第284話

「さて試験の内容じゃが・・・。」

「ごくりっ。」


真剣な顔をして私に試験の内容を伝えようとするお爺さん。私もその真剣さに飲まれて喉を鳴らしてしまいました。ですが次にお爺さんから発せられた言葉で私の頭にはハテナマークが浮かびます。


「ちぃーっとお主の心を試させて貰う。」

「心を・・・ですか?」

「そうじゃ、シンハから受けた教えがきちんと伝わっているかの確認じゃ。そこを確かめねば他は教えられん。」


心を試すとはいったいどういう事なんでしょう?確かに心義夢想流は心の流派。心に正義を宿して悪に立ち向かう流派です。シンハさんからはそのように教えられ、主に精神鍛錬を中心に教えられてきましたが・・・・。


私がちゃんとその教えを守っているか知りたいという事なのでしょうか?だとしたら受けて立ちましょう!!お爺さん達の教えは今も私を助けてくれていますから!!


「解りました!私はどうしたら良いですか?」

「覚悟は良いようじゃの。ならば、ちょいと失礼するよ。」


お爺さんが私の額に手を当てます。シンハお爺さんの手の様にしわくちゃの手から、温かい何かが流れ込んで来たと思ったら私の意識はそこで途絶えました。


気が付くとそこは真っ暗な空間でした。自分の体ははっきりと見えるのに、他の事が何一つとして分かりません。


「ここは何処なんでしょう?」


そう私が呟いた時、辺りが明るくなって行きました。そしてそこに現れたのは・・・・・。


「オラオラッ!!俺の言う事を聞け!!お前は俺の友魔何だからな!!」

「うわーん!!痛いよパパー!!」


私の目の前に現れた光景、それはシアちゃんに暴力を振るうルドさんの姿で・・・・。私はその光景を見て思わず・・・・・。ダッシュで駆けて行って右ストレートでルドさんをぶっ飛ばしました。えぇ、一瞬も躊躇しませんでした。だって完全に偽物ですし?ルドさんがこんな事するはずが在りません!!あれだけシアちゃんやアイギスちゃんを溺愛しているんですから!!


「何やってるんですかあなたは!!えぇ解ってますとも、貴方は偽物で本当のルドさんではないという事を、でも私の前でルドさんを汚すならば全力でぶん殴りますよ!!それはもう顔の形が変わる程に全力で!!」

「殴った後に言うセリフでは無いのぉ~・・・・。おーいててて・・・。選ぶ相手を間違えたかの?こやつが一番心が動くと思うたんじゃが・・・・。」


ぶっ飛ばしたルドさんの口から先程のお爺さんの声が聞えます。するとシアちゃんは消えてルドさんの姿もいつの間にかお爺さんに戻っていました。まったく、私がルドさんの偽物を見分けられないと思っているんですか!!失礼です!!


「お前さんの一番大事にしている人が目の前で悪行に及んでいたらどう対応するのかを見ようとしたんじゃが・・・。お主は心義夢想流とは関係なくこやつを殴ってでも止める意思が在るんじゃのう~。失敗したわい・・・。これじゃあ試験にならん・・・・。」

「当然です!!ルドさんが間違った道に行ったら私が殴って連れ戻すんですから!!」


甘く見ないで貰いたいです!!愛や恋をしたならば相手の言う事を聞くだけでは駄目なのです!お互い譲れない部分の意見をぶつけ合い譲り合って築いていく!それこそが夫婦への道とこの前読んだおしどり夫婦になる為のコツに書かれていましたから!!ぶつかり合う事を恐れない私をそこら辺の小娘と一緒にしないで欲しいですね!!


「むぅ~。こりゃ失敗したのー。この後同じような試験をしても通じぬじゃろうし・・・・困ったのぉ。そうじゃ!!別の試験で試すとするかの。」

「別の試験ですか?」


確かのこの手の試験は一度行うとネタバレになって同じ試験を受けても意味が在りません。次はどのような試験になるのでしょうか?


「そうじゃ、まずは服を「何を言おうとしているのかしら?この色ボケ爺。」・・・・・。いやぁ~、何でもないぞい?婆さんや?」


次の試験内容を口にしようとしたお爺さんの頭を突然現れたお婆さんがアイアンクローで釣りあげてます。その早業を私は見抜く事が出来ませんでした。というかいつの間に現れたんでしょうかこの人?


