2章 新たな出会い・崩壊

第11話 ラブレター

昨日は俺にとって何もかもが変わった一日だった。


俺を見る人たちの視線、これからの学校生活のこと。そして唯奈との関係を終わらせ、五十嵐さんと恋人(仮)になったこと。


俺はこれからは自分を抑えずに本当の佐伯涼真として生きていくんだと、鏡を見ながらそう決意した。


リビングに入ると昨日と同じように母さんから声を掛けられる。


「おはよう涼真、ふふ、なんだか昨日よりキリっとした顔してるじゃない。」


「おはよう母さん。あ~、昨日はいろいろあったから改めて気を引き締めたからかも。」


「そうだったのね、じゃぁ今日も頑張るのよ。はい、これお弁当。」


「ありがとう。」


母さんから弁当を受け取り、寝ぼけたままトーストに齧りついている綾香の頭を撫でた後、家を出て学校へと向かうことにした。



今日もまた、昨日と同じような視線を浴びつつ学校までやってきた俺は、特に気にもせずいつも通り下駄箱を開けてしまう。するとバサッと手紙がいくつも落ちてきた。


「は?嫌がらせ…?なわけないよな…?」


一瞬何が起きたのかわからなかったが、落ちた手紙にハートのシールがついているものがいくつもあったため、そこでこの手紙の束がラブレターだと気づいた。


「おぉ〜たった1日でこれとは、さすがですなぁ涼真さんはぁ〜。」


たった今登校してきた朝日がニヤニヤとした顔で後ろから声をかけてきた。その横には同じようにニヤニヤとした顔の朱莉ちゃんもたっており朝日同様からかってくる。


「さすがは佐伯くんだねぇ〜まぁ、こんなにイケメンになっちゃったんだから当然だよねぇ〜。」


「2人してからかってくんなっての。…はぁ父さんが言ったとおりになっちまったなぁ。」


俺はそう呟いてラブレターの束をどうしようかと悩んでいると、朱莉ちゃんが急に手に持っていたラブレターを奪い俺の鞄の中へと突っ込んでしまう。


「ちょっと朱莉ちゃん?」


朱莉ちゃんの謎めいた行動に驚いていると、なにやら満足そうな顔で俺を見上げてくる。


「よしっ!あのね、佐伯くん。このお手紙はちゃんと全部読むんだよ~?これは君が変わったことで君の見た目を良いと思ってくれてる子がこんなにいるってことなんだからねっ!ふふふ~そうだ!このことを小春ちゃんにも教えてあげよっと〜!」


トタトタと走って行ってしまった朱莉ちゃんをぽかーんと眺めていると、朝日から同情と諦めの混じったような顔で言われる。


「朱莉のおせっかいに涼真も巻き込まれちまったな。まぁでも朱莉の言う通りちゃんと全部読めよ?俺も同じように朱莉に言われてからは、読んだうえで断るようにしてるからさ。」


