第255話

元祖にも本家にも城壁の外で試験を行うと伝え、試験の内容をリダ達と相談してからログアウトした。メイドさんにお願いして道場で起こった事もちゃんとシルに報告しておいたぞ?


1時間の休憩の後にログイン、とある人物達に声を掛けてからリダ達と合流して城壁の外に向かうと、すでにルーシとドルーにその家族、そして門下生たちが待っていた。なぜ全員が居ると解ったかって?メイドさんが名簿を作って確認してくれましたよ。ほんとシルの所には優秀な人が揃っている様で何よりだ。


「なんで貴様らがここに居る!!後継者になるのは私達だ!!」

「いいやワシらの方だ!!偽物は今すぐに帰れ!」


うん、すでに双子にその家族、門下生たちが同じような言葉で言い争いをしているけどね。このまま両方潰れてくれないかなぁ・・・・。


「ルドさん、行かないと収まりませんよ?」

「パパ頑張って!!」

「ファイトォ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*!!!☆」

「私達は予定通りに動きますわ。」

「先に行って待ってますね!!」

「はぁ・・・しょうがない。じゃあとは頼むな。お前等沈まれ!!」


俺の声が響いた所で騒いでいた連中がやっと俺が来たことに気が付いた。もうこの時点で2人共失格にしたい・・・・。


「これより試験内容を発表する!!元祖も本家も代表者を3名選び元神技無双流道場迄行って帰って来る事!!道場跡地の墓標にはこれが置いてあるはずだ!!それを持って帰って来た者が後継者だ!!制限時間は日没までとする!!」


そう言って俺は手に持った鬼神斧槍流の紋が入った気の板を見せた。試験に使う板にはちょっとした仕掛けをルゼダ協力の元教会に頼んで付与して貰っている。さて合格者は出るんだろうか?


「スタートは1時間後。それまでに代表を選びこの場所からスタートさせろ!残りの者は待機だ!!妨害工作や不正行為は許さん!!この場から動いた者が出た道場は即時失格!!不正行為が発覚した時点でも失格とする!!説明は以上だ!!」

「そんな簡単な事でしたら私の道場がすぐに突破しますわね。」

「わしの道場が一番じゃ!!隠居婆は黙っておれ!!」

「何やらしなびた爺から戯言が聞えましたが気のせいでしょう。」

「この場で喧嘩するなら両方失格にするぞ!!」

「「ふんっ!!」」


本当にこいつら合格するつもりが在るんだろうか?


「さぁあなた達、その若さで目標地点に一番先に辿り着き証を持って帰るのです!」

「「「はっ!!ルーシ様の御心のままに!!」


元祖の方はルーシの取り巻きのイケメン男子三人が代表の様だ。ってかそいつらも門下生だったのかよ。自分好みの男性を優遇してるの丸わかりじゃねぇか。他の門下生と装備迄違うぞ。


「我が道場の未来はお前達に掛かっている!!あの性悪婆の子飼いになんぞ負けるんじゃないぞ!!」

「「「はい師父!!」」」


こっちはこっちで身内ばかり選んだなぁ。門下生は冷遇して身内ばかり優遇してたからあれだけ弱かったのか。


「では参りましょうか。」

「はい!!私もがんばります!!」

「俺も真の鬼神斧槍流の門下生になる為に頑張ります!!金を取り戻してくれた恩もありますからね!!」

「「「「「「「「「えっ!?なんで!?」」」」」」」」」」」」

「だれも参加者がお前達だけ何て言ってないぞ?」


第3陣営としてシルの所のメイドさんとオーニャ、そしてルーフ君の3人がスタート地点に並んだ。うん、この子達に参加するように言ったのは俺だ。ルーフ君のお金は昨日、試験の参加条件として俺が回収しました。


さて、役者は揃ったので早速スタートしますか!!


「それでは鬼神斧槍流後継者争奪レース!!よーいスタート!!」


俺の掛け声で代表者3名は走り出した。戻って来れるのは誰になるかねぇ。


元祖チーム

「俺達は最高の装備を持っているんだ!!一番乗りを目指すぞ!!」

「ルーシ様から賜ったこの疾風の靴で移動速度は一番速い!!」

「トップでゴールして沢山可愛がってもらうぞ!!」


3人のイケメンは魔道具の効果を使い平原を駆け抜ける。その速度は他の2チームをどんどん突き放し、あっという間に置き去りにするほどだった。


「誰か!!誰か助けて!!」


走り続ける元祖チームの前で、1人の女性がジャイアントウルフに襲われていた。その女性はみすぼらしい襤褸に身を包み顔を隠していた。持っている杖で何とかジャイアントウルフを追い払おうとしているが、ジャイアントウルフは何も脅威に感じていないのか今にも女性に襲い掛かりそうだ。


「そこの御三方!!どうか助けて下さい!!」

「ならん!私達は重大な任務の途中だ!!自力で何とかしろ!」

「そんな!!キャーーーーーッ!!」


女性の助けを請う声に即座に否定で返した3人は、スピードを一切落とすことなく女性を置き去りに走り去ってしまった。女性の叫び声に振り返る事もせず、3人は主人の命令を遂行する為だけに走り続ける。


