第31話 来訪者
「おい。佐伯ちょっといいか。」
午前の部が終了し昼休憩に入ったころ、いつものように中庭でご飯を食べていると声をかけられたので返事をする。
「沢田か。何か用か?」
それは唯奈の現彼氏。沢田健司だった。
とりあえず何か用かと聞いてみたが用があるから声をかけたのだろう。
だが、あんなにも俺のことを邪険にしていたやつが声をかけてくるってことは、まぁ十中八九唯奈絡みのことだろうな。
「話したいことがあるんだけどよ……。ここじゃ人が多いな、着いてきてくれ。」
「…あぁ。」
ここで押し問答してもめんどくさそうなのでここは素直についていくことにした。
立ち上がると俺の服の裾がくいっと引っ張られたと思ったら小春が心配そうに俺を見上げてくる。
「涼真くん…」
「大丈夫。小春の試合が始まる頃には戻ってくるから。」
そんな小春に大丈夫だからと微笑み沢田に着いていく。
しばらく歩くと足を止めた場所は体育館裏だった。
沢田は振り返り突然頭を下げてきた。
「頼む!唯奈と話をしてやってくれ!!」
「……は?」
突然のことにうまく答えられずにいる俺のそんな様子に頭をさげているからか当然気づく様子もなく続けて頼み込んでくる。
「俺がこんなの頼める立場じゃねぇのはわかってる!!お前にひでぇことを言ったし馬鹿にしてきたいやなやつだ!!でも、でももうお前にしか頼めねぇんだ!!頼むこの通りだ!!」
誰だこいつは?ほんとうについ先日あんなにも嫌味ったらしく絡んできた沢田なのか?
俺はこんな状況じゃまともに話せないだろうと、とりあえず顔を上げるよう伝え何があったのか聞いてみることにした。
「落ち着け、話が全く見えない。なんで俺が唯奈と話をしなきゃいけないのか説明してくれないか?ただでさえいきなりお前が頭を下げてきただけでもこっちは混乱してるんだ。」
「わ、わりぃ。俺もちょっとテンパってて……。」
顔を上げた沢田が俺が困惑しているのにようやく気付いてくれたのか、ふぅと深呼吸して落ち着いたのかなぜこうして頼みに来たのか順を追って説明しだした。
「話は先々週まで戻るんだが、その日おれは○○駅の方までちょっと出かけてたんだ。そしたら路地裏で聞き覚えのある声がしたから行ってみたらそこで唯奈が他の男たちと何やら楽しそうに話しているのをみたんだ。」
ん?先々週ってことは、俺と小春が初めてデートしていた日じゃないか?しかも○○駅も待ち合わせしてたとこだな。てことは、
「また浮気でもしてたのか?」
唯奈+別の男=浮気。その認識しかない俺はついぽろっと言ってしまった。
「違う!!俺だって最初は疑ったけどそれは誤解だった!てか、またってなんだよ!」
何だ違うのか。
「誤解だったなら気にしないでくれ。」
「なんだよ気になるな……。まぁいい、いろいろあって誤解だってことはわかったんだが、どうやらその時一緒にいた男たちはお前に派手にやられた連中だったみたいで、それをみていた唯奈が復讐しようと俺にも提案してきたんだよ。その男たちになんか心当たりはあるか?」
めちゃめちゃあるな。やけにしつこくナンパしてくると思ったらしまいには小春をよこせとか言ってきたやつだよな。
俺は沢田にその日その駅に俺と小春もいたこと。しつこくナンパしており挙句には小春をよこせとか言ってきたから噴水に突っ込ませたことを説明した。
「おまっ…結構なことやってんじゃねぇか。だからあいつだけずぶぬれだったのかよ。」
「殴りかかってきたんだからしかたないだろ?それに避けただけで実際には勝手に突っ込んでっただけだよ。それで?そのあと俺たちはそいつらに絡まれてないぞ?」
別に帰り道に襲われるでもなく待ち伏せされるわけでもなかったんだがと疑問に思っていると沢田がスマホを出しそいつらの写真をみせてきた。
「あぁ。さすがに見過ごせなかったから男たちにはこの写真をバラまかれたくなかったら佐伯と五十嵐には関わるなって言っておいたんだよ。だから襲撃はなかったのかもな。それか横にいた無害そうなやつが止めたのかもしんねーけど。」
やっぱりこいつらだったんだな。確かにこの写真を見たら路地裏で女の子を襲っているようにしか見えないわ。
「そうだったのか。それはなんていうかありがとう?」
「礼なんていらねぇよ。俺が気に食わなかっただけだ。んなことよりこっから、その復讐しようとしてた内容が重要なんだわ。」
俺が礼を言うと沢田は少し照れた後こほんと咳払いをし、そうじゃねぇと本題を話しだした。
「復讐の内容は唯奈をナンパしてるフリして佐伯を足止めしたあと、五十嵐さんをあの二人に犯させようとしていたらしい。」
小春を犯させる?
