唯奈視点 2

私は涼と別れて健司くんと付き合った。

このことはまだ両親にも話していない。だからか、今朝は涼が迎えに来なかったことでお母さんは心配しているようだった。

私は先に涼に行くよう伝えたから今日は来ないと誤魔化して家を出た。


そして、健司君と学校へと行き、浮かれた気持ちで教室へと入ると、皆何故か私と涼が別れたことを知っていた。なんでかと思ったら、涼が自分から別れたと言っていたらしい。


珍しいこともあるんだなと特に気にせず、仲のいい子たちに健司君と付き合ったことを自慢した。それなのに、皆すごく祝福してくれるわけではなかった。なんでだろう?

まぁいいかと、今朝のことを思いだし、なぜいつも通り朝起こさなかったのか問い詰めようと涼を探したのに、どこにも見当たらなかった。


教室を見渡して、菊池くんと涼の席に座っている男の子に涼の場所を聞きつつちらっと顔を見てみると、その男の子はかなり整った顔をしていた。正直健司くんよりも数段かっこよかった。


すると、なぜか困った様子の菊池くんが「本気で言ってるのか?」って聞いてきたけどどういう意味か分からなかった。

私がなんのことだろうと考えていると涼の席に座る男の子が口を開き、まるで涼のような声色で私に言ってきた。


「もしかして、俺の顔を忘れたのか?まったく酷いやつだな。お前が探してたやつはずっとここにいるだろ。」


意味が分からなかった。いや、理解ができなかった。この人が涼なわけがない。

私が何も話せないでいると、涼だという男の子が事実だとでもいうように私に言い放つ。


「だから、佐伯涼真だよ。お前の幼馴染で金曜日に電話で振られた佐伯涼真。俺を探してたみたいだけどなんか用か?俺はお前になんにも用はないんだけど。」


「は?あなたがりょ、涼なの…?」


振り絞ってでた言葉がそれだった。


「それ以外誰に見えるんだよ?」


おかしい。涼はこんなにかっこよくない。それに私に対してこんなに強い言葉で言ってこない。そこからの私は変わってしまった涼に対して酷い言葉をつぶやいてしまっていた。


「嘘よ…だって涼は不潔でだらしなくて、口調だってそんな強気じゃないし、ダサい奴で…。」


そこからは、私には関係ないと言われて焦ってしまい、どうにか涼を繋ぎとめようと幼馴染だからと言って今の格好をやめさせようとした。私が言ったのだから素直に従うと思ったのに、涼は口答えしてきた。


