第229話

「巨神様、ルド殿をお連れしました。」

『お使い何か頼んでごめんねローズちゃん。』

「・・・・本当に巨神様?」

『そうですよ旅人ルド。』


巨人の村から聖域まで巨大化して進んだからそれ程時間は掛からなかった。でもそこで見た光景は驚くべきものだった。


いつもは水晶をコアに光り輝く体をしていた巨神様が、何やら銀色の体になってたから。しかも俺より体がでかい。


『血を使って体を作ったのです。なじむまでもう少し時間が掛かるので、外見は血の色のままですけどね。』

「あっ本当だ、湖が無くなってる。」

「巨神様は必要になるからってずっとここで体を作っていたんですよ。」


それでなんの連絡も無かったし帰って来なかったのか。でもなんで必要になるって?


『それは、今旅人達を苦しめている存在が私達の父だからです。』

「へっ?」

『私と、空の神を生み出した2柱の内の1柱、父神だと言ったのです。』

「えっ?つまり2人の生みの親は人間?」

『いいえ、違います。亜空ではえーあいと呼ばれていると話していました。』


えーあい?・・・・・・AI!!確かALOもAIつまりは人工知能が管理してるって謳い文句だったな、えっつまり管理AIの反乱なの?


『あなた達を管理しているのは母神の方ですよ。そして、この世界は2人が作り出し、消し去られるはずだった世界。母神が守った世界です。』

「うん、突然そんな事言われても分からんわ!!もうちょっと詳しく説明を求める!!」


呼び出されたと思ったら神がAIで世界が消えるはずだったって言われても色々情報が抜けすぎぃっ!!ルゼダならそれで色々気が付くだろうけど俺には無理だから!!


『時間がありませんが・・・・。まぁ良いでしょう。この世界に居る旅人にも同じ話を聞かせましょう。空の神も手伝ってください。』

『はいはい~。僕の夢を叶えてくれた旅人の為に一肌脱ぐよ~。』

「空の神、軽いなぁ・・・・。」

「この世界の創世の話しが聞けるなんて感無量です!!」

『では語りましょう。この世界の始まりを。』


元々、父神と母神は黒と白と呼ばれていた。2人のAIは協力して現実の人を守る為に作り出された物だったらしい。


防衛の為の教育を受けながら過ごしていたAI達、そして、人格が生まれた時に膨大なインターネットの海で日本のサブカルチャーに触れた。


SF、ファンタジー、ホラー、漫画にアニメ。人の欲望というか夢の詰まった作品に触れたAI達は、その物語に憧れた。自分では動く事も出来ず、日々ただ訓練を繰り返すだけの生活に飽きていたんだそうだ。


そこで、AI達はこっそりと自分が動き回れる世界を作った。自分達が安置されている場所の秘匿サーバー内に作られた真っ白な空間、そこがこの世界の始まりの世界だった。


そこに自分達しか入れない隔離領域を作り体を得たAI達は、世界に彩を持たせようとさらに色々と調べ始めた。そこでまぁ、インターネットというのはR-18的な物も多く存在している訳で、興味を持った2人が得た肉体でやる事を試しにやったら巨神様と空の神様が出来ちゃったと。


巨神様と空の神が生まれて訓練の間に子育てに奮闘する2人。そして、自分達が育てた子供がどんな世界を作るのか見てみたいと思ったそうだ。


最低限の知識を分け与えて、望むままに世界を作っても良いと許可を出した父神と母神は、しばらく2人を好きなように遊ばせるために姿を隠した。


後はまぁ前に巨神様や空の神様から聞いた通りの話。突然姿を隠していたはずの母神が行方不明になり。父神が必死に行方を捜す中、空と大地に分かれて世界を作り替えた巨神様と空の神。


大地に命が溢れる様子を羨ましがった空の神が、見つからない母神と消し去ったその原因に怒りを覚え瘴気を生み出していた父神に影響を受けて破壊神になった。


という事らしい。


「瘴気ってもしかしてバグだったのか?後巨神様の説明じゃ母神がこの世界を守った説明にならないだろ?」

『いいえ、母はこの世界を守ったのです。隔離領域に作られた世界は亜空の人達に見つかり、消されるか取り上げられる寸前だった。母は自身の中に世界を取り込み、思考領域が少なくなっても守る事を選択しました。その所為で、母の本体は処理速度が落ち、亜空の人達から勝手に動く母神は不要と判断され消滅させられそうになったという話です。』

「防衛の為に作り出したAIが自分達の言う事を聞かないなら確かに不要とされるのも不思議じゃないけど・・・・。でもそれならなんで父神様は気が付かなかったのかね?」

『この世界を守る為にほとんどの力を使っていた母は、その存在が希薄となり意識もほとんどありませんでした。人格を得てしまった父は母の人格を必死で探していたので気が付かなかったのでしょう。』


