第110話

僕の住んでいる街は港町で、僕の親も漁師をやっている。僕も小さい頃から船に乗って良く手伝いをしていた。


将来は僕も漁師になるんだと意気込んでいたように思う。そんな時にあの事件は起こった。


海女をしている母の手伝いで岩場に来ていた僕は、流れ着いている色々な物を拾って遊んでいた。夢中になって遊んでいた僕は誤って足を滑らせ、岩の隙間に足が入り込んでしまったんだ。


そして最悪な事に、その岩の隙間には大きなシャコ貝が隠れていた。僕の足はそのシャコ貝の中にまで入ってしまって、驚いた貝は口を閉じ僕は身動きが取れなくなってしまった。


突然の激痛に僕はパニックになり、一生懸命に足を抜こうとしたけど足は一向に抜けなかった。そして自体はさらに悪い方に進んだ。僕が身動きできなくなった場所は、満潮時には完全に水没する場所だったんだ。


しかも岩陰になっていて、視界が通りに憎く人もあまり寄り付かない場所だった。そんな場所で僕は絶叫をあげながらしばらく耐える事になった。


どんどん上がって来る海水とこのままだと死んでしまうという恐怖、半狂乱になっている僕の口に海水がどんどん入って来て、もうだめだと思い始めた時に、やっと僕の叫び声に気が付いた大人の人に救出された。


たぶんその時の恐怖が深く心に刻まれてしまった所為だろう。僕はあれだけ好きだった海に入る事も、そして見るのも苦痛になってしまった・・・。


両親は仕方ない、仕事は漁師だけじゃないと笑っていたけど僕は悔しかった。通院しながらいつか海に戻りたいと思って何度も挑戦した。でもやっぱり海に近付くとあの恐怖が頭に浮かび、どうにも出来なかった。


そんな時に出会ったのがこのゲーム『Another Life Online』だった。病院の先生もゲームの中であれば本当に死ぬことは無いからリハビリに良いかもしれないと許可を出してくれた。


いつか海のある場所に行きたいと思いながらプレイしていたけど、まさかその海のど真ん中に放り込まれるとは思っても居なかったけどね。


「カイト、お前って奴は・・・・。」

「だから少しずつ、慣れて行こうと思います。」

「だったら家の旦那と一緒に守衛の仕事に就きな。あそこだったら海に対する恐怖をどうにかする術があるよ。」

「そうなんですか?」

「あぁ、たまに強い魔物にかち合った奴がトラウマ抱えて海に潜れなくなるんだ。そんな奴等を治療する方法がある。荒療治だがな。」


荒療治・・・・、でも海に対する恐怖が無くなるなら挑戦してみたい。」


「クロナミさん、お願いできますか?」

「おう!!任せとけ!!」


それからはトラウマ克服の為に訓練する毎日だった。クロナミさんに強制的に海に放り込まれたり、僕からしたらすごく強いけど、守衛の人達だったら簡単に倒せる魔物を相手にしたり。