本家チーム

「急げお前等!!爺様が怒ると怖いぞ!!」

「解ってるよ叔父さん!!」

「元祖の連中魔道具を使うなんてずるいぞ!!」


本家チームは走り去った元祖チームを見送りながら一生懸命駆けていた。すぐ後ろには突然参加表明をしたメイド率いるチームが迫ってきている。


「安心しろ。この先にはどんな手を使っても相手を妨害する様に雇った冒険者が居る。そいつらが元祖チームを足止めしてくれるだろう。」

「叔父さんも悪だねぇ。」

「勝てばいいんだよ。そうすれば鬼神斧槍流の名誉でなんとでもなる。」

「誰か!!誰か助けて下さい!!」


ひそひそと、当たり前の様に不正行為を行っていると話をする3人。その3人の前にジャイアントウルフに襲われている襤褸を纏った女性が姿を現した。


「どうする叔父さん?」

「無視だ無視。それにほれ、あの甘ちゃんたちが助けに行ったぞ。」

「馬鹿な人達だねぇ。でもこれで僕達の勝ちは決まりだね!!」


女性を無視して横を通り過ぎる本家組。メイド組は女性を助ける為に足を止めたのでその姿もすぐに景色の向こうに消えて行った。


そのまま平原を走り抜けている途中、落とし穴に嵌ったイケメン3人を見つけた本家組は、その無様な姿を笑いながら先に墓標の元に辿り着く。


すると墓標の前に、とても美しい女性が倒れていた。


「ううぅぅぅ・・・。」

「「「ごくりっ・・・・。」」」


その女性は布一枚を纏っただけというかなり際どい姿をしていて、布の隙間から艶めかしい足と胸部をさらけ出していた。普段から女性と遊んでいるのは自分達より上の地位に居る身内ばかり。その身内が“様々な方法で”女性と遊び惚けている姿を見ていた3人は、倒れている女性に邪な思いを抱いてしまった。


「・・・なぁ、ちょっとぐらい良いよな?」

「大叔父さん達も無抵抗にした女性を玩具にしてたし・・・。」

「俺達だってそろそろ・・・・。」


3人で頷き合い、女性に手を伸ばそうとした彼等の意識はそこで途切れてしまった。


メイド組

3人は走りながら、今朝突然ルドに試験に参加する様に言われた時の事を話していた。


「まさか私達が試験に参加する事になるとは・・・。」

「試験の内容も何も教えて貰えませんでした。城壁の外でルールを話すからって。」

「人数が少ないからって俺も強制参加ですよ。まぁシル師匠に言われたら何も言えないんですけど・・・。」


3人はルドに参加を言い渡された際にシルからも頑張って来るように言われていた。昨日の晩から基礎から教えるとみっちりしごかれていた2人は、すでにシルの事を師匠として尊敬して懸命に動きを覚えようと努力を始めていた矢先の出来事だ。


「無茶振りにも程があると思いません?」

「ですが思う所が在ったからこそ参加したのでしょう?」

「あんな人達に鬼神斧槍流は相応しくありません!!」

「そうだそうだ!!金や名誉に目がくらんだあいつらには相応しくない!!それなら俺達が後継者になって真の鬼神斧槍流を継ぐんだ!!」

「・・・・もしやルドさんは本当に継ぐ者が居るのかどうかを見極める為に?なら残った人達も・・・・・。」


そんな事を話しながら、目の前を進む本家チームを追いかけていると襤褸を守った女性がジャイアントウルフに襲われていた。


「助けに行きます!!」

「女性の確保任せるぜ!!おらぁぁぁぁぁ!!お前の相手はこっちだぁぁぁぁぁ!!」

「牽制だけに努めなさい!!私達の実力では倒せません!!」


オーニャとルーフがジャイアントウルフに向かい、メイドは女性の前に駆け寄り怪我が無いかどうかを即座に見極めた後に声を掛けた。


「大丈夫ですか?」

「あぁ!!ありがとうございます!!」


シルのメイドで孫でもあるファランの言葉に涙を流して喜ぶ女性。ファランの診断では女性に怪我は無く、襲われる前に助ける事が出来たようだ。


オーニャとルーフはと言えば、指示通りに昨日教えて貰った鬼神斧槍流の基礎を思い出しながら2人で協力してジャイアントウルフの牽制に勤めていた。


「ここでお待ちください。あれは私達がすぐに追い返します。」


そう言ってスカートの中から折り畳み式の斧槍を取り出して構えるファラン。ファランは護身用にとシルから鬼神斧槍流を習い始めた所で、腕前はまだ拙いが、オーニャやルーフよりも使い手だった。


「キャウンキャウーン!!」

「ふぅ、何とか追い返せましたね。」

「本当にありがとうございました。あなた達は命の恩人です。」

「困っている人を助けるのは武人として当たり前です!!そうですよねファランさん!!」

「えぇ、力ある者はその力を人々の為に使わなければ行けません。それは力を持つ人の義務です。」

「ファランさんかっけー!!俺もそうなりたいです!!」


女性を立ち上がらせ、歩けることを確認したオーニャは2人に向かって提案する。


「この人を街まで送りましょう!ここで別れたらまた襲われるかもしれません!!」

「そうですね。オーニャの言う通りです。」

「えぇ!!それじゃあ後継者レースに負けちゃいますよ!!」

「レースより人命です!!もう一度言いますけど力ある人は困っている人を放っておいては行けません!!」

「申し訳ありません・・・。何やら御用がある様子。私なら1人で戻れますのでどうかそちらを優先して頂いて・・・・。」

「駄目です!きちんと街まで送ります!!」


オーニャの決心にファランとルーフも頷き、3人は女性を送り届ける為に街まで一度戻る事にした。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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