第140話

真っ赤な盃を前に固まる親父。そんでもって号泣して何やら言葉にならない嗚咽を響かせながらいきなり少女に抱き着こうとして怖がられて逃げられた。現在俺を挟んで2人で追いかけっこをしております。迷惑だ!!


「ぐぬぉぉぉぉぉぉ!!いぎで!!いぎでだぼがぁぁぁぁぁぁ!!」

「親父!!一旦落ち着け!!怖がってるから!!この子怖がってるから!!」

「やー!!こやいのやー!!」

「やめなさい!!」スパーンッ!!


また胸の谷間からハリセンを取り出して親父の頭をひっぱたくカマーンさん。いやぁこの人が親父と一緒になってくれて本当に良かったと思う瞬間だよ・・・・。いやこんな事でそんな考えになって良いのか?


「すまん・・・落ち着いた・・・。」

「まったく、死んだと思っていた子供が生きていて嬉しいのは解りますがやり過ぎです!!あれを見なさい!!すっかり怯えちゃったじゃないの!!」

「面目ない・・・・・。」

「すんすんすん・・・・。」

「もう大丈夫だからなぁ。怖い人はあのお姉さんがやっつけてくれたからな。」

。・゚・(ノД`)ヾ(・ω・*)なでなで


完全に俺の後ろから出なくなっちまったよ。おーよしよし、怖くないですよー。


「で、この子が親父の娘って事でいいのか?」

「魔道具の判定だとそうなるわね。でも男の子じゃなかった?」

「生まれる前の検診で男の子だったはずだ。」

「なんで性別変わってるんだろうな?」

「じーじ、このこのおなまえは~?」


怯えちゃった少女を慰めながらシアが親父に向かって名前を聞く。シアの言葉を聞いて親父は何やら考えこみ始めた。


「元々子供に付ける名前で良くないか?」

「男だと思って考えてた名前なんだよ。」

「そんなの駄目よ?女の子なんだからカワイイ名前じゃないと。」

「今考えてる!!・・・・・・シル。シルだな。お前の名前はシルだ。」

「しる?」

「親父考えるの面倒くさくなったな?」

「もっとかわいい名前にしましょうよ。」

「うるせぇ!!だったらてめぇらで考えろ!!」

「しるちゃんよろしく~。」

「よろちく?」


突然名前を付けられて混乱してる感じかな?でもシルってのが自分の事だってのは理解したみたい。その様子を見てカマーンさんがシルの前に出た。


「シルちゃん、この人は貴方のパパよ。そして私は貴方のママよ!!」

「いや間違っちゃいないんだが、どっちかと言ったら義母だろお前は。」

「細かい事は良いのよ!!」

「ぱぱ?まま?『GRR?』」


親が解って無いんだからパパやママなんて言われても理解できないだろうな。うーんどういえばいいか・・・・。そうだなぁ。


「シル。簡単に言えばこの二人はお前を守ってくれる人だ。」

「まもゆ?『KRRRR』」


どうして守るという単語で俺に抱き着くわけ?いや、そりゃ俺は盾職だから守る事が仕事だけれど。


「ぱぱ、よろいのちからだよ!!」

「鎧?・・・・あぁ!!こいつ魔物の楽園の守護してたんだった!!それでか!!」

「どういう事だ?」

「えっとな。」


俺は鎧を手に入れた経緯を話した。魔物達が暮らしていた楽園がダンジョンに在って。そこを守っていた熊がこの鎧の元になっている事を。


「なるほどな。それでそんなに懐いてるのか。」

「魔物と混ざっているから、本能的にルドちゃんがその守護者だと思ったのね。」

「においがするの!!おとなしいこならあんしんするよ~。」

「金属入ってても皮鎧だからな。そりゃ匂いも付いてるか。」

『KRRRRR』

「まぁいい、それよりそろそろ地上に戻るぞ。俺の娘にちょっかい掛けてきた奴を締めないといけないしな。」

「あら、私達の娘よ?」

「俺ってこの場合どうなるんだろうな?」

「おにいちゃん!!」

「じゃあシルは妹って事になるのか。」

「おねちゃん?」

「あら、ルドちゃんは女性になるの?」

「ならんわ!!シルは後で又言葉の勉強しような。」

「うん!!」

「しあもいっしょにする!!」

「ほら行くぞー。」


俺達は地上を目指して歩き始めた。途中シルを捕まえようと襲って来た襲撃者達をシアの蔓で拘束し直し、引き摺りながら出口に向かう。地上に出ると爆発音や何かが破壊される衝撃音が遠くから響いていた。


