第200話
200話記念のお話。短いですが現実側の話となります。書いてみたかったんや!!
リダはその日、珍しく外出していた。それは、現在在籍している学校の退学届けとVR機器を使った通信制学校の編入手続きを取る為だった。
例の事件以来リダは学校に寄り付かなくなっていた。両親もリダの休学届は出した物の、いつか復学する物と勝手に決め着けていた。
リダはALOで心を鍛え、いじめっ子にいつかやり返す事を目的としていた。だがその前に自分の身の安全は確保しなければいけない。鍛えた心はリダに前に進む勇気をもたらした。
リダはまず相談所に駆け込み、自分の身に起こった事を訴えた。そして両親が助けてくれなかった事、学校側も全くと言っていい程配慮してくれなかった事を訴え出た。
その声に相談所はすぐに動いた。事実関係を即座に調べ上げ、警察にも協力を求めた。個人情報保護の観点から乗っ取られたアカウントとアカウントの使用端末を調べる為に必要な措置だった。
そして警察に相談した事で事は大きくなった。この時代、アカウントの乗っ取りは個人情報保護と情報漏洩規正法の施行から刑事罰が妥当とされる事件という扱いになっていたからだ。その法案がタイミングの良い事にリダが事件に合った年に立法されていた。決して家庭裁判所で下される軽度な罰では無かったのだ。
事件を隠蔽した学校側と両親そしてアカウント乗っ取りの犯人への厳しい責任追及が始まった。
まず学校側はこの事実を公表せず、内内に収めようとしたことで責任者が軒並み監督不行き届きと事件隠蔽の容疑で解雇処分。定年間近だった校長や教頭を筆頭にいじめを黙認していた担当教員や、いじめっ子達に援助交際を進めた男性教諭等何人もが退職金も貰えずに学校を去り、教員免許を剥奪され逮捕された。
両親に対しても、刑事事件を警察に知らせず、児童相談所にも相談しなかったことを厳重に注意された。児童相談所の職員と警察が一緒に自宅を訪れたとあってご近所の関心の的になってしまい。さらには学校での隠蔽騒ぎが大々的にテレビのニュースや新聞に載りその新聞の一部に両親が隠蔽に関わったとう事実が書かれ、両親の世間体は死んだ。
リダはというと両親が虐待を始める疑いがあるとして国から補助を貰い1人暮らしを始めている。施設入りも検討されたが本人の希望が採用された形だ。週に2度程、相談所の女性職員が様子を見に来る。
そして実行した犯人であるいじめっ子達は、未成年である事を理由に執行猶予付きだが更生施設への入所が裁判所から判決として出された。しかし行った事がアカウントを乗っ取った上の援助交際の強要だったこともありかなり悪質だとして懲役10年が言い渡された。更生施設で成人まで過ごし、その後刑務所に移送される事になる。
自分の行った行動がまさかそのままいじめっ子達への復讐になるとは思わないリダ。行政の動きも思ったより早く、怒涛の日々の中やっと今日、忌まわしい学校と別れ新たな場所で勉学に励む事に胸を躍らせていた。
「やっと手続きも終わったし。両親とも離れられた。後は自立するだけ。」
すでに動画配信等でお金を稼いでいるリダ。1人で生活するには十分な金銭を得ている。行政からの補助金も最初は遠慮したが、部屋を借りる時の敷金と礼金だけは受け取っていた。保証人になってくれた相談所の職員の人にもお礼としてお菓子を送っている。
「いつかもっと立派になったらルドさんに会えるかな・・・。」
まだ国から保護してもらわないと生活していけない自分。少し前であればすでに結婚しても大丈夫な年齢だが成人年齢が引き上げられ後2年しないと成人になれない。もちろん結婚等も不可能だ。
いつか、現実でルドにお礼が言いたいと思っているリダ。そしてその先の事まで想像してしまうのはまだ年若い少女であるからかもしれない。恋を夢見る女の子なのだリダは。
編入手続きの書類を手にリダは家に向かって歩いている。だがそこに、居てはいけない人物が姿を現した。
「ぐへへへへ、理沙ちゃーん。待ってたよー。」
「ひっ!?」
そこに居たのはリダにトラウマを植え付けた男。服装は高いスーツにジャラジャラとアクセサリーを付けているが少し剥げた頭と出っ張った腹、そして抜けた歯が清潔感を損なわせている。
この男に関してはこちらも被害者だとしてお咎めは無かった。援助交際を行おうとした事を罪に問えないかと相談したが、初犯でありさらには実質的には行為に及んでいないので注意だけで済んでいたのだ。
