第74話

陽動組 (銀翼の風 拳戦の宴 炎狼の牙 深淵の森) 


「炎狼の!!突っ込み過ぎだぞ!!各員防御陣形で耐えろ!!」

「陽動なんだから派手に暴れないと意味ないだろう?野郎共まだまだいくよ!!攻めて攻めて攻めまくれ!!」

「はははっ、俺は嫌いじゃないぜ!!おらっお前ら俺達も行くぞ!!丁度良いサンドバックだぜ!!」

「ちょっとはフォローする者の身にもなって欲しいです・・・。各員、他のPTの動きに注意して!!誤射には注意しなさい!!」


砦から離れた場所で彼らは砦に向かって攻撃を仕掛けていた。初撃は深淵の森PTの魔法で砦に攻撃を行ったが、それ以降は各PTがバラバラに動いてゴーレムを倒していく。


「『焔爪』!!ほらそこ!!ちんたらしてるんじゃないよ!!」

「『風翼斬』!!突出しすぎだ馬鹿者!!確実に数を減らせ!!無理をするなよ!!」

「はっはぁ!!『岩砕拳』!!お前等一発で倒せなかったら俺とスパーリングだからな!!」

「『アイスアロー』、各員魔法は単発で、フォローを重点的に、先は長いのです。MPは温存してください。」


各PTはそれぞれ得意な武器で装備を揃えていた。炎狼は斧、銀翼は剣、拳戦は拳、深淵の森は杖。斧が敵を叩き割り、剣が切り裂き、拳が砕く。魔法は前衛に出ているPTが窮地に陥らないようにフォローしていた。


『連絡です!!ルドさん達が人質救出に成功!!ただし2名がまだ救助できていない為砦の奥に向かいます。』

「ありがとう。これで第1段階は概ね成功ね。」


深淵の森PTリーダーイルセア。彼女の肩には友魔の友が使役したトークチークという小鳥が留まっていた。この友魔は見た情報、そして聞いた音を任意の相手に伝える能力を持っていて、この作戦には打って付けだった。


『陽動の方はどうですか?』

「見ての通りよ。皆好き勝手暴れてるわ。そこ!!フォロー薄いですよ!!集中してください!!」


イルセアが指さした先では他の3チームがスキルを存分に使いどんどんゴーレムを倒していた。


「よえぇよえぇ!!『岩破烈弾』!!そんなんじゃサンドバックにもならねぇぞ!!」

「同感だ『炎陣』!!これならば私達だけでも十分だったな!!」

「手柄の独り占めは許しませんよ『銀旋』!!これからはどのPTが多く敵を倒すのか競争しませんか?」


調子よくゴーレムを撃破していく3チーム。しかし変化は突然訪れた。相対していたゴーレム達の目が赤く光ったかと思えば、足元の地面から剣や斧、アームガードを作り出して装備し、素早く動き始めたのだ。作り出した武器は相対していた陽動組が装備している者と同じ見た目をしていた。そして繰り出される攻撃に陽動組は驚愕する事になる。


「なにっ!!『岩砕拳』だと!!」

「その技は『焔爪』!!」

「そんな馬鹿な『風翼斬』まで!!」


急に動きの速くなったゴーレムが自分達の使っていたスキルを返して来たのだ。調子良く相手を撃破していた3PTは突然の逆襲に大きく隙を晒してしまう。その隙を相手が逃すはずも無く。ゴーレムが攻勢に出た。HPを大きく削られ攻めていた3PTは後退を余儀なくされる。


「なんだと!?動きまで私達にそっくりだ!!」

「野郎!俺達の技をパクりやがって!!」

「くっ!!このっ!!どうしてこんな事に!!」

「最初っから相手に学習能力が有るって言われてたでしょう!!各員前線組の後退を助けて!!援護行くわよ!!」


深淵の森が魔法で援護をしながら後退を助ける。何人かは瀕死まで追い込まれたがルドの渡したポーションで命拾いをした。


「今までのは捨て駒だったってのか!!」

「そうよ!!その証拠にほら!!」


吠える拳戦に対してイルセアが指さした先、そこには片刃の剣を携えたゴーレムと、杖を持ったゴーレムがこちらに向かって歩いて来ていた。その足捌きだけで今まで相対していたゴーレムとは違う事を感じ取る陽動組。


「本命が来たわよ!!恐らく攫われた人たちから学習しているはず!!」

「はんっ!!やられっぱなしじゃ面白くねぇ!!やってやろうじゃねぇか!!」

「勇のも良いですがここは作戦を立ててじっくり攻めた方が良いと思いますが?」

「そんな悠長な事言ってる暇は無いよ!!ほら来た!!」


気が付けば、先程自分達のスキルを習得してしまったゴーレム達もその足を進め、こちらを包囲しようと動いている。包囲を突破しようにも自分と同じ技、同じ動きで対応されゴーレムを倒す事が難しくなってしまった。ここに来て陽動組は窮地に追い込まれる。


「こんの!!『岩砕列破』!!」

「むやみに技を使うんじゃないよ!!範囲攻撃何て覚えられたら私達は終わりだよ!!」

「一体ずつ確実に仕留めましょう!!」

「こっちは魔法に対処する為に援護出来ません!!フォローは出来ないと思ってください!!」


深淵の森PTもゴーレムが放つ魔法に対処する為にフォローに回る余力を失ってしまった。そこにゴーレムが突っ込んでくる。片刃の剣を構えたゴーレムは、岩の体だとは思えない程の速度で陽動組に襲い掛かり、剣がその銀閃を煌めかせながらプレイヤー達を切り刻む。


