第10話 終わる関係と始まる関係

「誰がお前の命令なんか聞くかよ。この浮気女が。」


「は……?う、浮気…?」


唯奈は信じられないような顔をしてそう呟く。


「そうだよ。浮気してただろ、自分の行動を振り返ってよーく考えてみろよ。」


「そ、そんな涼と別れて健司くんと付き合ったことで浮気だなんて…」

「その沢田と付き合うときのことだよ。つい2~3日前のことなのに覚えてないのか?」


そこまで言ったのに唯奈は何もわかっていない様子だった。


「はぁ…。覚えてないようだから教えてやるがな、お前は先週の金曜の帰り、俺に今日は帰れないって連絡してきたよな。俺はそれが怪しいと思ってすぐに教室を出たんだよ。そしたらお前ら二人が一緒に帰ってるところを見かけたんだ。もちろんその後のことも全部な。」


「は、はぁ!?それってついてきてたってこと!?尾行するなんて最低じゃない!!!ストーカーとおんなじよ!」


「うるせぇな。俺のはお前と帰る方向が一緒だからたまたま見かけたって言えばどうとでもなるんだよ。」


「そんなの屁理屈じゃない!!」


自分が何をしていたかよりも俺が何かしたことしか言えないのかこいつは。


「屁理屈じゃねぇよ言い方の問題だ。てか人のこと最低とか言ってるけど、自分のこと棚に上げてんじゃねぇぞ?そのときのお前はあいつと手を繋いで帰って、そっから告白された後何してた?」


そして俺は、唯奈が自分でなにをしていたかを気づかせるように問いかけた。


「そんなの告白されて付き合うことになって、それで……あ。」


唯奈はようやく気づいたようで、バツの悪そうな顔をして俺から目を逸らす。


「ようやく思い出したか。そうだ、お前は俺と付き合っていたのに、他の男とキスをしてたんだよなぁ?最低なのはどっちだ?」


「それは……」


「それは?なんだよ?彼氏がいるやつが他の男とキスして浮気じゃないって言えるのか?」


俺がそういうと、唯奈は黙りこんで俯いてしまった。

その様子を見て俺は今までの不満をすべてぶつけるように、唯奈に向けて吐き出していく。


「なぁ。俺は今までお前の言うことはなんでも聞いてきた。それはお前と付き合っているから、それに自分のことを好きでいてくれる人からのお願いだったからだ。だからあんな格好をさせられてもずっと耐えてきたんだ。どれだけ馬鹿にされようと…、どれだけ殴られようと耐えてきた…!お前はそんな俺のことを見て見ぬふりしていたよな!!それでも、それでもお前が俺の側を離れなかったから大丈夫だってそう自分に言い聞かせて、いつかどんな姿の俺でもいいからって、お前からそう言われるまでは耐えようって、そう思っていたのに……!!!」


「わ、私はそんなつもりで涼にしてたわけじゃ……」


話していくたびにどんどんと語気が強くなっていくが、俺は止められなかった。


「うるせぇ!!!!それを、お前は裏切ったんだよ!!!お前がそうさせたのに、そうしろと言ったのに!!長く一緒にいた幼馴染よりも、別のやつを選んだのは誰だ!?お前だよな!!!?そんなやつの言うことを誰が聞くって言うんだよ!!」


俺の言葉を聞いた唯奈は顔を青ざめて、泣きそうになりながらその場に座り込んでしまう。

だが、俺はこの関係を終わらせるためハッキリと唯奈に告げる。


「はぁはぁ、いいか。俺はもうお前の言うことは聞かないし、今後お前と関わる気はまったくない。」


「そ、そんなの嫌よ!だって私たちは幼馴染で…」


「その幼馴染を裏切ったのはお前だろ!!どうしてそこまで自分勝手でいられるんだよ!!今のお前と幼馴染でいられるほど俺はお人好しじゃねぇんだよ!」


俺は幼馴染としても終わらせることを告げ、できることなら本当は使いたくなかった最後のカードを切ることにする。


「……まぁ、でもお互いに新しい人が見つかったんだし、これで良かったじゃないか。」


「え、お互いにってどういう……」


「お前には沢田が、そして俺には新しい彼女ができたんだよ。お前と違って優しくて変な恰好を強要してくるような子じゃない、最高の彼女がな。」


「う、嘘よ……そんなの……」


「こんな状況で嘘なんかつくわけないだろ。まぁ、お前も沢田と仲良くな?俺は俺で幸せになるからよ。じゃあな。」


俺はそう言って屋上のドアに手をかける。

後ろから唯奈の泣き声が聞こえてきたが、無視してそのまま屋上を後にした。


なぜかスッキリとしない気持ちを抱えたまま鞄を取りに教室まで戻ろうとすると、途中で鞄を二つ持ち屋上へ続く階段へと向かう沢田とすれ違った。


(沢田か。なんだよ、あんな必死な顔して走ってるなんて。……俺が思ってるよりもちゃんと唯奈のことを考えているのかもしれないな。)


俺は沢田の背中を見送ったあと自分の教室へと歩き出す。

すると教室の前で2つの鞄を持ったまま座り込んでいる女子生徒がみえた。

俺が近くまで来たのに気づいたその子はニコッと微笑んで立ち上がり俺に鞄を渡してくれる。


「なんで、ここに……?」


「菊池君から、今日は帰れないって聞いてたんですけど、勝手に待たせてもらいました。えへへ。さぁ、一緒に帰りましょう佐伯さんっ。」


五十嵐さんはそう言って俺の手を握って歩き始める。



まるでこれからの俺たちの関係を示しているかのように

一歩一歩ゆっくり、ゆっくりと……。







☆あとがき☆

少し短いかもしれませんが1章として区切るのにちょうどいい感じになりました~。引き続きお楽しみください~。


今回の話の涼真に対して嫌なら受け入れなければよかったのでは?今更そんなこと言うなよって思った方もいると思います。でも、実際不満とか文句って後からじゃないと気づけないし言えなかったりしますよね。


まぁそれを強要したうえで浮気した唯奈が悪いことに変わりはないんですけどね。

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