リダの中身、理沙の名を呼び近づいてくる男。その姿を見て、かつて強引にホテルに連れ込まれそうになった恐怖が蘇り頭が真っ白になる理沙。
「グフフフフ。僕ちんの為に1人暮らしを始める何て理沙ちゃんはいじらしいんだねぇ。」
「ちっちがっ・・・!!」
「謙遜しなくてもいいんだよぉ~?ほらこんなに熱烈な連絡までくれてさぁ。ずっと待ってたんだねぇ理沙ちゃん♡」
男の手にある情報端末、そこには理沙の名前でこのような事が書かれていた。
【理沙です。あの時はごめんなさい。急に恥ずかしくなって逃げちゃったの。私の体はあの時力強く私をリードしてくれようとしたおじさまの物です。今もずっとキュンキュンしちゃってるんですよ?今度1人暮らしを始めました。ホテルに何か行かなくても、そこで2人で愛し合いませんか?今度は逃げません。おじさまの愛を全部受け止めます。だから連絡待ってますね♡】
もちろんこんな連絡を送った覚えのない理沙。そしてその男の端末に表示されているアカウントが、以前使っていた物だという事に気が付く。
アカウント乗っ取りの際には、そのアカウントを使用しているサイトの管理者に不正利用の報告と修正手続きをすればアカウントは一時凍結され、事実確認の後に持ち主に返還される。
だがその不正報告をせずに新たにアカウントを作ってしまった場合、そのアカウントに残された情報は乗っ取った物がずっと使う事が出来る。
理沙は事件のショックからアカウントの不正使用の報告を忘れており、使っている情報端末と連携して位置情報が得られ、宅配等が即座に出来るサービスを入れていた為に、乗っ取られたアカウントで位置情報がバレてしまっていた。
「ぐふふふふ、さぁ2人の愛の巣に向かおうじゃないか。」
「嫌っ!!近づかないで!!」
「今度は逃げないって嘘だったのかなぁ?理沙ちゃ~ん?」
誰かに助けを求めようとあたりを見回す理沙。しかし平日の昼間である今、ベットタウンであるこの街で人通りは少なかった。独身者の多い区画だったこともあり、家の中に人の居る気配はない。
「さぁ~つ~かまえたぁ~。」
「いやっ!!離して!!」
「そんなに暴れるとついつい手が出ちゃうなぁ。」バシッ!!
「っ!?」
男に腕を掴まれ、どうにか振り払おうと暴れる理沙。だがまだ学生である理沙と大人である男との間には明確に力の差が出てしまった。いくら鍛え始めたとはいえまだまだ力の足りない理沙は、頬を張り倒され痛みに涙があふれる。地面に倒れる理沙の様子を殴った方の男はニヤニヤとした顔で見ていた。
「逃げないって言ったのに嘘を言う理沙ちゃんが悪いんだよぉ~?さぁ家に案内してね。」
男に強引に腕を掴まれ立たされる理沙。現実で、しかもトラウマを持った男に殴られた理沙は古傷をえぐられ、涙を流しながら呆然としていた。
「ふふふ、たぁ~プリ可愛がってあげるからねぇ~?」
ニタニタと笑う男。
あぁ、やっぱり私はダメなんだ。お爺さんやお婆さんに鍛えて貰っても何も変わらなかったんだ・・・。
失意のどん底に沈み、抵抗する力を失う理沙。男は理沙を掴む腕にさらに力を籠め、引きずるように歩き出す。
掴まれた手を唯見つめるだけの理沙。だが自分の腕を掴んでいる男の手に、別の男の手が掛けられた。
「ちょっとよろしいですか?」
「なんですか?」
「彼女、頬が赤いですが貴方殴りました?」
「さぁ?転んだんじゃないですか?」
「そうですか。じゃあこれは何でしょうね?」
突然男の手を掴んだ男性が情報端末に先ほどのやり取りの動画を流す。その映像は通りの向こうから慌てて駆けつけている様な映像で、そこにははっきりと理沙を殴る男の様子が映っていた。
「でっち上げでは?」
その動画を見ても冷静に返し、理沙の手を離さない男。しかしよく見ると男の手を掴んでいる男性の腕に次第に血管が浮かび上がってきていた。
「この動画、しかるべき場所に提出すれば暴行罪で立件できますよ。映像を加工していない事も調べられます。そして彼女の証言があればあなたは立派な暴行犯です。」
「そんな事で犯罪者呼ばわりとは、名誉棄損で訴えますよ?」
「プラスしてこのセリフを聞くにあなたは住居不法侵入に恫喝。不純異性交遊と4つも罪を犯す事になる。彼女の証言があれば確実にあなたは実刑だ。何年塀の中に居ないといけないんでしょうねぇ?」
「ぐぬぬ。」
「あぁそれと、すでに警察は呼んでいます。だから・・・・逃げんじゃねぇぞ?」
「いだだだだだだ!!」
丁寧に話していた男性が突然口調を荒げて男の腕にさらに力を入れる。男はその痛みで理沙の腕を放した。