「このっ!!はえぇっ!!」

「ぐがっ!!切られた!!くっそ!!」

「こんの!!止まれぇぇぇぇ!!」


剣士タイプのゴーレムが片刃ゴーレムに合流してプレイヤーを責め立てる。その後ろでは杖を構えたゴーレムからも無数の魔法が襲い掛かって来た。幸運だったのは範囲魔法が無く、全てが単発のランスもしくはボウル系魔法だった事だろうか?それでも絶え間なく降り注ぐ魔法に、深淵の森から悲鳴が上がる。


「敵の魔力は無尽蔵か!!」

「魔力が尽きた者は休憩を!!MP回復薬も少ないですがあります!!」

「ぐあっ!!魔法の使い方がうまい!!ボウルの後ろにランスを隠すとか中身はどうなってるんだ!!」


近接も、遠距離も、だんだんと追い込まれて行く陽動班。そんな中じっと相手を観察しているトークチークの先でメガネ達は相手の分析を行っていた。


「これは一体どういう事でしょう?」

「確かに不可解です・・・。」

「なぜでしょう?」

「・・・・えっと・・・どういう事とは?」


トークチークの目から映し出される光を見ながら、頭を捻る英知の図書の面々。そんな面々に不思議そうに話しかけたのは、トークチークで喋る時とは違っておどおどとした様子を見せるモッフル。そう彼女は極度の人見知りだった。


「私達はゴーレムの学習は一度学習されれば全体に行き渡り、相手の戦力が増強してしまうと考えました。」

「えっと・・・・実際そうなってる・・・。」

「そう見えますが実は違うのです。ほら、剣を使う、杖を使う、拳を使う、斧を使う、片刃剣を使う。それぞれ違う戦闘スタイルで戦っています。混ざっていないんです。」

「・・・・。役割が・・・・決まってる?」

「もしくは相手から学習したことが適応されるのではなく。1人1人の動きを模倣しているだけで学習ではないという可能性もあります。」


ただマネをするだけならば誰でも可能だ。だがそのものまねがスキルにまで昇華して技が発動しているのが不思議だと言うメガネ。


「なぜなんでしょう?」

「・・・神器の力?」

「なるほど!!相手の動きを模倣する機能と、相手のスキルを写し取る機能を別に付けているのですか。」


動きとスキルは一心同体。SPを使いスキルを覚えれば、覚えたスキルに沿って体が動く。スキルが無くても動きを模倣し続ければ、熟練度によって模倣したスキルを覚えることが出来る。このシステムもこのゲームの魅力の一つだ。だが知性無きゴーレムにはその機能は無い。であるならば動きとスキル両方を紐づけしてマネさせれば良いのだ。


「大量の神器が必要なのも頷けます。何せ2つ使わなければ模倣しても意味が無いのですから。」

「・・・相手動きおかしい・・・。」

「それはどういうことですか?」

「ここ見る・・・。」


そう言ってモッフルが指さしたのは剣士型の攻撃の瞬間。その時に明らかに長い溜め時間があり、動作もわざとそうしているように見えた。


「これは・・・まさか!!」


いままで沈黙していたトークチークが戦っているイルセア達に話しかけた。


『英知の図書からの伝言です!!相手は学習しているのではなく動きとスキルを模倣している可能性があります。その為覚えた技をそっくりそのまま使うみたいです!!ですから相手の動きに明らかな隙があります!!魔法も発動する際に独特の癖が見受けられます!!それを見抜けば勝てるかも知れません!!』

「その癖ってのは!?」

『剣使いは切り込む時、右足を踏み込みます。1秒程の溜め時間もあってその時完全に無防備です!!』

『魔法使いの方は発動する魔法により、杖を掲げる角度が違います。わざとそうしている様にしか思えません!!だそうです。』

「なるほど、ここかっ!!」


ザシュッ!!ごとんっ・・。


炎狼の牙、リンダが放った斧の攻撃が剣士タイプのゴーレムを両断する。


「これなら行ける!!」

『あっメガネさんから注意です!!同じ弱点ばかり攻めるとゴーレムを操っている人に警戒される危険性があるので、しばらく打ち合った後に弱点を攻撃してください。そうすれば目くらましになってゴーレムの術者に警戒されるのが遅くなります。』

「英知の図書は優秀だね。ぜひうちと同盟を組んでもらいたいよ。」

「はっ!!頭使うだけじゃ戦いは勝てねぇぞ!!」

「脳筋ばかりでは勝てる戦も勝てんがな。」

「言い争いをしていないですぐに対処してください!体力も魔力も限界は在るんですよ!!」

「くっそ!!俺達の技を覚えた奴らが鬱陶しい!!」

『わざと隙を作って模倣させてください!!学習でなく模倣ならそれだけで対処できるはずです!!』

「解った!!」

「了解です!!」

「しゃーねーやってやるか!!」


態勢を立て直し、反撃に出る陽動組、しかし彼らが倒したゴーレムはまだ100体にも満たない・・・・。生きるか死ぬかの持久走はまだ始まったばかりだった。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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