第22話

俺はしがない行商人だった。街や村を回り、そこに足りないものを仕入れて持っていく。多くの人に感謝されやりがいも感じていた。


結婚もし、拠点にしている街で店も持った。もうすぐ子供も生まれるという時に、王都から使者が来て各街や村に布告を行った。


使者曰く、この世界は滅亡の危機にあり。しかし神は見放さず、亜空より旅人を招き世界を救うと。亜空の旅人はこれより12年後にこの世界に来ると。


そして神託により旅人の為に開拓村を作るよう指示が出された。12の村を作りそこに旅人を受け入れよと。


最初に聞いた連中は半信半疑だった。もちろん俺も聞いた当初は信じていなかった。しかし、その後起こった事件でその意見を変えざるを得なかった。


それは、どうしても他の連中が行商に出られず、仕方なく俺自身が商隊を率いていた時だった。


「大変です会長!!」

「?どうした?そんなに慌てて「ロッシマの街が魔物にやられました!!」っ!!」


ロッシマは俺が拠点にしていた街だった。それまで数多くの魔物が襲来したが、精強な騎士団と街を守る防壁がその悉くを跳ね返しこのあたり一帯で一番安全な街として有名だった。


「すぐに出る!!準備しろ!!」

「はいっ!!」


同行していた従業員に指示を出し、急いで帰った俺の目の前には、崩れ去り瓦礫となった街や店と、多くの魔物の死体とそれを処理する騎士団、そして食い荒らされ死体となった妻が居た。子供が居たであろう腹部が重点的に食われ、子供を守ろうとしたのか妻の両手は無かった。


そこからの事はあまり覚えていない。商会長として指示を出し、店を片付けて使える物を探した。いくつか集まった物資を全て難民となってしまったロッシマの住人に配った。


数日後、王都より来た使者がロッシマが放棄されることが決定した事を伝えた。街を移動する慌ただしさの中、妻と子供の葬儀は簡単に済ます事となった。魔物に荒らされぬように遺体を燃やし、灰にして土に撒く。この地方独特の埋葬法だ。


そこで初めて俺は泣いた。なぜ一緒に居てやらなかったのかと、取引を引き延ばせば助けてやれたんじゃないかと。もっと強い護衛を雇っていればと。


あんなに子供が生まれるのを楽しみにしていた妻、2人で一緒に生まれてくる子供の名前も考えていた。晴れた日には一緒にピクニックに行きたいと、いつか親元を離れる時には絶対に泣いてしまうとそう話していた・・・。そんな子が目の前で食われるなんてどれだけ後悔しただろうかと。


そして後悔の念と同時に湧き上がってきたのは、魔物への怒りと殺意だった。それは憎悪と呼んでも良かった。


「仇は・・・必ず取ってやるっ・・・・許さんぞ魔物共っ!!」


それからはずっと戦い続けだった。店を畳み、従業員の働き口を探した。片が付いた後、冒険者に登録して次々と魔物を屠って行った。恨みを晴らすように、妻の無念を晴らすように・・・・。


何でもやった、武器はなんでも使った。魔法は使えなかったが罠や毒も使った。魔物を殺すのに手段は選ばなかった。


3年ほど冒険者を続け多くの魔物を屠った。東に魔物の集団暴走が起こったと知ればそれに参加し、西に強力な魔物が出たとあればそれを屠りに行った。


いつの間にか、リトルオーガという異名が付いていた。敵の返り血で真っ赤に全身を染めながら、それでも戦い続ける俺の姿を見て付いた名だ。


大怪我をする事は何度もあった、何度も死の縁を彷徨い、魔物への恨みを糧に蘇った。しかし、3年もの間酷使した体はすでにボロボロで、医者にも冒険者は引退するように言われる始末だった。


