第285話
リダさんやルゼダと別れた後、守備隊の訓練場に向かって歩きます。ルドさんもリダさんもこの世界を楽しむために序盤ながら力を付けようと頑張っています。なら僕も頑張らないと!!
まずはシルさんから教えて貰った守備隊の剣術師範の所に行きます。その為の紹介状は獲得済み。到着した訓練場で門番の兵士にそれを見せるとすんなりと中に通して貰って案内までして貰えました。他の旅人達から注目を集めていましたけどね。
そして中に入って僕は驚愕します。なぜならば、案内されたそこには上半身裸で一斉にボディビルダーのポージングを取る兵士達の姿が在ったからです。
「そう!!筋肉は人に見せる事でその輝きを増す!!筋肉を育て、大きくした後は人に見せて美しくするのだ!!そして筋肉を賞賛する!!ナイスバルク!!」
「「「「「ナイスバルク!!」」」」」
・・・・・・・。僕はその光景に唖然とします。いや戦闘訓練はしないんですか?ただ筋肉を大きくするだけじゃ戦えませんよ?
「あっすみません。案内したい場所はここの奥です。ここは唯筋肉好きが休みの日に集まってボディビルを楽しんでいるだけなので。」
「あぁっビックリしました!もしこの光景が兵士の訓練風景だったらシルさんに冗談抜きで訓練方法を変えて貰うように進言する所でした。」
「ハハハ、ソンナコトアルワケナイジャナイデスカー。」
どうしてそこで目線を逸らすんですか?もしかしてこの人達兵士の訓練放って筋肉ばっかり育てる脳筋なんですか?これは本当にシルさんに報告しないといけないかもしれません・・・。
「ささっ!!こんな筋肉臭い所は置いといて先に進みましょう!!」
「「「「「「「ナイスバルク!!」」」」」」」」
「何か一斉にこっちを向いてポーズを取ってますが?主にあなたに向けて。」
「・・・・・・キノセイデス・・・・。」
案内してくれている兵士さんもそれはもう凄い筋肉をしているのですよ。全盛期のアーノルドな人の様な筋肉です。たぶんこの人も普段はあの筋肉集団の仲間なんでしょう。じゃないとポージングに反応して筋肉がピクピクしている理由が解りません。
そんな筋肉集団を放っておいて、第2訓練場と書かれている場所に到着します。そこではきちんと剣や盾を使った訓練を兵士達が行っていました。
そしてその中で一際目を引く女性が居ます。周りに居た兵士達を手に持った剣と盾で1人で捌き、打倒していく姿はとても鮮麗でまるで舞を踊っている様です。
「あの人が相談役があなたに教えた教官です。トイナ教官!!相談役から連絡の在った訓練生です!!」
「今行く!!ふんっ!!」
「「「ぐわぁーーーっ!?」」」
トイナと呼ばれた教官が、周りに居た兵士達を剣の一振りで吹き飛ばしてこちらに歩いてきます。その額にはあせも浮かんでおらず、彼らの相手ではまるで疲れた様子を見せていません。逆に倒れ伏した兵士達は全員満身創痍です。
こちらに近づいて来たことで容姿が鮮明に見えました。銀の頭髪にそこから飛び出る狼の耳、そしてグレーの瞳に引き締まったからだ。かつてのリダさんと同じ狼獣人の女性が僕がこれから教えを受ける教官の様です。
「私が相談役が君に進めた教官だ。君の名は?」
「クリンと申しますトイナ教官。」
「クリンか、まだ私の事は教官と呼ぶな。まだ君を指導すると決めていない。試験を超えたならば、教官と呼ぶことを許そう。」
どうやら修行をして貰う為には試験をクリアしないといけないみたいです。
「君にはまずここに居る兵士達と立ち合いをして貰う。相談役の話では剣と盾の扱いに申し越し慣れておきたいという話だったな?」
「はい、他の事に関しては別の人に教えを受けるつもりですので。」
僕のビルドは好きなゲームの主人公を模している為か、かなりバランス型になってしまっている。それはそれで良いと言う人も居るだろうけど、逆に言えば突出した能力が無いから困難な状況に陥った時に打開する為の決定力が不足しているんだ。だけど僕はバランス型から変えるつもりは無い。だったらどうするか?すべての能力を上げれば良いんだ。
その為に無理を言って守備隊では剣と盾の訓練を、冒険者ギルドでは道具を使った戦い方と新たな道具の情報と作り方を集めようと思っている。その手始めがこの教官に弟子入りする事だ。
「ならば貴様は剣と盾以外の仕様を禁じる。体に付けている物を全て外せ。」
「解りました。」
アクセサリー枠に入っている望遠眼鏡や爆弾袋、鍵爪ロープやスリングショットは外す。これで僕は攻撃力の半分を失った事になる。その代わり開いたアクセサリー枠には流派継承者の証を装備した。教官も証には言及せずに他の装備が外れた事に納得していたから許されたかな?
