第13話 小春と唯奈
「ちょっと!無視しないでよ!」
(昨日あんだけ言ったのに、理解してないのかこいつは…)
あまりにも学ばない唯奈にほとほと呆れていると、そんなことはお構い無しといった様子で、まだしつこく話しかけてくる。
「ねぇったら!涼!!!」
「…チッ。なんだよ。」
さすがに五十嵐さんの前で無視を決め込むわけにはいかなかったため、苛立ちつつも返事をした。
「な、何よ!そんな嫌そうにしなくてもいいじゃない!」
嫌だからいやそうな顔になってんだろうが…。
そんな俺たちのやり取りを見ていた五十嵐さんが俺に唯奈のことを聞いてきた。
「あ、あの佐伯さん。もしかしてこの方が?」
「あぁ、それであってるよ。」
言わんとしていることがわかったので、俺は五十嵐さんの言葉に頷く。
「は?なによ、なんで五十嵐さんとそんな仲良さそうに喋ってるのよ……。」
「はぁ…。別に俺が誰と仲良くしゃべってようがお前には関係ねーだろ。いいから、とっととどっかいけよ。」
「な!何よその態度!!……ま、まさか涼が付き合ってる相手って…」
俺たちの関係を察した唯奈に答えようとしたそのとき、あとから先程のグループに合流してきていた健司や、その取り巻き達が俺たちの会話に割って入ってきた。
「おいおい、何言ってんだよ唯奈。陰キャ野郎が学年1の美少女の五十嵐さんと付き合えるわけねぇだろ?」
「そうだぜ、五十嵐さんに告白したやつは既に20人以上振られてるんだし、こいつが付き合えるわけねぇって!妄想も大概にしとけってな!ぎゃははは!!」
「まぁ、今は良くても元があれだしねぇ。天狗になっちゃうのもわかるけどそれはさすがに無理でしょ!」
割り込んできた周りのヤツらが俺のことを馬鹿にして唯奈の発言を否定する。
「っおまえら……」
さすがに我慢できなかったのか、朝日が今にも殴りかかりそうな勢いで反応したため、朱莉ちゃんにアイコンタクトを送り止めてもらう。
すると唯奈がニタァと笑って俺を見てきた。
「なんだぁ、そっかそっかそうだよね。涼真なんかが五十嵐さんと付き合えるわけないもんね!やっぱり、昨日は私に見栄を張ってただけだったんだぁ!なになに~?私に嫉妬でもしてほしかったのかなぁ?でも、見栄を張るにしても五十嵐さんはさすがに無理があったんじゃない?あはは!まぁでも面白い冗談に免じて、今なら謝れば許してあげてもいいけど??」
「っ……!」
俺は言い返そうと思ったが、五十嵐さんとの関係はあくまでも恋人(仮)で、唯奈の言う見栄を張ったというのもあながち間違いではなかった。そのためうまく言葉が出ず俯いてしまう。
俺のそんな様子を見た唯奈は、声をかけてきたときよりも余裕の表情で五十嵐さんに近づいて話し始めた。
「ねぇ五十嵐さん。涼のくだらない嘘に付き合わされちゃってかわいそうだったね~?そもそも涼なんて勉強も運動もできないし、見た目だって前と比べたら今は良くなってるっていっても、元々あんなダサい格好してたんだよ?これからどんどんと元に戻って行っちゃうと思うなぁ~。ね、悪いことは言わないからもう涼と関わらない方がいいよ?なんならこれからは私たちと一緒に遊ばない?丁度、今から皆でカラオケ行こうと思ってたから五十嵐さんも一緒に行こうよ!ほら!」
唯奈が俺を散々貶した後五十嵐さんの手を握って連れて行こうとする。
「いいじゃん!俺たちの方が絶対釣り合ってるって!」
健司達も唯奈の言葉に同意しながら、五十嵐さんを迎え入れようとしていた。
その時、パァン!という音がした。俺は驚き顔を上げると、そこには手を振り切った状態で止まっている五十嵐さんと頬がじわじわと赤くなっていく唯奈がいた。
「へ…?」
何が起きたのかわからず頬を抑える唯奈に向かって、五十嵐さんが睨みつけながら叫んだ。
「いい加減にしてください!!涼真くんのことを一番知っているあなたが、どうして、どうしてそんな酷いことを言えるんですか!!!」
唯奈の発言に対して怒りの収まらない様子の五十嵐さんをだれも止めることはできず、ただ見ることしかできないでいた。
「涼真くんは今までずっと、ずっと、あなたの我儘に耐えて耐えて、耐えてきていたんです!それなのにそんな涼真くんのことを貴女は裏切ったんでしょう!?あなたから手放した癖になんでまだ涼真くんを縛りつけようとするんですか!!」
「そ、そんなのあんたに関係ないじゃない!」
「関係あります!私と涼真くんは恋人同士なんです!!周りがなんと言おうと、私は不釣り合いだなんて思うことはありません!!だって、涼真くんはとっても素敵な人なんです!!!」
五十嵐さんの発言に俺たちのことを見ていた周囲の人たちがざわつきだした。
それもそのはずだ、五十嵐さんほどの美少女が同年代の女子に向かって恋人がいる宣言をして、その恋人のことを褒めちぎっているのだから。
だがここまで目立ってしまっては、五十嵐さんにとってもよくはないだろう。
「だって涼真くんはわたしの…」
「五十嵐さん、もう大丈夫だから。」
さすがに注目を集めすぎたため俺は二人の間に入り、できるだけ優しい声で五十嵐さんを落ち着かせようとする。
「あ……。すみません…。」
俺が間に入ったことで少し冷静になった五十嵐さんはふぅと一息つくと、唯奈と健司たちに向きなおった。
「私は、私の大切な人を侮辱した貴方達とは金輪際遊ぶことはあり得ません。いくら後で謝ってこようとも、それは揺るぎませんから。……それと神崎さん、頬を叩いてしまってすみませんでした。もし痛むようでしたらこちらのお金で湿布を買ってください。」
五十嵐さんは最後にそういうと唯奈に1000円札を渡し、俺の手を引いてその場から離ていく。
俺は手を引いて歩く五十嵐さんを見て、昔に同じようなことがあったような、そんな懐かしさを感じていた。
(五十嵐さんと、どこかで……)
☆あとがき☆
小春ちゃんはなぜこんなにも涼真のことを想い、こんなにも怒ってくれるのか。
最後に涼真の感じたものとは…。
そして、小春ちゃんに渇を入れられた唯奈は反省できるのか、それとも後悔するのか。はたまた…
★お礼★
皆様のおかげでラブコメ部門週間ランキング1位になっていました!本当に嬉しいです!
また本作品のフォロワー様が4000人を突破しました!
これからもどうぞ涼真たちのことをお願いします!
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