第8話 お昼休み

1限の授業が終わると、前の席に座る朝日が少し申し訳なさそうな顔をして振り返ってきた。


「なぁ、さっきの話だけど、昼はやめといたほうがいいか?無理そうなら今から朱莉に連絡しとくけど…。」


「ん?いや、中止する必要ないだろ。さっきだって俺は行くなんて一言も言ってないだろ?」


そう、唯奈は俺に屋上に来いと言ってきたが俺は行くとは一言も言っていないのだ。それに、


「それに、今は朝日達の方が大事だからな。」


「お、おぅ。そう言ってくれるなら気にしないことにするけど、その顔で笑いかけられるとなんか照れるってか、むず痒いな…」


「なんだよ気持ちわりぃな〜。別に普通だろうが、とっとと慣れろ〜。」


朝日とくだらないやり取りをしつつ、午前の授業を受けていると、あっという間に昼休みになった。

昼休みのチャイムが鳴ると同時に唯奈は教室を出て屋上に向かったようだが、俺たちは気にせずに中庭へと移動する。


中庭に向かう間、やけに人から見られるなと思ったが朝日と一緒にいる時はいつもこうだったなと、気にしない事にした。


♢♦︎♢


中庭に着くと朝日の彼女である新田朱莉にったあかりちゃんが手を振っていた。朱莉ちゃんは中学の頃から朝日と付き合っている、ポニーテールがよく似合う活発な女の子だ。以前の格好をしていた俺にも何ら変わらない態度で接してくれていた、裏表のない性格の子だ。

そして、隣にはもう一人綺麗な顔立ちをした女の子が座って待っているのがみえた。


「お~い!朝日~!佐伯君も~!こっちこっち!」


朱莉ちゃんが待っているところまで早足で向かい申し訳ないと一言謝っておく。


「悪い!待たせたな朱莉~!」

「お待たせ朱莉ちゃん。それと、隣の子は?」


朱莉ちゃんしか来ないと思っていたので、俺は隣の子が誰なのかつい聞いてしまう。


「私、朱莉ちゃんと同じクラスの五十嵐小春いがらしこはるといいます。佐伯さんのことは二人からよく聞いていますよ。聞いた話によると、なんでも幼馴染の彼女さんがいるとか。」


ふふふ。と綺麗に笑う小春さんはショートボブの髪をハーフアップにして結っており、仕草一つとっても清楚という言葉が似合う女の子だった。

朝日たちから聞いていたようだが、一応俺も名乗っておく。


「そうだったのか、改めて佐伯涼真だ。よろしくね。それはそうと朝日。五十嵐さんがくるなら先に言っとけよな。」


「ん?あれ、言ってなかったっけ?朱莉たちって言ったから小春ちゃんも来るって意味だったんだけど…。てか、涼真お前小春ちゃんのこと知らなかったのか?」


「知ってるわけないだろ。」


俺が五十嵐さんのことを知らないと言うと、朝日は呆れた様子で、やれやれと首を振っていた。

知らないもんはしょうがないだろ。まだ2ヶ月くらいだぞ。しかも唯奈に他の女子を見るなって言われてたんだし。


ちょっとむかついたので朝日の肩を軽く叩き、五十嵐さんへと向き直る。


「先に謝っとく。今日は朝日のバカのせいで巻き込んじゃってごめんな。実はさっき君が言った、幼馴染のことで話しておきたくて今日は2人を呼び出してたんだよ。」


「まぁ。そうだったんですね。もしお邪魔でしたら今からでも席を外しますが……」


「むしろいてくれた方が助かるかも。教室戻るときに朱莉ちゃんを一人にさせちゃうしさ。まぁ、面白い話じゃないけどね。」


五十嵐さんはそれならばと、一緒に昼食を食べることにしてくれたようだ。

そして、俺たちは昼飯を食べつつ金曜に起きたことと今現在起きている問題について話すことにした。


「まぁ、こんな流れで唯奈とは別れる事になったんだけど、今朝教室にきたら意味わかんないこと言いだしちゃってさ……」


「ほー、なるほどなるほど!佐伯くんがなんだかかっこよくなったのは唯奈ちゃんに振られたからってことだったんだね〜。にしても、だいぶ雰囲気変わったね〜!」


なんとも今更だが、朱莉ちゃんが俺の見た目についてツッコんできた。


「もうあの格好する必要も無いからね。そういや朱莉ちゃんくらいかも。俺の姿見てあんまり驚かなかったのは。朝日なんて『ほんとに涼真か?』なんて言ってきたのにな~?」


「いや、普通は驚くって!朱莉が気にしなさすぎなだけだろ!ったく…。ん?小春ちゃんどうした?」


朝日が五十嵐さんの異変に気付き声をかけていたので、俺たちも五十嵐さんの方に視線を向けると顔を真っ赤にして俯いていた。


「い、いえ。その、佐伯さんは大丈夫なのかなと。彼女さんが他の方と、その、キ、キスをしていたなんて…」


未だ顔を真っ赤にした五十嵐さんに心配されたが、なんだそのことかと俺は淡々と答える。


「そうだね、見た時はだいぶショックだったけど、裏切られたんだって思ったら案外どうでも良くなったんだよなぁ。その瞬間セーブしてたものが全部崩れたというか、うーん言葉にすると難しいわ。」


「そ、そうなんですね…。キ、キス……。はっ!え、ええと、では今の問題というのは別れたのに以前のような恰好を強要されそうになっているということでしょうか?」


五十嵐さんはキスという言葉にいちいち反応して顔を真っ赤にしていたが、ぶんぶんと頭を振って落ち着かせて今起こっていることについて質問してきた。


「あぁ。そういうことだと思うんだよなぁ。多分まだ、俺が何でも言うこと聞くと思ってて、急に違う格好をしてきたから怒ってるんだと思うんだけど、それにしても彼氏じゃなくなったら今度は幼馴染だから私の言うことを聞けとかほんと意味わからん…。あいつの言うこと聞く必要もつもりもないんだがなぁ…。でもこれからもしつこく付きまとってきそうで、ん~どうしたもんか……。」


唯奈が考えていることがわからず、今後の対応についてうーんうーんと頭を悩めていると、朝日が急に名案を思い付いたと言わんばかりに提案してきた。


「それなら小春ちゃんに協力してもらったらどうだ?」


「どういうことだ?」

「どういうことでしょう?」


二人して同じことを朝日に問いかける。

すると次の瞬間朝日の口からとんでもない発言が飛び出した。


「小春ちゃんと付き合ってるからお前の言うことは聞かないって唯奈ちゃんに言えばいいんだよ。」


「はぁあああああ!?」

「えぇええええええ!?」






☆あとがき☆

元々別作品の息抜き程度で書いていて、ストックもなくなったし不定期になるな~くらいの気持ちだったんですが、あんなあったかいコメントいっぱい貰ったらうれしくってうれしくって、気づいたら次の話書いていたよ…。

悲しませてしまってごめんなさいね…。

とりあえず決まった時間には投稿できないかもしれませんが、なるべく投稿頻度落とさず書いてみますわよ。


というわけで新しい子が登場いたしました。

学年1の美少女です。髪色銀髪とかにしようと思ったけど、学園感薄れるかなと思ってまだ決めておりませぬ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る