第138話
少女は今焦っていた。なぜならば自分の姿は見えないはずなのに追いかけてくる人が居たからだ。慌てて振り返ると ゴンッ!! と言う音と共にさっきから暴れていた大きくなる人が大人しくなる。
「ぱぱきぜつしちゃった!!」
「おいルド!!しっかりしねぇか!!」
「あの子が逃げるわ!!」
堅い服と帽子を被り、何とか大きくなる人は助けたけれど、なぜかすぐにこの人たちは追いかけて来た。いつもの様に見つからない様にと意識しているのになぜか見えているように追いかけてくる。その事に少女は余計に混乱していた。
「待てこら!!」
「悪いようにはしないから止まりなさい!!」
「ぱぱをかえしてー。」
このままじゃ逃げられない。そう思った少女はなんでも入る鞄を手に入れる前に使っていた穴を利用しようと移動を始めた。
屋根の上をピョンピョンと目的地まで移動する少女。追っ手はそれでも自分の事を見失わずに追いかけて来た。
「あの子凄い力ね。ルドちゃんを担いであれだけ動ける何て。」
「でもそこまで頭良くないな。」
「ぱぱがみえてるのきづいてないよー?」
何かを言いながら追いかけてくる3人。だがこの追いかけっこは少女の勝利で幕を閉じる。
路地裏に設置された少し重い丸を持ち上げ、担いでいた大きくなる人をその中に落とす。ポイッ( ;´ω`)つ ミ●
「あっ!!ぱぱげすいにおちた!!」
「何やってんだお前!?」
「はっ!?目印が無くなったわ!!」
穴の中を覗き込んでワタワタしている3人をその場に残して、少女は近くに在る別の穴から下に降りる。あの穴の下は柔らかい苔が沢山生えているから怪我はしないはず。
急いで穴の出口に向かうとそこにはさっき助けた大きくなる人がひっくり返って転がっていた。穴から何か緑色の紐が飛び出してきているが、急いで大きくなる人を回収して逃げる。
「ぱぱいないよ。しあがなかにはいってさがす!!」
「駄目よシアちゃん。この中は迷路みたいになってて危ないわ。」
「詳しい奴の話を聞かないとまずいな。急いで戻って手配するぞ。」
追っ手はどうやら諦めたみたいだ。声が遠くに離れていく。ほっと一安心した所で大きくなる人を巣に持ち帰った。
堅い服と帽子を脱ぎ、持ち帰った大きくなる人の体に乗って顔をジーっと見つめる少女。特に見た覚えも無いのになぜこんなに安心する感じがするのかをずっと考えていた。すると少女はある事に気が付く。それは匂いだった。
嗅いだことのない、けれどとても落ち着く臭いに少女は自分の体をこすりつける様にして大きくなる人に抱き着き、そしてそのまま寝てしまった。
~・~・~・~・~・~・~
気絶デバフは画面が真っ暗になって周りの様子が分からなくなるという状態異常だ。そして時間経過で回復する。早く治したければひっぱたくか薬や魔法を使と言うのが一般的。
ピチョンッ・・・・・ピチョンッ・・・・・・。
気絶のデバフが解除され、周りの音や景色が見える様になってくると俺の耳には水音が聞こえて来た。そんでもってここは何処?親父達はどうなった?
『GRRRRRR・・・・・。』
なんでこの子は俺の腹の上で丸まって寝てるんでしょう?ってか親父達から逃げ切ったのか?この子凄くね?
周りを見回してみても真っ暗でなんも見えん!!しゃーない。灯付けるか。俺はインベントリからランタンを取り出すとスイッチを入れた。
パチッ
『GYAU!?』
あっランタンに灯入れたら驚いて起きちゃった。ふむ、なんか下水っぽいなここ。水音は天井から落ちてくる水滴の音か。
俺が灯りを持って周りを見回しているのを不思議そうに見ている少女。15歳くらいかな?しきりに俺が持っているランタンを気にしている。
「あー、言葉解るか?」
『GR?』
こりゃどっちだ?こっちが解んねぇ!?でも逃げようともしないし、俺をどうこうするつもりも無いのか?
『KRRRRRR。』
「おいっちょっなんで?」
何かさっきより高い声出しながらすり寄って来るんですが?Why?どういう状況これ?
『KYU~・・・・・。』
「寝ちゃったよ・・・。一体何だってんだ?」
だれかどうしてこんな状況になったのか説明してくれませんかね?
