第32話 進むから
急いで体育館に戻ると入ってきた俺に気づいた朝日が大きな声で俺を呼んでいた。
「おぅ涼真!こっちこっち!お前のために特等席とっといてやったぞ~!」
「あぁ、さんきゅーな。ここなら小春がよく見える。」
ふぅ、と腰を下ろすと不満そうに朝日に見られた。
「なんだよ。」
「なんかからかいがいがねぇなぁ〜。ほんとな〜。」
「はぁ…なんだ?恥ずかしがればよかったか?」
「そりゃぁな?『や、やめろよ!そんなんじゃねぇし!』みたいなテレを期待してんのよ!」
そんな期待俺にするだけ無駄だろ。まぁ席を確保してもらったしなちょっとくらい付き合ってやるか。
「ヤ、ヤメロヨソンナンジャネェシ。これで満足か?」
「棒読みじゃぁねぇかよぉおお!!!!」
「うるせ、ほら試合始まんぞ。」
もっとこう表情を崩してだなぁ!、と照れ方について力説している朝日を無視してコートを眺める。
ピピー!!
「それでは試合開始します!」
審判の合図によって試合が始まった。
「はっ!」
ズパンッ!
ピッ!
小春と朱莉ちゃんは経験者のように難なく動いていく。
それに対して相手のチームはバレー経験がない子が多いのかどんどんと点を奪われていく。
「この瞬間がたまらんよなぁ。」
「あぁ。女子バレーのいいところだ。」
「特にあの五十嵐ちゃんと新田ちゃんの揺れすげぇぜ。」
「眼福眼福。」
後ろの方から聞こえてきた先輩であろう人たちの声に振り返ると、俺と目があった途端なぜか席を立ちどこかへ行ってしまった。
「どした?涼真。ってお前顔!!!!般若みてぇになってんぞ!!」
「え?」
「あ、あぁ戻った。なにがあったんだよ。」
「いや、先輩っぽい人たちが小春たちのことを話してたから振り返ったんだけどどっか行っちゃったんだよな……」
「あー……。そりゃそんな顔で振り向いたら逃げたくもなるわ。」
朝日はなぜか納得してるが俺としては本当になんで逃げられたのか分かっていない。
まぁいいか、今は小春たちの試合だ。
それから小春たちを応援しているとなんと準決勝まで進んだ。だが準決勝の相手チームは3年生の先輩で経験者も多く善戦したもののそこで敗退してしまった。
俺たちはあの先輩のおかげで勝てたようなものだし小春たちはすごいな。帰り際何か奢ってあげよう。
すべての競技が終わりクラスで結果を聞いていると1年で優勝したのは俺たち男子バスケのみだった。
嬉しいというよりも掃除を回避することができたということがなにより嬉しかったので俺と朝日は先生にバレないようこっそりと喜んでおいた。
いつものように4人で帰っていると、朝日が周りを軽くみたあと今日の昼休みのことについて聞いてきた。
「で?沢田とはどうだったんだ?」
「ん?いや、別になんてことないよ。今まで誤解して馬鹿にしてて悪かったなってさ。」
「その他には?」
「いいや、そんだけだよ。呼び出したのだって周りに人がいるのが恥ずかしかったからだそうだ。案外照れ屋なのかもしれないな。」
冗談交じりに適当に流そうと思ったが朝日は真剣な様子でそういいのはいいと食い下がってくる。
「……本当は?」
「ほんとうにそれだけだって。そんな食い下がってくるなんて珍しいな、変なものでも食ったか?」
「俺が食ったこたある変なもんは涼真からもらったドリンクだけだろ!そうじゃなくて、沢田から本当は何を言われたのか教えてくれ。…どうせ唯奈ちゃん絡みのことだろ?」
やっぱりそこまで気づいてたのか。昔からわかってるくせに俺に話させようとするんだよな。
「……はぁ、あぁそうだよ。どうも様子がおかしいから助けてくれって頼まれたんだ。最近は最初の頃みたいに絡んでこないだろ?それを抑えてたのが沢田らしいんだが、もう爆発しそうだから助けてくれってさ。」
「確かに最近見ないけど……まさか了承したのか?」
「あぁ。あいつも真剣だったし。俺自身も唯奈と決着をつけないと小春と本当に付き合えそうもないからな。」
な。と小春の方を見る。
「ぴぇ…。」
うん。今日も可愛い。
あの告白してしまった日以来俺の中で何かが吹っ切れたのか小春に対してすごく甘くなっている気がする。
「はぁ……なんでそんな大事なことを相談もなく…。」
「こんなことで朝日たちを巻き込みたくないからに決まってるだろ。」
「そんくらい迷惑でもなんでもないってのに……。まぁそれも涼真のいいとこだもんな。わかった。じゃぁなんか俺にできることってないか?どうしてもお前の力になりたいんだ。」
「いや、でもこんな個人的なことになぁ。」
「涼真と唯奈ちゃんのことなら今までずっと見てきたんだから俺だってなんかできるはずだろ?もっと俺を頼ってくれよ。」
「私も私も!なにかあるー?私だって涼真くんの友達だもん!友達が知らないとこで悩んでるのはいやだな~。」
