第15話 スマートに

あの放課後以来、俺たちは4人で一緒にいることが当たり前になっていた。

唯奈のグループが俺たちのクラスで集まることが多いため、必然的に俺たちは朱莉ちゃんたちのクラスで集まるようになっていた。


そして、移動のたびにこちらをちらちらとみてはくるが絡んでこない唯奈がやけに不気味だったが、もしかして五十嵐さんにあれだけ言われてさすがに懲りたのだろうか。

……いや、そんなはずはないか、唯奈がその程度で諦めるならこんなことにはなっていないだろう。


俺はいずれまた唯奈とケリをつけなければいけない気がする。そのときに俺の大切な人達を傷つけられないよう、それまでの間注意深く行動することにした。


そのまま、唯奈と話さずに毎日のように届くラブレターを読んでは、呼び出されたらそれにお断りをして、といったことを何度か繰り返していた。


すると、一年生の間で佐伯という男がイケメンになったことでモテモテになり、学年一の美少女である五十嵐さんと付き合っているという噂が広がった。


そんな噂を受けて、本格的に後に引けなくなったことを五十嵐さんに謝ったが、むしろ好都合だと言われてしまった。


もしかして五十嵐さんも告白を受けることが多いからこれでようやく落ち着けるからとかそういうことか、と聞くとどうやらその通りだったらしい。


少し焦っていた様子だったのが気になったが強引にそういうことだからと説き伏せられてしまった。



そんな日々を過ごして迎えた土曜日、いつもより長く眠っていたためお昼前に目が覚めた俺は、パジャマを着替えて顔を洗いリビングへと向かった。


リビングに入る前から甘い匂いが漂っているなと思ったら、オーブンの前でエプロンをつけている綾香がいたから何をしているのか聞いてみる。


「おはよう綾香。なんか甘い香りがするけどなんか作ってるのか?」


「あ、おはよ~!もうお昼だよお兄ちゃん~。今日はね~お友達とお勉強会するからクッキー焼いてるの!」


「そっか甘い匂いがしてたと思ったらクッキーの匂いか。じゃぁ友達来るんなら俺はどっか行ってようかな。」


なるほど、友達が来るんだったら出かけるかと、適当に小説でも買いに行こうかなと思っていると綾香に止められてしまう。


「え!?だ、だめ!お兄ちゃんは家にいて!!」


「いや、なんでだ?俺が家にいたら話し声とか聞かれるかもしれないし嫌だろ?」


「えーっと……、それが…その…」


そういうと綾香が申し訳なさそうに家にいてほしい理由を教えてくれる。


「あ、あのね。実は今日来る友達にお兄ちゃんのこと話してたら、そんなお兄ちゃんいるわけがないって言われたの。それでムキになってじゃぁ実際に会ってみたらわかるからって言っちゃって…。勝手に巻き込んじゃってごめんなさい…。」


