第320話

ウィンドルは順調に城塞首都に戻っている。ただ、応急修理だけで飛行している関係上、行きと同じような速度は出ず、いささかゆっくりとした飛行になっているが。そんな中俺はと言えば甲板で風に吹かれていた。リダ達もそれぞれ艦内で何かやっているみたいだな。久しぶりに1人だわ。


「まぁたまにはこういうのも良いよな。急ぎの用事が無ければ。」

「うぅぅぅはよせんとイベントに参加出来んくなるで!!」

「急がば回れっていうよお姉ちゃん。そんなに慌てたってウィンドルは早くならないんだし。」

「そんな事言うたかて気が急いてまうのは仕方ないやん!!」

「それは私も一緒だから、少し風に当たって落ち着こ?あっお兄さん!!」


甲板でのんびりしていたら双子のルリとベニがソワソワした様子で甲板に出て来た。2人はイベントに参加して友魔の鈴が欲しいって言ってたからなぁ。参加できるかどうかの瀬戸際で首都に戻るって聞いたらそら落ち着かんわな。っていうかかなり今更だがなんでお兄さん呼び?


「最初に兄ちゃんって言うてもうてから私の中で呼び方決まってしもたんや。」

「私もお姉ちゃんに釣られてお兄さん呼びに・・・。お嫌でしたか?」

「いや別に呼び方は好きにして貰っても良いが・・・。2人は嫌じゃないのか?見ず知らずのおっさんをお兄さん呼びするの。」

「別に?兄ちゃんは兄ちゃんやし、おっちゃんっていう程でも無いで?それとも巨人の兄ちゃんとかルド兄ちゃんって言おか?ぶりっ子しながら。」

「なんかぞわっとしたから止めてくれ。そんな事されたら鳥肌が立つ。」

「じゃあお兄さん呼びで決定です!!」


恥ずかしくて言ってると思ってるな?違うんだぞ?猫と悪魔の悪霊が2人の背中に現れた気がするからこの話は深く掘り下げない様にしておこうってだけだ。うん、まぁ関西の方じゃ若く見える男の人の事を兄ちゃんって呼ぶみたいだからな。普通な事だようん。


「そう言えば兄ちゃんはもう会うた?」

「うん?誰にだ?」

「例の3人ですよ。今は食堂で皆とお話していますよ?」

「そう言えば正式に客人になったから部屋の外に出たんだったか。まだ会って無いなぁ。」


シアとアイギスは今も会いに行っているみたいだけどな。仲が良くなったのは良い事だ、うん。何かのフラグを踏みそうで俺はまだ会いに行ってないんだよなぁ。


「会うてないなら今から行こか!!」

「自己紹介もしないといけませんからね!!」

「あっこら2人共!腕を引っ張るんじゃない!!」

「にっしっし、両手に花でええやん!!」

「そう言う事言ったら猫と悪魔に呪われるぞ?」

「えっ!?それ本当ですか?」


本当だぞ?今の2人の背後で猫がシャーっと怒ってる顔と、悪魔がニタリとほほ笑んでいる映像が・・・・。これ俺だけにしか見えてないのか?


「そんな事はええからはよ行くで!!」

「うわっと!!」

「ちゃんと付いて来ないとコケちゃいますよ!」


2つの幻影は関西の元気娘に無残にも打ち消され、虚空に煙となって消えて行った。そして俺はそのまま食堂に引き摺られて行くのだった。なんでこういうとき巨人種の筋力発揮出来ないのかが謎だ。


2人に連れられて食堂に辿り着くと、1人の男の子(確か女の子だったな。)と後ろに立つ執事と侍女と男の子と一生懸命話をするシアとアイギスの姿が在った。うん、執事さんも侍女さんも若いな。20歳前後くらいか?まぁ憶測だけど。あと侍女さんが戦える人だな、俺が入って来たのを見てすぐに動ける様に重心を動かしていた。まぁこの巨体がいきなり現れたら警戒もするか。


「あっパパだ。もう遅いよ!!自己紹介してないのパパだけだよ?」

「(*´з`)」

「いやぁすまんすまん、甲板でぼーっとしてたんだよ。それで初めましてだな、俺が2人の親代わりで旅人のルドと言う。見ての通り巨人種の盾使いだ。よろしくな。」

「パパの守りはすっごい堅いんだよ!!皆の事一杯守ってくれるの!!」

「(((uдu*)ゥンゥン」

「シアちゃんとアイギスちゃんのお父さん?」

「うん!!」

「(ノ´∀`*)」


椅子に座っている子の姿は、どこか品の良いブレザーと短パンという格好に、茶色く短い髪と青い瞳だった。執事さんは銀色の髪と黒い瞳、侍女さんは赤い髪と茶色い瞳だな。執事と侍女って言うから格好は想像つくだろ?執事服とメイド服を着ている。


