第21話 幼馴染にあったこと①

 もともと、深夏は『地味』だった。

 小柄で控えめ。長い前髪に目は隠れがちで、どこか小動物みたいにおどおどしている常だった。


 そして、それは見た目の印象だけじゃない。

 実際に会話の輪の中に入っても、返す言葉は遠慮がちで、同意や共感を返すというのも不得手だった。

 他人と会話のテンポがズレる。周囲の話題に追いつけない。なによりも、誰かと一緒にいるよりも、教室のすみっコでひっそり本を読んでいるのが性に合うような女の子だったのだ。


 しかし、そういうハグレモノの存在を、『集団』は敏感に察知する。


『あのコ、ちょっと違うよね』


 と誰かが言い出せば、攻撃対象になるのも無理のないことだった。


 深夏がなにか失敗をすれば、クスクスと忍び笑いが漏れる。一人だけプリントを回してもらえない。給食の配膳の列で、前に誰かが割り込んでくる。

 そんなささやかで、誰もが気づかない……しかし確実に深夏の心を傷つけるようないじめが小学校のクラスで展開されるようになっていったのだ。


 ――だが。


『――水樹さん、最近ちょっとすごいよね』


 子どもの成長は、時として目覚ましいものがある。

 成長にしたがって、深夏の体も大きくなった。

 低学年だった頃にはどこかどんくさい振る舞いも、高学年になった頃には自然と洗練されたものへとなっていった。


 地味で冴えなかったはずの容姿も、気づけば美しく花開いていた。

 平均的だったはずの成績が、目に見えて周囲よりも抜きん出始めていた。


 そうして花を咲かせ始めた存在を、いつまでも無視できるものじゃない。

 いじめは称賛へ。攻撃は媚びへ。優越感は劣等感へ。

 深夏へ向けられる目は、扱いは、感情は――正反対のものへとあからさまなほどに移り変わっていった。


 それに最も戸惑ったのは、おそらくは当の本人だろう。

 いくら容姿や能力が目覚ましい成長を遂げようとも、その精神は奥手で臆病な本来の深夏のままである。つい先日まで自分を嗤っていた人間が、手のひら返したように接してくる光景は、彼女からしてみれば異様というほかなかっただろう。


『たかふみくん……わたし、なんか最近こわい……』


 当時、深夏はよく、そんなことを俺に言っていた。


『ともだちになったおぼえなんてないのに……みんながわたしをともだちだって言ってくる……』


 ――しかし今にして思えば、深夏にあったのがたったこれだけのことだったならば、いつかは他人にも心を開けるようになっていたのかもしれない。

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