神崎唯奈の想い ※一部修正
私は物心がつく前から一緒にいた幼馴染の佐伯涼真のことが大好きだった。
涼真と発音できなかった私は彼のことは涼と呼んでいた。
幼稚園、小学校、中学校、高校まで同じ場所に通い毎日登下校も一緒だった。
小学校に入るといろんな子が増え、運動も勉強も得意だった涼の周りには女の子がいっぱい集まってきていた。
それと同じように私の周りにもいろんな男の子が集まってきていた。
私は涼の周りに女の子が集まっていることが嫌だった。幼心でも嫉妬していたのだ。けど涼は私の周りに男の子が寄ってきても嫌な顔一つしなかった。私はそれがむかついた。
そんな気持ちを抱えたまま、私は小学校1年生のころに涼に告白し、付き合うことになった。
そして、付き合って恋人という鎖を手に入れた私は、涼をとられたくなかった一心であるお願いをしたのだ。
「りょうくんは、わたしとこいびとになったんだから、わたしのことをいちばんにかんがえて。」
「うん。わかった。ゆいなちゃんのことをいちばんにかんがえてこうどうするよ。」
「ほんと?じゃぁ、これいじょうりょうくんのまわりにおんなのこがこないように、ゆいないがいのおんなのこがきらいってまわりにいって」
「わかった。あしたほかのこにきちんというよ」
涼はすぐに返事をして次の日からは本当に行動に移したのだ。
私は嬉しかった。涼の側には女の子は私以外寄らなくなった。
そんな小学生時代を過ごし中学に上がる前、涼はまた一段とかっこよくなってしまった。そのことに焦った私は新たな要求をする。
「涼は頭もいいし、運動神経もいいから、テストでは平均点、運動も平凡な評価にして。絶対に目立っちゃダメだよ。あと前髪を伸ばして顔を出さないようにして。」
「うん。わかったよ。」
こうすることで、中学に入ってから涼に近づく人はほとんどいなくなった。
私は告白される機会が増えたが、涼以外興味なかったのですべて断っていた。
ただこのときから涼は男子からも嫌われるようになっていた。私はそれを見て見ぬふりをした。
どんなときでも私を優先してくれる涼に、何とも言えない優越感を感じていた。
そして高校に入る前、涼は背が180を超えていたため、前髪で顔を隠したところで隠せないほどのかっこいいオーラが滲み出ていた。中学の時も本当はイケメンなんじゃないのかという噂が出ていたのだ。そんな噂を知り焦った私はまた新たなお願いをすることにした。
「明日から高校だけど、このつけ髭をつけなさい。ある程度買っておいたけど無くなりそうになったら買い足しておいてね。ちょっとでも不潔にみられて他の子が近寄らないようにしないと…。あと涼は背が高いから猫背でオドオドした感じで過ごすのよ。」
「あぁ。わかったよ。」
涼は文句ひとつ言わずに私の要求をのんだ。
ただこのときから、涼の顔をまともに見た覚えがなかった。ただ、昔の記憶がそれを上書きして、私の涼だけにしなければと必死だった。
高校に入学してから登下校は毎日一緒だったが、クラスで話すことはほとんどなくなっていた。
同じクラスの友達からあんな陰キャと付き合ってるのかと馬鹿にされたときに、私は涼と付き合うことは恥ずかしいものだと思い、ついただの幼馴染で親から頼まれてるから仕方なく一緒にいるだけと付き合っていることは認めつつ軽く流してしまう。
ここから涼に対する想いが崩れていったのかもしれない。
そんな日々を過ごす中で、私はいつも別のクラスから遊びに来ていた
彼は別のクラスの人気者らしく、周りの子たちも彼はモテるんだよ、と教えてくれる。そんな彼とお似合いだと囃し立てられた私は悪い気はしなかった。
このとき私の頭の中に涼のことはほとんどなかった。
