第194話
さてログインですよっと。ログアウトしても体が残るの面倒だよなぁ。広場にある宿屋が取れて良かった良かった。リアルの方でちょっと急用が入って遅れたけどカマーンさんの様子を見に行くか。あぁ今日の外は雨が降ってるのか、嫌な天気だなぁ。
おっ?チャットに連絡が来てるな。何々?ドラゴン討伐組の進捗状況?これ送って来たのルゼダだな。俺が気にしてると思ってるのか。まぁ有難いけど。
ドラゴン討伐艦隊の進軍は順調。明後日にはドラゴンの巣に到達するのか。空中でワイバーンの襲撃にあったけど今度は船に近づく前に撃退できたと。強化した甲斐があったなそれは。
ピロン♪
おっ?今度はシアからの連絡か?
【ぱぱ・・・じぃじとばぁばをたすけて・・・・。】
シア?シアのHPがレッドゾーンだと!?一体何がいやそれよりも親父とカマーンさんが危ないって何があったんだ!!とりあえず急いでシアの元に!!
時は少し遡り、ルドがログインして来る4時間前。
「今日も平和っすねぇ。」
「天気は悪いがな。」
「お前等気を抜くなよ。たとえ旅人だろうと給料払ってんだからしっかり仕事してくれ。」
「解ってますよ。給料以上にメリットもありますからね。」
「守備隊専用装備を貰えるとかマジで太っ腹だよなぁ。」
「きちんと守備隊として功績を上げて、所属バッジを貰ったらだからな?」
ここは城塞都市を守る城壁の上。そこでは今住人と旅人2人が警備をしていた。
「しっかしこうなんも無いと張り合いがないねぇ。」
「馬鹿野郎、平和が一番だろうが。」
「おっまえフラグ立てようとするんじゃねぇよ。隊長は住人だから死んだらおしまい何だぞ?」
「大丈夫大丈夫、こんなのでフラグには『UOOOOOOOOOOOON!!』マジで?」
普段通りであれば何事も無く勤務時間が終り、たわいない話をしながら別れる事になっただろう。だがこの日はそうならなかった。
「本部へ連絡!!森より魔物の集団暴走だ!!」
「守備隊に出動要請!!隊長は城壁の防衛機構を起動してくれ!!」
「俺達はどうするんだ?」
「レベルアップの機会が来たんだぞ?出来るだけ数を減らすぞ!!」
「おう!!誰にも譲らねぇぞ!!」
「お前等無茶するなよ!!」
城壁に備え付けられている塔の中に隊長は入っていく。それを見送った2人は森から溢れ出した魔物達に対して攻撃を開始する。
「うはははは!!入れ食いだぞこれは!!」
「なぁ?何かおかしくないか?」
城壁の上から魔物を攻撃していた旅人の一方が相棒に疑問を呈する。
「あん?何が?」
「いや、だってこいつ等一切攻撃して来ないじゃん。」
「そういえば?」
「それに城壁に沿って逃げてないか?こいつらもしかして唯逃げてるだけなんじゃ?」
相棒のその言葉に魔物の様子をよく観察してみると、確かに逃げる事を第一に考え攻撃をしてくる様子はない。それ所か魔物達の表情は迫って来る死に対しての悲壮感が浮かんでいた。
「映画や漫画で良くある奴か?だったら奥に居る奴はそれほど強いって事か?」
「多分?なぁこれ逃げた方が良くないか?」
「馬鹿!逆にそんなやばい奴は俺達が請け負わないと駄目だろうがよ。住人が死んだら目も当てられないぞ?復活出来る俺達が対応しなきゃよ。」
「へいへい、大分守備隊に毒されてるなぁ。」
「それはお前もだろ?」
「違いない。」
守備隊専用装備に惹かれて入隊した2人。守備隊としての活動の中で住人に数多く感謝される事になった。自分達の活動で笑顔になる住人を見て、現実世界で何をやっても当たり前、感謝もされない冷たい対応とは違う守備隊の仕事に密かにやりがいを感じていた。
「俺達で時間を稼ぐぞ。出来るならヘイトを取って安全な場所に誘導する。」
「あいよ。」
『GUOOOOOOOOOOON!』
そして森から現れたのは茶色い塊だった。だがよく見るとその茶色は体に体積した土である事が解る。
細い鼻先、鋭い爪、強靭な尻尾。ぱっと見は獣の様に見えるそれは、固い鱗に覆われていてその太い四肢で巨大な体を支えていた。
『GRRRRRRRR』
「よし!!作戦通りに行くぞ!!」
「援護は任せr」ドガーン!!