「あぁ、わかった。せっかく勇気を出して書いてくれたんだもんな。後で読むことにするわ。」


そう言って鞄をポンポンと叩いた俺は、朝日と一緒に教室へと向かった。


「おはよーっす」

いつものように挨拶をしながら入っていく朝日に続いて俺も教室へと入っていき挨拶をする。


「はよーっす」


「あ、菊池くんに佐伯くんおはよ〜!」

「おーおはよー。やっぱ佐伯のその見た目慣れねぇな〜」

「佐伯くんおはよ!!ねぇねぇ、これからは普通に話しかけてもいいかな??あ、菊池くんもおはよ〜」


すると朝日と仲の良いクラスメイトたちから、一斉に挨拶を返されたので俺も一人一人に挨拶を返す。


「木島さんおはよう。」

「野田もおはよ。おいおい、昨日一日あったんだから慣れてくれよ。」

「あぁ、柊木さん。気軽に話しかけてきてくれ。これからは仲良くしてくれな。」


3人へと挨拶を返すと驚いた顔でこちらを見てきた。


「涼真、お前3人の名前知ってたのか?」


「ん?あぁ。自己紹介の時に全員覚えてたよ。」


俺は当然だろといった顔で朝日に言った。


「なぁなぁ、俺のことはわかるか!?」

「私は私は~?」


すると俺たちの会話を聞いていた他のクラスメイト達が集まってきて、そのままクラスメイトの名前当て大会のようになってしまった。


そんなクラスメイト達だったが、一方で唯奈のグループにいる奴らからはずっと睨まれていた。俺が来るまでの間に唯奈が何を言ったのかは知らないが、奴らは未だ目元が少し腫れている唯奈をみて俺が何かしたのではないかと思っているようだ。


だが、俺は特に気にせずに話しかけてくれたクラスメイト達と談笑を続けた。




♦♢♦


「涼真~今日も朱莉たちと昼飯食おうぜ~」


「あいよ〜」

朝日に誘われたので、今日もまた中庭へと移動する。

同じタイミングで朱莉ちゃんたちと合流したので、すぐにご飯を食べ始めることにした。


そしてある程度食べたところで、俺は昨日の放課後のことについて、3人に聞いてもらうことにする。


「昨日、放課後に唯奈と話をつけてきた。今日話しかけてこなかったから少しは堪えたみたいだ。ただ、彼女ができたってあいつに言っちまったから、五十嵐さんにはもう少しだけ迷惑をかけることになるかもしれない。それについては本当にごめん。」


俺は昨日唯奈との関係を終わらせたことを伝え、それと同時に彼女(仮)がまだ続いてしまうことを頭を下げながら伝えた。


すると五十嵐さんは手をぶんぶんと振って、顔を上げてくださいと俺に言ってくる。


「そんな、迷惑だなんて思ってませんから!そもそも私が立候補したんですし、佐伯さんの状況が落ち着くまでご協力しますよ!」


「そうか、ありがとう。そういってくれると助かるよ。」


俺がホッと安心しているとバカップルが俺たちのやり取りをにやにやと見てきた。

ほんとにそっくりだなコイツら。


なんだかんだ時間もたっていたので、そろそろ教室に戻るかと立ち上がった瞬間、ふいに手を掴まれて体勢を崩しそうになる。


「おっと、あぶね。ん?五十嵐さん??」


いきなり手を掴まれてしまい困惑していると、五十嵐さんが上目遣いでら今朝のことについて聞いてきた。


「あ、あの。今朝朱莉ちゃんから聞いたんですけど、ラブレターをもらったってほんとうですか……?」


「あ~、うん。今空き時間に読んでるところだけどそれがどうかした?」


「その、もしですよ!その手紙の相手から告白されたら、どうするのかなと……」


「いや?五十嵐さんがいるから断るよ。唯奈とのこともあったからしばらくは誰かと付き合うのは嫌なんだよね。」


俺はもちろん誰とも付き合う気はなかったため断ることを伝えた。


「では、私はいいんでしょうか……?」


「あぁ、そういうことか。でもほら、五十嵐さんは彼女(仮)だしそういうのとは違うかな。まぁ、でも」

「そ、そうですよね……。うぅ…。へ、変なことを聞いてすみませんでした!さ、朱莉ちゃん教室へ戻ろう!」


「えぇっ!?小春ちゃ~ん!待ってよ~!」


「あ、ちょっとま……」


俺が続きを話そうとした瞬間2人は走り去っていってしまった。


「涼真よ。おぬしも罪な男じゃな。」


唐突に仙人のような言い方でからかってくる朝日にイラっとした俺は、朝日のケツを蹴り飛ばして先に教室へと戻ることにした。


「あああああああ!!!俺のケツぅぅう!!」




(ったく。この格好になってから散々からかってきやがって。あーそれにしても、あの上目遣いはやばかった。さすがは学年1の美少女だな。)

俺は今の役得な状況に対して、少しだけ浮ついてしまっているようだった。







☆あとがき☆

小春ちゃんがなぜここまで涼真に対して親身になってくれるのか…、いずれわかります。



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