そんな日々を過ごしていくと、不思議と健司くんに惹かれている自分がいるように思えた。
ある日、最後の授業の前に、健司くんから今日一緒に帰らないかと誘われる。私は登下校は涼と今までずっと一緒だったが、このとき初めて涼以外の人と帰るという選択をした。
授業が終わり、すぐ涼に今日は帰れないと連絡を送り、私は待ち合わせ場所の校門へと向かった。
健司くんと合流して、家まで送ってもらっていると突然健司くんから手を繋いできた。
突然のことでビックリした私はすごくドキドキしてしまっていた。そして、健司くんが立ち止まり告白してきた。
「なぁ唯奈。俺お前のこと好きなんだよ。あんなキモイ陰キャじゃなくて俺と付き合ってくれよ。」
急な告白に驚いた私はそれでも涼のことを考えてしまう。
「え~うーん。私はでも涼と…。」
「いやいや、幼馴染だからってずっと一緒にいる必要なくね?それに、あいつよりも俺の方がかっこいいと思うぜ?」
そっか。幼馴染だからずっと涼しかみてなかっただけなのか。
さっき健司くんと手を繋いだ時ドキドキしてたし、今は涼なんかよりも健司くんのことが好きってことなのかな?
うん、きっとそうなんだ。よしっ!
「それもそっか。うん!じゃぁ私涼と別れるよ!よく考えれば健司君の方がかっこいいし、実は手を繋いだときからすごいドキドキしてたの!」
「じゃぁ今日から唯奈は俺の彼女な!早くあいつと別れろよ!」
「わかった!今日帰ったら電話で振っておくから!」
「頼むぜ?なぁ唯奈、目瞑ってくれよ」
急に健司くんから目を瞑ってくれと言われて、言われたとおりに目を瞑るとキスをされてしまう。
私は突然キスされたことでびっくりしたが、涼とも中学の頃からしていなかったため、久しぶりの感覚に酔いしれすぐに受け入れていた。
この時胸がチクリと痛んだ気がした。
私は一瞬なんだろう?と思ったが気にしないことにした。
その後健司くんとたっぷりキスをして、そのまま歩きだし家まで送ってもらうことにした。
そして帰ってすぐ涼に別れることを告げるため電話を掛けた。すぐに出ない涼に私はイラついてしまう。
「もしもし涼?なんですぐでないのよ。」
『ご、ごめん。今帰ってきたばかりで綾香と話してたんだ。』
涼は今帰ってきたようで綾香ちゃんと話していたと言い訳をしてきた。
「ふぅん。まぁいいわ。言わなきゃいけないことがあって、あたし月曜から涼と一緒に行かないから。」
『え…どうしてなの。なんか用事でもあるの?』
「違うわよ。私今日から別の人と付き合うことにしたの。だからこれからはその人と一緒に行くのよ。つまりあんたとはもう別れるってこと。」
何もわかっていない様子の涼に対してはっきりと言ってやった。するとなんと逆切れして怒鳴ってきたのだ。
『な、なんでだよ!いきなり別れるだなんて、どういうことなんだよ!』
「あぁもう。いきなり大きな声出さないでよ。うるさいなぁ。」
『ご、ごめん…』
涼ってこんなやつだったっけ。やっぱり皆の言う通り、昔の思い出に引っ張られてただけなのね。
「あのね。そんなわかりきったこと言わないでよ。涼は別にもうかっこよくもなんともないし一緒にいてもドキドキしないのよ。だから健司くんと付き合うことにしたの。はぁ。なんであんたと付き合ってたんだろ。もう切るからそれじゃね」
『ちょっと…ま』
ブチっ
ツー―ツーーー
涼を振ったことを健司君に連絡し、そのまま恋人としてのやり取りを続ける。
そしてその日の夜。
私は来週から美男美女カップルだと騒がれるぞと、楽しみにしながら眠りにつくことにした。
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