そんな中で僕は海に対する恐怖を少しずつ克服していった。まだ海に潜ると動機が激しくなるけれど、パニックを起こす程じゃなくなった。


「だいぶ慣れて来たな。これなら本格的な水中戦闘を教えても良いな。」

「よろしくお願いします!!」


この時の僕は充実していたんだと思う、海への恐怖も日に日に薄れて、いつか本当の海にも潜れるんじゃないかと言う希望が見えたから。


でも神様は意地悪だった。そんな僕の希望を打ち砕きに来たんだから・・・・・。


それは、本当に些細な変化だった。守衛隊のお手伝いをしながら、宿でも手伝いを申し出て働いていた僕は、お店に来た人たちがやけに咳をしている事に気が付いた。


「最近咳をしている人多くないですか?」

「風邪が流行ってるって話だね。カイトも気を付けるんだよ?」

「風邪にはうがい手洗いをしっかりとしないとですね。」

「そうだね、まぁ旅人のあんたは風邪なんてひかないかもしれないけどね。」

「ですね。」


その時はそんな風に軽く考えていたんだ。でも日に日に宿に来るお客さんが減り、そして三つ子達が倒れた。


「こほんっ!」「けほけほ!」「くるしいよー・・・。」

「ほら薬だよ。ちゃんと飲んでゆっくり寝るんだよ?」

「「「はーい。」」」


三つ子がちゃんと薬を飲んだのを確認してから宿に戻る。クロナミさん達の家は宿の裏手にくっつくように作られていて、すぐに移動できる作りだった。


「どうだった?ちゃんと薬は飲んだかい?」

「えぇ、ちゃんと飲ませて来ましたよ。」

「それならよかった。」


ほっとした顔をするミナタさん、そこんクロナミさんが帰ってきた。


「戻った。」

「お帰り、それでどうだった?」

「カイト、地上にどうにか連絡、取れないか?」

「えっと、それはどうしてですか?」

「・・・・これは唯の風邪じゃない。『白魚病』だ・・・。」

「そんなっ!?あんたそれは本当なのかい!!」

「すみません、『白魚病』って何ですか?」

「それはな・・・。」


クロナミさんの話では、『白魚病』っていうのは魚人や魚型の魔物が掛かる特殊な病気らしい。最初は風邪に似た症状から始まり、次第に思考力の低下や虚脱が体に襲い掛かる。そして治療をせずに放っておけば体の色素が段々と抜け、真っ白になって行くそうだ。


「真っ白になってしまった魚人種は必ず死ぬ。とても恐ろしい病気なんだ・・・。そしてその特効薬と呼べる物が今この街には・・・・ない。」

「それじゃあミーノ達も!?」

「いずれは・・・・。」

「そんなっ!!」

「その特効薬はどんなものなんですか!教えて下さい!!」

「あぁ、伝承によれば体内にある特殊な力を補う物なんだ。バランスを整え、体調を整える。それさえあれば白魚病は乗り越えられるんだが・・・・。」

「聞いた事ありません・・・。ですが必ず見つけて見せます!!ちょっと待っててください!!」


僕は公式SNSで情報を集める事にした。でも抽象的な言葉しか伝承に残ってなくて、見つける事は出来なかった。


SNSで声を掛け続け、自分でも調べ続ける日々。そんな中でとうとうクロナミさんとミナタさんも倒れてしまった。


「そんなっ!!お2人まで!!」

「カイト、心配ばっかりかけてすまないな。」

「ミーノ達の世話まで任せちゃって申し訳ないね。」

「僕達は家族なんでしょう?家族の面倒を見るのは当然です。」


でもこのままだと確実にクロナミさん達は死んでしまう。ミーノ達はすでに色が抜け始めてるんだ。僕が、僕が何とかしないと!!


「僕、地上に行ってきます!!そして薬を探してきます!!」

「馬鹿言うな!!カイトはまだ海中戦闘に慣れてない!!トリダコナオロチに勝てるはずが無いだろう!!」

「でもこのままだと皆さんが死んでしまいます。大丈夫、僕は旅人です。死んでも復活出来ますから。」

「カイト!!そんな簡単に命を捨てる何て言うんじゃないよ!!」

「ミナタさん・・・・。でも僕はこのまま皆さんが弱っていくのをじっと見るしかないなんて嫌です!!だから行ってきます!!」

「待てカイト!!カイト!!」


地上へ続く洞窟の場所は守衛隊の仕事の中で教えて貰った。それに僕にはこの洞窟がどこに繋がってるか解ってる。


公式からイベントの通知が来た時、イベントダンジョンの奥に海底都市があると書かれていた。多分僕が居るアクエリアの事だ!!でも公式の通知にはアクエリアが崩壊の危機にあるなんて書かれてなかった。つまり地上に居る人はこの都市に時間制限が迫っている事を知らない!!


SNSに書き込もうとしたけど、理由は分からないけど書き込みが出来なくなっていた。なら僕自身が地上に出て助けを呼ぶしかない!!


僕は洞窟に飛び込む、そしてそこにはまるで自分が門番だとでもいう様に巨大な魔物が居座っていた。その姿を見て、僕の体は不自然に震えだす。そう、トリダコナオロチ・・・。それは“シャコ貝の体から8本の触手が出ている。”魔物だった。僕はその姿を見たと同時に、意識を失った。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

This work will be sent to you by kotosuke5, who is Japanese. Unauthorized reproduction prohibited 


トラウマ刺激されて気絶しちゃいました。

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