第164話

『うっしこれで全員だ。クリンとルゼダも説明の為に魔法陣で先に外に出といてくれ。』

「大丈夫なんですの?結構危険そうですわよ?」

『まぁ何とかなるだろう。リアン、力の吸収機持って来てくれ。』

〔畏まりました。〕


多分外から見たら俺達がいきなり住民を拉致した様に見えるだろうなぁ。まぁ間違ってないわけだが。でもちゃんと理由が在るのよ?


それはテント村の人達が物資を運び出していた大きなテント。その中からとてつもない力を感じて、しかもそれがかなり危険な状態だと分かったから避難させたかったのよ。


何で分かったかって?本の補修で身をもって経験したからな。暴発した呪本や魔本と全く同じ気配をしていたら分かるってもんよ。それも補修していた本よりもかなり強い気配だったからな。全員気付いていた。


「それでは私達は先に戻っていますわ。」

『ハジンさん達にテント村の人達の生活保障のお願いもしておいてくれ。いきなり外界に出されても普通に生活は難しいだろ。』

「解りました!!あっでも一度出たら僕達戻って来れないのでは?」

〔一度だけでしたら戻れるように致します。これも依頼の範囲内と判断いたしましたので。〕

「それは有難いですわ。」

「2人共頼みましたよ。」


クリンとルゼダを送り出して、俺は大きなテントに使われていた天幕を引っぺがした。そこには禍々しい気配を垂れ流す1冊の魔本と、それを取り囲むように置かれた呪本が並んでいた。


〔これは又、良くこのような事を考え着きましたね。〕

『これはどういう状況だ?』

〔本の中に別の世界を内包した魔本を呪本によって制御しています。恐らく本の中から物資を購入して持ち込んでいたのかと。ですがこの類の魔本は外に物を持ち出す為に生贄を必要とします。その生贄を別の呪本の力で補っていますね。その所為で魔本が変質し、本の外の世界を侵食しようとしています。〕


あれまぁ、一大事じゃないの。


「どうにか出来ますか?」

〔まずは核となっている魔本の力を削がないと行けません。このままでは抽出機に入れても道具の方が壊れてしまいます。〕

『どうやって力を削るんだ?』

〔中に入って頂き、影響を与えている呪いを排除して頂きたい。それでかなり力が削れます。〕

「どうやって本に入るんでしょう?」

〔本を開けばそのまま本の中に入り込めると思われます。〕

『しゃぁねぇ、行くか。クリン達を待ってる時間も無さそうだ。』

〔本の中はどうなっているかこちらから確認は出来ません。十分注意しながら行きましょう。〕

「それじゃあ開きます!!」


リダが本を開くと、俺達の体は吸い込まれるように本の中に消えていった。俺だけズゴゴゴゴゴって音を出しながら一生懸命に吸われたぞ。心なしか本の縁に怒りマークが浮かんでいた気がするが気のせいだよな?


~・~・~・~・~

ここはドータイの村。のどかで落ち着いた雰囲気の在る農村だ。俺達“夫婦”はそこで農家として働いている。


「あなた~。ご飯が出来ましたよー。」

「おう!!今戻る!!」

「ばぶぅ~。」


妻のリダは料理もうまく、美人で、俺にはもったいないくらいの嫁だ。なんで村一番の美女が俺なんかの嫁になったのか分からんくらいだ。


「リアンもお利口にしてたかぁ~?」

「ばぁ~ぶ~!!」


息子のリアンは俺達の子供だ。リダの妊娠が解った時は村の全員がお祝いしてくれた。


「こらジーク!!逃げんじゃないよ!!まだ修行は終わって無いんだからね!!」

「勘弁してくれよかぁちゃん!!このままじゃ俺死んじまうよ!!」

「黙りな!!自警団団長の息子がその体たらくじゃ示しがつかないんだよ!!」

「ぐえぇぇぇぇぇぇぇっ!!じぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


俺達の畑の傍を、真っ赤な髪をした筋骨隆々な女性と、茶髪の男の子が何やら騒ぎながら通り過ぎていく。


「サニアさん又やってますね。」

「ジーク君に強く生きて欲しいんだろうなぁ。リアンも大きくなったらサニアさんに預けるか?」

「バブッ!?」

「それは止めときましょう。リアンが可哀そうです・・・。」

「ばぶぅ~。」

「はっはっは!!そうだな。それじゃあ戻るか。飯だ飯!!」

「今日も腕によりをかけて作りましたからね!!楽しみにしていてください!!」


今日もこの村は平和だ。


カンカンカンカンカン!!


