第30話 球技大会で②

ダムダムダム


軽快にドリブルしながらゆっくりと近づいてくる国松先輩に中西と今原がボールを取りに行こうとするが、さすがはバスケ部キャプテン。簡単には取らせない。完全に二人は遊ばれていた。


「「「「きゃー!国松先輩かっこいいー!!」」」」


どうやらあんな性格をしていても一定層ファンはいるようだ。まぁ普段は表には出さないようにしているのだろう。


その声援を受けた先輩はどうだと言わんばかりに小春の方へとアピールしているが、肝心の小春はというとさっきから棒立ちの俺の方しか見ていない。


「ほ~らほ~ら、こんなこともできるよ~♪」


女子生徒の声援を受けて調子が出てきたのか国松先輩は二人のブロックを軽くいなして技を決めまくる。


「「「きゃー!すてきー!!」」」


「はっはっは~!!」


「くっそ…。」


っていうか試合中によそ見するとか随分余裕だなこの先輩。

丁度いいやと中西と今原の死角から飛び出してボールを奪ってやる。


「次はこんな風に~ん?あ、あれ?ボールは?」


ボールを取られたことに気づいていないのかその場できょろきょろとしている先輩を横目に前にいる浩平へとボールを投げた。


「ナイスパァス!!!」


パシュッ


「へへへ、涼真、ナイス!!」


「あぁ。」


駆け寄ってくる浩平とコツンと拳を合わせる。


何が起きたか理解したのか国松先輩がふるふると肩を震わせ俺たちに詰め寄ってきた。


「てめぇ!見えてなかったのか!?今完全に俺のターンだっただろうが!!!」


何を言ってるんだろうか。試合にターンなんてオフェンスディフェンスの切り替えくらいしかないだろ。


「はぁ?何言ってるんですか?試合中によそ見してる方が悪いでしょ。」


「うるせぇ!!邪魔する方がわりぃだろ!!」


「なら邪魔されないようにブロック躱せばいいじゃないっすか」


「くっ……チッ!!」


舌打ちをして戻った先輩はさすがに舐めプできないと思ったのかさっきとは違って真剣な表情へと変わっていた。


本気になった先輩と1on1をしていて思ったがやけに技を決めたがろうとする。

最初は対処に困ったがタネが分かれば簡単に止めることができたのでそこまで苦戦することもなかった。


先輩を抑えてからは一方的な展開にはならず俺たちが優勢のまま10点差で前半を終えることができた。



「くそっ!!くそっ!!!!お前ら何してんだよ!!なんで俺がただの1年にこんなにやられなきゃいけねぇ!!俺はバスケ部キャプテンだぞ!!!」


どうやら国松先輩はこの結果は自分以外のチームメイトの責任だと怒り心頭なご様子だ。

かなり注目を集めているがいいのだろうか。上にいる女子たちものすごい顔してるぞ。


「お、落ち着けよ国松…。俺たちだって経験者じゃねぇんだしさすがにあいつらみたいには動けないって。」


「あぁ!?1年相手ならできるだろうが!!クソ使えねぇなぁ!!」


「っいってぇ…」


「お、おい大丈夫か!?」


靴を投げられた生徒に他のチームメイトが駆け寄るが先輩は未だ怒りが収まらないのかもう一人に対してもきつく当たっている。


「うわ、なにあれ。ひどくない?」

「国松先輩ってああいう人だったんだ。」

「国松くんよりも佐伯君の方がいいかも。私あっちの応援してこよーっと」


そんな先輩の様子に応援していた女子生徒たちは完全に冷めたのか俺たちのいる反対側へと移動し始めた。


そして後半が始まりコートに戻ると、俺たちの後ろ側はいつの間にか応援団でもできるんじゃないかという人たちで溢れかえっていた。

そんな状況にようやく気づいた国松先輩が逆上して俺に掴みかかってくる。


「お前何やったんだよ!!なんで俺たちの方にいた女がそっちにいんだよ!!」


「お、おい国松!!やめとけって!!!」


審判をしていた男子の先輩が必死に止めようとするが国松先輩は聞く耳を持たない。


俺は冷静に腕を振りほどき襟元を正すと淡々と事実を告げる。


「先ほど先輩がチームメンバーに当たっていたからじゃないですか?暴力的なバスケ部キャプテンと、仲良さそうな1年だったらどっちを応援するかなんてわかりきっているでしょう?」


