第244話
人々の喧騒の中を他の馬車とは違う、豪華な装飾が施された馬車が進んでいく。その馬車に乗る女性は、こんなに豪華にしなくてもいいのにとため息を吐きながら、目的地に向かって進む馬車に揺られていた。
その女性は長年この国を、ジャイアント王国を導き繁栄させてきた。60年前の新たな神と古き神との戦争。世界を守った神の得意技から名を取って守護者戦争と呼ばれる神々の争いを直接見て来た生き字引でもある。今日までこの国を、国に住む人々を守る為に長い間ずっと奔走してきた。
女性は馬車に揺られながら、久方ぶりに外出する理由となった出来事に思いを馳せる。
『旅人達が戻って来ます。』
それはこのような1つの、神々からの神託が原因だった。
かつて守護者戦争の際に新たな神を滅ぼしてしまった神々は、自分達の非を認めて人々の為に働く事を全世界に向けて宣言した。そして、その宣言が神々から齎されたその日から、旅人がこの世界を訪れる事が無くなってしまった。
人々は世界を救った旅人達が忽然と姿を消した事に驚き、神々に問いかけた。旅人達は一体どこに行ってしまったのかと。
神々からの答えは、旅人達は亜空に帰らざる終えなくなった事、いつか戻って来るがすぐには不可能で、この先何年後に戻って来るか分からないと伝えた。
旅人達が関わった国々は、亜空に帰ってしまった旅人達に世界を守って貰った事を感謝し、齎してくれた技術や知識を使って文明を発展させていった。守護者戦争で傷付いた国を癒しながら。
だが面白くないのは1度も旅人が訪れなかった国々だ。旅人の恩恵を受けられず、発展していく国々を指を咥えてみているしかない。そして嫉妬から旅人の訪れなかった国々は1つに纏まり。発展を続ける旅人が訪れた国を侵略し始めた。
元から戦争をする為の口実を求めていた諸国も合流し、戦の準備を秘密裏に進め、十分な備えの元に全面戦争は開始された。一方的な宣戦布告に守護者戦争で傷付いた国を立て直していた国々は後手に回ってしまい。数多くの領土が飲み込まれた。
しかし、一方的に略奪されるだけではいられないと旅人が訪れた国々も共同体を結成して対抗を始めた。そこで活躍したのが旅人が多く訪れ、守護者戦争で重要拠点とされていた城塞都市の人々だった。
旅人と協力して強くなっていた城塞都市の人々は、破竹の勢いで侵略者達を蹴散らしていく。かの英傑達がいなければ今頃この国は無かっただろう。そう呼ばれる程に活躍した英傑たちの命と、旅人が残していた技術を使い50年にも渡る長い、とても長い戦争に勝利してやっとジャイアント王国として1つにまとまった大陸。そこに、旅人達が戻って来るという。
国王やその側近達は、やっと安定してきた国に旅人と言う不確定要素入れる事を渋った。やっと戦争の傷跡から回復の兆しが見え、人々が落ち着いてきている所に合流させていいのかと。それならば、旅人達の降り立つ地を限定してそこで様子を見てはどうかと。
それはかつてロロキー王国が行った施策の焼き回し。このままその案が通るかと思われたその時、女性の叱り付ける声が会議場に響き渡った。
守護者戦争で世界を守ったのは旅人達だと、彼らは私達からのお礼の言葉も、お礼の品も受け取らずに亜空に帰ってしまったのだと。旅人達が返ってくるのならば、そのお礼を今度こそするべきなのだと。
かつての神々の戦争の詳細を知る女性の言葉に、騒いでいた人々は黙り込むしかなく。女性は旅人達がこの地に再び訪れる日を待った。そこに訪れた神々からの神託に女性は急いで公務を終わらせ、広場に向けて馬車を走らせていたのだ。旅人達を歓迎する為に、かつてのお礼を言う為にそして、降り立つ旅人達の中に、あの大きな背中が見える事を信じて。
~・~・~・~・~・~
「さてと、戻って来た訳だがまずどこに行く?」
「先に歴史を調べませんか?図書館とかに無いですかね?」
「もしかしたら教会に歴史資料があるかもしれませんわね。」
「ここは手分けしましょうか?」
「分かれる~?」
「(-ω-;)ウーン」
門から街に入り、大通りを進んでいく俺達。大分旅人達の姿も増えて来たな。新規の人もALOを体験した人も、新しくなった世界に目を輝かせている。中には俺達みたいに城塞都市時代を知っている人が、店の人の話を聞いて涙を流したりしているが。
