沢田健司
佐伯が去っていく。
俺は力が抜けたのかその場にしゃがみこんだ。
安心した。怖かった。殴られるかと思った。
幼馴染を奪った男が目の前に現れてあんなにも冷静になんて普通なれないだろ。
ただ俺に興味がないだけなのかもしれないが。
でもよかった。唯奈と話をしてくれることが決まった。
本当に、本当にお人好しでよかった。
これでようやく唯奈を解放してやれる。
「あぁ。これでやっと俺たちの恋が始まる。」
俺は昔からだいたいのことはできた。テストだって上位。運動も部活に入ってるやつと同じくらいできる。何人からも告白されてきたから顔だってイケメンだ。そう思う。
だがら俺は自分が他の奴よりも優れていると思っていた。
高校に入ってすぐ、とんでもない美少女がいるとみんな大騒ぎしていた。確かにものすごくかわいい。これは男たちは放っておかないだろう。けど俺は本気で好きとは思わなかった。
「五十嵐さんまじでかわいくね?」
「めっちゃわかる。あれは学内1だな。健司はどう思う?」
「ま、俺に釣り合うくらいの美女だな。てかあのでっかい奴の横にいる子は?」
「あぁ、沢田は知らないのか。あの二人は幼馴染で付き合ってるんだと。」
「はぁ?冗談きついぜマジ。あんなキモイのと付き合うとかおかしいんじゃねぇか?俺のが何倍も何十倍もイケメンだろ。」
「ははは。確かにな。」
このころから唯奈のことは陰キャと付き合ってる変な奴程度という認識だった。
でもそのときの俺は誰も手に入れられないであろうものを手にしたくて付き合ってやろうと五十嵐さんを呼びつけた。
「なぁ、あんた。俺が付き合ってやるよ。」
「はぁ…?」
「嬉しいだろ?俺は顔もいい、勉強も運動もできる、クラスでも人気者だぜ?そんな俺につりあうのはあんたしかいねぇ。だから」
「お断りします。」
「は?……な、なんでだよ!」
「付き合ってやろうってなんで上からなんでしょうか?というか、そもそもあなたは私のことを本当に好きではないのでしょう?」
「別に上からとかじゃねぇよ。てか、好きじゃなきゃ告白しないだろ?」
「いいえ、あなたは私を好きだと思っていません。今まで告白してきた方は体目当てや顔が好みだとか…少なくとも好意的な目をしていましたが、あなたからはただ横に置いておきたいというそれしか感じられません。」
「そ、そんなことは…。」
「それに、…私は中身を知ろうとせず外見だけで人を馬鹿にするような方は嫌いです。ですので、あなたとは付き合えません、ごめんなさい。それでは。」
「ま、待ってくれ!!」
「まだ、なにか?」
「なんでそんなことがわかるんだ!?告白したんだから好きに決まってるじゃねぇか!」
「そう思うのが普通でしょうが…。なぜかあなたからは恋愛的な視線を感じなかったんです。」
「なんだよ、それ…。」
「変なことを言ってすみません。それでは失礼します。」
確かに、俺は誰かに執着したことは一度もなかった。
冷静になって言われたことを思い返してみる。
『あなたは私のことを本当に好きではないのでしょう?』
確かに好きかどうかはわからない。けど可愛いとは思った。
『あなたからはただ横に置いておきたいというそれしか感じられません。』
間違ってない。周りが可愛いというから欲しくなったのだから。
……そうか。そうなのかもしれない。
俺は本当に人を好きになったことがないのかもしれない。
だって今まで俺から声をかけなくても女は勝手に寄ってきたんだから。
そして俺は唯奈と本格的に出会うことになる。
「なぁ健司。五十嵐さんに振られたんだろ?ならさ、隣のクラスの神崎さんとこ行こうぜ。」
「はぁ?なんでだよ。めんどくせぇ。てか誰?」
「あの陰キャと一緒にいる女の子だよ!ついこないだ言っただろ~?」
あぁ、あの子か。確かに顔はかわいかったしな。
「でもあの陰キャと付き合ってんだろ?」
「んなの、喋りに行くくらいいいだろ!あの陰キャとは普段会話してねぇしさ!ほらいくぞ!」
正直彼氏のいる女に会いに行くということがめんどくさかったが、振られたばっかだからいいかと軽い気持ちで行ってみた。
「うぃー、健司つれてきたぜ~!」
「おっす~沢田健司だ。よろしくな。」
「あぁ~健司くんじゃーん。やっぱかっこいいねー!ね、唯奈!」
「う、うん!えへへ。私神崎唯奈っていうの、よろしくね!」
「お、おう!よろしく!!」
唯奈に笑いかけられた俺は胸がどきどきして、顔が熱くなるのを感じた。
今まで感じたことのない気持ちに戸惑ったが、Yahiii!知恵袋で相談すると恋だと返事が来た。
そうかこれが恋か。俺は初めて人を好きになったんだな。
「あ、ごめんそろそろ帰らなきゃ!」
「お、俺が送ってやろうか!?」
「嬉しいけど、ごめんね。待たせてるから!それじゃ!」
「お、おう。そうか。またな!」
しばらくして窓の外を見ると一人の男に駆け寄る唯奈がみえる。
「チッ!なんであの陰キャが…。」
「まぁ幼馴染らしいからね。でも唯奈かわいそう。」
「あんな陰キャより健司のがお似合いなのにな!」
「もう奪っちゃってもいいんじゃない??」
「いや、奪うのはやべぇって。好き同士なんだろ?」
「でも登下校のときだけしか一緒にいないし、幼馴染だから仕方なく一緒にいるだけじゃないの~?」
「それに健司とか俺らといる方が楽しそうじゃん!」
「まじで?ならワンチャンあんのかなぁ。」
「あるある!」
「明日からめっちゃ積極的にアピールしよ!私たちも健司君とお似合いだって唯奈に言っといてあげるからさ!」
「っし!頼んだ!!あの陰キャよりも好きになってもらって俺を選んでもらうわ!」
ただ唯奈と付き合いたいという欲だけで俺は行動し、そして放課後に二人で帰っていたとき俺はもう我慢ができなかった。
俺はいきなり唯奈の手を繋ぎ告白したのだ。
「なぁ唯奈。俺お前のこと好きなんだよ。あんなキモイ陰キャじゃなくて俺と付き合ってくれよ。」
ついキモイ陰キャなどと馬鹿にしてしまったが、嫌にならないだろうか。
「え~うーん。私はでも涼と…。」
そこは大丈夫そうだ。でもこの反応なら、もしかしていける!!!!
