第135話

王都にある屋敷の1つ。かつてここには軍のトップが住んでいた。だがその軍のトップは違法兵器の開発と、人身売買。はては人体改造等の不正を行い更迭。処分された。


屋敷は徹底的に調査され、証拠品の応酬や被害者の救済が行われた。だが彼らが見つけられなかった部屋が1つだけ在った。軍のトップの血液認証が必要なその部屋は屋敷の主が変わった後も存在し続け、今その中に眠っていたモノが目を覚ます・・・・・。


~・~・~・~・~・~・~

少女は生まれながらの化け物だった。魔物の腹の中から生まれ出た少女はその体に魔物の特徴を持ち、しかしてその体の半分は人間だった。


鋭い爪と鱗を持つ四肢。尻尾の生えた臀部。蜥蜴の様な黄色い瞳に蛇の様な舌。緑色の髪に角の生えた頭。人間の皮膚の胴体。最初に発見したのはロッシマの街を滅ぼした魔物を討伐していた騎士達だった。


ロッシマの街を滅ぼした魔物は近隣の村や街に侵攻、その防衛の最中その中の一匹の魔物の腹から生まれたのが彼女だった。


『人型の魔物』として研究機関に興味を持たれた彼女はすぐさま軍の研究施設に送られた。そして地獄の様な実験の日々が始まった。


生まれたばかりの赤子に対して鱗や爪を剥ぎその再生能力を確かめた。人間の肉体部分はどうなっているのか麻酔も掛けずに解剖を行った。瞳や爪や鱗が素材になるかと摘出された。


赤子だった少女は泣き叫んだ。だが研究と言う悪魔に憑りつかれた者達にその泣き声は唯魔物が鳴いているとしか捉えられず。無視された。悪い事に少女の体には魔物にしか存在しないという魔石が生成され、魔石の力で体がすぐに再生されてしまう。


少女の体は研究の為何年も切り刻まれた。時には人に移植し。時には薬の材料として採取された。いつしか少女は何も感じなくなり、ただ材料として空虚な日々を送った。それでも少女の肉体は日々成長し、子を成せるとなり研究員による繁殖実験が行われようとしたその時、事態は急変した。


研究を援助していた軍のトップが捕まり粛清されたのだ。その話に慌てた研究員は証拠の隠滅を図った。少女も保存用の器に入れられ、いつか研究員達が引き続き研究する為に軍トップの血液認証が必要な部屋に隠された。


だが国の騎士団の方が上であった。逃げようとした研究員達は軒並み捕まり、人体実験を繰り返した大罪人としてむち打ちや石抱き等の拷問刑に処された。


だからこそ少女の存在は気付かれなかった。拷問により死んだ研究員達は誰もがいつか彼女を自分だけの研究素材として狙っていたから。拷問で生き残れば彼女は自分の物になると口をつぐみ、全員苛烈な拷問を受け死んだから。


~・~・~・~・~・~・~

目を覚ました少女は当たりを見回す。自分がこの器に入れられてどれくらい経ったのだろうか?部屋は埃に塗れ、空気もかなり悪い。少女はしばらくぼーっと周りを見ていた。今までもそうしてきたように。だがいつまで経っても誰も現れなかった。


ぐぅ~。


食べる物も無く、お腹を空かせた少女は生きる為に部屋の外に出た。


・・・・へん?


覚えている研究施設と様子が変わっていた。あれだけ自分を傷付けた道具が一切無くなり、まるで倉庫として使っているかの様に色々な物が置かれていた。


少女はその中で食べ物を探した。見つけた赤い果物を気が済むまで貪り食う。次に少女はひらひらした何かを見つけた。


それは自分の周りに居た人間が来ていた服と言う物だった。なんとは無しにその服に袖を通す。白い大きなシャツはそれだけで少女の体を覆い隠した。少女はなんだか楽しくなってその辺を探検し、気に入ったものを自分の物にした。


気に入った物をさっき居た部屋に持って帰り、器の周りに集める。巣の様に作られたそれは初めて少女が自分で手に入れた場所になった。


何日か部屋で過ごした。その間は倉庫で食べ物を拝借し、気に入ったものを持ち帰った。時折人の気配を感じ様子を見に行くと、見たことも無い人が倉庫から何かを持ち出していた。


そんなある日、いつもの様に倉庫に入り込んだ少女の元に多くの人の気配が迫っている事を感じ取った。


「こちらです。」

「うむ。」


時折倉庫に物を取りに来ていた人物がキラキラと光る物を見に纏った男を案内していた。男の後ろからは似たようなキラキラを身に付けた人達が続く。


「最近倉庫の物資が何者かに持ち去られているのです。犯人を捕まえようと罠を張っても犯人は捕まらず・・・・。どうか調査をとご連絡した次第で。」

「1班と2班はまず倉庫にある物資を運び出せ。」

「隊長、どうしてですか?」

「ここはかつて軍務卿の住まいだったのだ。当時汚職に染まった軍務卿の屋敷は徹底的に調査された。だが当時発見されなかった隠し部屋が、他にも存在する事を示唆する文章が残っていた。今回の件、その部屋に残された化け物の仕業かもしれん。」

「怪物卿の忘れ形見・・・ですか。」

「もしも魔物だった場合は見つけ次第討伐する!!全員気を引き締めよ!!」


何やら話している男達、だが少女は簡単な言葉であれば研究員の会話から覚えたが、彼らの話の内容は理解できなかった。


そして剣を抜き、辺りを警戒する騎士と荷物を運び出す騎士に別れ行動を開始する。少女は抜かれた剣を見て、かつて自分を切り刻んだ刃物を思い出した。


『GRRRRRRR』

「誰だ!!」


またあのような生活に戻るのかと言う恐怖と、不安が少女を襲い。無意識に喉を鳴らしてしまっていた。


「何かが居るぞ!!全員警戒!!」

「灯を灯せ!!」ピカッ!!


突然眩しい光に照らされ、少女は自分に掛けていた『擬態』を解いてしまった。


「あれは何だ!?」

「少女?だがあの姿は・・・。」

『GAU!!』

「あっこら待て!!」

「むやみに傷つけるな!!人体実験の被害者だ!!」


大勢の人に見られ、恐怖で走り出した少女は男達が降りて来ていた階段の“壁”を走り抜ける。

騎士の何人かが手を伸ばし、少女を捕獲しようとしたが壁から飛び上がり、天井を駆ける少女を誰も捕まえる事は出来なかった。


「急ぎ戻り報告しろ!!人体実験の被害者が逃亡!!保護の要請だ!!俺達もすぐに追い掛けるぞ!!」

「討伐じゃなくてよろしんで?どう見ても魔物でしたが?」

「何を言っているこの馬鹿者!!無理矢理姿を変えられた可哀そうな少女だぞ!!保護最優先だ!!」

「了解!!かぁ~俺達の隊長はカッコいいねぇ。だから好き。」

「馬鹿言ってないで早く行け!!」


この日から王都で度々騒がれる“蜥蜴少女”。人の家に忍び込み、食料を奪い、服や貴金属を盗む。だが被害はあるのに姿が見えず、騎士団の必死の捜索もむなしくその居場所はようとして知れなかった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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