第137話

「なるほど、彼女が最近王都を騒がせている盗人なのね。」

「あっあぁ・・・・。しかし慣れないな。その・・・・・。」

「ふふふ、美人になったでしょう?」

「これが魔道具で性別を変えただけで容姿は一切弄ってないってんだから驚くわな。」

「親父も最初は顎が落ちるくらい驚いたくせに。」

「うるせぇ。」


はい、今俺達は泥棒が入った肉屋の近くに在る守備隊の兵舎に来ています。丁度そこにカマーンさんが結婚式に招待したかった昔馴染みの人が居て。世間話がてら例の少女について情報交換をしていたって訳ですな。


「で、あの子は怪物卿の事件に関わってるってぇのは確実か?」

「怪物卿の屋敷に隠し部屋があり、そこから出てきたのは確認済みだ。最近になって発見された研究資料にその部屋の事が記載されていて、調査に赴いた直後に発見したんだからな。」

「怪物卿って?」

「あら、ルドちゃんは知らなかったわね。この国の前軍務卿の蔑称よ。」


どうもその軍のお偉いさんは、生体実験やら人体実験を繰り返し。魔物と人を掛け合わせたキメラを作り出して自分の手駒にしようとしたそうだ。怪物を生み出す軍務卿で怪物卿。もしかしてあの軍服はその研究資料を使ってキメラを作ったのか?


「そうだ、城塞都市から流れて来た資料に書かれていたんだよ。そこに現在怪物卿の屋敷に住んでいる商人から品物が消えるという事件の報告があり調査に向かったんだ。」

「それで、あの子がどこの子供だとかは解ってるのか?」

「いや、そこまでの資料は無かった。ただ実験の為の素体として赤子の頃から使用されていた記録ある。」

「それってつまり?」

「・・・・・あまり口に出して言いたくは無いな。」


そう言って守備隊の隊長さん。ホマンさんは俺達に資料を投げ渡した。


「一応これは極秘資料だ。だが君達になら見せても構わんだろう。これは例の未発見部屋で押収された物になる。」

「何てこと・・・。」

「うっそだろ。相手赤ん坊だろ?何だこれ・・・・。」

「・・・・・・・。」

「ゆるせないの。」


そこに記されていたのは“赤ん坊から採取された材料のリスト”だった。鱗に始まり爪や果てには手足や内臓なんてものも記載されている。


「実行犯はすでに全員処刑されている。だからそう怖い顔をするな。」

「報いは受けさせたんでしょうね?」

「相応にな。」

「なら俺達が怒ってもしょうがないな。」


そもそもすでに処刑されているのであればもう報いを受けさせることは出来ない。


「でもこんなに切り刻まれて生きている何て不思議ね?」

「どうやらあの少女は魔物との完全融合体らしい。体内に魔石の保有を確認したと資料にある。」


魔石ってのは魔物の体内で生成される魔力結晶の事ね。心臓の代わりをしていて魔物を倒すとドロップアイテムとして手に入る。そんでもって一部の魔物は体内に魔石が残っていたら再生する種類も居る。


「つまりあの子は魔石に十分な魔力が溜まっていれば何度でも再生したと?」

「そうだ、そして力ない赤子なのを良い事に“採取”を続けたんだ。それを使って怪物卿は人体実験を繰り返した。」

「ゲスいなぁ~。」


赤ん坊を材料扱いとかそいつは正真正銘の“怪物”だな。処刑されてて良かったよ。じゃないと目の前の2人が今からでも殴り込みに行きそうで怖いわ。まぁそうなったら俺も行くがな。


「どうにか保護したいと思っているんだが、姿や気配まで消せるわ、運動能力は高いわで中々捕まえられなくてな。幸い盗まれた物は食料品が主で損害的には大きくない。なるべく無傷で保護できないかと思っているんだが・・・。」

「あら。なら手を貸しましょうか?」

「良いのか?」

「えぇ、構わないわよ。ねぇ皆?」


カマーンさんの声掛けに頷きで了承を返す俺達。断る理由も無いからなぁ。それにこれで彼女が剣に怯えている理由が解った。多分刃物が怖いんだ。そりゃ自分の体を切り刻まれて怖がらない方がおかしいわな。だったら俺達が一番適任だとは思う。なんせ俺もシアも刃物持てないからな!!おっとこの情報は騎士団にも共有しとくか。


