第4話
店主に礼を言い、店を出た俺は呆然としたまま村の広場に戻った。続々とプレイヤーがログインし続けていて広場は常に喧騒に包まれている。
そんな中、あるプレイヤーが大きな声でパーティーの募集をし始めた。
「フィールドでの経験値獲得量の調査にご協力ください!!タンクとアタッカーを募集しています!!気軽にご参加下さい!!」
このゲームはパーティー(略してPT)を組んで遊ぶことも出来る。恐らく攻略サイトを運営している奴らが最初のフィールドの経験値獲得量を調べる為に募集しているのだろう。
PTかぁ、組めば俺にも経験値が入るか?レベルさえ上がればATKも増えるか?
「そのPT入れてくれ!タンクだ!!」
元々野良PTに入ったりするのに抵抗はない。他のゲームで一期一会の出会いを求めてガンガンランダムマッチングしたのはいい思い出だ。俺はそのPTに入る事にした。
「調査班のメガネです。職業は盗賊、協力に感謝します。」
「双盾使いのルドだ。よろしく。」
「珍しい職業ですね。初めて見ました。」
「あぁ、ランダムってあっただろ?その成果だよ。」
メガネはその名の通りメガネを掛けている・・・・わけでは無かった。しかもかなりのイケメンだった。まぁゲームの中だから容姿は良いように変えられる。
本人曰く調査の為にも外見をかなり整えたそうで金髪と青い瞳、そしてどこのハリウッドスターかと言ってしまうほどの顔を作っていた。メガネはまだアクセサリーとして入手していないから付けていないそうで、入手したら真っ先に装備すると言っていた。
「後でその情報を教えて頂いても?もちろん情報量はお支払いします。」
「構わないよ。」
「ありがとうございます。」
調査が終わった後に双盾使いやランダムについて教えて欲しいというメガネに了承の返事をして、他の仲間の元に案内された。
「アタッカーが揃ったぞメガネ。」
「こっちはタンクだよ。これで人数は揃ったね。それじゃあ自己紹介をしながらフィールドに移動しよう。」
盗賊のメガネの他に、魔法使いのメモ。弓使いの鉛筆に、僧侶の墨壺。それと先ほどのPT参加の声に賛同した格闘家のネイン、そして俺の6人PTが出来た。
このゲームの最大PT人数は6人、これでフルパーティになったという事で早速フィールドに移動する。
この街周辺のフィールドは草原と森で出来ていて。草原は初心者向けのレベルの低いモンスター略してモンスが出る。主にスライムやホーンラビットという角の生えた兎、あとはアーミースネークっていう毒持ちモンスが多い。
逆に森に入ると少しレベルの高いモンスが出る為、初心者が入ると即座に死に戻りするらしいとメガネから聞いた。出現するモンスは森狼 ヒドゥンスネーク ゴブリン何かが確認されてる。でも全員のレベルが低いからまだまだ調査途中らしい。
まだまだ人が多いフィールドだったが、先程とは違い少し人が減っている。先ほどレベルを上げていた人達が森の方に入ったのだろう。
「では早速ルドさんには挑発スキルを使って頂こうと思います。」
「良いのか?おそらく結構な数が寄ってくると思うが・・・・。」
「その為に火力に偏った編成だから心配ありません。それに人の少ない場所を選びましたから問題無いです。」
「じゃあ遠慮なく。<咆哮>“がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!”」
スキルの発動には声に出す方法と頭の中で唱える方法がある。咆哮などの挑発スキルはまずスキル名を口に出してから叫ぶとその効果を発揮するとスキルの詳細説明に書いてあった。
咆哮の効果を受けてスライムが10匹こちらに向かって近寄って来た。近くに戦闘中のプレイヤーが居なかったから横取りする事も無くてほっとする。
「一匹ずつ討伐します!!私は様々な情報の記録を取りますので戦闘には参加しません。タンクのルドさんのHPには十分注意してください。」
先程とは違って挑発スキルによりヘイト値が溜まっている。スライムは俺をターゲットにして体当たりを繰り出して来た!!
