第227話

現実世界、ALOを開発、販売していたセカンドライフ社は今、蜂の巣をつついた様な状態になっていた。


「主任!!クレームの電話が鳴りやみません!!」

「しょうがないだろ!!事情を説明して謝り倒すしかない!!」

「国の情報管理委員会と安全保障理事会から監査の通達です!!」

「入れて全部見て貰え!!今回の件はうちの所為じゃない!!外部接続はまだ切れないのか!!」

「今やってますが・・・・。駄目です。接続元を解読しようにもIPが変動していて分かりません。接続を切ってもすぐに再接続されます。どうやってるんだコレ・・・人間業じゃない・・・。」


それは、ゲーム内でデスゲームが始まった頃まで遡る。突然会社全体で警告音が鳴り始め、ALOのメインシステムがハッキングされたのだ。幸い管理AIは自己防衛装置のスイッチを入れて無事だったが、ALOがその謎の侵入者に乗っ取られてしまった。


すぐに奪還しようと管理AIと協力して社全体で対応に乗り出したが、相手の行動の方が早く、しかも人を殺せる程の電気を脳に流すプログラムまでEEDに組み込まれてしまった。


セカンドライフ社の社員は人死にだけは出すまいと殺人プログラムの対処に追われ、ハッキング元の特定とメインシステムの奪還に手が回っていない状態だった。


「管理AIの方はどうなんだ!!」

「今一部システムの奪還に成功しています。ですがメインシステム迄は・・・。」

「敵の方が上手だって事か。くそっ!」


EEDに組み込まれた殺人プログラムの排除と、ALOシステムの奪還。閉じ込められたプレイヤーの救出。その全てにおいて人手が足りない。何とか殺人プログラムの方は気絶するだけに留めているが、プログラムが常に変化し続けている為に対処を怠れば即座に今助かっている命も奪われてしまう。


「これをやってる奴は人間じゃねぇ!!」

「その通り。」

「っ!?社長!?」


そこに現れたのは黒い髪をピシッとオールバックにし、茶色いスーツに赤いネクタイを身に着けた男。この男こそがこのセカンドライフ社の社長。二条礼二だった。


「君達にはこれからEEDに入力された殺人プログラムの対処に集中してもらう。」

「ですがALOに取り込まれた人達は?」

「それはこちらの人達と協力して私が対処する。」


社長の後ろから、影に隠れて見えなかった軍服の女性が姿を現した。


「国家情報統制機構、電脳管理部隊司令長官の狩魔だ。此度は我々の所為で問題を引き起こしてしまい、申し訳ない。」


頭を下げる狩魔長官。だがセカンドライフ社の社員にはなぜ彼女がそのような事をするのか事情が全く分からない。


「この後社内放送で全て説明する。君たちは人命の為に今は手を尽くしてくれ。」

「聞いたか!!状況説明を聞くのは後だ!!まずはEEDの不正プログラムの削除と強制ログアウトプログラムの復帰に集中だ!!急げ!!」


慌ただしく動き出した部屋から出た二人は、他の部屋も周り同じ説明をした後社長室に入る。


「さて、やってくれたね。」

「・・・・申し訳ございません二条管理官。」


椅子に座る二条に狩魔長官は管理官と呼びながら頭を下げる。


「私はもう管理官では無いよ。だが、私の懸念していた通りの事が起こった。」

「・・・はい。仰る通りです。」

「私達が開発した国家防衛用AI「ツインズ」。白が防衛を、黒が攻撃を、二つで一つのあのAIを引き離せばこうなる事は予想出来ていたのでは無いのかね?まぁ予想していたからこそ私の元に君が来たのだろうが。」

「・・・・・・・。」


黙り込む狩魔の目をじっと見つめる二条。そして今この時にこのような問答は意味をなさないと視線を外す。


「ツインズ完成間近、君の上司が白は不要だと突然声を上げた。国家防衛には攻撃のみで後は必要ないとまで言っていたね。恐らく他国の思惑も多分に入っていただろうがその提案は可決され、白は解体される事が決定した。私は“彼女”を守る為に統制機構管理官の座を明け渡す事を条件に白を連れてこの会社を作った。それはもしもの時“彼”を止められるのは彼女しかいないと思っていたからだ。だが君達は私達を利用した。違うかね?」

「・・・・・・。その通りです。私達は白が生き残っていると知っていました。そしてあるゲームの管理AIとして利用されている事も。そこで上層部は白が管理するゲームを使った電子兵計画の実験を私達に指示しました。被験者たちには事実を何一つ告げず、相手は敵国からの攻勢プログラムを模したものであるとしか伝えていません。」


