第33話 一歩目

そして迎えた日。

俺はいつもより早く学校へと向かい唯奈が来るのを待つことにした。 


しばらくして教室も騒がしくなってきた頃、沢田に連絡しておいた通りいつもより早めに一人で登校してきた唯奈がやってきた。

席に座ったのを確認し、取り巻き達が近づく前に俺は声をかける。



「おい唯奈、ちょっといいか?今日話があるんだが。放課後、皆が帰ったあとにこの教室でだ。」


「え?りょ、涼がなんで私に声を……」


「そこは今はいいだろ。話があるんだ、時間は空いてるか?もし難しいようなら別の日でもいいから空けてくれないか?」


「う、ううん。今日で大丈夫。」


「そうか。なら放課後な。」


「わかった…。」


「それだけだから。」


「あっ……。」


ふぅ、まずは第一関門突破か。

唯奈が何か最後に言いたそうだったのを聞かずに俺は自分の席に戻る。


そういえばまともに顔を見たのはいつぶりだったか。あんな顔してたっけな?

それになにやら困惑しているようだが俺がいきなり話しかければそうなってしまうのも仕方ないと思うことにしよう。


だが、やけに素直に話し合いに応じたのは違和感がすごいな……。

いったい何を考えている…?


いや、まぁいい。今は放課後のことだけを考えよう。

チラチラとこちらをみて騒いでいる唯奈たちを無視して、放課後まではいつも通り過ごすことにした。



♦♢♦



4限が終わり小春と朱莉ちゃんを迎えに行くと今日は気分転換に屋上に行こうと提案されたので階段を上っていく。

屋上の扉を開けると同時に気持ちの良い風が頬を撫でた。


「お~!お昼なのに案外すいてるんだね!」


「ほんとですね。少し暑いかと思ってましたけど今日は風も気持ちいいですし、あ!あの日陰のとこで食べませんか?」


「おっいいねぇ~!ちゃんとシート持ってきたから早速広げちゃうね~!」


「さんきゅー。」


「ありがとう、朱莉ちゃん。」


朱莉ちゃんの用意してくれたシートに座りお昼を食べる。

ある程度食べ進めたところで朝日からアイコンタクトを送られたので二人に今日のことを話すことにした。


「小春、朱莉ちゃん。朝日にはもう言ってあるんだけど今日放課後唯奈と話すのが決まったよ。」


「むっ。もぐもぐ、ごくんっ。ぷあー!昨日言ってたやつだね!なんかあっさりOKもらったんだね~。」


「確かに。なにかごねたり問題が起こるかもと心配でしたが…でもうまくいってよかったですね。」


急いで口のモノを飲み込み返事する朱莉ちゃんの口元を拭いながら小春が安心したような顔で頷いた。


「まぁうまくいったはいったんだけど、小春の言う通り俺もそこが気になってるんだ。あんなにも素直に応じるなんて違和感がすごくて……。まぁ俺から話しかけてなにか別の勘違いをされると面倒だったからよかったと言えばよかったんだけど」


ちょっと自惚れすぎかもしれないけどなと俺は苦笑しながら話すが、いや。と朝日が俺の言葉を遮った。


「いやぁ、それはあながち勘違いでもないんじゃないか?」


「ん?どういうことだ?」


「今朝登校してきたときに教室に入ってすぐ柊木に教えてもらったんだけど、唯奈ちゃんが周りの子に『涼から呼びだされたってことはこれって告白よね!?』って言ってたらしいぞ。」


「はぁ?」


「しかもまだ続きがあってな。周りの子も『健司くんと付き合ってすぐよりを戻したら不自然だから夏休み前のこの時期なんだよ!』とか『あのイメチェンも唯奈に振り向いてもらうためのものだったんだよ!』って囃し立てているようだぜ。ほんっとに…。唯奈ちゃんが100悪いのはわかるけど周りも周りだな……。」


「「「……。」」」


俺たち3人はなぜその思考になるのか本当に意味が分からず、しばらく開いた口がふさがらなかった。


「さすがにそれは……。」


「都合よすぎじゃない?」


小春、朱莉ちゃんが呆れ気味に呟いた言葉に俺も溜息で反応する。朝日もそんなの俺だってそう思っているといいながら続ける。


「俺もさすがに疑ったけど柊木だけじゃなく他のクラスメイトからも同じように聞いたからほんとだぜ。それと、今は涼真に教えないほうがいいと思うからあとで伝えてくれって頼まれたんだ。ほんと察しのいいクラスメイトたちだよ。」


「それを聞いてたらその場でキレ散らかすところだったわ…。柊木さんたちにあとでお礼言っとくか。」


「あぁ、そうしてあげてくれな。……でも話し合い前からやらかしてくれるのは、ほんとにさすがというかなんというか。涼真大丈夫か?」


「先にそのしょうもない誤解を解かなければいけないこと以外には問題ないよ。あいつと話すことはもう決まってるから。」


大丈夫だろ。と朝日に軽く答えると俺の右手をきゅっと握ってきた小春が心配そうに俺の顔を見上げてくる。


「涼真くん……。無茶だけはしないでくださいね?」


「あぁ、終わるまで朱莉ちゃんと待っててな。」


「はい…。」


抱きしめたくなる気持ちをなんとかぐっと堪えて小春の頭を撫でながら微笑みかけると、嬉しそうに笑ってくれる。


「すーぐそうやって二人の世界に入るんだから~…。朝日~はーいあーん。」


「あーーん。おっ朱莉また腕あげたなー!めっちゃうまい!!」


「えっへへ~!でしょでしょ!これも食べて食べて~!」


俺たちに対抗してか朝日と朱莉ちゃんが見せつけるように弁当を食べさせていたのにツッコミを入れる。


「こっちのせりふだ。」

「こっちのせりふです。」


同じようにツッコんだことがなぜかおしくて顔を見合わせると二人で笑う。

あぁ、やっぱりこの子の笑顔が好きだな。



だからこそお前とは終わりにしなきゃいけないんだ。

せいぜい勘違いしたまま放課後を迎えるんだな。

元幼馴染の神崎唯奈。

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