2人がヘイトを稼ぎ誘導を開始しようとしたまさにその時、その魔物の姿はすでに城壁の内側に在った。
2人が警備していた城壁は木っ端みじんに砕かれ、隊長が居た塔は今音を立てて崩れていく。魔物の対処をしていた守備隊も突然の魔物の突撃にその大半が動けなくなっていた。
『GAOOOOOOOOOO!!』
首を持ち上げ声高高に叫びを轟かせる魔物。あまりにも突然な魔物襲来に住人の避難はまだ完了しておらず、魔物の目の前にはまだ多くの人が残っていた。
『GYAOOOOOOO!!』
贄の多さに歓喜の声を上げる魔物。いざ食事を開始しようとした所で魔物は顔の横から衝撃を受ける。
『GYAU!!』
「ほっほっほ、生きの良いのがおるわい。」
「もうお爺さん突然走り出したと思ったらこう言う事ですか。」
「強い気配を感じたでの。こいつは中々骨が折れそうじゃわい。」
そこに現れたのは城壁の近くで道場と畑を営んでいる老夫婦だった。
「ばぁさんや、こいつが何か分かるかの?」
「私は知りませんよお爺さん。サンクチさん達なら分かるかもしれませんね。」
自分の前で呑気に話す2人。そんな2人の様子に腹を立てた魔物は自慢の牙を突き立てようと大口を開けて老婆に迫る。
「あらあら、ちょっとは歯を磨いたほうが良いですよ?」
『GYA?』
噛みついたはずだった。いつもであれば牙を突き立ててその身を喰らい、泣き叫ぶ様子を笑いながら見ているはずだった。だが実際には老婆は自分の顔の横に立ち、牙を何かで撫でている。何やら口の中がスースーする。
「はい、おしまい。」
「婆さんや。何も磨いてやる事は無いじゃろ?」
「臭かったんですもの。」
ほっほっほ、ふふふふと笑い合う老夫婦。魔物はそんな事は関係ないと何度も何度も攻撃を加える。牙で噛みつき、爪で引き裂き、尾で薙ぎ払う。だがこの老夫婦はその攻撃を全て笑顔で捌き、躱していく。
「元気な奴じゃなぁ。ほいっと。ぬぅ、やはり固いの。」
「あらあら、お爺さんでも駄目ですか?」
「時間を掛ければ抜けるじゃろうて、じゃがちと溜めが必要じゃの。」
「私も同じくですね。元は何だったのかしらこの子?」
自分の自慢の鱗は老夫婦の攻撃を弾いている。だがこちらの攻撃はその威力を発揮する事は無く、全くの無意味。魔物は悟った、こいつ等には勝てないと。復讐相手を想定して力を付けてきたが、この2人には敵わないと。
そして必然取る行動は1つ、自分が敵わない2人を相手にするよりも、復讐相手に一撃でも与える。その為に森で主候補を奇襲した戦法を取る魔物。
「おや?消えおったぞ?」
「あらあら、臭いも気配もなくなりましたわね。」
魔物は特殊個体だった。本来の種族ではなく、特殊な種族に進化した個体。そしてたとえ野良であってもその畏怖と畏敬の念をもって名前を付けられた個体。
ハイド。姿なき暗殺者の特性を手に入れた地竜は、かつて仲間を自分の両親を狩り尽して去っていった男の匂いを追った。
「逃げられてしもうたの。いやぁ厄介じゃなぁ。」
「放って置いたら大変ですよ。他の方にも声を掛けて捜索しませんと。」
「その前に守備隊の救助じゃな。まったくルバートの奴は鍛え方が甘いわい。」
「人数が増えましたから仕方ありませんよ。今度うちの道場で何人か受け持ちましょうか。」
「サンクチの所でも修行させるかの。人が増えたのは良いがこういう所で弊害が出るとはの~。村じゃった時ならもう素材になっとるじゃろうに。家に来たやつは徹底的にしごいてやるかの。」
「ふふふ、それは楽しみですね。」
そんな老夫婦2人の会話を聞いて居た、生き残った守備隊の背中にはいつの間にか冷汗が流れていたとかいないとか?
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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