「いやいや、幼馴染だからってずっと一緒にいる必要なくね?それに、あいつよりも俺の方がかっこいいと思うぜ?」
必死に説得をする俺。少し考えた後唯奈はニコッと笑って答えてくれた。
「それもそっか。うん!じゃぁ私涼と別れるよ!よく考えれば健司君の方がかっこいいし、実は手を繋いだときからすごいドキドキしてたの!」
「じゃぁ今日から唯奈は俺の彼女な!早くあいつと別れろよ!」
やった!!!やった!!!!初めて好きな人と付き合えたぞ!!!
「わかった!今日帰ったら電話で振っておくから!」
あいつとも別れる!よしっ!!
「頼むぜ?なぁ唯奈、目瞑ってくれよ」
初めての本当に好きな彼女ができたことで俺は興奮していたんだろう。すぐにでもキスがしたかった。
そこから俺の言葉通り目を瞑った唯奈にキスをすると一瞬離れようとするが抱きしめキスを続けると唯奈の方からもキスを返してくれる。
唯奈を家へ送った俺は来週からの学校が楽しみで仕方なかった。
月曜日唯奈と共に登校した俺は友達に祝福され、休み時間に会いに行ったがそこで見たのは陰キャだったはずのクソイケメンになった佐伯という男に癇癪を起している唯奈だった。
この日から本当の幸せが訪れることはなかった。
昼休み。屋上に行ったっきり帰ってこない唯奈。
放課後。屋上で佐伯と話をしてくるから待っていてくれと言われたが一向に来ない唯奈を心配して戻ると、泣いて座り込んでいる唯奈。
また別の日の放課後。気分転換に寄り道をしていたら佐伯達に会ってしまい、五十嵐さんにぶたれてしまう唯奈。
中間テスト。佐伯が1位をとったと聞き調子に乗るなと圧をかけたところ返り討ちされてしまった。そしてずっと佐伯を見つめている唯奈。
そして休みの日。裏路地で男たちと密会していた唯奈。誤解だったが五十嵐さんを危ない目に合わせようと犯罪行為に走ろうとした唯奈。
そんなことがあっても俺は唯奈が好きだった。誰だって間違えることはある。
間違ったならやり直せばいいと俺はそう考えていたからだ。
だから俺は毎日唯奈に寄り添っていた。
佐伯のことを話しても、不機嫌にならずにでも俺はこうだぜって慰めた。
でも、何を言っても涼が、涼なら、涼を。
あの裏路地で叱ったあの日以来、佐伯のことしか話さなくなった唯奈に俺はもう自分ではどうしようもなくなり結局佐伯を頼った。
佐伯には全くメリットなんてない。いや、近いうちに唯奈が絡んでくることを考えると全くないとは言えないか。
でも俺は唯奈と幸せになりたいから佐伯には頑張ってもらうしかないんだ。
これしか俺には思いつかない、佐伯だけが俺たちの唯一の希望なんだ。
唯奈が拒絶して立ち直れないほど心を折られたとしても、最終的に佐伯よりも俺を選んでくれるなら、それでいい。
今は五十嵐さんに感謝している。
あの時振られたおかげで俺は本当に人を好きになることができたんだから。
唯奈。お前がどこまで歪もうが俺はお前と一緒にいる。
いや、俺なしじゃいられないようにしてやるからな。
あぁ、愛してるぜ唯奈。
☆あとがき☆
健司視点を間に挟ませてもらいました。
別話のあとがきや近況ノートで健司を擁護するような発言を作者がしておりましたが、そちらは削除しております。
皆様のご指摘通り沢田健司という男はいい奴で終わらしてはいけないものだと改めて作者も気づかされました。
コメントいただきありがとうございました。
健司に対する制裁は健司にとって一番嫌なものになると思います。
引き続きよろしくお願いいたします。
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