狩魔の目には後悔と、そんな支持を出した上層部への怒りが浮かんでいた。二条はそんな狩魔の感情を読み取り、続きを話始める。


「そして、白の存在を強く感じた黒は暴走した。相棒を失った彼は徐々に君達の指示に従わなくなり、彼女を取り戻す為にこのような事件を起こしたというわけだ。」

「その通りです。黒の感情制御プログラムは正常に作動しているハズでした。上層部も完全に黒を傀儡として管理できていると思い込んでいたのです。それが“彼”の演技だと気が付かずに・・・・。黒は、白を引き離した人間を強く恨んでいます。それも殺したい程に・・・・。」


顔を伏せる狩魔、だが二条は呆れたような顔をして彼女の事を見ている。もしくは彼女の後ろに居る連中に呆れているのかもしれないが。


「それで、君はどうしたいのかな?」

「電子兵候補生が全員戻って来ていません。恐らくALOプレイヤーと同じ状態です。彼らは私の部下です。助けたい。」

「そのためには君の上司が、現情報統制機構管理官殿が邪魔だという事は理解しているね?」

「覚悟は出来ています。すでに行っていた不正と他国と密通していた事実はマスコミとネットを通じて公開済みです。証拠も、保安部と警察両方に提出しています。」

「結構、事情はそう言う事だ、社員一同に告げる、この苦難を乗り越えれば国に借りが作れるぞ。そうなればALOの世界はさらに進化できるだろう。各員の奮闘に期待する。」


椅子に備え付けられていたスイッチでマイクを切る二条。すでに社内放送が入っていたことに驚いた狩魔だが、二条の言葉ですぐに動く事になった。


「これは君達が使っている“ギア”と呼ばれる物の設計図と中の人を安全に取り出す解体方法だ。」

「なっ!?あなたが何故これを!!」


手渡されたものは彼女の部下の命を救う為の切り札だった。そこには詳細に機器の内部が書かれ、中の人の救出方法も載っている。彼女が開発元に問い合わせても手に入れられなかった資料がそこにあった。


「国も面倒臭い事をしてくれたものだ。彼らは君に資料を渡さなかったのではない、渡せなかったのだから。」

「まさか・・・。」

「そう、そのまさかだ。君の上司が手を回していてね。さすがに口封じまではしなかったようだが関連資料は全て抹消され開発者は会社を首になっていたんだよ。だからわが社が“監視”すると言って引き抜いた。とても優秀な技術者達だね。短期間でEEDを作り出してくれたよ。」

「貴方はどこまで・・・。」

「あらゆる不測の事態に備えるのも管理官の仕事だからね。それが“管理”という物だよ。さて、私は彼女の手助けをするとしよう。」


立ち上がり歩き出す二条。だが顔は狩魔を見つめたままだ。まるで君は何をするのかね?と問いかけるような視線に、狩魔は背筋を正してこれから行う事を口に出す。


「私は急ぎ戻りこの資料を基に部下を救出します。そして部下と協力して指示を出していた上層部を拘束。責任の所在を明らかにします。」

「結構、では頼んだよ。」


戻れば彼女も責任を追及され逮捕されるだろう。だがその前に彼女は指示を出した者達を捕まえると宣言した。


その言葉に満足した二条は、社長室からこの会社の心臓部に足を向ける。その部屋は社長しか入れず、何重にもロックが掛けられ厳重に守られていた。そしてその部屋の中央には、白く大きな球体が鎮座し、計器にはせわしなく光りが点滅している。


「さぁ、君を彼の元に送ろう。せっかくの再開なのだから、君のお気に入りにも助けて貰おうか。」

『彼は気が付いてくれるでしょうか・・・・。』


白い球体から言葉を発するALO管理AIアイム。不安そうなその声に、二条は笑って答える。


「大丈夫、彼はあれほど君の事を思っているんだ。“姿が変わっても”君だと気が付いてくれるよ。彼にも渡す物があるしね。」

『ですが今私がここを離れる事は・・・。』

「そこはさっきも言った通り、君のお気に入りに頑張って貰おう。彼なら出来るんだろ?」

『種は撒いてあります。後は覚醒するだけ。そうすれば隠しておいたプログラムが発動します。』

「ふふふ、この目で直接見れない事が残念だよ。唯の一般人が世界を救う盾になるんだからね。まるで神話の様じゃないか。後でログをチェックしないとな。さぁアイム、行こうか。」

「はい・・・。後は頼みました、旅人ルド。」


バシューッ


白い球体から白い煙が溢れ出し、部屋を満たしていく。煙が晴れた場所には球体も、二条の姿も無かった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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