第193話
「お前にこの都市に残って欲しい。」
その言葉を聞いて俺は親父の過去を思い出していた。親父はロッシマの街で奥さんと子供を失くしている。いや子供は無事だったんだけどな。でも奥さんの腹は食い破られて子供は死んだと思っていた。
多分、その事がトラウマになってるんだと思う。自分一人じゃ不安だから俺に頼んでいる事も。
「出産予定日は何時だ?」
「いや、お前がドラゴンやら神様の願いやらで忙しいのは解ってるんだがな?だが嫌な予感がしててな。だから「だから出産予定日何時なんだよ!!」良いのか?」
自分で言っておきながら了承されると思ってなかったんかい!!親父の間抜けな顔何てレア中のレアだぞ!!まったくなんて気の抜けた顔してやがる!!
「良いに決まってんだろ!!俺は血は繋がって無いし存在自体も怪しいがあんたの息子だぞ。助け合うのが家族だろうがよ。」
「・・・・すまんな。」
「言葉が違うんじゃねぇか?」
「・・・そうだな。感謝する。出産予定は来月だ。お前が中々帰って来ないから言いそびれてた。」
「連絡寄越せば良いじゃないかよ。」
「恥ずかしくてなぁ。」
「おめでたい事に恥ずかしいもくそもあるか!!それより生まれてくるのはどっちだ?」
「どっちもだ。双子だよ。」
「俺の事ちゃんと兄ちゃんって呼んでくれるかなぁ?曲がり間違ってパパなんて呼ばれた日にはどうしようか?」
「父親は俺だぞ!!最初のパパ呼びは俺のもんだ!!」
「親父も年だしなぁ。じぃじなんて呼ばれるかもよ?」
「阿保ぬかせ!!」
よしよし、いつもの調子に戻って来たな。さて、そうすると巨神様のお願いはどうすっかな?まぁ解決策はもう頭にあるけども。
「ちょっと仲間に連絡して来るわ。今日からずっとこっちに居るから親父はまぁ安心しろ。つっても四六時中居る訳じゃないがな。」
「お前等が様子を見に来てくれるってだけで安心できる。頼むぞ。」
「おう。」
親父は大隊長として忙しいからな。代わりに見守るくらいするさ。
~・~・~・~・~・~
「えー、ルドさんドラゴン退治に行かないんですか?」
「すまんな。」
「事情は聴きましたから大丈夫です。」
「子供が生まれたら是非見せて欲しいですわ。」
「ぱぱといっしょにおるすばん!!」
俺はいつものメンバーに事情を説明してドラゴン退治を辞退する事にした。巨神のお願いについてはドラゴン退治の後になるだろうしな。移動に関してはウケンの簡易転移装置を譲ってもらった。ルシファーに置かせて貰う事で話は付いている。
そもそもがクエストは巨神の涙を探す事であってドラゴン退治じゃないしな。皆盛り上がっちゃってるけど本来は避けて通る為の場所だし。
「僕達がドラゴン装備で身を固めても拗ねないで下さいね?」
「そりゃ大丈夫だ。俺にはこのシロクマが居れば十分だしな。」
【そう言われると照れてしまうな。】
「鎧が喋った!?」
「話す事も出来る何て思っていませんでしたわ。」
「私は知ってましたよー。」
「りだどやがおしてる!!」
「まぁ拗ねないから安心しろ。それより気をつけて行けよ?」
「それは解ってますわ。」
「準備はばっちりです!!」
「ルドさん、お土産持ってきますから楽しみにしててください。」
「おう、待ってるよ。」
ドラゴンの居る場所まで巨人族の村からも結構あるらしいからな。参加を表明した人たちは今から移動する事になったらしい。街に残ってると休もうとしてもクエストをやったり調べものしたりで休めなかったからだそうだ。メガネ達が一番の原因な気がするなソレ。
「「「行ってきます!!」」」
「「いってらっしゃい!」」
3人を見送った後、俺は病院までカマーンさんを迎えに行く。先に親父が行って母子の健康状態を一緒に聞いて居るはずだ。
病院は解りやすいようにリスポーン地点になる広場の近くに建てられている。カマーンさんが行ったのは最初の広場の病院だったな確か。