お爺さんもお婆さんも腰が曲がっておらず、白い道着の様な服を身に纏っています。頭髪は両方共白。お爺さんよりもお婆さんの方が背が高く、目の色はお爺さんが青でお婆さんが赤ですね。それよりもお婆さんの若さが気になります。お爺さんの婆さんや発言を受けてお婆さんと言っていますが、どう見ても30代くらいの女性ですよ?お爺さんはお爺さんだというのに。


「ちょーっと目を離している隙にずいぶん若い娘を連れているのね?」

「いや違うんじゃよ?街で馬鹿弟子の墓参りをした後に人に当てられてな?このお嬢ちゃんが助けてくれたんじゃよ。」

「ふ~ん、へぇ~ん、ほぉ~~~~~ん?どうせ穢れに当てられたとかいって抱えられるか背負われて移動したんでしょう?若い娘と密着出来てラッキーとお思いになったでしょうね?毎回毎回同じ手で何人の女の子に手を出しているんですかねぇ~~?」メキメキメキ

「いだだだだだだだっ!!おもっとらん!!そんな事微塵も考えとらんぞ!!嬢ちゃんの移動速度が速すぎて考える暇もチョーっと尻や乳を触る暇も無かった・・・・・。あっ!」

「ギルティ。」ブンッ!!ゴキィッ!!

「ぶぼぉっ!?」キラーン☆


お爺さんとお婆さんが私の目の前で言い合いになりました。婆さんの会話から推察するにお爺さんは何度も同じ手で女性に助けて貰っていて、助けられている間に女性の体を触りまくるセクハラ爺だったようです。


困っていると思って助けた私はどうやら獲物にされそうになっていたみたいですね。そんな下種な心の声を漏らしたお爺さんは、お婆さんの打撃によって空の星になりました。えっとこの場合私の修行はどうなるんでしょう?仙人と言うのも嘘だったのでしょうか?


「御免なさいねお嬢ちゃん。家の人が迷惑を掛けて。」

「いえ、ですがあの人が仙人でシンハさん達の師匠と言う話は・・・・。それに修行を付けてくれるという事だったのですが。」

「あぁ、それなら大丈夫よ。仙人だというのは本当だしシンハちゃん達の師匠だったというのも本当。まぁあの人は遊び惚けていて教えたのは私なのだけど。今回もあの子達の悲報を聞いて、お墓参りのついでに道場を引き継ぐ為にこの街に来たんですもの。あなたはシンハちゃんの弟子だったみたいだし、私で良ければ修行を付けてあげるわ。かなりきつい修行になると思うけど・・・・。初歩は出来ているから問題無いでしょう。どう?」


それは願っても無い話です。それにお爺さんよりもこのお婆さんから感じるプレッシャーの方が圧倒的に大きい物で、かなりの使い手と見受けられます。この人の元で修行すれば、今度こそ最後までルドさんの隣に立てそうです!


「よろしくお願いします!!あっそう言えばお爺さんはどうします?」

「はい、お願いされました。あの馬鹿の事は良いのよ。仙人の力を悪用して女性にセクハラしまくるような人ですから。それにあれくらいじゃ簡単には死にはしません。」

「はぁ・・・・。」


とは言え空の彼方に消えていく程の威力を受けたんですよ?到底無事だとは思えないんですが・・・・。


「いやぁ、ひどい目に会ったわい。」

「自業自得でしょうに。」

「えっ!?雲!?乗ってる!?」

「何を驚いておるんじゃ?」

「仙人ならこれくらい出来るわよ。」


お婆さんと話していると、先程星になったお爺さんが雲に乗って帰って来ました。見た感じ怪我も無く全くの無傷です。この人も唯のセクハラ爺ではなく、ちゃんとした仙人と言う事なんですね。


「さてそれじゃあお互いに自己紹介。私はマコ、こっちはサジ。あなたのお名前は?」

「あっ私はリダと申します。これからよろしくお願いします!!」

「はい、よろしく。それじゃあ早速だけどお願いが在るの。」

「なんでしょう?」

「道場を開くための許可と土地を確保してきてくれない?あなたなら簡単でしょ?」


もしかして私はまた騙されているのでしょうか?何やら人を騙した後に要求するような事を言われています。許可と土地何て簡単に取れる訳ないですよね!?


「ふふふ、ちょっとあなたの頭の中を覗いただけよ。あなたの知り合いに簡単に出来る人が居るでしょう?その人にお願いしてきてくれないかしら。もちろん、紹介状と必要なお金はちゃんと用意しています。それに好きな人の隣に立って戦いたいなんて応援したくなっちゃうじゃない。だからとても簡単だけどこれはあなたへの入門試験よ。頼めるかしら?」


頭の中を覗く・・・・。つまり相手が何を考えているかわかるという事ですか!?それはルドさんの好みや好きな料理や私の事をどう思っているか全てが筒抜けになるという事でわ!?


「仙人になればそんな事も出来るんですか!?」

「長く修行を積めばね。さぁ、どうするの?」

「もちろん行ってきます!!そしてその技を是非教えてください!!」

「この娘、目的が丸解りじゃのう。大丈夫じゃろうか?」

「貴方に比べれば可愛い物ですよ。ではお願いしますね。」

「はい!!」


これでルドさんの心を覗けば私をどう思っているかわかるって物です!それに、お婆さんの手管を見るに男を手玉に取る技術や制圧の仕方は達人級のはず。その技術を覚えて置いて損は無いはず!ルドさんと一緒に居る為に私は頑張りますよ!!


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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