「彼女、刃物に怯えていました。捕縛するなら剣は抜かない方が良いと思います。」

「それは本当かね?」

「これを見て頂ければご理解いただけるかと。」


振り返り録画の動画をホマンさんにも見せる。背が高いから結構高い視点で見えるのよね。少女を囲う兵士と、剣をしきりに気にして怯える少女がばっちりですよ。


「・・・・・確かに、しきりに剣を気にしているな。」

「刃物に対してかなり怯えが見えますわ。可哀そうに・・・・トラウマになってしまってるのね・・・・。」

「分かった。捕縛の際は剣を使用しないよう通達する。警棒もあるから其方で対応するとしよう。」

「お願いします。」


これで、恐怖に駆られて誰かを傷付ける可能性は下がったかな?


「早速だが、案内の者を付けるので捜査に協力してくれ。窃盗事件の在った現場を重点的に回って貰えるとこちらとしては助かる。」

「構わないわ。その代わり私達の結婚式にはちゃんと出席してよね?」

「あぁ、そのような申し出だったら喜んで行かせて貰うとも。」


笑顔で見送られ、俺達は守備隊の兵舎から事件の在った場所を回る事になった。案内の兵士が俺達を先導してくれている。


「屋敷から食料品店を荒らして、少しずつ王都の外側に向かってる感じか?」

「それと服のお店が少しって感じかしら?」

「他に窃盗の報告をして来た店は無いんだよな?」

「守備隊及び騎士団に窃盗の被害報告を上げている店は以上となります。」


被害がそれくらいで良かったよ。食料や衣服くらいなら料金を払ってしまえば罰は受けなくて済むからな。払えなかったらちょっとした労働をするだけで済む。


「少しずつ外に向かってるんだったらさっき事件の在った肉屋から外壁までを探した方が良いかねぇ。」

「いや、多分中心部付近に拠点が在るはずだ。」

「あら?どうしてそう思うのかしら?」

「魔物と混ざって習性まで真似ているとしたらどうだ?」

「蜥蜴系の魔物だったら巣の場所を知られない様に他所で騒ぎを起こして尻尾を切るわね。」

「巣の場所から注意を逸らす為に囮になるという事もある。まぁそれは仲間が居た時だが。」


なるほど、魔物の種類によってはそんな習性も在るのか。俺は知らなかったよ。倒すだけなら関係無いしな!!


「つまりは例の屋敷の近くに潜伏してるって事だな親父。」

「恐らくな。」

「ぱぱ、ちかくにいるよ?ほらあそこ。」


あの少女の居場所について考察していると、シアが突然あの少女が居ると言い出した。だが指示した先にその姿は見えない。


「何処に居る?」

「あっきた。」

「おえっ!?」

「ルドちゃん!?」


気配察知を強めて少女の姿を探そうとした所で突然俺の体は宙に浮き。そのまま壁の上を疾走し始めた!!


「ぬえぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「姿を消すってまんま透明になるって事か!!」

「ルドちゃんは消せないみたいね。」

「ぱぱまってー。」


さすがの親父とカマーンさん。俺を運んでいる多分あの少女を追いかける為にすぐに屋根上にまで上がって来た。カマーンさんの腕にはシアが捕まってる。


追いかけて来たのを感じたのか俺を捕まえている犯人はダッシュでその場から離れ始めた。


「ちょっちょっと止まって!!このっ止まれってば!!」

「ルド!!でかくなって止めろ!!」

「あっそうか。よし巨人ごふぅっ!?」

『GR。』

「あっぱぱおっきいたんこぶできた。」

「振り回されて煙突に頭をぶつける何て運の無い子ねぇ。」


多分少女が後ろから迫ってきている親父やカマーンさんの様子を見ようとしたんだろう。振り返った所で俺は屋根に備え付けられていた煙突の角に勢いよく頭をぶつけた。街中なんでダメージは無かったけれど、頭部攻撃判定と言う事で気絶のデバフが掛かりそこで意識を失いましたとさ。とほほ。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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