「初めまして。わ・・僕はアジスと言います。」

「アジス様の執事のブラドにございます。」

「侍女のシーンと申します。」

「ほい、初めまして。聞いたよ、色々大変だったみたいだな?体調は大丈夫か?」

「ゆっくりと休ませて頂きましたから。それに今は皆さんが居ますし。」


結構しっかりした子だなぁ。まぁ街の代表を継ごうってんだからこれくらいは普通か。俺がこの子くらいの時は・・・。駄目だ、枝にう〇こ刺して遊んでた記憶しかねぇ。


「元気なら良かった。それで?今何の話をしてたんだ?」

「えっとねぇ~。好きな食べ物の話でしょ?パパの事でしょ?後は城塞首都の名前がパパの名前なんだよってお話してた!!」

「v( ̄Д ̄)v 」

「シアちゃんに聞きました。城塞首都が元々開拓村だった時にお1人で魔物暴走から守り切ったのだとか。僕にもそれくらいの力が在れば・・・。」


おっと?この子勘違いしていないかい?あの防衛戦は村人の協力が在ったからこそ成功したんだぞ?それに根本的に間違ってる!!


「俺に戦う力は無いぞ?」

「えっ?でも街を守ったとシアちゃんが・・・。」

「あー、昔っから俺呪われててなぁ。相手にダメージっていって伝わるか?まぁ痛手を負わせられないんだ。だから文字通り、この盾で押し寄せる魔物を止めただけ。殲滅したのは開拓村に居た人達だった訳だ。いやぁ、あの時は死ぬかと思ったな。結構ギリギリだったし、味方もいなかったしな。」

「そうなんですね・・・。」


アジス君?ちゃん?まぁ良い男の子の振りしてる時はアジス君で。そのアジス君は俺から話を聞いて肩を落とした。幻滅させちまったかな?


「でもパパが凄い事に変わりないんだよ?だって村に魔物を入れなかったんだもん!それで沢山の人が助かったってリクさんが言ってたよ?それで村の名前にしたんだって!」

「それは本当に凄いですな。魔物暴走となりますと襲撃してきた魔物の数は万を超えたはず。その全てを受け止められるとは簡単に出来る事ではありませんな。」

「巨人種だった事も良い方向に働いたのかと、巨人種はその強靭的な耐久力と膂力で名を馳せた種族です。現在純粋な巨人種は居なくなったとされていますが、半巨人でもその力は驚嘆に値します。それでも偉業に間違いありませんが。」

「そうなの?ブラド、ジーン。」

「「はい。」」


昔やったやんちゃを英雄譚として話されているみたいでめっちゃ恥ずかしい!!執事さんも侍女さんもそんなに詳しく解説しなくて良いから!!そろそろ話題を変えないと俺の羞恥心が持たないぃぃぃぃ。


「そう言えば3人はこれからどうするん?城塞首都に行ってから。」


俺の後ろで話の動向を見守っていたルリが声を掛けてくれた。ナイス話題転換ルリ!!これで俺の話から離れられる!!


「首都に居られる相談役に渡りを付けようと思っております。アジス様の苦境を助けて頂くには彼のお方の英知に縋るしか無いかと。」

「何か伝手は持っておられるのですか?国のしかも国王の相談役ですよね?そんな偉い人と連絡しようと思ったらそれなりの人と関係を持ってないと不可能に思えちゃいますけど?」

「残念ながら私達に直接の伝手は在りません。アジス様が王の血族である事を使ってまずは国王に話を持って行こうとは思います。」


ほむ?この子が王の血族なのかい?まぁヒュマニアは元々王都だから血を残していても不思議じゃないけど、何やら訳ありな感じ?血族の話をしている時のアジスの表情がまた沈んでいるけど。


後シアもアイギスも話をしていないのか?リダ達も喋ってない感じ?俺がシルの兄貴だって事黙っててくれたのか?それとも俺に判断を委ねたのかどっちだ?


「にひ~。」

「( ´艸`)」


うん、こりゃ俺に丸投げしたんだな。シアとアイギスがまぁ良い笑顔でこっち見てるわ。さてさて、どうしますかね?


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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