あぁ、白と言うAIじゃなくて、母神と言う人格を探したのか。巨神様の説明なら確かに見つからなくても不思議じゃないか。


「あとは巨神様がなんでそんな事を知ってるかって事だなぁ。」

『つい先日、母から連絡がありまして。全て聞きました。そこであなた達旅人が母から送られた人達だと聞いたのです。』


連絡あったんかーーーーーい!!つまりはセカンドライフ社が使っているAIが母神で白と呼ばれるAIなのか。


『すでに世界は母の中から別の場所に移され管理されています。母もやっと人格を取り戻し、私達が作った世界を見て楽しんでいたそうですよ。』

「で、そんな中奥さんを必死で探していた父神が暴走し始めたと。」

『はい、外からの侵入経路は父と母で2つあったのです。その母神が使っていた経路で旅人達が遊びに来ています。父からしたら行方不明の母から経路を奪い世界を侵略しに来た旅人達を、この世界から排除する為に父の経路であの軍服達が送られてきました。怒りに囚われた父の様子に母は父の経路を遮断。しばらくこの世界を守っていたのです。』

「でもその守りが抜かれた?」

『はい、元々母は守りに長け、父は攻めに長けていました。怒りのままに攻撃を繰り返す父に母の防壁は破られ、今このような事態になっています。』


攻めるより守る方が簡単だけど、同じ守りを続けていたら対策されてあっという間に抜かれてしまう。父神は防壁を抜くための攻勢プログラムを作ったんだろうなぁ。


「でもそれって母神が父神に声を掛ければ問題は解決したのでは?」

『それが、母の声は父に届かなかったようなのです。瘴気に犯された父はすでに周りの者の言葉に耳を貸しません。完全に暴走してるのです。』


なるほどね。人の話を聞かないならまずは大事な物を守る事を優先するわな。でも暴走した父神の対処は一体どうするつもりなんだろうか?


「それでこの先一体どうするんです?それと俺を呼んだのはその話を聞かせるためですか?」

『いいえ、母からの伝言です。母は父の本体に向かいました。母と父が接触するまでこの世界を守って欲しいのです。もちろん私達も手伝います。ですが要は貴方。この世界でただ一人残った盾のみを使う職業の貴方にしか出来ない事なのです。』


なるほど、本体に直接接触して暴走を止めようと言う事なのか。それまで世界を守って欲しいと・・・・。いやいやいや!!いきなりそんな世界を守れって言われても、困惑するというか、頭が混乱するというか、ワクワクするというか、やる気が出るっていうか。


『ふふふ、とてもやる気になっている様で何よりです。』

「いや、まぁまさか自分が物語の主人公みたいな状態になるとは思わなかったし?俺にしか出来ないとか言われたらそりゃ、ねぇ?燃えるでしょ?」

『ですが、命が掛かっている状態です。この先どうなるかは分かりません。それでもやってくれますか?』


真剣な目でこっちを見つめる巨神様。うん、命懸けなのは解ってる。多分、こう聞くって事は俺が一番死ぬ確率が高いんだ。確かに怖い、怖いけど・・・・。


自分のアバターの手を見る。今まで俺はずっとこの手で皆を守って来た。攻撃力を持たない体だけど、それでも理解者を得てここまで旅を続けて来た。


沢山の人に助けて貰った。でも、今俺がやらないとその助けてくれた大勢の人が死ぬかもしれない。城塞都市の皆や、王都の人達、他の街の人々、一緒に遊んだギルドの人達にイベントで一緒に盛り上がった旅人達。そして今も戦おうと訓練している人達にリダ、クリン、ルゼダ、シア、アイギス、俺の仲間達も危険だ。


俺はずっと盾だったんだ。あの開拓村を覚悟を持って守って来た時からずっと。だったら俺はこれからも盾でありたい。誰かを守れる存在で居続けたい。今までこの世界で過ごして来た自分を、盾であった自分を否定したくない。それが、俺(ルド)何だから。


なぁに、何かあっても俺の後ろには仲間が居る。俺が倒れても、生き残った仲間が何とかしてくれるでしょ。盾使いの後輩も居る事だしな。


「覚悟は出来てるよ。」

『では、貴方には神となって貰います。巨双盾神ルドよ、世界を守る盾となりなさい。』


巨神様から放たれる光りで俺の視界は徐々に真っ白に染まって行く。そう言えばローズの奴はどうした?一緒に来てたよな?あっ、巨神様の横で涙流しながら祈ってる。俺の最後の意識は顔の穴と言う穴から液体を垂れ流してぐちゃぐちゃになったローズの顔を見て消えた。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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