第12話 放課後、ふわふわ
午後の授業も終わり帰り支度を始めている朝日に声をかける。
「なぁ、朝日。今日も朱莉ちゃんたちと帰るのか?」
「おう、もちろん涼真も一緒に帰るよな?」
「あぁ、むしろこっちからお願いしようと思ってたところだ。」
元々そのつもりだったらしい朝日に頷き鞄を持ち上げる。
「そうか、じゃあ行こうぜ。みんなもまた明日な~」
「また明日。」
俺たちはクラスメイトに手を振り教室を後にして、朱莉ちゃんたちと待ち合わせている校門まで他愛もない話をしながら移動する。
すると校門の前にはこちらに向けて元気よく手を振る朱莉ちゃんと控えめに手を振りながら微笑む五十嵐さんがいた。
周りの生徒たちはそんな五十嵐さんの姿に見惚れてしまっているようだった。
「よかった。今日は佐伯さんも一緒なんですね。」
「あぁ、今日はなんとかね。」
合流してすぐに俺に話しかけてくれる五十嵐さんと昨日の帰りを思い出して二人で笑っていると、周りの男子生徒からの視線が一気に俺の方に集まった。
上級生の男子生徒たちがこちらを睨んでいるのがわかったが、今までのことで変な視線には慣れていたため特に気にせず話を続ける。
「なぁなぁ初めて4人で帰れるんだしさ、どっか寄らないか?ゲーセンとか、カラオケとかファミレスとかさ。」
朝日からの提案によりどこかに寄ることになったが、友達と寄り道したことがない俺は一言断りを入れておく。
「悪い、俺その辺なんもわからんから任せるわ。」
俺の発言にそれもそうかといって、朝日が放課後の予定を決めてくれた。
「んじゃあゲーセン行って適当に遊んだあとになんか甘いもんでも食うとするか。」
「「お〜!」」
「ういよ〜」
俺は友達との初めての寄り道に少しワクワクしていた。
♦♢♦
朝日たちカップル行きつけの駅近くにある大型のゲーセンに着いた俺たちは、お金を両替してクレーンゲームのコーナーへと足を運ぶ。
「俺こういうのやったことないからわかんないんだけど、コツとかあるのか?」
「あぁ、だいたい一発じゃとれないようになってるから、徐々に穴の近くまでずらしていくんだよ。最初の100円で適当につかんでみてアームの強さとか開き方みとくといいぞ。」
「なるほど。」
朝日に教えてもらったので何かやろうかと思ったが特にほしいものがなかった。
どうするかと考えていると、猫のぬいぐるみをジッと見つめている五十嵐さんがいたので声をかけることにする。
「そのぬいぐるみほしいの?」
「ひゃっ!あ、さ、佐伯さん……。えっと、はい…。この子かわいいなぁって見てたんです。えへへ。」
(ふむ。さっき朝日が言ってたように普通にやれば一発じゃとれなさそうだけど…ん?あそこにいれたら持ち上がりそうだな…。)
俺はなんとなくとれそうな気がしたので筐体に100円を入れてそのままアームを動かしてみる。
「さ、佐伯さん、なぜお金を?」
「あぁ、何やろうか丁度探してたんだけどせっかくなら五十嵐さんの欲しい奴をと思ってさ。よしっと、案外簡単だったな。」
俺はそういってぬいぐるみを取り出して五十嵐さんへと渡す。
「はい。これ、もらってくれる?」
「あ…、ふわふわ、もふもふ。えへへ~かわいい~。」
ぬいぐるみを抱きしめながら幸せそうに笑う五十嵐さんに俺はつい見惚れてしまう。
「……ハッ!!あ、あのありがとうございます!!そ、そうだお金を…」
「あ、あぁ。いいよいいよ、100円でとれたし。さ、朝日たちに合流して他にも遊ぼう。」
「ま、待ってください佐伯さ~ん!お、お金を受け取ってくださいよ~!」
恥ずかしくなった俺はそそくさと朝日たちの方へと歩き始める。俺に追いついて意地でもお金を渡そうとしてくる五十嵐さんに、あとで一緒に遊べるやつで俺の分を払うことで何とか納得してもらった。
「おい、涼真~聞いてくれよ~あの台のパワーマジで終わっててとれなかった~…って、おろ?小春ちゃんのそのぬいぐるみは?」
クレーンゲームにお金をのまれた朝日が小春ちゃんの持っているぬいぐるみに気づいた。
「えへへ、佐伯さんがとってくれました。」
「え~!いいな~!ね、ね佐伯くん!お金は払うからあれとってくれない?」
「あっ!ずりぃぞ朱莉!なぁ涼真~俺にもとってくれよ~あれに5千円のまれたんだよ~!」
俺は変にツッコまれなかったことに安堵し、二人のほしい景品に挑戦することにした。
「しゃーねーなぁ。とれるかわかんねーけど、とりあえずやってみるか。」
そのあと、朱莉ちゃんに頭に包丁が刺さって白目を剥いている猫のぬいぐるみをとってあげた。
朱莉ちゃんは可愛いと言いながらはしゃいでいたがよくわからなかった。
朝日にも5千円のまれたらしいフィギュアをとってやろうと思ったが、どうやら何をしてもとれないほどハマっていたらしい。だが、店員さんの補助によって追加100円でとれてしまった。ほんとなら1000円ほどでとれていたらしい。ドンマイ。
ゲーセンを満喫した俺たちは、近くの出店でクレープを買って食べることにした。もちろん女子二人の分は俺たちが払った。
やはり五十嵐さんはお金を払うと言い出したが、朱莉ちゃんの説得のおかげで渋々と奢られてくれた。
「こういうのは男子にかっこつけさせてあげるのがいい女なのよ~!えへへ、ありがとうね朝日!」
「そういうものなんでしょうか…。うぅ。あ、ありがとうございます…。つ、次は自分で払いますからね!!」
「どういたしまして、じゃぁ次を楽しみにしてるよ。」
五十嵐さんの頑固さがなぜか微笑ましく思い、次の約束を口にしてしまう。
あぁ、こうやって誰かと出かけられるなんてな……。これからこの4人でどんな風に遊べるのか想像しながら俺はクレープに齧りつく。
だがゆったりとしたこの平和な時間がいつまでも続くわけがなく、やはり面倒なことが起こってしまうのだった。
「あ、りょ、涼!」
俺を呼ぶ耳障りな声がすると思ったらそこには唯奈と、今朝俺を睨んできていたグループの奴らがいた。
☆あとがき☆
少しの癒しと、いつものやつです。
すごい今更ですけど、涼真の髪型はナチュラルな感じにセットされてます。美容院後のセンター分けゆるふわパーマはその日だけでした。
あと、各キャラの外見的特徴をまたまとめておきますね。
その時に小春ちゃんの髪色についても決めておきます。
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