海と貝とカイト

第109話

「くそっまた駄目だった!!」

「カイト?又ボロボロじゃないか・・・・・。あんまり無茶をするんじゃないよ・・・・。」

「おばさん・・・・ごめん・・・・。」


僕がこの場所に飛ばされてどれくらいの時間が経ったんだろうか?


『もう一つの人生をあなたに。』という謳い文句に誘われて購入したこの『Another Life Online』というゲームは本当に凄いゲームで、五感に感じる感触がリアルとほとんど変わらなかった。


スタート地点である開拓村での生活も楽しくてどんどんのめり込んでいった。でもやっぱりリアルの生活の方が大事で、用事でログインできない間に事件が起こっていた。用事が終ってログインすると僕は見知らぬ場所に飛ばされていたんだ。


「えっ!?ここはどこ!?」


周りを見回しても見覚えのない建物ばかりな上に、立っている広場にはどう見ても珊瑚で出来た巨大な木があった。


「おん?あんたどっから来た?ここらじゃ見ない奴だなぁ。」

「半魚人!?」


広場で呆然としていた僕に声を掛けてきたのは、鱗で出来た鎧を纏って三又の槍を持った半魚人としか呼べないような人だった。


「兄ちゃん魚人種見るのは初めてか?だったら驚くだろうな。これでも俺達は人の一種なんだぞ?」

「あっ!えっとごめんなさい!!」

「あっはっはっは!!別に気にしちゃいないぞ?俺達が姿を出すと地上の奴らはおんなじ反応するからな!!それで、兄ちゃんはどうやってここに来た?」

「えっと、それが良く分からなくて・・・・。実は・・・・。」


僕の事情を説明すると、魚人種の人は顎にヒレの付いた手を当てながら何か考え込んでいた。


「兄ちゃん旅人か?たしか地上じゃそろそろ呼び出されるはずだよな?女神様の神託でたしか神器をここら辺に埋めたって聞いてたが。」

「はい、旅人です。」

「なら旅人だけが使えるっていう、遠くの奴と会話できる力使えば良いんじゃねぇか?」

「あっSNS!!ありがとうござ・・・・地上?そういえばここってどこになるんですか?」

「ん?おぉっ!!忘れてた。これも俺の仕事だったんだ。ごほんっ!『ようこそ海底都市アクエリアへ!!』」

「海底都市!?」


その後色々と教えてくれた魚人種の人にお礼を言って、公式SNSで情報を集めた。どうやら『魔物の集団暴走』、小説や漫画なんかではスタンピードなんて呼ばれるそれが僕の居た開拓村を襲ったらしい。


僕は避難をして他の街でのリスポーン登録をしていなかったから、どこにあるかも分からないこの海底都市に飛ばされたみたいだ。


「どうしよう・・・・。」

「なんだ兄ちゃん、行く所無いのか?なら俺ん家来るか?」

「いいんですか?」

「困った時はお互い様ってな!!ちょっと待ってろ、引継ぎして来るから。」


そう言って広場の近くに在った建物に入っていく魚人の人。そういえばまだ名前聞いてないや!!


「おう、待たせたな。」

「いえ、そういえばお名前を教えて下さい。僕はカイトです。」

「おう、俺はクロナミだ。」


その後案内されたのは、クロナミさんの奥さんと家族がやっている宿屋だった。


「あらあんた、その子はどうしたんだい?」

「「「おにいちゃんだれー?」」」


出迎えてくれたのは凄く美人な魚人種の奥さんと3つ子だった。


「迷い込んだ旅人だよ。行く所無いってんで連れて来た。部屋空いてたよな?」

「そりゃ宿屋だから部屋は空いてるけど?それより君はどうしてここに?」

「あっ僕はカイトって言います。実は・・・。」


クロナミさんにした説明を奥さんにも話した。SNSで手に入れた情報も一緒に話したからクロナミさんも驚いていた。


「グスッ、そうか。カイトは故郷を滅ぼされたのか・・・・。」

「みたいです・・・。僕は亜空(リアル)に帰っていたので何も出来ませんでした・・・。」


話を聞いて少し涙目になっているクロナミさん。僕も仲が良かった村の人達が

亡くなったと聞いて涙を浮かべていた。そんな時、僕は暖かい何かに抱き締められた。


「辛かったね。」


クロナミさんの奥さんに抱き締められていると分かったのは、頭の上からそんな声が聞こえて来た時だった。


「あんた、カイトは家で面倒見ちゃどうだい?」

「ん?そりゃ元々そのつもりだったが?」

「あんたが言ってるのは客としてだろ?そうじゃなくて“家族”として面倒見ようって言ってんだよ。」

「おう!!そりゃいいな!!どうだカイト?」

「えっ!?そんなご迷惑じゃ・・・・。」

「この海底都市はな、周りが海に囲まれた過酷な場所なんだよ。親や兄弟を失うなんてよくある事だ。そんな時はこの都市に住む奴が家族になって助け合って生きて来た。その習わしに乗っ取って故郷を失ったお前を助けようって話なんだよ。だから気にすんな。」