「ちょっと君もあんまりこいつを刺激しないでくれ!!」


「はぁ!?俺がいつそんな……おい!離せよ!!」


チームメンバーに引きずられ先輩が戻ると強制的に後半戦開始の合図が鳴る。

だが、そこからは本当にひどいものだった。


「おっと足が滑った!!」


「ってぇ…。」


「あぁ、後ろにいたのか気づかなかったよ!!」


「ぐっ…。」


審判に気づかれないタイミングで足は踏まれるわ、肘で殴られるわまともにディフェンスにつくこともできない。


「ねぇあれ反則じゃないの??」

「佐伯君大丈夫かなぁ…。」


なぜ先輩がファールをとられないのか、答えは簡単だった。

先ほどからニヤニヤとこちらを見ている審判は俺たちを止めていた審判ではなく国松と仲のいい先輩になっていたからだ。


一旦タイムアウトを取ると俺を心配した朝日が駆け寄ってくる。


「涼真!俺が変わるって!」


「まだ大丈夫だ。朝日がとめてくれないと笹島が点決められないからな。それに、やられっぱなしで黙ってるわけないだろ?」


「あぁ、なら大丈夫か!」


そういって朝日は元の位置へ戻っていった。

おい、信頼しすぎだろ。もうちょっと心配しろよ。

まぁいいけど。


再びコートへと戻ると俺はディフェンスをしながら考える。

ふむ…。痛がったふりをしてファールとれるかと思ったがやっぱ無理そうだな。さっきから執拗に足を狙ってくるからよけてはいるから痛みはほぼないからこのままでもいいんだけど。さすがにめんどくさいな。


そんな俺の考えなど知ったことかとまた先輩が仕掛けてくる。ボールをキャッチしたときにバランスを崩したふりをして俺に当たってこようとしているのだろう。

それを察した俺はわざとそれにあたり後ろへと吹っ飛んだ。


「へ?」


「涼真くん!!!」


ピッピー!!


「ふ、ファール!!」


おぉ、さすがに止めてくれたか。俺はむくりと起き上がり肩を回す。


ざわざわ


「お、おい!佐伯!大丈夫か!?」


俺は駆け寄ってくるクラスメイト達にかまわず起き上がり放心状態の先輩の元へと近づいていく。


「先輩。」


俺の声にビクッと震えこちらをゆっくりと見上げてくる。


「これで満足ですか?」


俺はそういいながらニッコリと先輩に微笑みかける。


「え、いや…その……」


「満足ですか??」


「いや、俺はここまでするつもりじゃ…」


あくまでも自分は悪くないと主張する先輩の胸倉をつかんで立ち上がらせる。


「じゃぁどこまでするつもりだったんだよ。俺じゃなかったら軽い怪我じゃ済まなかったんだぞ。」


「そ、それは……」


「対抗心を燃やすのは勝手だがこれ以上やるつもりなら俺も容赦しないからな。」


パッと離すと俺は振り返りガッツポーズをとる。


決まった。


昔読んだスポ根漫画に嫌がらせする先輩が改心して仲良くなるみたいなのを読んだことがあった。

状況が近しかったのもありもしかしたら改心してくれるかもしれないという淡い期待をこめて同じように対応してみたのだ。

だからといって彼とは仲よくする気もないし許すことはできないがやり直すことはできるだろう。

ここで落ちた信頼くらいは取り戻せるんじゃないだろうか。


そう思いながら再度先輩の方を振り返るとそこにはボロボロと涙を流す先輩の姿があった。


「え?」


「うっ……うぅ……」


「ちょっ先輩??」


「うああああああああああん!!!ママぁああああああああああああ!!!!!」


そう泣き叫びながらダダダダと体育館を飛び出していってしまった先輩をだれも止めることはできず、残された俺たちはポカーンと出口をみつめることしかできなかった。


「え、えー国松が棄権したため……勝者1-A…。」


こうして俺たちはバスケで優勝した。



☆あとがき☆

午前午後でわかれてる球技大会だと思ってもらえれば。

午前は男子バスケ、男子バレー、女子テニス、女子ソフトボール

午後は女子バスケ、女子バレー、男子テニス、男子ソフトボール

みたいな感じです。

人数はなんかうまいこといってるということで。

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