その時、急を告げる鐘が村に鳴り響いた。一心不乱になり続ける鐘の音は。モンスターの襲来を告げていた。


「すぐに村長宅に避難だ!」

「大丈夫ですからねぇ~。パパもママも居ますからねぇ~。」

「ふえっ、ふえぇぇぇぇぇ~ん。ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

「自警団出るよ!!ジークも来な!!」

「俺今死にかけてるんですけど!?」

「それだけ喋れるんなら十分だよ!!」


村の自警団が外に向かって走っていく。その姿を見て何か体が動きそうになったが、リダに服の袖を握られた。


「あなた、早く避難しましょう。」

「・・・・そうだな。」


俺はリアンとリダを守るように村長の家に向かって走り出した。


村を襲って来たのはダッシュボアの群れだった。その突進で家をなぎ倒し、畑を踏みつぶし、せっかく育てた野菜を食い荒らしていく・・・。


「もう村はおしまいじゃ・・・・。命が助かっても畑がこれでは・・・。」

「私が畑の復活を手助けしますから安心して下さい。モンスターの方も妻と息子が頑張っています。大丈夫ですよ。」


サニアさんの旦那のクリスさんが優しく村長の手を取って励ます。容姿が完全に女性の為、村長の鼻の下が若干伸びている事は見逃そう。クリスさんは農作物の成長を促進する力を持っている。うちの畑も何度かお世話になったがあの力は凄かったな。


ドズンッ!!


その時、避難所になっている村長の家が揺れた。この家は石造りの壁を持っていてある程度のモンスターの攻撃は受け止める事が出来る。だが群れとなったダッシュボアの攻撃にさらされ、徐々に壁に罅が入り始めていた。


「奥じゃ!!奥に逃げるのじゃ!!」


村長の叫び声に全員で部屋の奥に逃げ込む。けれど部屋の奥からも衝突音が聞こえ、村長宅がダッシュボアに囲まれている状態だと解った。


「本当にもうおしまいじゃ!!」


ドガンッ!!ガラガラガラッ・・・・。


村長の絶望の叫びと同時に家の壁が崩れ、光が差し込む。そこには大きな影が浮かび上がり、かなり大きなダッシュボアの姿が現れた。


Brrrrrr


餌を見つけたと喜んでいる様に鳴くダッシュボア。俺達はその恐怖に体を縮こませる事しか出来ない。必死にリダとリアンを体の後ろに隠す。


Buaaaaaaaaaaa!!


壁を壊したダッシュボアの鳴き声に、他のダッシュボアが集まって来る。集まったボア達の鼻息も荒く、今にも突っ込んできそうな様子に俺達は絶望する。


せめてリダとリアンだけでも!!


ボガンッ!!


その時、壊れた壁とは別の壁が崩壊し、そこにあった物が色々と吹き飛んで来た。台所の壁が壊れたのだろう。包丁や鍋なんかの調理器具が吹き飛んでくる。


「このまま殺される位なら・・・やってやらぁ!!」


何とかモンスターから距離を取ろうとした俺達の中から、落ちている包丁を握ってダッシュボアに突撃する奴が現れた。周りは必死にそれを止めようとするが、男はそのまま包丁を握りしめダッシュボアに切りかかっていく。


「うらぁぁぁぁぁ!!」

Pugiiiiiiiiii!!


ダッシュボアの眼に包丁が当たったのだろう。攻撃されたダッシュボアがむやみやたらに暴れ始めた。


「やっやったぶぼぉっ!?」


攻撃が有効だった事に気を抜いた男が、暴れるダッシュボアに突き飛ばされ上半身と下半身が千切れ飛んだ。それを見た俺達はさらに恐慌状態に陥る。


「地下室じゃ!!地下に逃げるんじゃ!!」

「女子供が優先だ!!早く入れ!!」


幸い男が暴れたおかげでダッシュボアの注意はそちらに行っていた。その間に俺達は部屋の奥にある地下室の入り口から女性と子供を地下に逃がす。


このままじゃ間に合わない。


ダッシュボア達は千切れ飛んだ男の死体をむさぼった後、俺達に視線を向けていた。俺は近くに落ちていた鍋とその蓋を手に持ち、地下室の入り口に立つ。


「あなた!!」

「リアンを守ってやれ!!早く地下室に!!」


こちらに手を伸ばすリダの顔を見て、家族を守るのは俺なんだと覚悟を決める。


「おらこっちだぞ!!」ガンガンガンッ!!


鍋を叩き、音を出しながらこちらに注意を向ける。地下室の入り口からも注意を逸らしたいが、複数のダッシュボアの眼が在るから難しい。


俺の行動は無意味かもしれない。けど少しでもあいつ等が生き残る可能性があるなら粘ってやる!!


BUOOOOOOOOOOO!!


覚悟を決めた瞬間、俺の体はダッシュボアに跳ねられ宙を舞っていた。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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