その場にへたり込む理沙。男性はスッと男の視線から理沙を隠す様に前に立った。男性の背中を見上げる理沙。すこし恰幅の良い、それでも男性であるとしっかりと主張するその背中に、どこか既視感を感じる。
「申し訳ないですがお嬢さん。あなたに起こった事をこの後警察に話してもらえませんか?」
「えっ?あっ、私は・・・。」
「大丈夫、私も付いています。それにあなたの証言があればこの男は確実に逮捕されます。その後はストーカー防止として発信機が体に埋め込まれ、あなたに近づく事は不可能となる。ここで逃がすよりも確実にあなたの身は守れます。だから協力してくれませんか?」
男の手を強く握り、逃げられない様にしながらこちらに笑顔を向ける男性。メガネを掛け、少しぽっちゃりしたその姿に理沙は不思議と嫌悪感を抱かなかった。
「でも、私は・・・・。」
「大丈夫です、貴方なら出来ます。だって最初はこの男に立ち向かおうとしたじゃないですか。あなたの声が聞こえたから、私はここに来れたんです。だからもう少しだけ、勇気を出してください。」
ファンファンファンファン!!
にこりと男性が笑顔を向けた丁度その時にパトカーが近くに止まり、警察官が下りてくる。男の腕を掴んでいる男性の方を逮捕しようとした警察だが、男性の説得とそして理沙の事情説明で男は無事に逮捕され、理沙と理沙を助けた男性には後で警察署に来るように指示が出された。
「ふぅ、何とかなりましたね。」
「あの、ありがとうございました。」
理沙は助けて貰った男性にお礼を言っていた。男性と言えば走り出すパトカーの中から理沙の事見る男から理沙の姿を隠している。
「いえいえ、でも気を付けて下さいね?あぁいうのはしつこいですから。念のために引っ越しと、あんな状況になった大本を何とかしておく方が良いと思います。」
「あっそれはすぐにしておきます。あの、本当にありがとうございました。」
何度も頭を下げる理沙に男性は苦笑しながらお礼はもう大丈夫だと言う。そしてふと腕時計を見ると突然慌てだした。
「おっといけない!仕事の打ち合わせに送れてしまいます!!後は1人で大丈夫ですか?」
「あっ大丈夫です。」
「そうですか、でもあんなことがあった後です。ちゃんと気を付けて下さいね。私も後で警察署に行きますから、それでは失礼します!!」
「あっあの!!お名前を!」
走り去ろうとする男性。その男性の背中に理沙は名前を問いかける。だが男性の耳にはもう聞こえていないのかすぐにその姿は消えてしまった。
その足で理沙は警察署に行き事情を説明し、家に帰る。アカウントの不法使用の申請と削除の願い出は警察所でやって置いた。あの男性と会えるかと思ったが、仕事の打ち合わせが長引いたのか待っていても会えず、日が暮れる前に帰る事になった。
色々あった今日を振り返り、理沙は再度決意する。今までは自分の事だけを考えていた。復讐は終わり、関係者には罰が下った。次はあの男性の様に誰かを助けられる人になりたい。その為にはもっと強くならないと。
理沙は戸締りをしっかりと行い、ALOを起動する。いつものお爺さんの家で目覚めた彼女は一層修行に励み、現実でも体を鍛える為に動きを覚えて行く。そこにルドが訪ねて来たが、修行に集中しているリダは気が付かない。
「ルドが来るのは珍しいのぉ~。一体どうしたんじゃ?」
「いやぁ、ちょっと爺さんに稽古つけて貰おうかと。」
「ほっほっほ、攻撃力が無いのにか?」
「ちょっと亜空(現実)であってね。体を鍛えたいんだよ。」
「何があったんじゃ?」
「悪漢に襲われてる女の子を助けたんだけど、もうちょっと早く動き出せればよかったと後悔してるんだ。だから爺さんに動き方を教わって向こうで練習しようかと。」
「なるほど、ならばしっかりと教えるとしようかの。」
この後ルドとリダは2人でシンハに修行を付けて貰うのだが、まさかお互いに気合が入っている理由の人物が目の前に居るとは気が付かなかったのだった。
短いと言ったな!!あれは嘘だ!!この話書きたかっただけなんです。許してつかぁさい。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited
現実でもこれくらい素早く動いてくれたら亡くなる子供も少なくなるんでしょうねぇ(´・ω・`)
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