ボロボロな体を押しながらも、毎年欠かさずに妻と子供の墓参りはしていた。何度も懺悔し、不甲斐ない夫であり父を許してくれと、助けてやれなくてすまなかったと祈った。


次の遠征が最後になるかもしれない。もう自分の体は激しい戦闘に耐えられず、このまま冒険者を続ければ死ぬそうだ。だがそれも良いと思っている。そうすればやっとお前達の所に行けるからな・・・・。

『あなたは生きてください。私達の分まで。私は貴方と一緒になれて幸せでした・・・・・。』


最後の墓参りだと思い妻と子の遺灰を撒いた場所を訪れた時、妻の声が聞こえたと思えば自分の中に暖かな光が灯った事に気が付いた。そして新たな力が俺の体に宿った。


その力はまるであの世に行った妻が商人に戻り、自分たちの分まで生き残って欲しいと言っているように感じた。条件は厳しいが対象は人も魔物も選ばない、そして商人らしい技だった。


マネバザン 販売している商品を店舗(自身がそう思っている場所でも可)から無断で持って行った場合にのみ発動する確殺魔法。その威力は発動者の意思に準じる。(殺さず拘束する事も可能。)


俺はその場でしばらく泣いた。もういいのだと、妻たちが不甲斐ない俺を許したのだと。いつまでも後ろを向かず、前を向いて生きろと背中を押し激励してくれたのだと。


空を見上げると透き通るような青空だった。


その後は冒険者を引退し行商人に戻った。店は無くなってしまったが商人としての経験と冒険者としての伝手では大いに役に立った。


そんな折、ロッシマの店で働いていた元従業員から旅人の為の開拓村で活躍する商人を募集していると話を聞いた。


その条件が魔物に襲われてもある程度戦える者、もしくは死ぬ覚悟が出来ている者と言う条件だった。


すでに冒険者を引退し、商人として活動を再開していた俺はその開拓村の商人に立候補する事にした。旅人達を助ければ俺の様に悲しむ人は少なくなると考えたからだ。


武器や薬品、その他雑貨の仕入れ先を探し、今までお世話になった人達に挨拶をして周り準備を進めた。俺が配属されたのは6番目の村で、第20王子が村長をする開拓村だった。


他にも杖術の達人が農家をやりたいと参加を表明、桃色の悪魔と言われたS級冒険者がギルドマスターとして参加する事にもなった。


他にも元々傭兵だったり諜報員だったりと特色の濃い連中が集まったように思う。どの人も大切な人を魔物で亡くし、村を滅ぼされた人達だった。全部で15人程の住民が開拓村の仲間になった。


準備を整え、最低限の生活環境が整った開拓村に全員が向かった。しかし、村を作ろうとしても魔物の襲来や物資不足で開拓作業は遅々として進まず、俺達の前に来た開拓者達はその半数がすでに亡くなっていた。旅人来訪が予言されてすでに10年が経っていた時の話である。


このままでは旅人の来訪までに間に合わない。そう焦った国はここで大きな決断をした。魔物の集団暴走用の備蓄を解放して開拓を一気に進める事にし、開拓の際に騎士団の派遣を実行したのだ。


騎士団の力は絶大だった。今まで進まなかった開拓が一気に進み、わずか2年で12の開拓村全てを作り上げた。


開拓村は無事に作ることが出来た。最後の仕上げとして神官が村を訪れ、神から齎されたという神器を広場に埋めて完成となる。


神官が神器の前で祈りと祝詞を捧げ、村人が掘った穴の中に神器を沈めていく。最後に村長がその穴を埋め、村人全員で祈りを捧げた。


埋められた神器が祈りに寄って光を立ち昇らせ、周囲に暖かい光をもたらした。村を覆う様に光の幕が広がり、そして消えて行った。


神官の話ではこれでこの村は旅人が滞在できる環境になったという事らしい。その言葉を聞いて村人は全員飛び上がって喜んだ。自分達の努力が実を結んだのだ。


旅人の来訪まで後10日となっていた。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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