「うーん、どうっすっかなぁ。」
気持ちよさそうに寝ているのを起こすのも可哀そうだし、かといってこのままここに居る事も出来んし。さらに言えばこの子は保護しないとだし・・・・。
「けど現在地が分からないんだよなぁ・・・・。」
シアを呼んだところで多分場所は分からんだろうし。マップは気絶中だと機能が停止するから、気絶中に動いた場所はマップに記載されない。念のために確認したら俺の周りだけ白くて後は真っ黒だったよ。
「うむ、手詰まりだ!!」
どうにかこの子とコミュニケーション取って外に出して貰わないと。
「なぁ、そろそろ起きてくれね?」
『KYU~。』
「あっいまチラッとこっち見ただろ!!起きてるな!!そうなんだろ!!」
『QU~。』
「明らかに鳴き声変わってんじゃねぇか!!起きなさい!!」
「BUUUUU」
ぺいっと俺の上から少女を引き剥がす。それが不満だったのか口から文句を言う様に声がでた。今まではなんか喉で鳴いてたからな。
「なぁ言葉解るんだろ?」
「グル。」
おっと口で返事してくれた。でも泣き声に近いって事は喋れないのかね?
「なんで俺をここに連れて来た?」
「ガウッ!グルルルッ!!ガウウッ!!」
「はいはい落ち着け、何言ってるかさっぱり分からん・・・・。」
とりあえず何かに怒ってる事だけは解った。牙剥きだしでしたので。ってか歯がかなり鋭いね君?
「ガウ?」ゴソゴソゴソ「ガウッ!!」
「ってお前それ魔法鞄か!?」
俺が難しい顔をしているのに気が付いた彼女は鞄から明らかに容量よりでかい肉を取り出して俺に渡して来た。お腹空いて不機嫌だと思われたんか?ってそんな事よりその鞄だよ!!
魔法鞄ってのは簡単に言えばインベントリの鞄バージョン。旅人には必要無い物だけど住民にはすっごい重宝されている鞄だ。能力もほぼ一緒。内容量に制限がある事と、状態固定されてないってのが相違点かな?
旅人をこの世界に呼ぶ前に神様から作り方を教えられた魔道具の1つらしいぞ?なんせ旅人だけが収納量無限と時間停止が出来るなら、世界中の流通を牛耳れちゃうからな。だからその前に普及させたらしい。
「お前それどっから盗んだんだよ・・・。」
「ガウ?ガウッ!!」
「分かった分かったから!!肉は食うから!!っけどおかしいなぁ。なんで魔法鞄を盗まれて被害届が出て無いんだ?貴重品が入って無かったとか?でも買うとそこそこの値段するんだぞこれ?」
今も俺の頬に生肉を押し付ける少女を押しのけながら、俺は彼女の持っている魔法鞄の出所について頭を悩ませる。
「まっ考えたって仕方ねぇか。盗まれたところを探すのは騎士か守備隊に任せるか。」
「ウ~。」
「だから生で食わそうとするな!!今焼くから待ってろ!!」
とりあえず俺はこの子に肉は焼いたほうがうまいという事と、言葉でも教えますかね。聴き取りは出来てるんだから喋れるようにもなるだろ。
~・~・~・~・~・~・~
王都某所
「まだ見つかんねぇのか。」
「すいやせん。奴さん逃げるのがうまくてなかなか・・・・。」
「馬鹿野郎!!騎士団の連中に中身見られたら俺達は終わりだぞ!!絶対に奴らより先に見つけ出せ!!」
「そこで潜らせてる鼠から報告でさぁ。守備隊に協力してる奴が下水の案内を探してるようです。」
男の言葉に考える仕草をする部屋の主。そして何かを思いついたのか報告をしに来た男に指示を出す。
「身内から案内役を付けろ。何人かで後を付けさせるのも忘れるな。見つけたら後は・・・・解ってるな?」
「へいっ大丈夫です。ではこれで。」
部屋から慌てて出て行く部下を見送りながら部屋の主は葉巻に火を点けて吹かす。
「下水か・・・・。都合がいいな。」
そう言いながらデスクの上に置かれていた書類に目を通す男。そこには最近王都で噂の蜥蜴少女の話がまとめて書かれていた。その中にはなぜか秘匿情報である怪物卿の話まで書かれていた。
「怪物卿の忘れ形見。こりゃいい商売になりそうだ。あの鞄が盗まれたと聞いた時は肝が冷えたが、逆に運が向いて来やがったか?クククククッ。」
王都に潜む闇の1つが、少女の体を目的に動き始めていた。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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