スライムの体当たりは盾で受ける。DEFが高いからか双盾術の成果かスライムの攻撃によるダメージは無く、表示されたダメージ量は“0”だった。
「ルドさん固いですね!!では皆さんまずは右端のスライムから討伐をお願いします。」
「ファイヤーボール!!」
「しっ!!」
「シュート!」
「私の出番はありませんね。」
魔法使いの炎の玉や格闘家の蹴り、そして弓使いの矢がスライムに当たりあっという間に1匹がポリゴンになって消える。僧侶は回復が必要無いとみて隙を見て杖で殴っていた。
次々にメガネの指示で倒されるスライム。俺もタゲが映らないよう咆哮を使ってヘイト値を稼いだ。
そうして戦闘を繰り返して1時間、メガネが今の戦闘で得られた情報を纏めたいと全員に伝え村に戻る事に。
ステータスを確認しながら村戻り、広場にてパーティーで先ほどの得られた情報を吟味する。
「俺の蹴りのダメージが20だった。」
「弓はコアに刺されば一撃でしたが、それ以外でしたら10でしたね。」
「魔法はどこに当たっても25のダメージが入った。」
「杖は5でしたね。」
「スライムの体力は50ですからやはりスライムには魔法が有効な様ですね・・・。逆に物理攻撃には少し耐性があるけれどATKの値が高ければ耐性を無視してダメージが入ると・・・・。経験値はどうでしたか?」
メガネの言葉に全員がステータスを見て答える。
「俺はレベルが1上がって半分まで溜まっている。」
「同じく。」
「2レベル上がっていますね。」
「私はレベルが1上がっただけです。」
「ルドさんはどうですか?」
先程から一言も発してない俺に対してメガネは質問を投げかける。会話に混ざれないコミュ障じゃないぞ?ステータスを見て絶望していただけなんだ・・・。
「0だ。」
「はい?」
「だから0だ。経験値は入らなかった。」
「それは・・・。」
思案顔になるメガネに対して他の面々が思い思いに理由を口にする。
「攻撃をしていないから?」
「ダメージ量が経験値分配の計算式に入っている?」
「ヘイト値を稼ぐことは経験値分配の計算に入らないんですね。」
「これじゃあレベル上げにくいだろ。タンクはいらねぇんじゃねぇか?」
「おそらくは相手に与えたダメージに寄って経験値分配の量が変わるのでしょう。ルドさんは一度も攻撃しませんでしたからね。次は攻撃をして様子を見ましょう。」
「すまないがそれは無理だ。」
俺の言葉に全員の注目が集まる。言わないと駄目かなぁ・・・・。駄目だよなぁ・・・・。さっきフィールドで笑われたから抵抗が在るんだが・・・。
「俺のATKは0だ。だから攻撃してもダメージは入らない・・・。」
「「「「「えっ!?」」」」」
俺の言葉を聞いて5人が固まった。その後どういうことかと聞いて来るメガネの質問に、先ほど言ったキャラクリの際のランダムの影響でATKとMGKが0である事。装備は双盾使いという職業の所為で盾しか使えない事、転職するにはLvを15まで上げて街の教会に行かなければいけない事を伝えた。
「・・・・・・。」
「何も言えない。」
「馬鹿じゃねぇの?レベル上がらないなんて役立たずかよ。」
「こら失礼でしょう!!」
「そのような仕様があったんですか・・・。」
同情的な目で見てくる4人とこちらの事を馬鹿にするネイン。そしてメガネはネインを除いた2人と何かを相談して申し訳なさそうにこちらに頭を下げる。
「ルドさん、申し訳ありませんがPTを抜けて貰ってもよろしいでしょうか?」
メガネからPTを抜ける様にお願いされる。まぁダメージを入れられない人が居ると検証も出来ないから仕方ないか・・・。多分やりたいこともあるんだろうし。
「わかったPTを抜ける。」
「あっ情報量はお支払いいたします。転職の情報と合わせて1万マネです、受けとってください。」
「確かに、それじゃあ抜けるな。一緒に遊んでくれてありがとう。」
「こちらこそありがとうございます。もし何かあれば連絡をください。」
そう言ってメガネからフレンド登録が送られて来た。俺はちょっと泣きそうになりながらOKボタンを押す。
「もし何かATKを上げる方法があれば教えてくれ。」
「はい、何かわかったら連絡します。今日は申し訳ありません。」
「いや、こちらこそ迷惑を掛けて申し訳ない。それじゃあまたどこかで!!」
最後まで謝りながら頭を下げるメガネ。俺も申し訳なくて頭を下げ別れの言葉を告げてその場を離れる。
どうにかATKを上げる方法を探さないと・・・・。そんでもって今度こそPTにちゃんと参加しよう。
そう心に決めてまずは雑貨屋に足を向ける。この瞬間にも自分の情報がサイトに広まっているなんて気が付かずに・・・。
毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!
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