病院にたどり着くと、お腹を大きくしたカマーンさんと、そのお腹に手を当ててニコニコしているシル。そして周りを警戒するように鋭い目でキョロキョロしている親父が居た。
「お待たせ。かなり大きくなったんだなぁ。」
「ルド君が中々帰って来ないのが悪いんでしょ?それよりあなた!!そんなに威嚇してい居たら誰も病院に入れないわよ!!」
「いやだってなぁ・・・。」
「ルド兄ちゃんお疲れ様!もうパパに言ってあげてよ。そんなんじゃお腹の子供にも悪いんだって。」
「おー、シルも大分話せるようになったなぁ。偉いぞー。」
「私もお姉ちゃんになるからね!!シア姉ちゃんと生まれてくる子供の面倒見るのよ!!」
「「ねー♪」」
仲良く2人でキャッキャしているのを見てほのぼのしてしまった。シルは会話が普通に出来る様になった事の他に、体にある蜥蜴の部分の割合を自由に変えられるようになった。
今までは腕と脚、首や顔と尻尾がリザードマンの様になっていたが。意識すると体や顔に鱗を生やす事も、逆に引っ込める事も出来るようになった。尻尾は引っ込めたりできないが、蜥蜴人族と同じような姿に変わる事で普通に生活出来ている。これは魔力の応用だそうで人が混じっているシル独自の物らしい。
「さっ乗ってくれ、家に帰るぞ。」
そう言いながら俺はブリンガーをその場に出す。このブリンガーは帝国で作られた物で。もうまんまハコバンだ。6人乗りの白いボディが日の光りでキラリと光る。市長とルリさんを引き合わせた報酬として1台、俺専用としてプレゼントされた物だ。
「安全運転で頼むぞ。」
「解ってるよ。いつもよりゆっくり行くさ。」
「私も免許欲しいわね。取ろうかしら?」
「これから育児で忙しくなるってのにお前は・・・・。」
「それならシルとシアが面倒見るから大丈夫だよ!!」
「まかせて!!」
「俺も面倒見るよ。」
「良い子達を持って母として嬉しいわぁ。」
「誰一人として血は繋がって無いがな。」
「あら?そんなの関係ないわよ?絆があれば些細な問題じゃない。」
「カマーンさんの言う通りだぞ親父?俺も言っただろうがよ。」
「そうだったな。」
車内は和気あいあいとした雰囲気のまま、自宅である雑貨屋に戻る俺達。この先にまさかあんなことが起こるなんて考えても居なかった。
~・~・~・~・~・~
城塞都市ルド近辺には森が存在している。かつて魔物暴走の際にその森から数多くの魔物が溢れ、開拓村であった場所を襲った。
その際に、森の主であったクリーンレイシアが討ち取られた。森は主を失いその勢力を落とした。
だが、その中でも主になろうと日々争いが繰り広げられていた。力を付け、他を欺き、己が頂点になる為の争い。
そこに都合よくゴーレムダンジョンが生まれた。主の地位を狙う者は次々にダンジョンに挑み、強くなっていく。
ある物は体に鉱石を取り込み、ある物は鉱石を武器として使い、ある物はゴーレムに寄生した。
争いの日々は続き、ますます森の魔物達の勢力は減少していく。しかし、そこに一匹の魔物が迷い込んだ。
その魔物の力は強く。その強靭な体に森に居た魔物の攻撃は届かない。鋭い牙にはどんな固い体も意味を成さず、その爪はたとえ霊体であっても切り裂いた。
そしてとうとう、その日を迎える。
『GUOOOOOOOOO!!』
数多くの魔物の死体の頂点に立つ影。その影がいま森の頂点に立った。そして、森の主となった魔物が狙うのは1つ。復讐とそして己が種族を増やす為の贄の確保。
『GRRRRRRR』
魔物が森の一番高い木に登り見つめる先、そこにはかつての開拓村が。そして現在では城塞都市ルドと呼ばれる街が煌々と灯りを点していた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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