「私も、無関係ではないので力になりたいです。それとも、私たちを説得して関わらせないようにしますか?ちなみに、そう簡単にあきらめるつもりはありませんよ~?」
朝日に続いて朱莉ちゃんも小春ものっかってくる。
3人してそんな目で見られたらさすがに断れない……。
「あぁもうわかったよ。でも直接的に何かしてもらうことはほとんどないからな。これはさせないじゃなくて本当にないからだ。」
3人の優しさに思わず頬が緩みそうになったが何とか抑える。だが、俺のそんな様子に気づいたのか満足そうに朝日が頷いた。
「おう!涼真のためならそれでもいいぜ!」
「……ったく。どっちがお人好しなんだか。」
満足そうにうなずく朝日に照れ臭くなり俺は素っ気なくそう呟いた。
「おやおやぁ~涼真くん素直じゃないねぇ~?」
「ふふふ。照れてる涼真くんもかわいいからいいと思います。」
「…はるちゃん隠さなくなったね~。ま、私の朝日の方がかわいいけどね!」
「そんなことありませんけど?涼真くんが一番です。」
「「むむむむ…!」」
そんな俺たちのやりとりを見ていた小春と朱莉ちゃんが変なことで言い争い出した。
「なんで俺と涼真の可愛さで張り合ってるんだ……。」
「まったくな。ほら、二人ともそんなのどっちでもいいから帰るぞー。」
「え、あ、まってよー!」
「ま、まってくださいー!それと、どうでもよくありませんからー!」
お風呂も済ませていつものように最近の授業の復習を終えた俺はスマホに届いたメッセージを確認する。
<五十嵐小春:涼真くん今お時間大丈夫ですか?>
「珍しいな。」
改まったメッセージに珍しいなと思いつつ返事をする。
<あぁ。大丈夫だよ。何かあった?>
<五十嵐小春:よかったです。今ちょっとお電話できませんか?>
<いいよ。>
送ってすぐに画面に小春からの着信表示がでたので通話ボタンを押した。
「もしもし」
『涼真くんこんばんは。いきなりすみません。』
「いや、大丈夫だよ。あとは寝るくらいだったから。それよりも珍しいな、なにかあった?」
『それならよかったです。えっと今日のことなんですけどどうしても気になっちゃって…。』
「今日…あぁ、沢田の話?」
『はい。本当に神崎さんと話をするんですよね?それっていつごろになるんでしょうか。』
「ん~そうだな、予定的にテストと遊園地と決まってるものが多いから早めで考えてる。長引かせてるといつあっちから来るかわからないし、だから来週にはケリをつけるつもりだよ。」
『結構早いんですね……。その、なにかわたしにできることはないですか?』
「いや、小春は唯奈と接触させたくないからなぁ……、申し訳ないけど当日は朱莉ちゃんと待っててほしいかな。」
『うぅ、やっぱりだめですか……。ん?私と朱莉ちゃんだけですか?菊池君は?』
「あーーいや、実はさっき朝日から連絡があって、やっぱり俺も話し合いの場で一緒にいるって言われてさ。朝日なら今までの俺らのことをよく知ってるから結局来てもらうことにしたんだよ。」
『そうなんですね……。菊池君だけずるいです…。』
「ごめんな。でも、ありがとう。無茶はしないし唯奈と話すときのことはいろいろと考えてあるから。信じて待っててよ。」
『……わかりました。涼真くんのこと信じて待ってます。』
「あぁ。ちゃんと終わらせるよ。」
それからは期末テストのことや夏休みのことを話していると、時刻はすでに0時を回っていたようで球技大会の疲れからかあくびが出てしまう。
『わ、もうこんな時間でしたか。長くなっちゃってすみません。そろそろ寝ましょうか。』
「うん。小春と話せていろいろと整理できた、ありがとう。」
『えへへ。それならよかったです。ではおやすみなさい。』
「あぁ、おやすみ。」
小春との電話を終えスマホを充電すると俺はベッドに横になり目を瞑る。
そういえばあの日の俺は自分のことばかりで唯奈に言いたいことだけぶちまけてただ突き放しただけだった。
今思うとそれがよくなかったのかもしれない。
一方的に気持ちをぶつけてもスッキリするだけでそれを相手が受け入れるのかは別だ。
だから今回は唯奈が考えていることもちゃんと聞いた上でもう終わりだということを理解させるしかない。
あいつが俺に執着している理由をはっきりさせよう。
ちゃんと終わらせて前に進もう。俺として。
☆あとがき☆
大変遅くなりすみません。
残り何話になるかわかりませんが最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
誠に申し訳ないのですが最近少し目立ったコメントが多くなってきたため、完結するまではコメント欄の方を閉じさせていただきます。
ご了承ください。
まぁ図星なところもあって何も言い返せないからなんですけどね!
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