第165話

あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか?10秒?1分?1時間か?すでに俺の体は満身創痍だった。あちこち傷だらけで血が流れている。意識も結構朦朧としてきた。最初吹き飛ばされた時はもうダメかと思ったが、体が勝手に動き鍋の蓋で防御していた。まるで何回も同じことをしてきたように動けた。


その後、勝手に動こうとする体に逆らわずに何とか鍋と鍋の蓋を使いダッシュボアの突進を受け止めていた。だが相手の数が多すぎて何度も被弾し、右手と左足が折れてしまった。鍋もすでに変形して大穴が開き使い物にならなくなった。残っているのはひしゃげた鉄鍋の蓋だけだ。


Brrrrrrrrrrrr

BUGAAAAAAAAA!!


地下室の入り口で粘る俺にダッシュボア達は苛立っている。そして、業を煮やしたのか最初に見た体の大きなダッシュボアが叫びながら俺に向かって突っ込んで来た。


これはもう終わったな。だけど地下室はもう大丈夫だ。これであいつらの生き残る可能性は高くなった・・・・。


度重なるダッシュボアの突進で家は完全に崩壊。地下室の入り口はその瓦礫の下に隠れている。降り注ぐ瓦礫を鍋の蓋で受け流し、地下室の入り口に落とす事が出来たのは不思議だったが。それでも妻と子供が生き残る可能性が高くなるなら何でもいい。これで自警団が戻って来る時間は稼げるはずだ。


突進してくるダッシュボアの姿を見ながら俺は静かに目を閉じる。そして来るべき衝撃に備えた。こういう時は走馬灯が見えるって話だったが何も見えないな。まぁ襲われて死ぬんだからそういうもんなのだろう。


ドスンドスン!!ガキンッ!!

BUGAAAAAAAAAAA!!


しかし覚悟を決めていた衝撃が全く来ず、それ所か何か大きなものが落ちる音と、どこか聞きなれた衝突音と共にダッシュボアの叫び声があたりに響いた。


うっすらと目を開けるとそこにはシロクマが立っていた。いや、良く見たらシロクマを模した兜の鎧が両手に大きな盾を持って目の前に立っていた。


【ここに居たか。ずいぶん探したぞ。】

「なんだ!?鎧が喋った!?」

【我の事を忘れたのか?・・・・ん?そうか、取り込まれておるのか。まったく我らも不甲斐ない・・・。恩人をこのような目に合わせてしまうとは・・・。だが我等が来たからには安心せよ。もう大丈夫だ。】

「なっ何を言って?」

【口で答えるよりもこの方が早い。そらっ思い出すがいい!!主が何者で在るかをな!!】


目の前に現れたシロクマの鎧は急にバラバラになったかと思うと俺の体に取り付き始めた。脚に、手に、腰に、体にそして最後に頭に鎧が装着され。目の前には大きな盾が2枚、地面に突き刺さって立っていた。


【手に取るが良かろう。その大楯こそがお主を象徴する物。記憶を取り戻すための最後のカギだ。】

「思い出すって一体・・・。それにこの鎧は?何かとても懐かしいような、凄く面倒臭い思いをしたような?」

【そんな事言うておる場合か?そら来るぞ?】


俺が鎧を着た事を危険と判断したのかダッシュボア達がこちらに向かって突進してくる。その姿を見た俺は咄嗟に盾を掴み、突っ込んでくるダッシュボアに向けて構え突進に備えた。


盾を手に取ると不思議とダッシュボアから感じていた恐怖が無くなる。それ所か俺は両手に盾を持つ事に懐かしさを感じている。前にもこうやって盾を構えて・・・・そして・・・そして?・・・・・・そうしてこうして来たんだった!!


「巨大化!!」『こっちじゃおらぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


ドズンッ!!


体を巨大化させ、ダッシュボアの突進を受け止める俺。今度は吹き飛ばされる事は無く、むしろ突進してきたダッシュボアが目を回していた。全部思い出したぞ!!俺は巨人族の旅人、双盾使いのルドだ!!


【思い出したか。】

『おう!!迷惑掛けたな!!』

【構わぬ。恩人を助けるのが我らの勤め。ここに来る前に戦っておった者達が向かって来るのが見えた。耐えていれば直にこちらに来る。主であれば平気であろう?】

『こいつらの攻撃何て屁でもねぇよ!!』

【では頑張る事だ。我らは又鎧の中から見守るとしよう。】


シロクマの思念が途絶え、俺は盾を再度構える。突然巨人になった事に驚き、動きを止めていたダッシュボア達は次々に俺に向かって突進してくるが、その全てを受け止め放り投げる。いやぁ道場思い出したわ、懐かしいなぁ。


『おらおらおら!お前等の攻撃はそんな物か?そんなんじゃ俺のDEFは抜けねぇぞ!!』

Pgiiiiiiiiiiiii!?


