから助けるのは当たり前だろ?」

「そう言う所兄様らしいですね。」


さてと、これで安心してこの先の話し合いが出来るってもんだ。だというのに一緒に逃げて来たブラド君が兄貴のスパイだったと知って固まっている2人。おーい、やっと話し出来る様になったんだからそろそろ帰ってこーい。


「さて、もうよろしいですか2人共?」

「情けない姿を見せてしまい申し訳ありません・・・・。」

「私も謝罪いたします。」


拘束されたブラドが部屋の外に連れ出されて少し、やっと気を取り戻した2人がシルに謝罪した。ふぅ、このまま固まってたらどうしようかと思ったぜ。


「謝罪は結構。それで城塞首都がヒュマニアの後継者問題に介入するかどうかというお話でしたね?」

「はっはい!その通りです!!」

「単刀直入に言います。私はあなた達をまだ信用していません。此度の件もルド兄様からの話だったからこそ直接会う事にしました。ですが獅子身中の虫を御せない程度では街を導く事は出来ないでしょう。」

「・・・・・ブラドの件は本当に申し訳ありませんでした。ですがこのままではヒュマニアは・・・。」

「結論を焦っては行けません。“まだ”信用していないというだけの話です。そこで、貴方達にはやって貰いたい事が在ります。もちろん旅人の協力を得ても構いません。」

「やって貰いたい事・・・ですか?」

「えぇ、早急にヒュマニアに戻り問題を起こした兄妹を処しなさい。」

「なっ!それは!!」


シルの奴容赦ないなぁ、兄妹を殺せって言っちゃったよ。


「貴方の兄妹の評判はここ首都にも届いています。御父上のゴルドン様が更生しようと躍起になっていた事も、ですがそれも意味を成していない。民を苦しめる為政者であれば、居なくなっても問題無いでしょう?」

「相談役はアニス様に兄弟殺しをしろと?」

「それも為政者になるのであれば通る道。甘えは許しません。」


おうおう、シルの奴圧なんか掛けてかなり追い詰めに行ってるなぁ。そんな自分は姉弟を鉱山送りにしただけの癖に。


「なにか?」

「いや?でも人の上に立つって事は切るべき者を切らないとやっていけないのは確かだぞ?そこら辺はどう思うアニス嬢?」


さて、どう答える?正念場だぞ?


「・・・・・・解りました。」

「アニス様!?」

「良いのですシーン。迷惑を掛けた民たちの前で、処刑いたします。」

「・・・・・そうですか。」


あーあ、“間違えちまった”なぁアニス嬢。若いから仕方ないけど、民を導こうって奴が上の人の言う事だけを聞いてたら駄目なんだぜ?


「やはりあなた方の手助けは出来ませんね。自分達で何とかなさい。」

「そんな!!」

「ランス、ファラン。追い出して。」

「「御意。」」

「待って!!待ってください!」

「この!!アニス様を離せ!!」

「相談役の御前だ!静かにしろ!!」

「ぐっ!?」

「シーン!!」

「さぁ、すぐに出て行きなさい。謁見は終わりです。」

「そんな・・・・・。」


アニスを無理やり外に出そうとしたファランを止めようと、シーンがファランに掴み掛かり、そのシーンをランスが気絶させて部屋の外に運び出した。アニス嬢も肩を落としてそのまま部屋を出て行ってしまった。いやぁ、若人を導くってのは辛いねぇ。


「もう、兄様少しはヒントを上げて下さい。」

「それじゃあ教育にならないだろ?」

「何のために一緒に話を聞いて貰ったのか解らないでは無いですか。」

「人に頼る様じゃダメだって。それで?シルから見てあの子は後継者に相応しいか?」

「・・・・・。まだ若すぎます。騒動が落ち着いたらしばらくは私の元で学ばせます。」

「才能は在る、か。いやはやスパルタになりそうで心配になるね。」

「そう思うなら手助けしてあげて下さい。」

「そりゃもちろん、クランランクを上げて貰う為にも頑張るさ。俺達“旅人”がな。」

「お任せします。」


さぁここまで来てまったく話に付いて行けない諸君!!簡単に説明しよう!!処すって言葉には色々と意味があるがシルの言った言葉は処刑、つまり命を取るという意味だけではない!!社会的に罰するだけで良いっていう含みが在ったんだよ。処すって罰を与えるって意味だからね。


でもアニス嬢はシルの圧力に負けて、兄妹の命を取るって言っちまった。そりゃ為政者になったら身内を切らないと行けない事もある。だけど彼女はまだ後継者“候補”だ。そこまで厳しい判断はしなくても良いし、権限的に絶対に出来ない。そもそも兄妹を殺して統治者になって誰が付いて来る?そこら辺を判断できるかシルは見てたんだな。


これが兄妹の助命を願っていたらシルは全面的に力を貸していただろう。厳しい判断が為政者には必要だと言っても、簡単に命をそれも肉親を切り捨てちゃ駄目だって事だ。時と場合に寄るがね。


まぁそこら辺をアニス嬢は間違えた。本当はやりたくなかったとしても、シルに負けてね。まぁでも自分の手元で勉強させるって事は才能は十分だって事だ。若いから今は沢山間違えば良い。よっぽどじゃないとやり直しが出来るんだから。


「それじゃあ、ちょっくら慰めて来る。俺じゃ意味ないかもだけどな。」

「はい、行ってらっしゃい。」


窓から霊廟の外にトボトボと歩いて行くアニス嬢とシーンさんが見える。シルに助けて貰えなくて絶望している所だろうけど、もう1つのメッセージに気が付くかな?まぁ気が付かなかったら今度は助言してやろう。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る