「あ゛ぁ?あいつ…」
「待て待て!していたらしいだ!!それもその男ふたりがボソッとそんな風なことを言ってたから唯奈が本当に言っていたのかはわかんねぇから!!」
今にも唯奈の元へ行って問いただしてやろうかと思ったが沢田に止められ一旦冷静になる。
「…悪い。」
「はぁはぁ。お前……案外俺と似て短気だな?」
「失敬な。俺は心が広いで有名だ。」
そうかよと適当にあしらわれてしまった。俺が短気なわけあるもんか。
「まぁいい話を戻すぜ。未然には防げたが唯奈がそんなこと考えてたって事実は無くなんねぇ。もしかしたらまた別の奴に近づいて今度は本当に実行に移すって可能性もなくはない。だから二度と同じ過ちを犯させないよう、俺はその日からもう佐伯のことを忘れろって何度も言ったんだ。」
そう言った沢田はギュッと拳を握りしめると悔しそうな表情になって続ける。
「でも返ってくるのは『涼がそれを望まない』とか『健司くんには涼の本当の気持ちがわからない』『健司くんも私を否定するの?』とか訳分かんねーことしか言わねーし、しまいにゃお前に直接聞いてやるとか言いだしてな…。」
「相変わらずハッピーな脳みそしてんな……。でもそんだけおかしくなってんのに今まで直接関わってこなかったのはお前がとめてくれてたんだな。」
「どうだろうな。なんとか毎日お前んとこに行かねぇよう気を配ってはいるんだが……それももう限界だ…。いつ爆発しちまうのかわかんねぇ。」
関わって来ようとするなら無視か適当にあしらうことはできる。だが毎日となったら話は別だ。
「お前が変わったあの日、お前たちの間で何があったのかわかんねぇけど、いい話し合いができたわけじゃなかったんだろ?もう関わりたくないってお前が思っててもあいつはまだお前に縋りついたままなんだ。だから頼む。もう一度あいつに向き合って気づかせてやってほしい!!この通りだ!!!」
あの放課後の日俺が思ったことはあながち間違いじゃなかったのかもしれない。
こいつは俺から唯奈を奪った…。あんときはショックでトラウマ抱えそうになったが今はむしろ感謝してる。
こいつがしたことを許しはできないが性根まで腐ってるわけじゃない。なら、こうして俺に頭を下げている沢田に俺がしてやれることは。
「……顔上げろ沢田。」
「っ…!」
「正直二度とあいつと関わりたくない。俺には関係ないっていえばそれで終わりだと今でも思ってる。それくらい今の俺にはあいつの存在は必要ない。」
「……けどお前がこうやって頼みに来たのになにもしないってのはさすがに俺がクソ野郎になる。それに、俺だっていつか唯奈とケリをつけなきゃって思ってたんだ。」
「それじゃぁ…!!」
「あぁ。あいつともう一度向き合うことにする。といっても俺にも考える時間を少しほしいが。」
「それでいい!!よかった…ほんとうにありがとう…。」
安心して涙を流す沢田の肩に手を置き早速これからのことを決めようとしたところで昼休憩の終わりのチャイムが鳴り響いた。
キーンコーンカーンコーン
「やっべぇ小春の試合始まっちまう。あぁそうだ沢田。スマホ出せ。後日改めて決行日を伝えるから。」
「おう、これで頼む。……つか、お前のこと今まで調子乗ってるクソ野郎だと思ってたが、やっぱちゃんと話してみねぇとわかんねぇな。…今まで悪かった。」
「ま、そんなもんだろ。誤解が解けたならなによりだ。そんじゃ、俺は先に戻らせてもらうぞ。」
「あぁ!またな!」
スッキリした顔になった沢田に俺は軽く手をあげてその場を離れて試合が始まっているであろう体育館へと急いだ。
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