「どうします?ルドさん?ルドさーん!!」
「うぉっ!?すまんすまん、別の事考えてた。」
「あのお店がどうしたんですの?」
「いや、ただあの店に居る人。多分前の店主の孫なんだろうなって。旅人が泣いてるって事はそうなのかなぁってな。」
「あぁ、なるほど。そこら辺も掲示板に書かれているかもしれませんね。」
「後でチェックだな。」
「それで?教会と図書館で調べ物をする為に分かれようと話をしていたんですが。ルドさんはどうします?」
「俺か?うーん・・・・。そう言えば、親父達の墓にお参りしてないな。」
リダの言葉にそう言えばと、思い出した事を口にした。シンハ夫妻の墓があったんだから、親父達の墓があってもおかしくないはずだ。
「じぃじとばぁばのお墓?」
「あぁ、せっかく戻って来たんだし挨拶に行かないとな。」
「場所は解りますの?」
「解るわけ無いな。」
「だったら教会で調べ物をした後に一緒に聞きませんこと?あの子なら知ってるはずですわ。」
「なら僕とリダさんは図書館ですね。」
「集合は3時間後に広場で、もしルバートさん達のお墓の場所が解ったら一緒にお参りに行きましょう。」
「分かった。連絡付きやすい様にパーティー組んどくか。パーティーチャットで連絡出来るだろ。」
「そうしましょう!!」
全員とパーティーを組んでからそれぞれの目的地に向かって移動を始める。俺とルゼダはさっき顔を見せた教会に向かった。
「何回見ても似てないよなぁ・・・。」
「こういう像はそんなものですわ。さっ、中に入りますわよ。」
「ゴーゴー!!」
「(* ̄0 ̄)/ オゥッ!!」
中に入り、ルゼダが祈りを捧げていた神父に要件を伝える。ほどなくしてさっき見た妙齢のシスターが姿を現した。
「お初にお目に掛かります。私はイリノと申します。昔ルゼダ様と一緒に修行をしたものにございます。」
「これはご丁寧な挨拶痛み入る。旅人の1人でルドという。」
「まぁっ!!ではあなた様が!!」
うん、何やら目をキラキラとさせて俺の顔を見ているが一体何だろうね。(遠い目)
「巨神様より伺っておりました!!この世界を命を懸けて守り、ご神体を散らした新たな神の名前を!!貴方様がそうなのですね!!」
「あっ人違いです。」
圧が!!圧が凄いのよこの人!!どんどん近寄って来たかと思えばキラキラを通り越してギラギラした目で顔を見つめて、手を組んだままズイッっと近づいて来るんだもんよ!!建物に入る為に縮めていた身長を無意識で伸ばしたくらいには圧が凄い!!
「イリノ。司教ともあろうものがはしたないですわよ。」
「あっ、これはルゼダ様。失礼いたしました。」
「なぁ、立場的にルゼダの方が下だろ?なんでこの人言う事聞いてるんだ?」
「小さい頃に面倒を見て頂きましたから・・・・。いまだに頭が上がりません・・・・。」
「そう言う事ですわ。言う事を聞かないと過去の粗相を暴露しますし。」
「なるほど、色々弱みを握られちゃっていると。」
「はい・・・・・・。」
もうそう言う事ならこの人の対応はルゼダに任せちゃおう。俺が関わると暴走しそうだしこの人。
「イリノお願いがありますの。」
「なんでしょうか?」
「私達がこちらに来られなかった60年、その間に起きた出来事をまとめた資料を探していますわ。こちらにあるかしら?」
「えぇ、ございます。私の権限で閲覧出来ますのでどうぞこちらに。」
イリノさんの案内でたどり着いたのは、資料を入れる棚がたくさん並んだ部屋だった。
「旅人様方が帰還されてからの出来事でしたら・・・。こちらからになります。」
「ありがとう、後はこちらでやりますわ。終わったら声を掛けます。」
「はい、執務室に居りますので声掛けはそちらにお願いします。話は通しておきますので。」
そう言って書庫を出ていくイリノさん。俺達はすぐさまイリノさんが教えてくれた棚から資料を取り出してチェックしていく。
そこには、俺達がこちらに来られなくなって1年後からの壮絶な戦争の歴史がまとめられていた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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