「おー、派手にやってるなぁ。」

「ルドちゃん?まさか本当にリダちゃん達に連絡したの?」

「えっ?したよ?守備隊ですから。王都住民に被害が出る前にそういうのは潰さないと。あっ音が止んだ。」

「終わっちまったか。」

「なんでじーじはざんねんそうなのー?」

『GR?』


俺達は先にシルを保護したと報告する為に兵舎まで移動する。移動している途中でリダからチャットで連絡があった。


【ルドさんお疲れ様です。】

【おうリダか、お疲れ。どうだった?】

【全員無事捕縛できました。そこで気になる事を聞いたんですが。報告良いですか?】

【あぁ良いぞ。なんだ?】

【どうやらこいつ等マジックバックに違法薬物や魔道具なんかを保管してたらしいんです。薬物は前日に取り出していたそうなんですが、魔道具の方がそのまま中に入っているそうで、核撃魔法なんて言う恐ろしい魔法が使える杖を入れてたみたいです。最初は火が出るだけなんですがそれは準備段階らしくて。そのまま使うと辺り一帯を吹き飛ばすそうです。】

【おk、すぐに確保しとく。核撃って事は核攻撃か?放射線とか大丈夫なのか?】

【あっ放射線とかは大丈夫みたいですよ?ただもの凄い爆発と衝撃波が発生するそうなので決して使わないで下さいね。王都が消滅する程の爆発だそうなので。】

【わかった、捕縛ありがとな。】

【クエスト扱いで報酬が出るのでこちらとしてもありがたかったですよ。後で合流しますね。では。】

「終わったのか?」


俺がチャットで連絡を取っていると解っていたのか親父が声を掛けてくる。


「終わったって。そうだシル。杖持ってないか?」

「ちゅえ?」

「あー、火の出る棒だ。」

「あゆよ。これ!!」

「なんで俺には懐いてくれないんだろうなぁ・・・・。」

「あらあら、そんな悔しそうな顔をするなら慣れて貰えるように2人で頑張りませんとね。私の娘にもなるんですから。」


何やらブチブチ言っている親父はほうっておいてシルが取り出した杖を貰う。


「シル、これ使ったか?」

「?ひがでうちゅえ。」

「火が出る段階で止めたのか、それ以上使わなくて良かった・・・・。これ俺が貰っていいか?」

「え~・・・・。」

「代わりの杖買ってやるぞ?火が出るより凄い奴だ。」

「・・・・いいよ!!」

「ありがとうな。」


さてさて誰かに取られる前にインベントリに封印を。


「ヒャッハー!!頂きだぜー!!」

「あっこら!!」


空から突然影が落ちて来たと思ったら俺が持っていた杖を掴んで空に飛んでいった。よく見たらあいつ武術大会で空中をぐるぐる回っていた鳥人種の奴じゃねぇか!!


『返せコラー!!』

「捕まえられるもんなら捕まえてみな!!」


巨人化して追いかけるがそれより上空にスイッと飛んで行ってしまった。ってあいつなんで杖起動してるんだよ!!杖から火が出始めてるぞ!!


『おい杖使おうとするのは辞めろ!!』

「へんっ、武術大会で無様晒した俺はもうアウトローになって稼ぐしか無いんだよ!!アウトロー、なんて良い響き!!だが俺が働いてた組織は潰れちまった!!そんな時に現れた千載一遇のチャンス!!組織が隠してたこの杖を使っておれは裏社会でのし上がってやるぜぇぇぇぇぇ!!」


うん、なんか変なテンションになってるなあいつ。あっさらに上空に逃げやがった。


「なんか良く分からんがこいつは凄い兵器だって聞いたぞ!!使う時は十分に距離を離して使えってな!!これで王都を焼いてやるぜぇ~!!」

『あっ馬鹿!!それ以上使うな!!』

「ここまで上空に上がれば大丈夫だろ!!俺を馬鹿にした奴覚悟しろ!!行くコケーーーーーーッ!!」


チュボーーーーーンッ!!


翌日の朝刊から抜粋


昨日、王都上空で大規模な爆発が起こった。爆発や衝撃波はその場に居合わせた城塞都市ルド所属のルド守備隊長が抑えた為に被害は無く死傷者も0だった。王都爆破未遂の実行犯であるコッコリーは今日の未明に黒焦げになって近くの森に墜落しているのを発見、捕縛された。


使用された魔道具はニュークリアロッドと呼ばれる核撃魔法用の杖であり。使用した場合“杖を中心に”爆発が広がりその周囲を焦土と化す物だった。なぜコッコリー容疑者がこの杖を所有し、使用して生きているのかは現在調査中である。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る