さっきまで満身創痍だった奴が突然元気になり、自分達より大きくなり攻撃も効かなくなった。そんな状態はダッシュボア達の動揺にもつながった。何度攻撃してもダメージが入らない俺を見て次第に突進してくる奴が居なくなり。周りを取り囲むだけになった。


さてこっからどうすっかねぇ。俺攻撃力無いからこいつ等倒せねぇぞ?こんな事ならシアを連れて来れば良かった・・・・。


呼び出そうにも友魔の鈴が使用不可になっていた。恐らく本の世界に入った時に外界とは切り離されるみたいな設定でも在るんだろう。外にいるであろうクリンやルゼダ、メガネやウケンなんかにチャットで状況を伝える事も出来なくなっている。


この先どうしようかと頭を悩ませていると、待ちに待った援軍がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。


「さぁあんた達!!残党狩りだよ!!うちの村に手を出した事後悔させてやりな!!そんでもって夜は猪肉パーティーだ!!」

「かぁちゃんなんでそんなに元気なの?周りちゃんと見てよ。皆の表情死んでるよ?」

「動けりゃ大丈夫さね!!さぁ行くよ!!」

「あぁもう!!かぁちゃんのバーサーカー!!」

「ジークは夜飯抜き!!」

「ひどい!?」


赤い髪の大女を先頭に、この村の自警団がこちらに向かって走って来ていた。サニアさんは剣を振り回し、近くにいるボア達を切り伏せる。一緒に居るジーク君は、手を翳すだけでボアを消し去っていた。凄いなあの2人。他の自警団の面々も各々手に持った武器でボアを倒していく。


その後ダッシュボアの群れは自警団によって狩り尽された。そのついでに俺まで狩られそうになったがな!!いや巨人化してて俺まで化け物認定だったんよ。解除して兜を脱いだら俺だと解ってくれたけど。ジーク君だけは必死で止めてくれてたけどね。


「あなた!!」

「わっぷ。」


自警団と協力して地下室の入り口を塞いでいた瓦礫を撤去した。巨人化した俺なら簡単だったよ。そしてサニアさんが地下室の中に入り声を掛けて、安全だと解った村長たちが地下室から出て来た。


リアンを抱えたリダは俺の無事な姿を見て、感極まったのか泣きながら抱き着いて来た。そう言えばこっちの問題もあったなぁ・・・。


「あなた怪我はしてない!?心配したんですからね!!その格好はどうしたの!?それにその盾は何処から持って来たの!?」

「いやいや、一旦落ち着こう。なっ?俺は大丈夫だから。リアンが潰れちゃいそうだよ。」

「あぶぶぶぶ。」


図書館の球体だったはずのリアンが赤子になってるし、リダは俺の嫁さんになってるし、記憶取り戻すにはどうしたら良いんだこれ?


【仕方ない、我らが助けてやろう。】


おっ助かるよ。で、どうするんだ?


【こうすれば良かろう。】


ぷにっ。


えー、簡単に状況を説明します。リアンを片手で抱いた後、俺の右手がリダの胸を揉みました。もう一度言います。おもむろにリアンを左手で抱っこしたと思ったらリダの胸を右手で鷲掴みしました。デジャヴュッ!!


「~~~~~っ!!いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」ドゴンッ!!

「ごふぅっ!?」

「あぶぅ~。」

ガシャーンッ!!ガラガラガラ・・・。


リダに殴られた俺は5mくらい吹っ飛び崩れた家の瓦礫に突き刺さった。リアンは怪我させない様に抱え込みましたよえぇ。


「はっ!!今の殴り心地はルドさん!!あれ?私は一体何を?」

〔私は一体何を・・・・。なんで抱えられているんでしょう?〕

「ごふぅ・・・。良かった2人共元に戻ったか・・・。あっ、もう駄目だ。後は頼んだ・・・ガクッ・・・。」

「ルドさん!?誰がこんなことを!!」

〔緊急事態発生!!緊急事態発生!!〕


俺を殴り飛ばしたおかげでリダの記憶は戻ったらしい。リアンも空を飛んだ感覚で思い出したのか、赤子からドローンに戻った。記憶が無くても俺を吹き飛ばせるほどの拳って何だこれ。ギャグ漫画の補正が掛かってるとした思えないぞ。スキルも何も発動しなかったしな。とりあえずダイイングメッセージを・・・・【犯人はリダ】ではおやすみなさい・・・・。


「ルドさぁぁぁぁぁぁん!?」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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