おかしい。こんなの涼じゃない。


そなあとはチャイムが鳴ってしまったため、HRの時間が終わるまでモヤモヤとした時間を過ごし、昼休みに屋上に来いと伝えて、お昼の間屋上で待つことにした。


でも来ない。涼が来ない。おかしい。今まで私の言うことを絶対に聞いてきた涼が来ないなんてありえない。


しばらく待っても来ない涼に苛立ちつつ、お昼の時間が終わってしまいそうだったので、教室に戻ってお弁当を急いで食べた。


そして菊池くんと戻ってきた涼になぜ来なかったのかと問い詰める。


「ちょっと!なんで屋上に来なかったのよ!ご飯食べそこなうところだったでしょ!」


「別に行くなんて一言も言ってないだろ。お前が勝手に来いって言って返事も待たずに席に戻ったんだろ。」


「さっきからああ言えばこう言う…!もういいわ、じゃあ放課後は絶対に話をするから!わかったわね!?」


放課後は絶対に話をしたかった私は涼からようやく了承をえたため、そこからは休み時間のたびに釘を刺しておいた。


そして、HRが終わりすぐに涼の元へと行き、教室だと変な噂が流れてしまうのも面倒だったから屋上まで連れて行った。


屋上に着くや否や私はもう限界だった。


「今朝もいったけど明日からはいつもの格好で来なさいよ!!涼はダサい格好をしなければいけないって私の中で決まってるの!いい!?これはお願いじゃなくてだから!!!」


そこで、涼から今の格好をやめるという言葉さえ聞ければ私は良かったのに、なにやら涼の様子がおかしくなっていく。


「ぷっ、ははははは!!!!」


「な、なによ!なに急に笑ってるのよ!」


「いやぁ〜思った通りのことしか言わねぇから、おもしろくってなぁ…。あ〜、お前の頭ほんとどうなってんだよ。はははは!!」


「はぁ!?ば、馬鹿にしないでよ、涼のくせに!!」


なぜこんなに馬鹿にされるのか意味が分からなかった。でも次の涼の言葉を聞いた時私は頭が真っ白になる。


「誰がお前の命令なんか聞くかよ。この浮気女が。」


意味が分からなかった。浮気?私が?そんなものはした覚えはない。


「浮気してただろ、自分の行動を振り返ってよーく考えてみろよ。」


よく振り返って…、涼と別れて健司君と付き合っただけじゃないのよ。すると、涼は金曜日に私たちを尾行していたと言ってきた。


「は、はぁ!?それってついてきてたってこと!?尾行するなんて最低じゃない!!!ストーカーとおんなじよ!」


私は涼がそんなことをしていたとは思わなかった。最低な幼馴染を持ってしまったのかもしれない。


「うるせぇな。俺のはお前と帰る方向が一緒だからたまたま見かけたって言えばどうとでもなるんだよ。」


なんて屁理屈だ。私は更に苛立ちを隠せなくなる。すると続けて涼は言ってくる。


「屁理屈じゃねぇよ言い方の問題だ。てか人のこと最低とか言ってるけど、自分のこと棚に上げてんじゃねぇぞ?そのときのお前はあいつと手を繋いで帰って、そっから告白された後何してた?」


そういわれた私は、自分の行動を思い出しようやく涼の言っていることを理解し始めた。


「そんなの告白されて付き合うことになって、それで……あ。」


「ようやく思い出したか。そうだ、お前は俺と付き合っていたのに、他の男とキスをしてたんだよなぁ?最低なのはどっちだ?」


「それは……」


「それは?なんだよ?彼氏がいるやつが他の男とキスして浮気じゃないって言えるのか?」


何も言い返せない。なぜ私はその順番の意味することを理解していなかったのだろうか。私が黙りこんで俯いていると涼が今までのことを話しだしていた。


「なぁ。俺は今までお前の言うことはなんでも聞いてきた。それはお前と付き合っているから、それに自分のことを好きでいてくれる人からのお願いだったからだ。だからあんな格好をさせられてもずっと耐えてきたんだ。どれだけ馬鹿にされようと…、どれだけ殴られようと耐えてきた…!お前はそんな俺のことを見て見ぬふりしていたよな!!それでも、それでもお前が俺の側を離れなかったから大丈夫だってそう自分に言い聞かせて、いつかどんな姿の俺でもいいからって、お前からそう言われるまでは耐えようって、そう思っていたのに……!!!」


そんな…私は涼にそんな風に思わせて……


「わ、私はそんなつもりで涼にしてたわけじゃ……」


「うるせぇ!!!!それを、お前は裏切ったんだよ!!!お前がそうさせたのに、そうしろと言ったのに!!長く一緒にいた幼馴染よりも、別のやつを選んだのは誰だ!?お前だよな!!!?そんなやつの言うことを誰が聞くって言うんだよ!!」


私は泣きそうになりながらその場に座り込んでしまう。


「はぁはぁ、いいか。俺はもうお前の言うことは聞かないし、今後お前と関わる気はまったくない。」


「そ、そんなの嫌よ!だって私たちは幼馴染で…」


嫌だ!涼がいなくなるのは絶対に嫌だ!

私は自分の罪を償うということよりも目の前にある幼馴染を手放したくないという欲を優先してしまう。


「その幼馴染を裏切ったのはお前だろ!!どうしてそこまで自分勝手でいられるんだよ!!今のお前と幼馴染でいられるほど俺はお人好しじゃねぇんだよ!」


そんな…これで今までの幼馴染の関係が終わってしまうの?

私は絶望していた。すると涼から追い打ちをかけるように言われる。


「……まぁ、でもお互いに新しい人が見つかったんだし、これで良かったじゃないか。」


「え、お互いにってどういう……」


「お前には沢田が、そして俺には新しい彼女ができたんだよ。お前と違って優しくて変な恰好を強要してくるような子じゃない、最高の彼女がな。」


「う、嘘よ……そんなの……」


信じられなかった。もう涼は別の人のものになってしまったの?


「こんな状況で嘘なんかつくわけないだろ。まぁ、お前も沢田と仲良くな?俺は俺で幸せになるからよ。じゃあな。」


まって、まって涼。いかないで。


私は声がうまく出なかった。

ずっと涙が止まらなかったから声が出なかったんだ。


そのあと去っていく涼の背中を見ながら私はずっと泣き続けた。




☆あとがき☆

思ったよりも長くなったので話数を分けて2,3で投稿します。

基本的に唯奈視点は振り返り+その時の唯奈の心情を書いています。

中には、唯奈の気持ちなどどうでもいいわ。イラつくからこんなの書くなと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、別視点で違う感じかたをしてほしいと思ってますので、読みたくないなら読まないでいいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る