第9話 幼馴染と帰り道
「なんかあったん?」
その日の帰り道、深夏がそう言って問いかけてきた。
ちなみに、今の深夏は、マスクに帽子、ツインテールといった学外仕様だ。付き合うことになって以来、この格好の深夏と帰宅することも増えていた。
「なんで?」
「今日、午後からずっと怖い顔してるよ」
「俺は元から強面なんだ」
「ダウト」
ごまかそうとしたらあっさりとバレた。
「隆文はどっちかっていうと、情けない系のもやし顔だと思う」
「もやしはタンパク質が豊富でだな、原料の大豆は畑の肉とも呼ばれるスーパーフードなんだぞ」
「隆文って、なにかをごまかそうとしてる時、どうでもいいことを饒舌に語るよね」
おっしゃる通りで。
「なにがあったん? おねーさんに語ってみ? ほれほれ」
「じゃあ聞いておくれよおばあさん」
「おおん?」
「ちょっとリアルな女心を聞かせてもらえたらと思うんだがな」
「リアルな女心としては、ピチピチのJKがおばあさん呼ばわりされると割と深刻な殺意を覚えるけど?」
「ピチピチって……」
死語じゃん……。
「あれ、深夏って昭和生まれだっけ……」
「……あたしも自分で言っといて危機感覚えた。たまに
「分かる……」
今後は死語を口にしたらお互いに注意し合おう、という条約を交わし合う。
それから、
「で? あたしになにを聞きたいのさ」
と、深夏が促してきた。
「ああ、それがな……漫画の展開でちょっと詰まってるところがあってな」
「ふんふん」
「ヒロインが学園のアイドルなんだけど、クラスの女子がヒロインの陰口を叩いているのを主人公が偶然聞いてしまってな」
「あー、あるある。そういうのあるわー」
「で、ヒロインに迷惑がかからないような形で深刻で陰湿な報復をしてやりたいと考えているんだが、そのいい方法がなかなか思いつかなくてな……女心的にはなにをされたら本気で嫌だろうか?」
「その主人公カスすぎない?」
なにをおっしゃる。
正当な正義に基づく行動ではないか。
深夏は物憂げな表情(多分。マスク越しだからよく分からん)で髪の毛の先を指でつまみながら、「ん-」としばらく考え込んだあと、顔を上げる。
それから、「あのさぁ」と口を開いた。
「それって、ヒロインが主人公に対して報復してほしいって思ってるのかなぁ?」
「どういうことだ?」
「や、ほら。別にヒロインがそうしてほしいと思ってるとは限らないわけじゃん? 人の注目をどうしても集めてる立場だと、陰口とか些細な嫌がらせなんて日常茶飯事だし、そういうのを億劫には思ってても仕方ないものだって諦めてるかもしれないじゃん」
「それはお前のことか?」
「一般論だよ」
断定するような口調だった。その言葉や言い方からは、深夏の思惑は汲み取れない。
「だけどさ。そんな風に怒って、
「だけどそれで状況が変わるわけでもないだろ?」
「気持ちの問題だよ」
へっ、と笑いながら深夏が肩をぶつけてきた。
「まあ、これはあくまであたしの意見でしかないんだけどさ。『救い』がなにかなんて、人によって全然違ったりするし」
「それもまあそうだな」
「同情するなら五億円くれとかって人もいるだろうしねー」
「そんなヒロインは嫌だわー」
ヒロインを落とすために五億円稼ごうとする主人公……うーん、それもうラブコメじゃなくてお仕事漫画になっちゃうなぁ……。
「それで、なんか漫画のヒントにはなった?」
「ん-、まあ、そうだな」
少しだけ考えてから、言葉を返した。
「主人公には、ヒロインと一緒にUNOでもやらせてみる」
「いんじゃね? 知んないけど」
胸の中でわだかまっていたもやもやした気持ちが、少し軽くなったような気がした。
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