「ではクリンは中央に立て。貴様等いつまで寝ている!!貴様らの後輩が入ったぞ!軽く揉んでやれ!!」
「ぐへへへへ、ちびがいっちょ前に剣と盾を持ってやがるぜ。」
「俺達が受けた地獄の苦しみをお前にも味合わせてやる・・・。」
「トイナ教官容赦ないからな・・・・。その鬱憤をお前で晴らす!!」
「トイナ姉さまの容赦ない攻め・・・・好き♡ポッ」
トイナさんの声に今まで倒れ伏していた兵士達がゾンビの様に起き上がり武器を手に取った。その口から出るのは小さな僕を見てあざ笑う言葉と、自分の受けた理不尽な痛みを相手にも味合わせたいというねじ曲がった言葉だった。一部変な事を口走っている女性兵の姿も在るけど・・・・。まぁ僕には関係ないよね?
「100人組手開始だ!!」
「「「「「「死ねおらぁっ!!」」」」」」
「死にたくは無いね!!」
どうやらこの戦闘はミニゲームになっているみたいだ。いつもの様に戦闘用のログが出ない。勝利条件は・・・・。相手のウィークポイントを剣か盾で叩くか、攻撃を避け続けて体力を消耗させるかの2つ。なら僕はこの小さな体を利用して後者を狙う!!
「貴様!!何のためにここに来た!!戦う術を磨くためじゃなかったのか!!」
「っ!?」
僕が逃げて相手の体力消耗を狙おうとしたのが解ったのか、トイナ教官から厳しい指摘が飛んで来た。確かに教官の言う通りだ。ここで逃げてちゃ、僕の目的は達成できない。
それに僕の憧れた勇者だったら、これだけの数でも難なく戦っていた。特にこの小さな体の勇者はアクロバティックな動きで敵を翻弄して後ろや頭上を狙って攻撃していたんだ。ならば僕もそれに習う!!
「このっ!!」
「ちょこまかと!」
「速くあんたをたおしてトイナ姉様にご褒美を貰うのよ!!」
「ぐあっ!!こいつ背中を!!」
軽業スキルのおかげで思ったように動ける。相手の攻撃を避けてカウンターとして頭に、背中に斬撃浴びせる。飛び上がり体重ごと剣を振るえるから小さな体でも威力は出ている!!後はあの赤いポイントに攻撃を当てられる様になるだけだ。
クリンが襲い掛かる兵士相手に憧れの勇者の動きを再現していく中、その戦いを見守っていた案内役の兵士はトイナにクリンが弟子入りできるのか気になり問いかけていた。
「どうです?あのチビちゃんは。見込み在りそうですか?」
「・・・・そうだな。剣術のけの字までなら教えても良いな。」
「ほう?今日到着したばかりでもうそこまでですか?舞流剣術の師範代であるあなたがそこまで言う程才能が在ると?」
「才能は恐らくないだろう。だがあいつには目標とする姿が見えている様だ。ならば後は努力次第という所だ。あの戦い方をするのならば私の戦い方が合うだろう。今はただ、それだけだ。」
努力次第ではかなり化けるだろうがな。
相手の力を時には受け流し、時には利用して弱点を突く流派。その師範代であるトイナは自身の中にある本音を兵士には語らず、どんどんと動き方の変わっていくクリンの姿を見てニヤリと口元を歪めるのだった。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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