一体俺のことをどういう風に説明をしたのかはわからなかったが、まぁ会うくらいなら別にいいかと俺は了承することにした。


「それくらいなら全然いいよ。なんの面白みのない兄ちゃんだけどな。」


「そんなことないよ!お兄ちゃんは…その、ほんとに、あぅ…。」


綾香が顔を赤くして俯いてしまったので頭を撫でてやると、も~と言いつつも嬉しそうにはにかんでいた。


「それで、何時ごろに友達は来るんだ?」


「お昼食べた後集まろうって言ってたから13時かな~。あと30分くらい!」


あと30分か、それなら間に合うな。


「じゃぁちょっと昼飯買いにコンビニでも行ってくるわ。綾香はなんかいるか?」


「ううん、大丈夫!気を付けてね~!」


「いってきまーす。」


いらないって言ってたけど、なんかお菓子でも買ってってやるか。

俺は財布を持ってコンビニへと向かうことにする。

だいたい往復10分くらいの距離だし昼飯くらいなら食えるだろう。


コンビニに着き、適当にお茶とサンドイッチをかごに放り込んで、綾香用に期間限定のスイーツをいれてレジへと並ぶ。

並んでいると目の前の女の子がレジの前でなにやら慌てだした。


「あ、あれ?ちょぉまじ?あ、店員さんちょ~っと待ってもらっていいです?え~鞄のここに財布入れたと思ったんだけど…。あれ~?」


しばらくあたふたとカバンの中を探す女の子に俺の後ろに並んでいたおじさんがイライラしたのか舌打ちして足をトントンし始めた。


「ったく。並ぶ前に財布ぐらい確認しとけよ」


(はぁ…。それくらい待ってやれよ。)


ついにおじさんが女の子に聞こえる声でそういったため俺は自分のかごをレジに置いて店員さんに伝える。


「その子の分とコレ一緒に払いますんで、レジお願いできますか?」


「え?ちょ、そんなの悪いですって!見ず知らずの人に払ってもらうなんて!」


「そのことは後でいいから。どうやら、レジを待てない人がいるみたいだからここは一旦俺が払わせてもらうよ。」


俺は女の子にそう伝えて、店員さんに精算してもらった。

俺がお金を払ったあとおじさんの方へと向き軽く頭を下げておく。すると、おじさんはあははと苦笑いしながら頭をぽりぽりとかいていた。


そして、コンビニを出てすぐに女の子に袋を渡して帰ることにした。


「え、ちょ待ってくださいよ!お金まだ払ってないです!」


「あぁ、別に対して高くなかったから気にしなくていいよ。あのおっさんにむかついただけだから。それじゃ。」


「えっちょ!!おにいさ~ん!!!」


そう言って俺は女の子からの静止の声を無視してその場から速足で去っていった。



♦♢♦



「はぁ~。ただいまぁ~。」


「おかえり~。遅かったね~お兄ちゃん。」


「あぁ、ちょっといろいろあって。はいこれ期間限定のスイーツ。ちょっと傾いちゃったけど。」


「わぁ~!これ食べたかったやつだ~!ありがとお兄ちゃんっ!」


「じゃぁ俺は部屋で飯食べとくわ。友達がきたらまた呼んでくれ。」


「はぁ~い。いろいろありがとっ。」


綾香にひらひらと手を振って自分の部屋へと戻った。

無事飯も買えたことだし、しばらく部屋でゆっくりしとくか。






???視点


「行っちゃった…。」


あたしがお財布を忘れて焦ってるとき、後ろのおじさんがイライラしてたのもわかってた。でも後にも引けなくなっていたら超かっこいいお兄さんが代わりにお金を払ってくれて、しかもおじさんに対してもめちゃくちゃスマートに対応していた。


あたしがこんな見た目だから、そういう目的でお金を払ったとか言われたらどうしようとか思ってたけど、すぐあたしの分渡して走り去っていくとか、ほんとに善意だけだったなんて性格まで超かっこいいじゃん、こんなの惚れない方がおかしいっての。



「さきちゃん~おはよ~」

「こんにちは、さきさん。ぼーっとあちらの方を見てどうしたのですか?」


「あ、おっつ~。いや、それが聞いてよ!」


待ち合わせていた二人が合流してきたから、さっき起きたことを話しながら綾ちゃんの家に向かった。

二人とも驚いていたが、みっちゃんからはそもそも財布を忘れるなとお叱りを受けてしまった。


(あぁ、名前だけでも聞いておけばよかった。…またこのコンビニにきたら会えるかな。)


あたしはこのあと、まさかすぐ再会することになるとは思っていなかった。




☆あとがき☆

はい!新しい子です!

やっぱ後輩キャラは欲しいな~と思ってたんですよね~。

そして一部の方から人気の綾香ちゃんかわいい回です。こんな妹居たら撫でたくなる気持ちもわかる。


作者としては一直線に一人の子だけで進んでいく恋愛も好きですが、いろんな子と出会って本当に好きな子一人を見つける恋愛も好きです。

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