「カイトは行く所無いんだろ?それとも地上に戻る方法でもあるのかい?」

「・・・・・いえ、無いです。」


リスポーン位置は今この海底都市だけになってる。他の場所に転移は出来ない。そもそもずっと村で活動していたからなぁ。


「ならここに居な!!」

「家の母ちゃんがそう言ってんだ、遠慮すんなよ。」


良いんだろうか?でも行く所が無いのは事実だし、お金を稼ぐ手段もあるかどうかが分からない。この海底都市を調べる為にも拠点はあったほうが良い・・・とは思う。それにクロナミさん達を見ていると、リアルのおじさんおばさんを思い出すんだ。おじさんもおばさんもお節介焼きだからなぁ。


「えっとその・・・よろしくお願いします。」

「「「兄ちゃんが出来たー!!」」」


その後、きちんと皆で自己紹介をやり直した。海底都市の守衛として働いているクロナミさん。この宿屋兼食堂の【潮騒のさざ波亭】を切り盛りしている奥さんのミナタさん。三つ子で宿屋のお手伝いをしている長女のミーノ、次女ローロ、三女フノノ。三つ子は僕よりも年下だった。


魚人種についても聞いた。魚人種は水の中でも呼吸が出来て水中戦闘を得意としているそうだ。呼吸もエラ呼吸と肺呼吸の切り替えが出来て水中でも地上でも活動できる。


男の魚人種は頭が魚の形をしていて、体は鱗に覆われている。半魚人って奴だね。女性の魚人種は顔や体は普通の人種と変わらないけれど、耳がヒレになっていたり、水中に入ると足が魚に変化できるそうだ。人魚って奴だね。


海底都市についても聞いた。この海底都市ははるか昔、マーメイドに恋をした大賢者が奥さんの種族を守る為に空気の結界を張って作った場所が元になっているんだって。


大賢者の結界には空が映し出されていて、閉塞感を失くしているらしい。海底都市と聞いて驚いた理由はこれだね。太陽も雲も空に浮かんでいたから気が付かなかったよ。


その場所で大賢者と幸せに暮らしたマーメイドが子供を産み、その子供が今の魚人種の始祖だって。そのおかげで魚人種は人として神に認められたらしい。


だからこの海底都市は安全エリアになっているけれど、一歩外に出れば強い魔物が回遊している事もあって危険なんだってさ。クロナミさん達はそんな中狩りをしているそうだけどね。


「それとな、カイトは気になるだろうから話しておくが、地上に出る方法は実はあるんだ。」

「本当ですか!?」

「あぁ、でも誰も地上に出た物は居ない。なんでか分かるか?」

「えっと、分かりません。」

「その方法がな、地上へと唯一繋がる通路に居るここら辺の魔物のボス。【トリダコナオロチ】を倒さないと行けないからなんだよ。」


地上へと唯一繋がる洞窟には、8つの頭を持つ貝の魔物が居座っていて誰も通れないんだそうだ。


「そうですか・・・。」

「挑戦してみるか?」

「えっとその、僕は実は・・・・。」


クロナミさんの言う通り、地上に戻りたいのであれば挑戦するしかない。それに旅人である僕が強くなるのは簡単だ、レベルを上げればいい。でも僕には海底都市で活動するにはとても大きな問題を抱えていて・・・。


それは僕がこのALOを始めた切っ掛けの事件、リアルでの事情だった。



毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 


2022/5/13 いつも♡や☆、PVや応援コメントを送って下さりありがとうございます。お待たせしました書きあがりましたよ!!117話まで一気に上げて行きますよ~。


今回は別の人の視点からスタートです!!やってみたかったことを盛り込んでみました!!そしてやっとこの子を出せた!!皆さん覚えてます?チラッと登場してたりするんですよ。


と言う事で今回のお話もどうぞお楽しみください!!


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